戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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前に設定の変更はしないと書きました。ですが唯一、変えなくてはならない場所がありまして。それはユメ先輩の目覚めた時期です。
当初は4月くらいを想定していたのですが、よくよく考えたらメインストーリーの始まりもその辺りだと一応推測できるので、どうしても噛み合わない。
という訳で、ユメ先輩が目覚めた時期を前年の12月に変更させていただきます。必然的に当時のヒフミの学年は1年生となります。
本当にすみません。

2ヶ月以上空いたというのに読んでくれている方たちには、本当に感謝の極みです。



Stranger of blue

 

 

(まさか遭遇するとは思わなかったな〜……)

 

意外と世界は狭いや、と長い長い直線道路をバイクでかっ飛ばす私は、イヤホンから流れる音楽に乗りながらもしみじみ思っていた。ホントのホントにあれは偶然の出来事で、誠に幸運と言えよう。この事だけでも、今日は出掛けておいて良かったと感じる。

 

ラナが撮ってきた写真とかで把握はしていたが、やっぱり実際に会ってみると非常に感慨深く、心の底から暖かいものが込み上げてきた……。

加えて、私だと気づいてくれた事も嬉しい。

なんせ今の私は、"私"らしさの少ない風貌だ。髪は短く切ってるし、サングラスなんて昔は掛けていなかった。今着ているコートだって"ラナの私物"である。だというのに気づいてくれたのは、大変喜ばしい事だ。ホシノちゃんは、きちんと約束を果たしてくれているのだろう。

 

嬉しさに思わずアクセルをぶん回せば、引き伸ばされる視界と、真正面からぶち当たる風。甲高く吠える排気音と、オイル混じりのケムリが放つ甘い匂い。

フロントは一瞬浮き上がり、時速はすぐさま150キロを突破。無防備に晒す命のスリルは、ある種の自由と呼べる感覚をも全身に走らせる。

 

私は別にスピードジャンキーとかじゃない。

でもこのゾワゾワとする独特の高揚感は、他では味わえない唯一無二の物。しかも軽快なドラムとギターがやけにスピードを語ろうと頻繁に持ちかけるこの曲も相まって、それは倍増していた。

 

アビドスから遠く離れ、ここはルート55。山脈から山脈を貫くようにして続く道で、今でこそ廃線となっているが、昔はれっきとしたメインストリートのひとつだった。

ここの辺り1面はアビドスと異なる礫砂漠。更には数々の巨大な岩と、視界の奥でそびえ立つ峰で構成されており、尚且つそれらは赤みを含んだ地質。植物なんかはちまっこい雑草が点々とあるだけ。時折目の前に転がってきたりもするけど。

 

そんな場所をアクセル全開で、一直線に。アスファルトを切り付けるように食らいつき駆け抜けていけば、雑音や雑念……余計な悩み事なんてのは一旦置いてけぼりとなってしまうのだ。そうして1度頭を空っぽにし、時間をおいてから依頼と向き合う内にある程度は落ち着きを取り戻してくる訳で。

 

一先ず依頼を受けるかどうかだけど、無論これは受ける。決定事項。理由は簡単で、他人が遂行した場合の危険要素が多いからだ。勿論、その人物が下手をした場合にはトリニティの方で何とか処理が行われるだろうけど、全部を無かったことに出来るかの確証はゼロ。どんな考えを持っているか分からない……それこそトリニティに内心恨みを持っているような人物や、敢えて平穏を乱そうとする危険思想の持ち主へと依頼が届いてしまう可能性よりは、こちらで受けておいた方が私も安心して毎日寝られる。

 

だがそんなにも重大で、学園の行く末を左右してしまう程の責任。かつてないプレッシャーを相手に真正面から立ち向かうというは、少し勇気が要る。

それに勇気だけでなく覚悟も必要だ。

 

騙す事。

騙されること。

 

傷つける事。

傷つけられる事。

 

失わせる事

失う事。

 

あらゆる行動には、きっと覚悟が必要だ。

どんな嵐でも突き進んでいけるような、強い覚悟が。

 

(……AMIDA)

 

昨日の一件はまだ頭に重く残ったまま、私にその必要性を再認識させる。

 

(シャワーも浴びたし、服だって着替えた。寝ていないわけでもない……)

 

ああするしかなかった。

納得はしている。

 

でも手元に残った感触は静かながらも、蠢くように、蝕むようにベッタリと皮膚の裏で這いずっている。殻を割り、肉を潰し、体液を浴びた末の結果が怨念の如く。

ソレに対して私はアクセルのグリップを痛く握りこみ、強く捻った。

 

