戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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なんちゅう遅さだ。苔がむしちまう。
色々ありましたねこの1年……こっちの話はさほど進んでませんけど。

読者の皆さんからしたらどうでもいい内容かもしれませんが、私はリンキンの「What I've Done」とバンプの「メーデー」を聴きながらこの作品を書いてます。勝手にイメージ曲としているのだ。あとあれですね、ACサントラの中では「Blackout」とナインボールのBGMはマストです。

今回は約2万5千字です。お時間ある時に読んでください。




Make my day

 

(良い感じの店はあるかな……)

 

ばっちこいと意気揚々に了承の返事を叩きつけたのが数日前、今日は潜入捜査及びトリニティ内での生活の為に必要な品を購入するべく、春葉原に来ている。なんでも、任務中はしばらく使用されていなかった別館の合宿所に住まわせてくれるみたいで、生活用品である洗濯用具やお風呂セットに歯磨き、私服なんかが必要になってきた。まぁ、これらに関しては現在私が使っている物をそのまま持っていくつもり。新しく揃えるのは面倒だし、お金もかかるからね。今のでも十分でしょ。

だったら一体何を買いに来たのか……それは変装用の道具だ。つまり、使う銃を変えるってこと。

 

コートのポッケからいつもの端末を取り出し、適当に検索をかけてみると、丁度歩いて十数分の場所にある個人経営の銃砲店がヒットした。店内の写真とかを軽く見た感じだと品揃えもそこそこ充実してそうだし、早速向かうことにしよう。

 

(流石に青い弾を撃ち出せるハンドガンなんて唯一無二。可能性は低くても、万が一私のことを知っている人物が居たら正体はバレバレ。……ていうか、買った所を見てるヒフミちゃんからしたら一発で分かっちゃうし)

 

ショットガンの方は基本的に隠し玉として運用している為、継続しての使用も可能ではないかと思ったが、念には念だ。休んでてもらおう。

 

ところで、変装するにあたっては勿論トリニティの制服が必要な訳だけど、これもどうやら向こうの方でピッタリサイズの物を用意してくれるらしい。力の入れ具合とプレッシャーをヒシヒシと感じるぞ。おっかない。

だけどこれだけじゃ流石に足りないので、追加でこちらから二つ持ち込ませてもらう事になった。ラナお手製の金髪ウィッグと、仮面である。

 

────仮面!? 怪人(ファントム)にでもなれって!?

 

……いや、存在しない生徒になるんだから似たようなものか。

正しくは仮面型の視覚補助装置だが、どう考えても目立つに違いない。でも右目の視力を補うには何かしらそういった装置が必須で、かつトリニティの雰囲気にあったものとしては、仮面の形は比較的溶け込みやすいのかも……しれない。顔がある程度隠せるから、正体もバレにくそう。もしもの時は【火傷の跡を隠してます】とでも伝えておけば、そうそう触れられる事はないでしょ。

……火傷自体は実際全身に食らったんだっけ。確かラナに拾われた時がそうだったらしいんだけど……記憶は朧気だ。

 

そうそう、補助装置といえば会話に関してだけど、コレはいつも使ってる端末と同機能の別物を使用する事になった。本当は手話とかが好ましいけど、まだ完全に習得できてないから断念。ヒフミちゃんにバレそうで怖いぞ。

 

それと、変装目的ではないが私の希望でローブを持参することにした。トリニティはアビドスに比べると全体的に気温が低い。レッドウィンター程じゃないにせよ、アビドス出身の私からしたら少し肌寒い日もあるので、一枚多く羽織っておきたい。戦術的にも、動きを悟られにくくなるというメリットなんかもあるぞ。

あとは、ちょっとしたオシャレ心だ。

 

(…………ふふん♪)

 

しかもなんと、この度用意したローブはただのローブではない。今回はアカネちゃんの紹介によって、C&C御用達の専門店で仕立ててもらったのだ。高くつきはしたが、その分スペックは彼女たちのメイド服と同等に備わっているみたい。

しなやかで上質な手触りと、防刃性能や防弾性能の両立は並大抵の価値じゃないという事なのだろう。

 

そういえば、前に見た映画では魔法学校の生徒達が時たまローブを羽織っていたな。杖を振ったりして守護霊を出す所を見て、ちょっとばかし憧れたものである。………本当に魔法があるんじゃないかって結構本気で信じてたぞ、あの時は。小さい頃は"灰被りのお姫様"じゃなくて、どこからともなく颯爽と現る"魔女"の方に興味を惹かれていた事もあったし。とはいえ、まだ私が出会ってないだけだったりするのかも。そう考えた方が夢がある。

 

ラナはどうだろう。信じるかな。【魔法なんてモノは幻覚や勘違いから生み出された空想の産物だ】とか言ってきそうな感じは大いにあるが。

でもラナのハッキング能力って半分魔法じみてる気もする。必要な情報は予め分かってるみたいに素早く抜き取ってくるし、何度か基地の管理システムに侵入してパニックを起こさせたり、ゴリアテ達に同士討ちや自害をさせたりなんて事もあったし……それだけの能力を見せられる身からすると、自らの存在意義に対しての疑問も出てきてしまうくらいに。

しかしラナが言うには【詳細な説明は省くが、私がシステムへ入り込む為には、君の身体を中心とした半径12m以内にきっかけとなるデバイスが無くてはならない。故に君が積極的に活躍しない限り、私も出来ることは無い】との事。

それを聞いた時、正直に言うと少しホッとした。発声機能の回復もそうだけど、ラナにだって出来ない事は多々あるらしい。

 

……とまあ、そんな感じで色々と浮かべながら歩いていると、少し古びた雑居ビルの前でナビが"到着"の2文字を画面に映す。GPSがズレたりしていなければ、ここで間違いないはず。

 

(看板は……これか。筆記体だから読みにくいけど、多分合ってる)

 

詳しく見ると、どうやらその店舗は地下にあるとの事なので、早速下の階へ続く階段を降りていく。すると、人が1人通るのだけで精一杯な位に狭い廊下が続いていた。壁の所々に貼り付けられたPMCのポスターや新製品の広告達なんかに目を通しつつ突き当たりまで向かうと、そこにはアンティーク調のシックな扉が設けてられている。"OPEN"と刻まれたクレイモアが吊るしてあるし、営業中だろう。

 

果たしてどの銃にしようかと、まるで新しいおもちゃを買いに来たかのような気分で扉を開けば、来店を知らせる鈴が鳴って「いらっしゃい」と店内から声が聞こえた。

後ろ手で扉を閉めつつ足を踏み入れると、カウンター越しに恰幅の良いスズメの店主さんが立っている。彼は小さな丸メガネをクイッと上げて私に問うた。

 

「何がご入用で?」

 

『精度が高くてコンパクトなPDWを探してます。出来れば、片手でも持てるくらいのを』

 

「少々お待ちください」

 

そう言うと彼はカウンターを抜け、いくつも並んだ木製の陳列棚の間へと小走りに消えていった。わざわざ持ってきてくれるみたいだね。

 

(ここって試し撃ちとかも出来たりしないかな?)

