戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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紅の肖像

 

「あ、ありましたありました。こんな隅っこに」

 

なぜこんな分かりづらい場所に押し込んだんだと、前の担当員にぶつくさ文句を垂れつつ、私は大量に積まれた木箱達の隙間へ上半身をすっぽり埋めている部下を眺めていた。

 

この51番倉庫は従来私たちが用いる連番の倉庫とは異なり、探査区画であるウォッチポイントから持ち出した旧時代の物品を収めるための場所となっている。倉庫の内部はかなり広く、そこかしこに物品入りの木箱が並んで街の様相を成し、管理する人員も比較的他の倉庫より多いのが特徴だ。

 

「よっと。これが頼まれていた物のはずですけど……番号は合ってます?」

 

ホコリを軽く手で払い、目的の木箱を両手で抱えて寄ってくると、部下はそのように聞いてきた。

 

「どれどれ……あぁ、ちゃんとE-23だ。合ってるよ」

 

「良かったです!」

 

目をキラキラさせて頷く彼女の姿は、本来の年齢も幼く感じさせる。

 

「やっぱり意外と読めるじゃないか。お前」

 

もうコイツの教育係を任されて5日経つ。文字を読むのが苦手と聞かされた当初の私は、随分手間がかかるだろうと予測していた。だが以外にも、今のように簡単な羅列であれば理解できるようだ。

こっちなら部隊の方と違って暗号を用いたやり取りもないし、適切な人員配置である。

 

「そしたら後は持っていくだけだな……」

 

横に停めていた台車を適当手繰り寄せながら、ひび割れの目立つ腕時計へ目を向けてやれば、そろそろ短針が12を指そうかといったところ。

 

「昼はどうする。また配給で済ますつもりか?」

 

受け取った木箱を代車に乗せ、私は部下に聞いてみる。

 

「一応はそうですね」

 

「なら他には内緒で私の所に来るといい。少しは違ったモノが食えるぞ」

 

「……………?」

 

違ったモノと聞いて、部下は疑問の顔を浮かべた。

 

「部屋に溜め込んでる缶詰、1つお前にやる」

 

「いいんですか!?」

 

ぱあっと表情を明るくさせ、彼女は両手をブンブン振って歓喜を表す。少しオーバーな反応にも見えるが、このくらい喜んでくれた方が私としても助かる。痩せこけた良心が膨れるぞ。

 

「運び終えたら私の部屋まで来いよ」

 

「はい!」

 

いっそう元気に跳ねる返事を相手に思わず口角が上がってしまうのを自覚しつつ、私は台車を押し始めた。

 

(ココの楽しみは基本的に"食事"くらいしかないからな……たまに【戦い】とか言い張る奴もいるが)

 

さて、どの種類を用意しようか。とりまドッグフードは論外として、順当にいくならサバの水煮か、もしくはイワシ。いっそ豪華に牛肉の煮込みを分けてやっても良い。

 

(個人的にはコンビーフ、あるいはキビナゴも捨てがたい……)

 

橙ではなく白色の、それも明るい蛍光灯の恵みを浴びながら私がランチに悩んでいると、服の袖を部下が摘んだ。

 

「ところで聞きたいんですが……どうして班長はそんなに気にかけてくれるんです?」

 

「お前が優秀だからな。念の為言っておくが、それ以外で他人に優しくするほど、私に余裕は無いぞ」

 

「………あの…」

 

「あの方の前で3日も保てば良い方だ。大抵の奴は下手にやらかして……こう」

 

首を切る仕草で表してやると、裾を摘む力がギュッと強まるのが分かった。

 

「そこをお前は5日も耐えた。十分優秀だ」

 

「……怖いです」

 

「そうだろうそうだろう。私だって怖いさ」

 

冗談ではなくあの方は本気で罰を下す。これまでに何人がやらかし、切り捨てられてきたことか。もうしばらくは、"粗製"の文字が刻まれた看板と共に吊られる班員の姿なぞ目にしたくないわけで。

 

「だからお前は…なるべくその調子で居てくれよ」

 

少し立ち止まってからワガママを伝えると、部下はほんのちょびっと頷く。こちらを摘んでいる指……ひいては手を握ってやり、袖からゆっくりほどいていけば、なんだか自分が良い事をしているように感じられた。

 

でも私は、自分が決して良い奴だとは微塵も思っちゃいない。思わされてはいない。

 

【赤信号みんなで渡れば怖くない】

 