(!………あそこかな)

 

そうこうしている内、黒いフードトラックが道路脇にポツンと停まっているのを、遠くに見た。辺りを見た感じだと他に類似の物はどうやら無さそうで、あのフードトラックこそが目的の店じゃないかと予測を立てる。

 

(ノープランで走りに出るのも悪くはないけど、こういう時は……ね。それにお腹もペコペコだし)

 

近づくにつれて徐々にスピードを落としていくと、車体の外装に打ち付けられている看板が目に入ってきた。

 

(太ったコウノトリのエンブレム……じゃあここで合ってるっぽいか)

 

エンジンが唸りを低くし、徐行速度になったのを確認した私は、視線を動かしながらゆっくりと駐車スペースを探しに移る。

すると、あっさり見つかったその駐車スペースには、ロードバイクが1台のみ停まっていた。

 

(あれ? 先客は1人だけ? てっきり10人位は居ると思ってたのに……)

 

このフードトラックは1週間ごとの間隔で移動を行い、キヴォトスの各地でホットサンドを売り続けている。私がこの店を知った要因はSNSのモトブロガーだが、記事の閲覧数と評価は中々に好調だったはず。添付されていた写真も、今目の前にある光景よりは繁盛している状態のやつだったぞ。

 

(ん〜……場所の問題とか? まぁ、並ばなくていいのは嬉しいけども)

 

ロードバイクの隣まで車体を動かした後、サイドスタンドを立てつつエンジンを切ってやり、バイクの駐車は完了。同時にイヤホンを懐へ仕舞くと、私はカセットプレーヤーのボタンをカチッと音を立てて押し込み、曲を止めた。

 

(大通りとかショッピングモールの近くじゃないし。ツーリング場所としてなら、一応この道はピックアップされてるけど……今はマイナーなポジションだし、そこまで客は来ない。もしかしたら副業でやってるとかなのかな?)

 

適当な考察を脳内で並べながら、看板の横に取り付けられた小さな黒板の前まで立つと、私はチョークで書かれたその内容にジッと目を細める。

 

(キューバサンドにバーベキューサンド。あとは……ユッカ芋のフライとコーラだけ。記事の通り、種類は結構少ないみたい)

 

ユッカ芋とはなんだろう。ジャガイモとか里芋、山芋なら分かるけど。ユッカってなに。

 

(頼んでみる? ……でも、バーベキューサンドだって食べてみたいし……)

 

とにかくキューバサンドは確定である。ここの物は絶品だと記事に書いてあったのだ。外す訳にはいかない。

 

(全部頼んでも食べ切れる自信は無いから、どっちか選ばないと〜……むむむ)

 

眉間にシワがよると、私は双方の食感や味をイメージする。

片方は、ひと晩じっくりと火を通したホロホロの牛肉に多くのスパイスを効かせた代物だと容易に想像でき、勝利が約束されている。

対してもう片方は謎に満ちており、恐らく類似品であろうフライドポテトから推測するしかないが、揚げ物なんだからある程度は美味しいはず。キューバサンドと合わせた時の相乗効果も考えたら、ポテンシャルは前者と同等かも。

 

(どーしよ。冒険しちゃう……?)

 

そんな感じで黒板の前にひとり佇み、口元を擦りながらあーだこーだ長々悩んでいると、黒板のすぐ隣に設けられた車体の窓より、声が飛んできた。

 

「いらっしゃい」

 

声の方を見ると、接客の一言を発したその女性は、私よりも断然年上に見えた。彼女の持つ切れ長な瞳と、筋の通った鼻。全体的に良く洗練された顔つきはクールな印象を醸す。

 

もしや【生徒】では無いのかもしれない。

なぜか直感的にそう感じた。

常識的に考えたら、ありえないのに。

 

「注文は?」

 

(えーと……)

 

メニューを横目で見つつどちらにすべきか決めあぐねていた私であったが、彼女に聞かれた途端、差程間を置かずに決心はついた。こういう場合、いざその時となると意外にも迷いはしないものである。

 

『キューバサンドとバーベキューサンドを1つずつ。あと、コーラをお願いします』

 

私が答えると、その店員さんは「分かったわ」と了解の言葉で返し、早速調理の準備に取り掛かり始めた。

 

「コーラは先に渡しておく。今から焼くところだから、出来上がるまで待ってて」

 

