戦え!超ロボット生命体ユメパイセン   作:クソザコぎつね

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鋼鉄大陸の話……なーんかトランスフォーマーっぽい。デストロンが1枚噛んでたりしない? 大丈夫?

それはさておき、セラの見た目はダクソ3の火防女モチーフです。可愛いぞ。


で、実際どうなのよ

 

「えーと……ここも大丈夫ですね、読解の問題は全部合ってます」

 

『やった!』

 

ガッツポーズを決めて喜ぶセラちゃんに微笑みかけながら、私は彼女のノートに書かれた回答へと丸を付けた。

後の波乱を予期させた初日から数日後、今日も今日とて私たち補習授業部は部室にて、机上に広げた教科書や参考書の内容相手に格闘を繰り広げていた。

 

そして今私は、同じ2年生のテストを受ける予定のセラちゃんの為に今回の範囲の古代語を教えている最中である。言わずもがな、自分の分はある程度終わらせているからご心配なく。

 

「やっぱり、心配なのは作文と細かなスペルミスといった所でしょうか……」

 

これまでの正答率の傾向を見ていると、概ねそんな感じ。よくある事だな。クラスメイトにもそういった課題を抱えている人は多い。

 

「もしかして、把握している単語の意味から無理やり繋げて読んでいたりしますか?」

 

『あぁ……そうかもしれません。というか、うん。そうですね。この意味の単語が続くならこう言いたいんだなって想像してる感じです』

 

「なるほど……やはり」

 

典型的なタイプだ。となると、変換の部分や前置詞の把握。どの動詞がどの名詞に、どのように対応するかをキッチリ補強さえ出来れば、みるみる内に克服できるだろう……多分。

 

「でしたら、こちらのテキストを使いましょうか。まずは1行書き出す所から始まりますし、解説も丁寧な部類ですから、躓きづらいと思います」

 

そう伝え、私は自身のカバンから1冊の分厚い参考書を取り出した。表紙には【古代語を一生楽しむ本:ver4】と書かれ、かなりの量の付箋がページから飛び出しているのが特徴的。

まぁ、これは自分で付けたのだが。

 

『まさか、ヒフミちゃんの私物?』

 

「そうですよ。元々は自分用として持ってきたんですけど……この際なので貸しちゃいます』

 

『良いの?』

 

おずおずと言った様子で受け取る彼女に対し、私は胸を張って答える。

 

「大丈夫です! 私、他にも色々持ってますから! たった1冊貸した位で支障は出ませんよ。それに、セラちゃんはどうやら自身の参考書をお持ちでないようですし、折角なら暫くの間使ってあげてください」

 

私だけに限らず、クラスメイトの何人かを救ってきた実績を持つのだ。十分役立ってくれることだろう。

 

『ありがとう。ヒフミちゃん』

 

彼女は穏やかな笑みで感謝を伝えてくる。

仮面によって顔の半分を遮られているにも関わらず、見えるその表情は十分に眩しかった。

 

『それにしても、古代語が必修科目にあるだなんて、トリニティは変わってますよね。伝統を重んじる校風だからでしょうか』

 

選択ではなく必修という点は、確かに特徴的かもしれない。実際、古代語の勉強に嫌気がさして、他の学園のカリキュラムを羨むようになる子たちもいたりするのだ。確かに、普通に生活する上で使う機会もそうそう無いし、そう思うのも無理はない。

私としても、何度頭を悩ませられたことか。

 

「セラちゃんは好きですか? 古代語を学ぶの」

 

『もちろん、好きですよ。難しいから時々参っちゃいますけど』

 

何気ない私の疑問に、彼女は即答する。

 

『言葉が読めるって事は、その分色々分かるようになるじゃないですか。古代語の場合だと、大昔に書かれた書物の内容とか。今読んでも色褪せない不朽の名作とか、逆に今読むからこそ却って新鮮だったりする物とか』

 