 

今回はなるべく妥協無しで挑みたい。選ぶのなら高性能で、目的にピッタリと合致したものでなくては。その為にも購入前にある程度試射して確認しておくのがベストだろう。……にしても中々にいい雰囲気の店だな。灰色のレンガと木の柱を主軸に構成され、点在するランタンの明かりがぼんやりと照らす様は、さながらワインセラーである。……とはいえ本物のワインセラーを見た事はないが。イメージだイメージ。そもそもワインセラーなんてのはそうそうキヴォトスでは目にかかれない。お酒を買うことは勿論、お酒を取り扱う店への入店すら断られるのだ、未成年の見学なぞ基本的には無理無理───。

 

(………ん? 今の私って一応19歳だよね。てことは、誕生日が来たら私……)

 

行ける。行けてしまうな。合法的に実行可能間近だ。しかも飲めちゃうぞ、気兼ねなく。

─────なんだか、途端に己が浮いた存在に感じてきたな。

 

(19だもんね……そりゃそっか。すっかり忘れてたけど)

 

現役の3年生は皆ホシノちゃんと同世代。セミナーの会長でも、風紀委員会の委員長でも、ティーパーティーの人でも。皆、私からすれば年下なのだ。そう考えると今回の依頼も、可愛いらしい頼み事に見えたり……はしないか。でもなんだか少し、頑張ってあげたくはなるな。

 

「お待たせ致しました。当店に置いてあるものですと、こちらの2点が恐らくはご希望に一致するかと思われます」

 

年齢差による見え方の違いについてぼんやりと考えていると声が掛かり、既に店主さんが2丁の銃をカウンターに並べ終えていた事に気づく。

 

「まずこちらはMP7。言わずと知れたPDWの成功作。ライバルであるP90に対抗し、こちらが使用するのは4.6x30mm。弾頭形状もさる事ながら、DM11徹甲弾を用いた場合、更に多大な貫通力の向上も見込めます」

 

店主さんは「どうぞ持ってみて」と件の銃を差し出し、気に召すかどうか反応を伺おうと私の顔や仕草を観察してくる。

 

(前に1度鹵獲して使った時は、中々良い性能だったっけ……)

 

敵対時に相手がどんな装備で来るかは分からない。防弾装備を着込まれた状態で相対した時の事も考えて、威力と引き換えにしてでも貫通力は重要な要素だ。状況にもよるけど、なるべくどんな時でも足止め程度には使えなければ意味が無い。逆に言うと、足止めさえ可能なら最低限それで良い。接近して格闘で仕留められるからだ。

交戦する機会は室内のケースが多いだろうし、その点を考えると、サブマシンガンやライフルよりはこういったPDWの方がより対応しやすい。

 

「作りは質実剛健。精度も、200m以上先の的にさえ命中する集弾率を保持しております」

 

ストックを伸ばし、試しに頬付けして構えると、剛性の高さと共にそのコンパクト具合が分かる。サプレッサーを付けたとしても、室内戦での取り回しや咄嗟の撃ち合いはそつなくこなせそうだ。

それに加えて、セレクターやボルトリリース等の操作系統が両利き対応なのは高得点。バイクに乗っている間なんかはアクセルを右手で回す都合上、基本左手で撃たなきゃだから。

 

「いかがでしょう?」

 

(悪くないね。性能は必要十分に満たしているし、いつも使ってるオカルトハンドガンを買ってなかったら、プライマリに追加しちゃいたい位。でも……やっぱり値段がね)

 

そこら辺で投げ売りされている二束三文のグリースガンやステンとは次元が違う。トリガーガードから垂らされた値札に、私は思わず目を細めた。更に弾代を上乗せするとなると4.6x30mmなんてのはほぼ専用弾だから、常用の9mmパラと比べてかなりのもの。しかも徹甲弾を採用するのなら尚、高みが見える。

まぁ……これは私の金銭感覚の問題かもしれないけど。アビドスでの生活は倹約第一なのだ。

 

『こっちは?』

 

粗方確かめた所でMP7をカウンターに戻し、もう一丁の銃はどのような物かと問いかける。見た感じだとM4系のプラットフォームだが……かなりバレルが短いぞ。

 

「これはMCX Rattler。傑作アサルトライフルであるMCXのバリエーションの内でも最も携帯性に優れたモデルで、備える銃身は5.5インチ」

 

手に持ち折りたたみストックを展開してみるが、それでもサイズはサブマシンガンレベルに収まっており、片手での射撃も容易だと思わせる。

 

「その中でもこちらは.300ブラックアウトを使用するモデルで、亜音速弾とサプレッサーを併用して頂ければ非常に高い消音効果を得ることが可能となります」

 

消音効果か……一応あった方が良さそうだ。トリニティの治安がどれくらいかは分からないけど、なるべく騒ぎの起きないようにやる方が何かと良いだろうし。

それに.300ブラックアウトなら、超音速弾に切り替えた時に得られる威力もありがたい。万が一の時には役に立ちそう。

 

チャージングハンドルを引いてみると、動きはスムーズそのもの。

弾を装填していない事を考慮しても重量はかなり軽い。

ハンドガードが短い為、付けられるアクセサリーは限られるだろうが、私はそんなにゴテゴテと付けたりはしないので許容範囲。

 

あれ、ピッタリでは?

 

(値段の方は……………あー……うん)

 

こっちのが高い! やだもう!!

 

(でもケチケチすると色々面倒な事になりそうだしなぁ……貧乏癖は治らないや)

 

必要経費だし、報酬の量を考えれば全然無視していいんだけどね。節約に慣れちゃってるから、自然と躊躇してしまう。けどローブを買ってしまった手前……今更か。

 

──────腹を括ろう。そうしよう。

 

「何か他には?」

 

『リボルバーを。それなりに威力がある物だと嬉しいです』

 

「はい、ただいま」

 

店主さんは短く返事すると、自身の後ろにあるガラスのショーケースから幾つか見繕ってくれる。モフモフとした羽のせいで見えづらいが、現代的なレール付きの物から、古風なパーカッションの物まで様々に揃っているようだ。リボルバーというのはオートマチックと違って上品さや優雅さがある故、この店の雰囲気にも非常に合っている。多分店主さんが力を入れている所なのではなかろうか。その証拠に、顔がニンマリとしてる。

 

メインで使う銃を先程のどちらかに決めるとして、サブウェポンは何にするか。またショットガンを選ぶ事も考えたけど、ローブを羽織った状態から引き抜くのなら、元来持つ取り回しの悪さがネック。ソードオフであっても許容ギリギリなのは既に確認済み。ならば無難にハンドガンを使った方が、咄嗟の射撃には適している。

だがその中でも何故リボルバーの中から選ぼうとしているのか……最たる理由は信頼性にある。

基本的にサブを使う時は非常時だ。例えばメインが動作不良を起こしたり、再装填中だったりして隙を晒してしまいそうな状況である。この時に繋ぎや牽制の意味でサブを撃つ訳だけど、もしその時に弾詰まりを起きようものなら致命的。オートマチックと違って、リボルバーならそういった事に怯えなくていい。

後の理由は、1発ごとの威力やグリップの握りやすさといった所だ。それにほら、カッコイイ。

 

「適度な威力という点を考えて選びますと……この3つの子達は大変良く働いてくれるかと」

 

やがて新しく並べた銃たちを指しつつ、店主さんは上機嫌に言った。

どれもショーケースの中で眠っていた物ゆえ、持つ事に若干躊躇を挟みはするが、ただ確かめるだけならタダだと自ら言い聞かせ、まず1つ手に取った。

 

「そちらはM627。原初のマグナムリボルバーであるM27の発展モデルに位置しております。使用弾薬も同様に.357マグナム弾でして……」

 

なんとなくシリンダーをスイングアウトしてみると、私はとある違和感に気づく。本来シリンダーには弾を入れる穴が6つ空いているはずなのに……この子は8つだった。

 

「お気づきの通り、装弾数が8発となります」

 

つまり、質ではなく量による威力という事か。とはいえ.357も拳銃弾にしては高い威力を持っているし、質も然程損なわれていない。

 

シリンダーを戻して構え、撃鉄を起こした後に引き金を引くと、シングルアクションによるキレの良いフィーリング。

そのままダブルアクションに移行し、試してみるとブレは極わずか。トリガープルも均一で、精度の高さをひしひしと感じる。

確か構造上、リボルバーはオートよりも優れたトリガーフィーリングだ。それに加えて、この銃のメーカーは確かそういったトリガーメカ関連の事で高い評価を得ている。

恐らくは実戦での命中率にも大きく貢献してくれる事だろう。

 

(これはキープだね。結構いい感じ)

 

早くも候補が見つかったと思いつつ、確認を一通り済ませた私は次の銃を手に取った。

 

「M513。別名はジャッジ・マグナム。ベースモデルであるM4510とは異なり、装弾数は6発に」

 

ジャッジ(審判)……大層な名前だが、そんな事よりも気になるのは、特別に長く作られたシリンダー部分だ。中々に異様な見た目だぞ。

 

「使用弾薬は.45LC及び.410ショットシェル。そしてマグナムと名につきますように、3インチマグナムショットシェル及び.454カスールを使用することが可能です」

 

反対に、今度は質を高めた物をチョイスしてきたか。.454カスールは勿論として、散弾も使えるというのは汎用性が高い。

どっちの弾も撃ったことが無いから、実際に相手にどのくらい効くのかは未知数だけど……9mmとは比べ物にならない代物だと予想はつく。

 

こっちも撃鉄を起こし、シングルアクションとダブルアクションでフィーリングを確認してみるが────先程のM627と比べてダブルアクションの感覚はそこそこ。なんかヌメっとしてるというか、質の違いが顕著だな。あくまで比べた場合だから、これはこれで一般的なレベルに収まるが。

 

(うーん……私の戦い方だと、さっきの銃の方が合ってるかな?)