彼女は今しがた冷蔵庫から取り出した瓶の栓を慣れた動きで抜き、こちらへ手渡しながら言う。別に急いでる訳じゃないし、構わない。内心でそう呟く私は、首を縦に振った。

 

(ありがちな紙コップじゃなく、今どき古風な瓶のコーラ……)

 

買おうと思えば買える。特別に珍しい物じゃない。でもこういったファストフードの屋台で、尚且つ熱風吹きすさぶ荒野の中に瓶のコーラというのはクラシックな趣を纏って、どこか凝り固まっていた情緒と感性をアナログな非日常性としてくすぐる。

 

まるで映画のワンシーンに入り込んだ気分だ。

切り取ったら良い画になるだろう。

エモいぞ。

 

(味はどうかな)

 

少しばかり口に含んでみると、瓶特有の滑らかに成形された飲み口が作用してか、口当たりは柔らかく。同じブランドにも関わらず少々味は異なっており、香りの強さを感じる。加えて、炭酸もペットボトルの物より刺激的だ。

 

かなり美味しい。

 

それに、瓶は長く置いていても比較的冷えた状態は長い。しばらくこの味を楽しめそうだ。

 

(割れる危険があるっていうのと、返却の手間を考えたとしても、相応の価値はあるね)

 

もう一口楽しもうかと瓶を傾けていれば、店員さんはホットショーケースからポークとビーフの塊肉をそれぞれ取り出し、どちらも適度な薄さにスライスしていく。

 

見ているだけで、その柔らかな食感には想像がつきそうなほどだ。

 

そして丁度私の分を揃えた後、今度はその肉たちを熱々の鉄板へと敷いた。するとじゅうじゅうと焼け、弾ける音と共に香ばしさが立ち上っていく。更にはパンの挟む面にバターをしっかりと塗って、同じく焼き始めた。この際だ、カロリーは気にせず行こう。

 

(………おなかすいちゃった)

 

生唾とコーラを半々に飲み込み、あのアツアツな肉とバターの香るパンを同時に口に運んだ時の味を想像すれば、自然に口元が緩む。そんな私を流し目に見た店員さんは、ピクルスの入った瓶を棚から取り出しつつ声を掛けてきた。

 

「あなた、どこから来たの?」

 

それは何気ない質問である。

 

『アビドスの方です』

 

素直に答えると、店員さんは「そう……アビドスから」と呟きながらひとり頷き、瓶の蓋に手を添える。

 

「さっき来た学生も同じ事を言ってた。もしかしたら知り合い?」

 

『"知り合い?" そんなまさか』

 

アビドス出身なんてそう多くは無い。

彼女の言うことが本当なら、それは大した奇跡だ。

 

「聞く話によると、アビドスの高校は1つだけらしいじゃない。しかも極めて小規模。……あなたの所属は、ソコとは違うの?」

 

その言葉に、私はすんなりと首を左右に振る。

ミレニアムでの1件が終わった直後、私は公式な手続きを経て無事に戸籍及び学籍を復活させていた。これにより私は、今までと違い大手を振って堂々と世を動けるようになるし、今みたいに自信たっぷりと身分を主張できる。

 

キヴォトスにおいて学籍の有無は死活問題だ。学籍がなくては社会福祉や銀行口座、マトモな仕事。他にも様々なあらゆる事柄、サービスから弾き出され、世のシステムからは断絶。居ない者として扱われてしまう。

 

学籍とはそれ程までの価値を有しており、命の次に重いとも良く言われる。

……まぁ、これで晴れて社会復帰。

もう偽造した学生証を提示する必要は無い訳で。

 

『合ってますよ。アビドス高校です』

 

「珍しいこともあるものね」

 

蓋に力を加えつつ呟かれた言葉に【まったくだ】と同意しつつ、私はコーラを口に流し込む。さっきも2人会ったばかりなのに、どうなってるんだか今日は。

 

 

「ところで、あなた傭兵?」

 

 

吹き出した。盛大に。

品もなく黒の炭酸飲料を、乾ききった大地へ浴びせた。

挙句────むせる。

こぼれた液によって足元が緩やかに湿り、染まっていくのが良く見えた。

 

「けほっ……けほっ……っ」

 

声は出なくても咳は出る。

ヒューヒューと、喉が抗議を挙げた。

 

「大丈夫? ……とりあえず、これで拭いておきなさい」

 