「でも……それなら既に翻訳済みの物を手に取れば良いのでは?」

 

『翻訳という過程を挟むと、ニュアンスが変わってしまう場合が時にあります。元は同じ台詞なのに、受け取る印象やそこからの解釈がまるで違う物になってしまう事が。だったら私は、筆者本人に最も近しいオリジナルの文を読めるようになりたい。その方が筆者の意図に気づきやすいでしょうし、私も楽しみ方の幅が広がりますから』

 

「…………」

 

『ダジャレなんて、訳すのは難しいでしょう? そういう事です』

 

そういう考えもあるのかと感心する私に、彼女は苦笑いを交えつつ、シンプルな例えを半ば冗談めかして語った。

 

「いい事を言うね。セラ」

 

──────そんな中、突如背後より掛かる声。

振り返ってみると、そこには書類を小脇に抱えた先生がヒラヒラと手を振りながら立っていた。

いつの間に教室へ入ってきたのやら。思わず飛び上がりそうだったぞ。

 

「確かに、言葉を学ぶのにはそういった目的もある。もし君がその姿勢を保ち続けてくれるなら、きっと古代語以外の言語もマスター出来るはずだよ」

 

背を押す先生の発言に、セラちゃんはポリポリと頬を掻く。

 

「その為にはまず、これを解いてもらおうね」

 

そう言って差し出されたのは、ホチキスで止められた数枚のプリント達。何を隠そう、セラちゃんの学力に応じて先生が特別に拵えた問題集である。

言っておくと別にこれは、彼女が頼んだから作られたものではない。先生が能動的にやっているのだ。いやはや、いつ見ても新鮮。

ブルーレイ学習や自腹での参考書購入による自習が主であるこのキヴォトスにおいて、こういった"生徒に向き合うやり方"は中々珍しい。少なくともトリニティでは。

 

いや何も、常駐している教員の方々が冷たいという訳では無い。トリニティはマンモス校ゆえ、一人一人にあった問題集を提供するのは不可能に近しく。対してここは部員が少ない。その上、部の目的を考えた場合にはこういったアプローチが最善となる訳で……。

 

「勿論ヒフミのもあるよ。はいどうぞ」

 

私もか──────。

 

……取り敢えず、そうそう無い機会だし。折角先生が積極的に力を入れてくれてるんだから、キッチリやろう。じゃなきゃ無作法だ。

 

という訳で早速ペンケースを開き、自身の机から不要な物を退かしていくと、同じく勉強に勤しんでいる仲間の声が何気なく耳に触れた。

 

「ハナコ、この文は……」

 

「これは重訳が掛かっていますね。原文を理解するには辞書を見る必要が……ちょっと待っていてくださいね」

 

横目に見やると、ハナコちゃんが分厚い辞書を引いて、アズサちゃんの手助けをしている姿があった。

当初の心配とは裏腹に、当初から彼女は他の面々の勉強を真面目に見てくれている。お陰で私も自分の勉強に割く時間が思ったより多く取れてるし、感謝の限り。いつかスイーツでも差し入れよう。

 

「ああ、なるほど。だとしたらこれは恐らく【Gaudium et Spea】……喜びと希望、か」

 

「えっと……はい、そうみたいですね。これは第二回公会議における……いえそれよりも、やっぱりアズサちゃんは古代語が読めるんですね?」

 

「ああ、昔習った」

 

え。読めるのか。いや、前に私が教えた時もスラスラ出来てたからもしや……とは思ったが。うん。結構驚き。

 

そんな微笑ましい二人の様子を眺めている内、ふと、先生の呟きが聞こえた。

 

「……いやはや、そろそろ始まって1週間経つけど、みんな結構良い感じみたいだね。良かった良かった」

 

見ると先生もまた、私と同じように2人の方を向いて、優しく目を細めている。

 

「ですね。コハルちゃんも実力を隠していただけだったみたいで……」

 