 

さて、最後に3つ目のリボルバーを拝見といこう。見た感じ、1番個性的なモデルだ。

 

「スーパーブラックホーク。堅牢なソリッドフレームを採用したシングルアクションで、.44マグナムを使用致します」

 

おお、私のハンドルネームと同じく鳥つながり。どこか運命じみた物を感じるぞ。

スーパーと付くのは少々安直だと思うが。

 

「銃身は均整の取れた7.5インチ。見た目の美しさもさる事ながら、ノンフルートシリンダーとフレーム各部の補強により、いかなる環境下でも確実な動作を保証してくれます」

 

撫で肩の木製グリップに埋め込まれた鷹のメダリオンをそっと撫でると、まるで応えるかのように鋭く輝く。

 

.454カスールに劣りはするものの、.44マグナムだって強力な弾薬で、私の言った【ある程度の威力】を満たしている。だが、何故わざわざシングルアクションオンリーの方を薦めてきたのか……。耐久性が勝るとはいえ、こちらは連射にひと手間必要。確かダブルアクションで.44マグナムを扱えるモデルは多くある筈だし、折角ならそっちを薦めてくれてもいいと思うが。

 

『少し聞きたいんですけど、この銃の利点は耐久性と.44マグナムを使う所だけですか?』

 

疑問に思った私が正直に質問すると、店主さんは笑みを崩さぬまま「お客様……」と呟き、その小さな丸メガネを軽く直した。

 

「それはひとえに……余裕です」

 

(余裕?)

 

私は首を傾げる。

 

「今の時代にシングルアクションリボルバーや、それこそパーカッションの物に戦術的な優位性を見出すのは非常に難しい。私もその事はよく知っています。しかしながらある場合において、このハンデは重要な意味を持つ事もあります」

 

そこまで言うと店主さんは、自らの腰に下げていた古いリボルバーを掲げる。造詣が乏しいせいで種類は分からないが、トップブレイク式だと思われるそのリボルバーは随所に年季の入りようを感じさせながらも、ニッケルの輝きは未だギラギラと保たれていた。

 

「"これで十分だ"。そう述べるように余裕を見せ、相手の隙を引き出し、すかさず急所に撃ち込む。古き銃は、挑発からの早撃ちに最も適したスタイルだと私は考えるのです」

 

ふむ……なんだかそれっぽい理屈だな。

 

「まぁ、本音を申し上げますと私の趣味が勝りますが」

 

間を置かず、店主さんは苦笑いしながら朗らかに言った。

なんだったんだ今の話。

 

「銃はアイデンティティやステータス、ファッションとしても捉えられますし、戦場でのメリットのみでは測れない良さに魅入られ選ぶのもまた、乙なものです。そして、このリボルバーには一風変わった魅力が溢れている……。お客様がそういった点を少しでもお考えならば、是非ご検討を」

 

……今どき、リボルバーを買おうとする客にはそういった目的の者も多いのだろう。かくいう私もその内の1人だ。見抜かれている。

 

確かに彼の言うとおり、この銃は良い。握っていると気分は牧童や保安官、ガンスリンガーだ。早撃ちやガンプレイを練習したら、より"らしく"なりそう。

もしも、カッコ良さやオシャレで選ぶのならこの銃になるのは確実。

 

でも────実用性をいくらか捨ててまで選ぶべきなのか。

そんな趣味要素を此度の真面目な任務に持ち込んでしまって良いのだろうか。

ローブを買ってる時点で既に趣味が出てると言われたらぐうの音も出ないけど……。

 

その事を深く。深ーく、長く考え続けた果てに、私は店主さんに言葉を投げる。

 

『試射は出来ますか?』

 

「もちろんですとも」

 

『じゃあ、全部試してみても?』

 

「はい、ただいま準備致します」

 

そう述べると彼は銃達と試射用の弾薬をテキパキ籠に入れ、カウンターの奥に設置されたドアを開いた。肩越しに見てみると、狭くはあるがしっかりと整備の行き届いた射撃場が、そこには続いている。

疑いもなく品出し用のドアかと思っていたが、違ったらしい。

 

(とりあえず、撃ってみなきゃ分かんないか)

 

MP7とRattler。それに3つの個性的なリボルバー達。潜入先での相棒という重大な選択をより慎重にする為、私は相性や具合を確かめるべく射撃場へと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

──────

 

 

 

「おや、来ましたか」

 

シナモンのイメージキャラクターが刻まれたオフホワイトのカップを優雅に傾け、ダブルのエスプレッソを1口嗜んでから私は、入口前に立つ人物へと余裕たっぷりに片手を振って声を掛けた。

 

「こちらですよ」

 

すると、自己主張の強い大きな耳がピクリと動き、スタスタと早歩きで私の座っている席へと向かって来てくれる。

 

「予定通りですね。例の物は?」

 

「ああ。ここに」

 

懐から茶封筒を取り出した私服姿の少女……七度ユキノに隣の席へ座るよう手で指示する。染み付いた教育の成果か、それを確認した後にようやく彼女は腰掛けるのだ。

 

「あなたもどうです? 1杯なら奢りますよ」

 

「結構だ」

 

軽く誘ってみるが、彼女はキッパリと言って拒否してしまう。別にコーヒー1杯程度でどうこうするつもりではないのだが……やはり人望が無いのか。それとも単に今は気分じゃないのか。

ここのカフェは特にフレーバーコーヒーが美味いのだ。一度試してみるべきだぞ。

 

「……この3階窓際の席、交差点が良く見下ろせるでしょう? 私結構好きなんですよ、ここを行き交う方達を見るのが。ほら、私って防衛室長ですし」

 

「……………」

 

「本心ですよ? 一応」

 

横目にチラッと私のスマイルを見ると、ユキノは目を伏せつつ茶封筒をこちらに押し付けてきた。【御託はいい】と訴えかけるようである。

 

「あなたも大好きでしょう。市民の平和と安全、規則と奉仕。私も同じですよ」

 

依然として大した反応は見せずの彼女に【冷たいな……】と心で呟きながら、私は受け取った茶封筒の中を軽く覗いた。

 

「ふむ……やはりあなた達は優秀ですね」

 

中に入っていたのは主に幾つかの写真と、現場の状況をまとめた報告書等である。一任させておいて正解だったな。厚みも申し分無いし、帰って自室で読むのが楽しみになってくるぞ。

 

「これで、どれだけ躍進する?」

 

沸き立つ思いに昂揚する私へ、ユキノはボソッと問いかけた。

 

「せっかちですね。まだ目を通していないのだから分かりませんよ」

 

至極当然といった風に答えると、彼女は「そうか」と呟くのみ。一体何回このやり取りを繰り返せば良いのやら。

 

連邦政府会長という、唯一命令を下せる存在の疾走により彼女の所属であるSRT特殊学園は現在閉鎖の危機に陥っていた。私を初めとした一部のメンバーによってなんとか食い止めてはいるものの、膠着状態がいつまで続くかは分からない。現在の代理であるあの女も、議論を進めようとすれど自らが受け持とうとはしていない。

 

そこで持ちかけたのだ。

"私が代理にまで上り詰め、再び復活させてあげよう"と。

その為の代価として現在、Fox小隊の面々は私の部下となっている訳である。

 

その内の仕事の1つが、様々なPMCへの監査活動だ。

レイヴンという、都市伝説レベルな秘匿性と依頼達成率を備えた傭兵の登場によって、企業間においての代理戦争は激化し、以前より多くの"金で買える武力"の需要が生まれた。

応じて必然と、供給の存在である新興のPMCは数多く乱立し、そのシェア争いは苛烈を極めていった。

 

そんな中で問題視されるようになって来たのが、PMCの質の低下である。具体的には戦場で揉み消されがちな盗みや、無関係な者たちへの暴行、または雇用契約の違反等の各種行為が挙げられる。