ここまでの大きなリアクションが来るとは思っていなかったのだろう。彼女は目を見開きながら、申し訳なさそうな口ぶりでタオルを渡してきた。

 

『まさか初対面の人に当てられるとは思ってなくて』

 

「……ふぅん」

 

若干目を細めると、彼女は数度瞬きを繰り返した後に再度瓶の蓋を開けようと力を込め始めた。けれど、さっきから蓋は1ミリたりとも一向に動く気配を見せていない。手伝うべきかな。

 

『どうして分かったんですか? 私の素性』

 

「勘よ、"勘"。まぁ本当に当たるとは私も思ってなかったけど……冗談半分ね」

 

『出来たら、他の人とかに言わないでくれたりします?』

 

傭兵に対するレッテルや偏見は軒並み悪い。企業の犬だとか、匪賊とか、捨て石とか。賞金稼ぎに比べると、傭兵は一般の人達からも疎まれやすい。だから正直、私は自分が傭兵ということをあまりバラしたくない。しかも"レイヴン"であるから、余計に。

レイヴンの名は、未だにトップの座として君臨し続けている。その訳は言わずもがな依頼の達成によるが、当然依頼というパイには限りがある。

 

少なからず、私は顔も知らぬ誰かに割り振られる筈の食い扶持を奪っている。加えて、依頼の影響で潰れた企業の役員や、その企業に雇われていた同業の人達にとっては恨みや怒りの対象に違いない。

 

故にレイヴンとアビドスとの繋がりがバレると、後輩ちゃん達にも危険が及ぶ可能性があるのだ。

 

「確実な保証は出来ないわよ」

 

(そんな!)

 

「秘密にしてほしいなら、今度から用心する事ね。あなた顔に出やすいもの」

 

(うっ……)

 

自覚はしているのだ。今度の依頼のためにも改善しなくてはならないが、これが中々難しそうな課題だ。練習しなくては。

 

『努力します』

 

「その方が身のためね」

 

そう言って少し笑うこの人が本当に秘密を守ってくれるかどうか。一応自分がレイヴンであることまではバレていないようなので、最悪の事態にはならないと思うが。

 

(そこまで滅茶苦茶悪い人には見えないし……うん)

 

取り敢えずは信じてみる事に決めた後、彼女は小さく「……ダメ、開かないわ」と呟き、瓶を持ったまま席を外した。どうやら運転席の方へと向かったようである。

 

「ファットマン! つまみ食いしたなら締める力を考えなさい。前にも言ったでしょ?」

 

聞こえてきたのは、彼女の叱る声。てっきりこの場に居るのは1人だけと思っていたが、そうでは無いようだ。

 

「ん?……おお、悪かった。だがなマギー、この位ならお前でも開けられるだろう」

 

「……無理よ」

 

店員である彼女の名はマギーと言うらしかった。もう片方の聞こえる声は渋く、歳をいくつも重ねた物であり、その人物が初老の男性であることが伺える。

 

「鈍ったのか」

 

「かもしれないわね……」

 

「まぁ機会も少ないからな。どれ、貸してみろ」

 

少しすると、ここからでも"ポンッ"と聞き心地の良い音が耳に届いた。

 

「今度アームレスリングで試してみるか?」

 

「良いわ。リベンジよ」

 

最後にそう聞こえると、彼女が蓋の開いたピクルスの瓶を片手に携えて戻ってきた。"まったく"と言った面持ちである。

 

丁度良い焼き具合になったところで、マギーさんはパンと肉をバットにあげ、今度はマスタードの瓶を取り出した。こちらはピクルスと違い、大した苦労もせず蓋が回り出す。そしてパンの片面にマスタードを隅から隅まで満遍なく塗りたくると、片方のパンにはハムを2枚とポークを3枚、もう片方には分厚いビーフのブリスケッタを1枚乗せ、それぞれにスライスチーズやピクルス達、バーベキューサンドの方には専用のソースもかけた後に─────サンド。

 

(ん、んふふ……)

 

思わずこぼれたヨダレを袖で拭き取っていると、彼女は蓋付きの方の鉄板に手で軽く水を垂らし、温度を確認する。熱々の状態なようだ。

 

ようやく焼き上げの工程に移る……かと思いきや、最後の仕上げとばかりに今度はパンの表面へ、加えて鉄板にまでも贅沢にバターを塗ってしまった。もう後戻り出来ない。

晩飯の分までのカロリーはありそうだぞ。

2つも頼んじゃったし。

 