私が求めるのは、優秀な奴だ。

 

「にしても、お前はこの箱の中身が気になったりしないのか?」

 

再び歩み始めながら、ちょっとした疑問を部下に問いかけてみる。

 

「だって見ちゃダメと言われてますし……」

 

「おっと少し違うぞ。実際は見ちゃダメじゃなく"見ない方が身のため"、もしくは"見ても決して触れるな"だ」

 

「……やっぱり見ちゃダメなんじゃないですか」

 

「ちなみに私は数回見てる」

 

「えっ……?」

 

さらっと告げれば彼女は、まるで鳩が豆鉄砲食らったような、きょとんとした様で目を丸くする。

 

「知りたいか?」

 

「………いえ、別に」

 

「意外にも意外。奇妙奇天烈摩訶不思議。奇想天外四捨五入。出前迅速落書き無用な木箱の中身は────」

 

「いいですって!」

 

続けようとする私に対して、彼女は慌てて両耳を塞ぎ、大きな声で発言を遮った。この誰も居ない広大な空間に、それは良く木霊している。

 

「ふん………そこまで拒絶するつもりなら、別に無理強いはしないが。そもそも見た所で、あまり面白いものでもないしな」

 

「言わないでくださいよぉ……」

 

「おぉ、悪い悪い」

 

だが今までに私がその事で罰を受けていないのだから、別に聞いたとしても平気だろう。バレていないからとかでもなく、普通に【またですか……】と言われるわけだから、要は"見るのみに抑えれば良い"のだ。

 

(あの方はこれらを一体何に使ってるのやら)

 

私がこれまでに確認した木箱の中身は、謎の黒い長方形の物体に、大分年季の入った古本や紙。ガラスのように透明な、小さな正方形のカードといった物達。どれも発掘隊とあの方によって掘り出された品。でも詳細な説明は彼女たちでさえも知り得ない。向こうも私と同じく【知れば最悪、あなた達は自ら首を括ることになるでしょう】とだけ聞かされてはいるみたいだが。

 

(そんな大した物には見えんし……)

 

色々と謎の尽きないこの仕事。けれども、言われた通りにこなしていくしか道は無く。ならば余計に首を突っ込まない方が"生き残る事に忠実"だというのは、火を見るより明らかだった。

 

「お前は利口な奴だよ。多分長生きできる」

 

からかい半分、本音半分にケラケラと笑い、私は部下にそう告げる。

 

……だが彼女の顔には、他の奴らと同様にやはり"絶望と虚無"がうっすら貼り付けられていて、そんなモノを見てしまった私は、自らが"浮いた事を言った"と自覚する。

 

「長生きしたとしても、何があるんでしょう」

 

「……さあな。美味い飯でも食えるんじゃないか」

 

「でも本当は、私たちのような存在はそれに喜びを感じてはいけません……感じられません。だって私たちは"人殺し"ですから。元々、世界は虚しいんですから……」

 

「……………」

 

失望だとか、呆れとか。そういったのは特に感じなかった。ただ私は"お前もか"と思っただけ。アリウスで暮らしているのだから、当然の事。

マダムが語った真実は……物事に一喜一憂するこの部下であっても、少なからず染み込んでいた。

 

「缶詰、要らないのか?」

 

「ぅ……」

 

「お前はこの年齢(トシ)まで生きてきた。それは確固たる事実だ。そんで、今から私が美味い飯を食わせてやろうってんだからな。あながち間違いじゃないだろ」

 

「それは、その……」

 

「理由が必要なら言ってやるぞ。【この缶詰は心身ともに良き糧となり、より激しくトリニティへの憎悪を燃やして日々に励まんと考える】ってな。喜びとは違う」

 

「………はい。その通りです」

 

私の意図が伝わったのか、部下はコクコクと首を上下に振って肯定の意を表す。

 

(それで良い。利口ならそうするべきだ)

 

もちろん、コイツの本心は今述べたようなコッテコテの模範的アリウス生ではない筈。でもこういったフリを続けなくては、マダムの目と耳が隅々にまで届くアリウスで長く生きて行く事は難しい。

 

「美味い飯を食って長く生きればその分、ヤツらへの復讐へ身を捧げられる。全てはその為に……」

 

それっぽい理由を適当につけ、正当化。ズルいやり口だと分かっている。でも教えに染まりきれず、尚且つこの年齢(トシ)まで生きている奴の7割は私やコイツと同じタイプだ。