これらを取り締まるべくFox小隊を定期的に各PMCへと潜入させ、該当する行為が無いか調査してもらっている次第。そしてもし発覚した場合には、私の権限でヴァルキューレを迅速に派遣する事が可能である。

 

我ながら素晴らしいやり口ではないかと、こちらも何度目かの悦に浸ってカップを揺らす。このまま摘発を続けていけば、会長代理の座もそう遠くはない。

 

あの執務室からの眺めと共に味わう一杯はどれ程のものか。内心ほくそ笑んでいると、ユキノは私と目を合わせぬまま、交差点の方を見つめて口を開く。

 

「今回も誰1人として彼女に遭遇することは無かった。ただ、オトギからの報告が正しいとすると、ここ最近はゲヘナで活動していたらしいが……調べた限り、痕跡は殆ど皆無だ」

 

「そう……ゲヘナですか」

 

「アプローチを変えるか?」

 

「いえ、今のままで構いませんよ。今はあくまで彼女の事は"ついで"ですから。以前より重要度は下です」

 

「……了解した」

 

先生は果たして、未だに彼女と遭遇していないのか。【いや〜運が無いみたいでね】などと言ってはいるが、私は嘘だと捉えている。その認識を裏付けるかのように、あの人は続けてこうも言ったのだ。

 

【でも、そう躍起になる程じゃないと思うな。もしも見つけられそうにないのならさ、一旦潔く諦めてから、他の手を考えてみるのはどう? 私も色々手伝えるし】

 

腑抜けている──────

傭兵などという、金で買われる暴力装置を相手に、呑気にも程がある。

絶対的な統治の中において、あのような存在はあってはならない。

絶対的な力というのは、常に秩序を齎す側が支配せねばならない。

 

彼女を捕え、戦争の加速を止めねばアビドスに立ち入る余裕は無い。故に、こちらから砂漠化問題の調査をすることも出来ないと。

その事は前に説明したでしょうに。

利用できると思った私の見立てが甘かった。

 

しかし、長いこと追いかけ続けてはいるものの収穫がまるでないのが現実。監査活動中の戦闘で彼女に遭遇した際、なるべく接触をするようFox小隊に呼びかけてはいるが、上手くいってはいない。

そもそも彼女は、敵の知らぬ間に任務内容を遂行する、隠密性に秀でた人物である。監視カメラやスマホのデジカメにも映らないし、肉眼で目撃できた人物も私の知る限りは比較的少数。その者達から聞き出した証言を集めても、やはり記憶というのはそうそう宛に出来ない物で、食い違いが多すぎる。

 

確実に分かっている外見的特徴は、髪の色は青緑で、肩まで伸びる位の長さである事。身長は160cm台後半である事。現在は右目に眼帯をしているらしい事。

以上である。

 

ハッキリと人相が分かれば大きく進展してくれるだろうが、眼帯の印象が強すぎる所為で邪魔するのか目元の手がかりが最も乏しい。

口元や鼻筋、輪郭等の特徴は私がある程度抑えているものの、目元が欠けていては不完全。

──────やはりあの時、恐れずに動いていれば……しっかりと目を合わせていれば。

 

鮮烈なあの瞬間、自分に出来たかもしれない選択。その事を思い返そうとすると、ユキノから問い掛けが来た。

 

「こだわりは捨てたのか?」

 

「ぇ……何がです? 何の?」

 

不意な質問だったから、素っ頓狂な声が漏れ出てしまう。

 

「"彼女へのこだわり"だ。以前は最優先事項だった筈だろう。私の記憶違いでなければ、その為の最も確率の高い手段として、今の監査活動を始めたはずだ」

 

「あぁ…………そう、でしたね」

 

前髪をクルクルと指で遊ばせながら、私は何とも歯切れ悪く答えた。

 

「しかしながら、所詮は個人。元来戦いとは数ですし、大規模な戦略が1人の戦術に負ける事はありません。私が着々と駒を揃えていく事で、やがて上回る事も可能でしょう。潜在的脅威では無くなり、同時に最重要価値の切り札でも無くなります。その事を俯瞰して見れば、全力を上げてまで追い求めようとするのは、些か過剰という事に、最近は気づき始めたのですよ」

 

「…………」

 

労力や時間、お金をいくら割いても収穫ゼロという事実の繰り返しは、私の気力を日に日に萎ませていった。Fox小隊を手駒として獲得した時に比べれば、今のモチベーションは1000分の1に満たぬだろう。

 

あの頃はウキウキだった。責任者である連邦生徒会長が失踪したとの報を受け、真っ先に取り込もうとしたのはあのFox小隊。七囚人を捕らえた実績のある彼女達を支配下に置く事が出来れば、必ずやあの傭兵も捕えられると本気で思っていた。

程なくして交渉はスムーズに進み、Fox小隊は私の物に。そうして最初に与えた任務は、彼女が現れたと思わしきヘルメット団の補給基地への調査活動……それがなんだか遠い昔のように感じられる。

このまま彼女に逃げ切られるのだと思うと、やるせない気分だ。惰性でも細々と探すか、キッパリ諦めるか、あるいは全てを投げ打ってでも全力を注ぐ愚行を犯すか。

半分以下にまで減ってしまった黒の水面を見つめつつ小さくため息をついた私に、声が飛ぶ。

 

「……前から聞きたいことがあった」

 

今度は、ちゃんとこちらの目を見ながらの発言。

 

「レイヴンとは、どういう関係だ?」

 

「おや。気になりますか?」

 

「少しはな。そちらの入れ混み具合を見ていると、それが第三者からの客観的視点から来るモノだけでは説明がつかないことぐらい、すぐに分かる」

 

「ふふ……良いですよ話しても。減るものではありませんし、それを聞いてあなたが納得するのならば、いくらでも」

 

テーブルに頬杖をつきながら、ゆっくりと私は彼女に語りかけ始める。最初にして最後の遭遇。まだ連邦生徒会長が居て、ゲヘナに雷帝が君臨していた頃の話だ。

 

 

 

──────

 

 

 

「適当にこの店にしましょうかね。なるべく歩きたくありませんし」

 

軽く水を払って纏めた傘を満員寸前の置き場へ差し込みつつ、私は季節外れの悪天候へ少々腹を立てていた。時期はもはや冬に差しかかろうかと言う頃だと言うのに、今日は夏頃に見かけるような豪雨だ。

休みの日であれば一日中自室で過ごせるので問題は無いのだが、見事確率に負けてしまった私は、ヴァルキューレによる治安活動の視察や、雷帝の動向に関しての各学園首脳部相手の協議といった業務に駆り出されてしまっていた。

 

幸いにも、夕方以降の天気の荒れ具合からして午後からの業務は不可能と考えた上司により帰宅の命を得たので、現在私は家に帰るついでとしてランチを済ませようとしている所である。

時刻は既に午後2時を回っているのだから、さっさと腹を満たさねばなるまい。今回足を運んだのはD.Uの一角にある中華料理の店だ。職場から近いので月に何回か寄るのだが、ここのは山海経で食べる物より幾らか味は劣るものの、十分コスパが良い。

 

「らっしゃーい! 好きな席座っといてな!」

 

銃撃のような雨音を背後に戸を閉めて店内に入ると、愛想の良い声が厨房から聞こえてきた。好きな席と言われても、空いてるのは2人用のテーブル席だけなんだが……この時間帯でもかなり繁盛しているらしい。

 

早速座って荷物を足元に置くと、すぐさまバイトの子が駆け寄ってきて、ガラスのコップに注がれたお冷と熱々のおしぼりを置いてくれる。全体的にオドオドとした様子からして、新しく入った子だろう。

 

「い、いらっしゃいませ…! ご注文はお決まりですか?」

 

客の賑やかな談笑と、中華鍋にお玉やゴトクが当たる音、テレビに映るワイドショーの声からなるガヤガヤとした喧騒の中、やや吃りがちながらも聞き取れる声量で彼女は聞いてきた。

 

「焼売定食を1つお願いします」

 

私は人差し指を立てて、入る前から決めていたメニューを、聞き取りやすいようにゆっくりと伝えてやる。超人であれば、この程度の気配りはできて当然だ。

 

「はいっ…! 他にはありますか?」

 