そうして恐れ慄くのも束の間、遂に鉄板へサンド達が乗せられた。次いでプレスの為に蓋が下ろされると、後は焼き上がるのをただ待つのみだ。

 

「ねぇ、もし良かったらあなたの仕事について聞いても?」

 

『答えられる範囲なら』

 

黙ったまま過ごしていてもなんか微妙な雰囲気が漂いそうだし、ここは承諾する事にする。私としても、誰かと仕事の話を交わすというのはそうそう無い機会だからね。

 

「まずは……そう、稼ぎね。具体的な数字じゃなく生活の水準で教えてちょうだい」

 

『それなら今は、一人暮らしで週に1回外食が出来るくらいです。といっても、報酬の何割かは学校の借金返済の為に回していますが』

 

「義務として?」

 

『違いますよ。私が個人で、好きでやってるだけです』

 

「にしては、他の子達も同じような事をしてるみたいだけど」

 

『どうしてでしょう。まだ聞いたことが無いので』

 

出来れば今すぐにでも聞きたい。だが機会を私は自ら手放してしまっている。現在進行形でだ。

 

「……じゃあ次に移りましょう。使っている武器や装備についてよ。見せてくれるかしら」

 

武器? 別に見たって面白くはないと思うよ。しかも今日はオフだから、持ってきてるのはハンドガンだけだし。

 

『今の手持ちはこの子だけです』

 

弾倉とチャンバー内の弾丸を抜いてから手渡すと、マギーさんはまじまじと私のハンドガンを観察し始める。時折私の了承を交えてスライドを引いたり、ハンマーの落ちる音を聞いたり、簡易的な分解等が行われると、彼女は構造をみながら呟く。

 

「やっぱり普通ね。普通の拳銃。私の知る構造そのまま。あのカラスが言ってた通り……」

 

『カラス?』

 

「いえ、こっちの話よ」

 

スムーズな手つきで瞬時に組み上げると、彼女は短く「ありがと」と添えてハンドガンを返してくれた。

 

「念の為言っておくと、今みたいに簡単に武器を渡すのは避けた方が良い。他人なら尚更。いつかの日には頭が吹き飛ぶわ」

 

む。言われてみれば確かに。私以外でマトモに撃てる者が居ないとしても、切れるカードを1つ失うわけだし。盗まれたり、撃ち返される可能性を考えたら、他人においそれと渡すのは迂闊そのもの。愛着だってあるし。

 

だけど、多少撃たれたくらいで頭は吹き飛ばないぞ。気絶するだけだ。

 

「あと他に聞きたい事は……依頼の頻度ね。これが最後の質問。ひと月の平均は?」

 

『大体12から16です』

 

「多いわね……。それだけ高い頻度でお金も充分貰えてるのなら、よほど人気みたいだけど」

 

人気か。失敗無しのトップランカーが雇えると聞いて金を惜しまぬ人達は、かなり居る。レイヴンの名は人気と言って違いない。でもその名を求める声は、私にとって少々受け付けがたい。

 

私を求めている訳じゃないから? いや違う。

その声の数だけ、不幸が起きるからだ。

 

『ここだけの話、本音を言うなら「もう辞めたい」ってたまに思います』

 

「……理由は?」

 

『向いてないんです、単純に。私は誰とも戦いたくない』

 

真剣に答えると、心做しか私を見るマギーさんの目がどこか変わったように感じる。

 

「だったら今すぐに辞めればいいじゃない」

 

『それは無理です』

 

銃の分解による汚れを落とそうとしているのか、軽く手を洗ってタオルで拭き取る彼女。だけどその最中、視線はずっと私の方を向いていた。

 

『為したい目的があって。為せる力がある。だったら、為そうとしたいじゃないですか』

 

私がそう言うと彼女は一瞬、凍りついたかのように動きを止める。そして数秒経った後に瞬きを1度挟み、ゆっくりとタオルを元の位置に戻した。

 

「…………」

 

マギーさんは少し身を乗り出すと、私の顔をじっと覗き込む。さっきまでの雰囲気と異なり、これはまるで尋問。一挙手一投足が致命となりそうな緊張感で。

目から侵入し、私の中を読もうとしているのではないかと思う程、一点に見つめられる。

 

長い沈黙にあって眉ひとつ動かせず、唾は飲み込めなかった。

吸う息は長く、吐く時には細心の注意を払った。

コーラのかく汗が、手にひんやりと伝っていく。

 

「……………………」

 