 

(馬鹿馬鹿しい)

 

私たちに許された自由は心のみ。

でもそれは鳥籠でもがくだけのような、酷く無意味の行動。より下の年代であれば、元から自由を知らずに育ってきた故、もっと生きやすいのだろうか……と思いながらも、その事はマダムに人生の全てを奪われているように見える。

 

なんともまぁ、哀れだ。

けど、救ってやれない。

本音を言えば、救われたいのは自分の方。

 

唯一は、自ら死ぬ事でそこから抜け出そうとする事は出来るかもしれない。これまでに試した奴は幾人かいたが……まあ今の私には、そこまで踏み切る理由は無い。

 

(本当ならコイツの喜びは肯定されるべきだ。ガンパウダー*1の混じっていない、真っ当な暖かい飯を食って、屋根のついた寝床でグッスリと眠って、それこそが人間らしい生活なんだと。少なくとも10年前に内戦が起き、果てにマダムが来るまではそれが常識だった)

 

とはいえ、今更歯向かうなんてのも無理な話。

ささやかな反抗は、趣味の缶詰漁り。

けどその趣味でさえ、嘘で飾らなくてはいけない。

 

(虚しさの元が諸行無常なんだとしたら、この現状にだって終わりが来ても良いだろうに……)

 

心の底でそんな風な危険思想をぼんやり掲げていると、ようやく私たちは倉庫の出口へと到着する。

 

「私だ、開けてくれ」

 

シャッターの脇に備え付けられた無線で軽くそう告げてやれば、【了解】の一言が発された後に音を立て、次第にシャッターは上がっていく。

なんとなく部下の顔を覗き込んでみれば、もう既に彼女は"仮面"を被っていた。

 

(ホンモノを送り込まれなかったのは幸いだな)

 

シャッターをくぐり終えたその先では、灰色の積乱雲が高く広く空を覆い尽くし、湿った空気と相まって、近々にくるであろう嵐の予感を私にさせる。地上だって、鈍色のレンガ造りとヒビ入りの石畳が並ぶばかりの、褪せた雰囲気がわだかまっている。

 

おおよそ生気の残らぬ。世に忘れられた場所。

 

それがここ、アリウス自治区だ。

 

 

 

──────

 

 

 

「どうですか? 精神分析の方は。前回に行った診断ではあなたが最も重症でしたが」

 

「今はとうに落ち着いています。計画にあたっても一切の支障は無いものかと」

 

「……喜ばしいことです。クックック」

 

「よく口が回りますね、あなたは。手元にも少し気を配ってはどうです? 」

 

「心配には及びませんよ。そのような些事よりも、今は進捗についての意見を交換したく思っています。やはり神秘への拒絶反応がもたらす逆流現象の理由には……複製(ミメシス)の使用が?」

 

「ええ、そうと見て間違いありません。ですが"ダビング"を用いれば、残留している畏怖の作用を刺激せずに畏怖自体と記録を読み取る事が可能です」

 

「ほう……器となる記録媒体は、以前のものでなくてはならないのですね。神秘を持たぬがゆえに」

 

「VHSにマイクロフィルム。どれもキヴォトスに普及しているものより世代は古い。ですが見かけに反して、技術レベルは遥かに洗練されています。有限だとしても、容量の面でさほど慎重になる必要は無いでしょう。書籍達の場合はオリジナルと器の両者に摩耗こそあれど、落とし込んだ場合の高純度には目を見張るものがあります」

 

「器へ"ダビング"の後、畏怖に対する複製(ミメシス)としての再定義を行う方法……少々手間がかかりますが、得られる知見に比べれば些細と言えますか」

 

「ええ……あれほどの崇高、あれこそが私の求めているものです。全てはそのために……」

 

「しかし、その張本人があなたを狙う可能性はゼロではありません。今のあの方の行動は理解できず、旧世界の終末と同様に未だ不透明です」

 

「……であれば、その時は存分にもてなして差し上げましょう」

 

「相手はかつての管理者、そして名も無き神の一端でも……いえ、書に記されたソレとは成り立ちが逆でしたか。とはいえ、報せがタロットの18を指すことに変わりはありません。もし本当に、あなたの望む先であの方との対立が起きるならば実に……興味深い」

 

*1
ガンパウダー…つまり火薬には、幻覚をもたらすトルエン成分が含まれている。麻薬漬けというわけ

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