いそいそと伝票に書き込む彼女へ首を左右に振って答えると、勢い良くガラガラ音を立てて店の戸が開いた。私に続いてまたしても来客のようで、バイトの子はおずおずといった様子で近づき、一言「いらっしゃいませ…」と唱えてから、入口で立つ1人の人物に尋ねる。

 

「すみません。今空いてるのが相席しかないんですけど……」

 

その者は口を開かぬまま、1度バイトの子に視線を向ける以外にリアクションは見せず、コツコツとブーツの音を鳴らしながら私の席に近づいてきた。

 

「あの……えっと…」

 

端から少々水滴の滴るトレンチコートを羽織り、中にゲヘナの制服を着る彼女は、背にかかる言葉が聞こえているのかいないのかハッキリせぬまま、不器用な手つきで椅子を引き、私の正面へと座った。

 

「………私は構いませんよ。そちらは?」

 

ひとつ手助けの思いで、私から上手く取り持とうとしてみる。

すると緩慢な動きでサングラス越しにこちらを一瞥した彼女は、若干の間を置いて返答をする。

 

「気にしない」

 

素っ気なく低いトーンで呟くその様子に、なんともまぁ変な生徒だと思った。太陽の隠れたこの日にサングラスをかけているのもそうだし、コミュニケーションもまるでなっていない。

おかげさまでバイトの子はすっかり萎縮してるぞ。お冷とおしぼりを彼女の前に置いてからというもの、ずっとビクビク震えて突っ立ったまま。

 

「…………」

 

しかし彼女はそんな一連の出来事を気にも留めず、無言でメニュー表を取って眺めている。

 

すると見かねたであろう店主さんが厨房から「バイトちゃん、こっち手伝ってくれ」と声が掛かり、件の子はようやく精神的に解放されたのか、短く会釈をして足早に戻っていった。

 

(どうしましょうか……)

 

相席になった場合、相手に軽く挨拶でもしておいた方がお互いに変な緊張も無くその後をやり過ごせるのだが、少し苦みの走った表情で黙々とメニュー表を見ているこの人物にその手を使うのは、ややリスキーだろう。大した用もなく不機嫌そうな相手に話しかけたって、基本いい事は無いのだ。

とはいえ、このままではどこかピリピリとした雰囲気の中で焼売を頂くことになってしまう。それは勘弁願いたい。幸いにも、今の所は私に何かしらの矛先を向ける気はないようなので、この場はなるべく"居ない者"として扱おう。

 

触らぬ神に祟りなし……と言う訳で、私は店内のテレビへと自らの興味を移した。特番はどうやらゲヘナ関連らしい。万魔殿の行った数々の改革や施策はコメンテーター達にとっても金にしやすいのかもしれない。

 

(私たちとしては、これ以上面倒な悩みを増やさないでくれると助かるんですけどね……)

 

一般にはあまり浸透していないが、万魔殿の行動の殆どは"雷帝"の意思によるものだ。知る人は「シェマタの再来」と訴えるが、まさにその通りの鉄拳政治で独裁者。尚且つ秘密主義者でもある為、滅多に表に出てこず、報道は全て万魔殿名義。しかもキヴォトス中を敵に回すつもりなのか、最近の活動は以前にも増して過激な面が多く、防衛室からは最重要監視対象として日々注意を向けられている。

皆の預かり知らぬところで何をしているのか。一体何を望んで行動しているのか……先程注文した焼売定食が来るのを待ちながらぼんやり考えている中、テーブルの呼び鈴が鳴った。

 

対面に座している彼女が押したようで、今度はバイトではなく店主自らがこちらへやって来た。正しい判断である。

 

「はいよ! ご注文は何に?」

 

「オムライスを1つだけだ。言っておくが、毛が入ることのないように」

 

彼女はメニューの文字を指で小突き、静かに言った。普通はこの騒がしい店内で低音な声を拾うのは難しいはずなのだが、なぜか彼女のは聞き取ろうと意識していない私でも、完全に把握する事が出来た。

 

「もちろん分かってますよ! 楽しみに待っててな!」

 

このような客相手でも笑顔を絶やさずに接する店主に、私は心の中で賞賛と拍手を送る。

それにしてもオムライスか。偏見かもしれないが、見た目に反して可愛らしいチョイスだな……と、おくびにも出さず思っていたその時、またもや店の戸が開く。見た感じ今度は複数人での来客だ。

 

「おお、すみませんね。今ちょっと満席でして……」

 

店主が駆け寄って申し訳なさそうに告げようとすると、その集団の先頭に立つ少女が悪戯な笑みを浮かべる。

 

「すぐ空くさ」

 

そう言うと、派手な発砲音と共に店主の身体が吹っ飛んだ─────。

少女の隠し持っていたショットガンが至近距離から命中し、背後のテーブルや客を巻き添えにしていきながら、被弾の衝撃で飛ばされていったのだ。

 

(ええっ!? 嘘でしょう!?)

 

突然の事態に驚くと、私の視線は店主と少女の間を視線を何度も行ったり来たり。その間にも背後の面々は店内へとぞろぞろ押しかけ、食事中の客達を蹴飛ばし、殴りつけ、テーブルをいくつもひっくり返していく。

 

「さぁ皆んな出しな! 金、時計、指輪。高ぇ奴はありったけだ!」

 

食べかけのエビチリや青椒肉絲を躊躇いなく踏みつけて、押し入った少女がそう叫んだ。

いわゆる強盗である。

 

(連邦生徒会のお膝元だと言うのに……まったく、ヴァルキューレは何をやっているのですか!?)

 

半ば八つ当たりであると分かりつつも、心の内で悪態をつく。別に、潜在的な危険を排除する為なら攻勢的な介入も辞さぬようになれとは言わないが、だとしても私の職場からそう遠くないこの店で蛮行を働かれるようでは、いかんせん抑止力として機能していないと見える。

 

「全部だ全部! ほらとっとと出しやがれ!」

 

警察が頼りにならないなら、自分で身を守るしかない。そう思い、護身用の拳銃を抜こうと制服の内側に手を突っ込んだ所で、何人かの客も私と同じように自らの銃を取る行動を取っていて、抵抗するべく動こうとしているのに気づく。

 

だが不幸な事に、その内1人の客の元へとメンバーが近づいていった。

 

「なぁに───持ってんだ!」

 

中年のその客は咄嗟に銃を隠そうとはしたが、歳の所為なのかノロノロとしており、呆気なくバレた上で、持っていたライフルを取り上げられてしまう。

 

「余計な真似すんじゃねぇぞ!」

 

怒りを顕にすると、メンバーが持ち主へ何発も散弾を撃ち込んだ。撃たれる度に身体は少しずつ跳ね、店内に銃声が響く。他の面々もそれに気づくと、既に彼は痛みでぐったりしているというのにも関わらず、集団で更に銃撃を掛けていく。やがて弾が切れると、数人が彼に寄ってたかり、銃のストックを力いっぱいに振り下ろし始めた。その度に彼の口からは少量ながらも血が飛び、呻きが発せられる。

 

絵に書いたような集団リンチ……死に至る可能性は低いだろうが、食らう痛みは壮絶と推して知るべし。

とても同じ人間のやる所業とは思えず、こいつらはまさか人間の皮を被ったモンスターなのではと錯覚し、私はまるで血管が凍りつくような感覚に襲われる。

そして皆、その様子をただじっと見つめているだけで……誰も動こうとはしなかった。

 

私はひとえに、怖かった。

必死に助けを乞いながら嬲られる彼を通して、逆らった時の自らの未来が想像できた。

このままじっと、嵐が過ぎ去るのを待つべきだと思った。

 

しかしだ──────見てみろ、他の客達の情けないあり様を。きっと彼らは何もせず見ているだけに終わる。

良いのかこれで。超人ならば、あのような者共と同じようにしていていいはずが無いだろう。

 

だって超人は特別なのだ。

他の者に出来ないことを、当たり前のようにやってのけるのだ。

ならばどうすべきか……額から流れる汗はそのままに、私は脳みそを無理くり回転させていった。

 

どうにか気を引いて、その隙に客全員で不意打ちは? ……いや、こんな即席で集まった連中にそんな芸当が出来る訳ないし、武装からしても不利すぎる。

だったら、説得とは行かないまでも言葉で上手く丸め込むのは? ……ダメだ、あれほど頭が飛んでいる奴らが耳を貸すとは思えない。

ならむしろ、メンバーの誰かをどうにか捕らえて逆にこちらの人質とし、時間稼ぎするというのは……馬鹿な、私がやるとなればリスキーだ。

とすると、防衛室への所属を打ち明けて脅し代わりに……無理だ、そこまでの影響力は持っていない。

通報は? 声は出さなくとも繋がれば見込みは……ああもう、なんでこんな時にスマホが内ポケットに無いんだ! 今は下手に動けないんだぞ!