サンドが静かに熱される音だけが、唯一この空間で動いているような感覚。

その中で私から見た彼女の目には、怒りや軽蔑といったネガティブ感情は見受けられなかった。

けど、反対に喜びのようなポジティブという訳でも無さそうに見える。

 

私には、皆目見当もつかない。

何故この人が、今こうして私に視線を注ぎ続けているのか。

 

理由を聞こうにも、目の前の彼女は先程までと雰囲気が異なった。冷徹で、容赦はなく、触れると怪我してしまいそうな手触りが、目一杯に走っている。

 

似た感覚はいつかに覚えがある。

確かラナだ。

ラナと話をする時、たまに同じ感じがしていた。きっとあれは戦いの空気だ。それもフィクションで見る戦地帰りの兵が放つような、色濃く滲む空気と圧力。

 

私には分からない。

目の前に立つこの人が本当は何者なのか。

なぜ今、私の事を観察し続けているのか。

 

ただただ疑問だけが浮かぶばかりで、例え勝手な予測を立てたとしても、答え合わせが出来る程の気概は湧いてこず、役に立つことはなく。

無駄と知りながらサングラス越しに見える彼女の瞳へ、言葉無しに問い続けている内──────

 

「………………………ええ、そうね」

 

小さな笑みが、決を採った。

 

「ほら、出来たわよ」

 

いつの間にやら、とうに2つのサンドは出来上がっていた。黄金色に輝くパンは今やペッタンコに押し潰されており、僅かな隙間からは具材達がちょっとはみ出ている。

 

(…………)

 

さっきまでの重たさはどこへ行ったのか。彼女の纏う空気は、すっかり元の店員さんとしての物に切り替わっていた。

 

(あなたは……)

 

「全部合わせて、会計は2200円。来る途中で見えたかもしれないけど、一応裏手にテーブルとイスが置いてあるから、必要なら使って」

 

悶々とした気分のまま、私は2つのサンドを受け取って、お釣り無しの代金を渡す。いざ聞こうにも、さっきまでの雰囲気に怖気付き、踏み込もうとしても躊躇してしまう。

 

この場限りの関係なのだから、別に気にする必要は無いといえばそうなる。

やぶ蛇を避けたくば、触れぬが吉。芽生えてしまった好奇心はそんな思考で覆い隠し、この事は忘れるに努めようと私は足を動かして。

 

すると背に────微かな声が届く。

 

「好きなように……か」

 

その言葉を聞いて振り返れば、もう彼女の姿は見えず。運転席の方にでも引っ込んでしまっているようだった。

 

結局、正体や目的はつかめず。

不思議な出会いだけに収まる。収めておく。

なんとなく、そこまで知る必要は無い気がしてきたから。

 

(うわ、紙越しでもアツアツ……)

 

とまあ、そんな訳で私はコーラとサンド達を抱えると、彼女から言われた裏手のスペースへと向かい始めた。

 

(ここで食べててたら、元気は出るかなぁ……? 食事は気力の源ってよく聞くけど、そんな簡単に出ちゃったら、それはそれで苦労しないよね)

 

この先にどんな事や結果が待っていようと、人生を受け入れなくちゃならない。

カイザーの理事に啖呵を切ったあの日からずっと、自分に誓って過ごし続けている。

今回も、変わらずそのつもりだ。

 

だけど、ずっと受け入れ続けることは出来ない。いつかは辛さを前に心を壊してしまう。

AMIDAの1件が想像以上に私の心を抉ったことは、喜ぶべきか否か、自らの心にも限界がある事を思い知らせた。

 

あんな経験を何度も繰り返してしまえば、きっと───

 

ならばこそ、癒しと休息は人に必要な訳で。

故に、今日はラッキーな日なのかもしれない。

 

 

 

 

「ん……」

 

 

 

 

ほらね。





彼らについて

それはひとえに禁忌、秘匿されるべき技術。
ある崇拝者は求めた、誰かを。
今や記録に残るばかりだった、誰かを。

崇拝者の夢はただ1つ。奪われてしまったこの世界を壊してくれる"誰か"である。

しかしその者の願いは叶わなかった。
1度目の試行は奇しくも失敗し、触媒の見た夢である彼らが現れた。
2度目を行おうとし、今度は自らの求めた夢自身に阻止された。
3度目は無く、深い絶望の後に彼は自らの手で世から消える事を選んだ。

夢は知っている。
生命の再生や創造といった技術は、悪戯に死を増やすのみであると。
夢は知識ではなく経験により、その事を深く知っている。
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