 

通報……そうだ通報! 普通ならレジとか厨房に専用のボタンがあるはず。

さっきバイトが交代として厨房に呼び出されていたし、既に押した可能性があるかもしれない。

そんな淡い期待を抱きながら、チラッと横目に見れば──────そこには鼻水と涙をびちゃびちゃに垂れ流しながら両手を高く挙げているバイトと、サバイバルナイフ片手に大声で質問をするメンバーの姿があった。

 

「ひ、ひいぃっ……!!」

 

「あぁん!? 押したのか、押してねぇのか? どっちだ!!」

 

「お……押してないです押してないです! 神さまに誓って押してないですぅぅ!!」

 

どっちだこれは。

もしかしたらとんでもない演技力の持ち主かもしれないが……押されていないとしたら他に可能な策を考えなくてはならない。

唇を噛み締めつつ、頭の奥を必死に掻き分けながら、数多の提案と却下を繰り返していると──────こめかみに、硬い感触が当たった。

 

「なにしてる」

 

気づけば、メンバーの1人に銃口を押し付けられていた。グリグリと念入りにだ。

 

「…なんでもありませんよ」

 

焦りや緊張、恐怖で荒ぶってしまいそうな気持ちを押さえつつ、私はなるべく平然と返してみせる。

そういえば、変な動きをみせまいと制服の内側に手を突っ込んだままだった。そりゃ流石に怪しまれる。

 

「手はゆっくり出しますから、くれぐれも撃たないように」

 

「あ?」

 

刺激を与えないよう柔らかく外面の良い声色で語りかけ、慎重かつ丁寧に手を引き抜こうとすると……何故か胸ぐらを、乱暴に勢い良く掴まれた。

 

(なになになになに!? 私なにかしましたか!?)

 

そこからグラグラ頭を揺らされると、混乱に思考は揺らいで、大量のハテナマークが頭蓋の内を埋めつくしていく。

 

「"撃たないように"ってよぉ、テメェ今……私に指図したなァ!?」

 

「は?」

 

どうしてそんな解釈になる。

 

「私はな! 命令ってのがパプリカの次に嫌いなんだよクソがぁ!! それを知ってて口聞いてんのか!!」

 

知らない知らない。そんな事知る訳ない! なんでパプリカの次なのにそんな怒るんだ! パプリカ美味しいでしょ!

それに私は"お願い"のつもりで言ったんだぞ。懇切丁寧に!

 

「お高く止まってそ〜な匂いがプンプンすっからさ、1回ちょっと手前の立場ってモン勉強するべきだろ?」

 

(これ、絶体絶命というやつでは……?)

 

汗をかいた私の顔に不届き者の荒い鼻息が当たり、その度に不快感と生ぬるさが肌を駆け巡って心がザワつく。

何か挽回できそうな言い方や手段は無いものか、解決に通じそうなヒントは転がっていないかと、あちこち手当たり次第に視線を動かす。

 

すると1つ、引っかかる箇所があった。

この空気感の中で1人、浮いている存在が居た。

 

「おいテメェ……何呑気にメニューなんか見てんだ!」

 

「…………」

 

そう、彼女だ。

目の前で私が掴まれているのにも関わらず、彼女は何食わぬ済ました顔で、じっとメニュー表を見続けていたのだ。

 

「……気にするな。私はただ、この店のオムライスが"どっち"なのか考えているだけだ」

 

「……あぁん?」

 

「よく焼かれた方なのか、それともふわとろの方なのか。それが問題だ……私は前者以外認めん」

 

「知らねーな、んなこたァ」

 

マイペースすぎる発言を聞いて興味が移ったのか、メンバーは掴んでいた手をパッと放し、同時に私は尻もちをつく。痛い。

 

「さっさと財布出せや財布。無銭飲食のつもりで来てる訳じゃねぇだろ?」

 

「財布? そんな高尚な物は持っていない。小銭が数枚あるだけだ」

 

「寝ぼけた事言ってんじゃねぇ!」

 

「本当だ。見てみろ」

 

そう言うと彼女はコートのポッケから数枚の硬貨を取り出し、テーブルに並べてみせた。

総額621円である。なんと刹那的な。

 

「てめ……ナメてんのか!? ここのオムライス頼んだら1円しか残んねぇだろうが!」

 

「悪いか?」

 

耳をつんざく程に喧しい怒号を浴びせかけられて尚、彼女は落ち着き払ったまま言い放つ。

 

「私はオムライスを食べに来た。ただそれだけだ。他の客がどうなろうと君たちに関わるつもりは無い。それに、今見て分かった通り金もほんの少しだ。私に干渉するメリットはほぼ無いぞ」

 

凛としていて冷酷な印象を持たせる低音の合間から、柔らかく可憐な声が時折顔を出す。そんな彼女の声と、自分勝手な物言いは独特な雰囲気を醸し、皆の注目を集めた。客と強盗集団、どちらからもだ。

 

「ムカつくぜ……何様のつもりだテメェは!!」

 

追加で2人のメンバーがじわじわと近寄り、お冠な仲間の両隣に位置した。ヒートアップを宥めるつもりなのか、もしくは同じく怒りに駆られて動こうとしているのか──────私はその事が気になって仕方がないというのに、やはり彼女は"些事だ"と言わんばかりに無視を決め込んで、今度は店主へと声を掛ける。

 

「オムライスはまだ作れそうにないのか?」

 

「ば……ばか言わんでくれ……」

 

「君はキヴォトスの者だろう? なら怪我はそろそろ治りかけていると思うが」

 

「そりゃ痛みは引いてきたし、作りたいのは山々だけどな……いかんせん、状況ってのを考えて貰わんと」

 

やや苦しそうな調子で訴えた彼は、倒れた状態のまま顎と目線で示す。

それを受けると、彼女は重たく首を動かしながら場を一通り見渡し、そして小さく鼻を鳴らした。

 

「……そこは変わらずか」

 

メニュー表を置いて呟くと、彼女は躊躇なく自然な動作でコートの内側に片手を突っ込んだ。もちろん傍に位置する3人がそれを見逃す訳もなく、すかさず構え、少し経ってから他の面々も徐々に臨戦態勢を整えていく。先程バイトの子にナイフをチラつかせていた者も、意識はすっかり彼女の方へと移っていった。

 

「なあ君たち。生きていれば、時には怒らせちゃマズイやつに出くわす事もあると……思ったことはないか?」

 

緊張の走る中、彼女はもう片方の手でお冷を1口飲み、やがてそのコップを持ったまま告げる。

 

「例えば、私だ」

 

挑発なのか警告なのか。あるいは両方か。横目に睨みつつ発された、ドスの効いた一言を聞くと、まるで心臓を握り潰されたかのような、強烈かつ残酷で、圧倒的かつ致命的な感覚が胸の内から弾けて全身へ滲み、激しく黒く惨憺たるクオリアとして、私の自意識を跪かせる。

 

そこには、強盗達の凶行がちゃちな威嚇にしか思えなくなるほどに、別格と言っていいほどの恐怖があったのだ。

 

一体彼女のどこが、そのような恐ろしさを生み出しているのかは分からない。服装は浮浪者じみてこそいるが、まだその辺の不良の方が凶悪なファッションをしている事が多いし、サングラスの印象を加えたとしても、見た感じ顔つきは可愛げがある方。

 

なのに関わらず。なぜか恐ろしい。

しかもだ、この恐怖を私は知っている気がする。

初対面の筈だが、私はこの恐怖を向けられた経験があるように思う。

 

そんな不可解なデジャブが不気味さに拍車をかけ、尚のこと私は震え上がりそうになる。

 

彼女は何者なのか……今もし目の前で"人間では無い"だと明かされたら信じてしまいそうな……得体の知れなさが故の神秘性を秘めた人物。

 

ああ、こんな混沌とした状況だというのにこれだけは絶対に正解だと気づく。

彼女にだけは─────何があっても手を出してははいけないのだろう。

 

私を構成する全ての要素がそう叫んでいるのだ。

 

「へはっ……上等だ…!」

 

「………………………」

 

ちっぽけなプライドがそうさせるのか、無駄にイキがる不届き者へと、彼女は最後通告とばかりに長き沈黙を手向ける。

 

(………………)

 

どうやら誰も、出て行く気は無い。

ならば、なにが起きるか。

固唾を飲んで見守っていると──────。

 

撃鉄を起こすように、錆び付いた歯車を動かすように。

彼女は音を立てて、コップを机へと置いた。

 

「…………!」

 

滑稽にもビクついた1人。先程から突っかかっていた、喧しき愚者が引き金を引こうとする。

だが、それは許されなかった。

 

「ぁがッ!?」

 

ぱりん、と砕ける音。

 

一瞬の出来事だった。引き金が引き切られ、撃針が雷管を叩くよりも素早く、その者の顔面目掛けてコップが投げつけられた。振りかぶるような動作は付けず、ごく自然かつ鮮やかな手際だった。

 

結果として、愚者の顔に傷が増える。

ガラス製だった為に直撃の瞬間粉々に砕け、鋭利な破片が愚者に出血を強いたのだ。

 

続いて、両隣の2人が動揺を隠せぬままに発砲を試みようとする。

無理もない。なぜなら今の一撃で頭を冷やされた者は、たったそれだけで白目を剥いて倒れてしまったからである。

しかしながらそんな狼狽は、彼女に十分な時間を与えてしまったようで──────。

 

「ひぐッ!?」

 

「ぐぎゃッ!?」

 

瞬く間に引き抜かれたショットガン(SPAS-12)が火を噴いた。均等に2発ずつ貰い受けた2人は大きくよろめき、その隙に彼女は席を飛び出して更なる攻勢へと移った。

 

まず繰り出されたかかと落としは、前宙から繋がるアクロバティックな物で、履物がブーツということも相まってか効果は倍増。未だ体勢が整わぬ1人の肩にそれがぶち当たると、私にも聞こえる程の音量で"ベキッ"と鳴る。骨折間違いなしなダメージに、その者は大きく無様な悲鳴を上げて蹲った。

間髪入れずもう1人の方に2発散弾が撃ち込まれ、衝撃力の替え玉が相手の体勢を完全に崩し、仰向けに転ばす。だがそれだけで終わる事はなく、無防備な鳩尾目掛けて無遠慮な拳が振り下ろされた。驚愕と怯えを見せていた不届き者の表情に、激痛からの悶絶が加わった。ついでに呼吸困難も引き起こしている。

 

ここまでのスリーノックに要した時間、実に2秒足らず。凄まじき早業に思わず私は目を見張り、舌を巻くが……これ以上の事がまだ続くだろうと気づき、腕に鳥肌までもが立った。

 

「なんだテメェッ──────!」

 

狙いを定めた1人へと片手で残弾2発を連射し、弾切れと見るや否や鋭く投げつける。乱暴な3連撃目を払い、自らに迫ろうとする彼女に対してターゲットは片腕を掲げて防御の姿勢を取るも、十分な訓練も経ていないであろう素人が彼女の技を受けに行く事は、自殺行為にも等しい。

さっきのを見ていれば私にも分かる。

 

マトモに受けてはいけないのだ。

 

ハリボテを粉砕するは、シンプルな飛び込みの左ストレート。腕だけで衝撃が留まるはずもなく、グシャッと潰れかけた腕を巻き添えに胸部まで至る拳は、もはや心臓を止めにかかっている。しかしそれだけでは終わらず、彼女はまだ生きている方の腕を引っ掴んで背に回し、自らの盾として利用し始めた。

 

「いっ────痛い痛いイタイイタイぃッッ!」

 

「うわアッ来るなぁッ!?」

 

その状態から豪快に突き進む先は、壁際に位置する1人。機能を失った片腕をプラプラと揺らし、操られながらドタドタ不規則に寄って来る仲間の姿は、その少女から年相応の悲鳴と運任せの乱射を引き出した。

 

「や、やめっ────」

 

言わずもがな、盾を展開中の彼女に弾が命中することは無く。

高速域での交通事故を思わす激しい衝突が、店を揺らした。

 

「…………」

 

結果、コンクリ製の壁は石膏ボードのように易易と等身大にぶち破られた。店に新たな入口が出来た瞬間である。

肉盾はと言うと、全身にくまなく受けた物理の影響から完全に伸びきっており、挙句彼女は用済みと見たのか、ソレを雑にポイッと放り投げてしまった。

では、見事味方と壁のサンドイッチにされた方は……頭を手で抑えながら、なんとか復帰しようと努力している様子。

 

「ぁっ…」

 

でも無情な1発の拳が、腹部にトドメとして食らいつく。

これで被害者は5人目。

 

「う────撃て撃て! とにかく撃たないか!!」

 

まさか見蕩れていたのか、それとも実力差を感じ無意識の内に選択肢から除外していたのか。ここに来てようやく、強盗集団は彼女を狙って一斉射撃を開始した。

同時に、私を含めた客たち全員が流れ弾を避けるべく、咄嗟に地面へと伏せる。抗戦を選んでしまった強盗らの判断に内心腹を立てつつ、私は彼女の戦いぶりをハッキリ見守ろうと目元を擦った。

 

「ちゃんと狙え!」

 

「やってるぞバカ!」

 

複数アサルトライフルが織り成す弾幕と、アクセントが如く指し込まれるショットガン。

どれもこれも確かに当たっている。

 

だが、効いていない。

 

弾薬によって威力は千差万別だが、この強盗達が現在用いている一般的な小口径高速弾……あるいは12ゲージのショットシェルならば、個人差はあれど多少は痛みが生じ、大抵リアクションが生まれる筈。

 

だが、平然としている。

 

悠々とマイペースに、ジワジワ距離を縮めようと歩く彼女に、私は一層気味の悪さを感じた。

指先や耳、首元といった無防備な箇所の被弾や、そこから伴う出血にさえ反応しないものだから、もはや痛覚が無いとしか思えない。

 

「あぁ! こっちに─────!」

 

「なんでだ! なんでどうなってこんな────!!」

 

彼女が1歩進む度、強盗らは1歩下がる。

当然だ。格闘戦に持ち込まれたら勝ち目は無い。適切な間合いを取って、なるべく射撃でダメージを与え続けるのが定石。

 

しかしながら、ここはビル街にポツンと構えられた個人店。十分に距離を取れる程店内が広い訳もなく、早々に背中と壁がくっついてしまう。その上、前述の通り射撃は全く効果なし。

 

「畜生!!」

 

このままではジリ貧と見たのだろう。生き汚い1人が集団から抜け出し、一目散に出入口の方へと走っていった。

1人だけ逃げるつもりらしい。

なんとも仲間意識を欠いた行動だが……こと彼女の前では、現状それがベストな判断に違いない。少なくとも、戦わなければ痛い目に会わず済む。

 

でも─────そうするには遅かった。

 

彼女はもう一丁引き抜く。

ストックを切り落とし、マガジンをテープで繋いだアサルトライフル(AR-18)

その照準が、一切の淀みなく正確に韋駄天の後頭部へと向けられると、30発フルオートの瞬間火力が吸い込まれるようにして10割直撃。

 

また1人、地に伏した。

 

「おい……おい誰か! 何か持ってねぇのか威力のある奴!!」

 

「ぐ、グレネードグレネード! 手榴弾が!」

 

「投げろ投げろ!!」

 

すっかりパニックに陥った面々は、震える手で思い思いに2個3個4個と手榴弾を投げ込む。

焦りから来る思考は、ありったけの火力でもって目の前の恐怖を打ち消そうと必死だ。

 

「やばっ……!」

 

言わずもがな、こんな狭い空間では敵味方問わず全員が爆風の範囲内。しかも馬鹿みたいな量だから、たまったもんじゃない。

私たちは急いで、手頃なテーブルや椅子を遮蔽に見立てて咄嗟に隠れた。

 

だが投げ込まれた当の本人はと言うと。

 

「……………」

 

変わらず直立不動。

真っ直ぐと敵を見据えたまま。

 

そして間もなく、起爆。

 

(正気ですか? 避けようとしないなんて……!)

 

吹き出す爆風と熱量、360度前方位に散っていく破片の数は計り知れず。

たかが家具の1つや2つ並べたとて、それらの猛威を防ぎきれる訳もなく。

 

「んぐっ!?」

 

あっさりと崩壊するポンコツ遮蔽。

多大なる爆破により発生した膨大すぎる勢いの衝撃波が容易く体を跳ね除けると、一瞬の浮遊感を経た後、背中に鈍い痛みが走った。

 

(う、うう……最悪です)

 

ふと自らの制服に目をやると、一部は黒く汚れ、所々に破れが生じてしまっているのに気づく。そこそこショックだ。

 

まあそれは一旦置いておくとして、彼女の様子を確認せねば。あれだけの爆発をモロに食らっておいて、無事でいられるとは到底考えられないが……もしかするかもしれない。

 

切り傷から覗く鋭い赤に顔を顰めつつ、私は半ば怖いもの見たさに爆心地の方へ顔を向けた。

 

「とうとうくたばりやがったか……バケモノめ…!」

 

未だ立ち込める黒煙に、強盗の1人が恐る恐る近づく。じっくりと慎重に、相手を完全に仕留めたかどうか確かめようとしているのだ。

 

果たしてその結果は……。

 

 

 

 

 

 

 

「うゔぉッ!?」

 

突然、素早く煙より出でた右腕が首根っこを掴む。次第に足が地面を離れていくと、虫の様にジタバタと藻掻く哀れな姿。

 

(嘘でしょう……)

 

彼女は未だ倒れずにいた。

やがて煙が晴れ顕になっていくのは、全身に傷を負いながらも毅然と両の足で立って首を持ち上げる、正に絶対的支配の構図だった。

 

「……!……!!」

 

窒息によって見る見るうちに顔が赤く色づく中、抵抗の意思で弱々しく腕を殴りつけるその様子は、相手がならず者と言えど長時間見ていられるような代物では無かった。

 

残ったメンバーも、それを見てただただ絶句するのみ。もはや彼女の方がより"悪"に見えて仕方がなく……その後ドサッと大きく音を立てて、まるでただの"物"のように肉体が床に落ちると────益々彼女への恐れが。いや単なる恐怖じゃない。畏怖と読んでしまっても差し支えない感情が、増大していった。

 

「来るな……やめて…ダメッ! 来ないでぇっ!!」

 

「ヤダヤダやだやだッ!! 嫌あああ!!!」

 

浴びせられる悲鳴にピクリとも眉を動かさず、黙々と交換される弾倉。ホールドオープンの解除と共に次弾の発射準備が完了すると、彼女は機械的なスムーズさで再び狙いを付ける。

 

そしてまた30発の銃撃が容赦なく放たれると、矛先となってしまった1人が声を上げる間も無く倒れた。とうに怯え、竦み、戦うことなぞ満足に出来そうにない程全身を震わせていたが、無慈悲に撃たれた。

 

これで残すは1人。

 

銃も、手榴弾も、彼女に傷をつける事は出来ても止める事は出来ない。幾らダメージを負っても尚動き続ける様は、もはや戦車レベルのタフネス。

では刃物ならばどうか。刃物の与える痛みは、彼女から"苦痛"という人間味を引き出せるか。

最後の1人が、震える手でサバイバルナイフを構える。

 

「アァぁああ!!あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

狂乱の声を上げて怒涛の突撃。

血気迫る表情とギラつく刀身、生存本能が引き出したであろう猛烈な脚力は、彼女へと一直線に差し向ける精一杯の脅威。

 

届くか否か。窮鼠のひと噛み。

 

「………」

 

"天敵"が目を細める。

爆風によってサングラスを吹き飛ばされた事により、明らかとなった双眸。

黒く濁り、輝きを失った黄金色。

白くかすみ、亡霊の如き様相を呈した不透明。

 

どちらも瞬きひとつなく敢然と獲物を見据え続け、わずか拳半分の間合いにまで近づかれると─────途端に彼女は腰を落とし、姿勢を低くした。

 

「…ッ!」

 

腕を限界まで伸ばして放たれた全力の刺突は、対象の位置が下方へズレた事であっさりと空振りに終わり、大きな隙へと転じる。

 

ソレこそ彼女の狙い。

 

待ってましたとばかりに獲物の伸びきった腕を両手で引っ掴み、捕らえた。そこから刺す様にして懐に入り込むと、腕を抱えたまま一気に自らの上体を捻る。

突撃の勢いを最大限利用した、ベクトル操作の如き技。手本そのままに綺麗な一本背負いが、迫撃砲の着弾時に似た揺れと音を携え、見事決まった。

 

「…ぁ……ぁ…………」

 

背中からモロに打ち付けられた結果……四肢はピクピクと痙攣を起こし、口からはヨダレと泡が。加えて床の方も派手に陥没してしまっていて、その威力が如何程かを物語る。

 

合計9名の強盗集団は、これにて全滅。

為す術もなかった。何もかもが違いすぎた。

 

「……………」

 

ギョロリと目が動く。

反射的に私は首を振って目を逸らし、彼女の視線から逃れようと身近な隠れる場所を探す。

目を合わせてはいけない……見つかってもいけないと、本能が警告してきた。とにかく【そうすべきだ】と身体が勝手に動いた。

 

最も─────遮蔽物なぞ残ってはいない。

先の爆発で全て吹き飛んでしまっている。

 

それを理解していても尚、身を隠そうとする衝動は止まることなく身体を突き動かし、やがて厨房にはまだ隠れる余地がある事に気づくと、一瞬の安堵感に包まれた。

 

「おい」

 

しかし心は急転直下。金縛りにでもあったかのように私の身体は硬直し、悪寒がゾクッと背筋を刺した。

動くこともままならない。指1本動かすことにも勇気がいる。

彼女が一声発するだけでも、それだけのプレッシャーを私は感じた。これは私がビビってるとかそういうのとはまるで違う。断じて違う。ハッキリとは断言出来ないが……どんな人物でも、きっと彼女を目の当たりにした時、恐れ慄くだろう。その者の力や地位、得てきた経験なぞ関係無しに……。

 

恐れて当然の相手なのだ。

 

「また来る。次は頼むぞ」

 

何をされるのか想像もしたくなかったが、幸いにも口振りからして、対象は私じゃないようだ。また一悶着起こすつもりなのか様子を伺おうと、見える最小限の角度まで少しづつ首を動かして振り返り、怖々と薄目を開ける。すると彼女の視線の先に居たのは店主だった。

 

「オムライスは好物だからな……」

 

いつの間に拾っていたのか、サングラスをかけ直しつつ彼女は呟く。いくらなんでも、マイペースなんてレベルじゃなかった。

 

「な……なぁおいアンタちょっと……!」

 

スタスタと足早に出ていこうとする彼女の背に、店主が声を掛ける。

壁や床に穴は空いてるし、テーブルと椅子は軒並みバラバラ。その他諸々の面倒な復旧や始末やらを考えると、文句の1つくらいは言いたくなるだろう。曲がりなりにも、結果的に強盗から守ってくれたとはいえ……。

 

だが言い始めようとした所で、とっくに彼女は降りしきる雨の中へと足を踏み出していた。小脇に自らの銃達を抱え、足早に去ろうとしている。

 

ここで私は迷った。

彼女に声をかけるべきか、否か。

単刀直入に言って、私は彼女が欲しくなった。

厳密に言うと、あの力が欲しくなった。きっと誰にも負けない力だ。特別な力だ。

彼女を味方にすれば、どれだけ素晴らしい働きぶりを見せてくれるのだろうか。

 

是非とも、傍に置いておきたい。

私の忠実な右腕として……これ以上ない人材だと思った。

 

でも、結果として私は勧誘の一言も告げなかった。それどころか声も挙げなかった。

恐怖に支配された心と身体は、私に人生最大のミスという選択肢を取らせてしまった。

 

ツケは大きい。

後悔も果てしない。

 

この日から常に、私の中には"彼女"という存在は深く突き刺さっている。

 

独立傭兵 レイヴンという存在が。

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