そう応じながら件の彼女にも目を向けると、少し離れた席で、黙々とペンを動かす様子が見えた。

皆この調子で頑張っていけば、もしや余裕で合格できてしまうんじゃなかろうか。だとしたら最高である。

 

「本当に良かったです。実はすっごい心配してて……前にティーパーティーの方から【もし一次試験で不合格者が出てしまったら、合宿をしてください】とのお達しがありまして……」

 

「合宿?」

 

「そうなんです……それに、もし三次試験まで全て落ちてしまったら……あうう……」

 

「ははっ、流石にそうならないよう願いたい所だけど」

 

「でもどうやら、杞憂で終わりそうですし。とにかく今の所は、差し当たって問題とかは無さそうです」

 

私は小さく息をつき、手に取ったシャーペンをカチカチとノックをして芯を出すと、自らもまた、皆に倣うようにして手元のプリントへと向き直った。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

(あ〜つかれた〜〜!!)

 

ドサッとベッドに飛び込み、私は心の内で盛大に叫んだ。正直、ストレスを大声と共に吐き出してスッキリしたい事この上ないが、出来ないので仕方がない。

 

『戻ったか。そろそろ私もそちらへ行くとしよう』

 

(そ〜してください……)

 

合宿所の一室。今は【熾火セラ】専用の部屋となっている404号室にて、私はブーツを脱ぎ仮面を取り、邪魔なリボンなんかもさっさと緩めて、ぐでっと重力に敗北する。

 

『既に1週間。思いの外早いものだな』

 

(私は全然だよ……一日がすんごい長いの……)

 

シミひとつない天井をボケーッと見つめながら、これまでの事を思い返していく。

初っ端の遅刻に始まり、自己紹介での痛恨のミス。触れたことの無い古代語に首を傾げ、勉強離れと偏差値の差によるダブルパンチで他の科目もチンプンカンプン。

かといって楽しく雑談しようと思えば、トリニティでの共通の話題なんて大体初耳でついていけないし、さりとて私の引き出しにある話は、ほとんど場違いだったり自前の"設定"に矛盾するものばかり。

 

やんなっちゃうね──────ほんと。

 

ちなみに、遅刻の原因は時間や集合場所を間違えた所為では無い。ハチさんに追われていたのだ。しかもオオスズメバチである。あの大きさと面構えからしてそれ以外ない。めちゃくちゃ怖かった。マルハナバチの可愛さを見習って欲しい。

 

一応、この身体は刺された所で毒は効かないらしいけど、怖いもんは怖い。普通に危機を感じる。

 

ラナは【撃ち落とせばいいだろ】とか簡単に言ってくれちゃうけど……いや出来るかそんなの!!

もっと大きなものじゃなきゃ無理無理!! 私をなんだと思ってるんだ!

 

(…………はぁ)

 

そんな感じでひとしきりまくし立てると、後には深い溜息。 頑丈なこの身体の事だ、肉体的な疲労なんてほとんどない筈。それだってのに今は指一本動かすのすら億劫に感じてしまう。

結局のところ、削られているのは精神の方なのだ。

 

あーあ、まさかアビドスの風と砂がこんなに恋しくなるなんて。もちろん、あの目を開けていられないほどの熱風も、口の中がジャリつく砂嵐も、日常としては眉を顰めるけど。それでも今は、あの乾いた景色がどうしようもなく懐かしくて。

そんな自分の心に苦笑を浮かべつつ、私はのっそりとベッドを這い出し、窓を全開にしてやる。

 

(………………)

 

吹き込む風に混じるは、冷涼な適度の湿気と、青々とした緑の香り。遠くからは、他愛もない会話に花を咲かす生徒達の声。

 

視界に見えるのはレンガ造りと石畳の街。どこを見渡しても廃墟なんて一つも存在しない、小綺麗な景色。

 

何もかもが……違いすぎる。

 

借りてきた猫というのは、きっとこんな気持ちなのだろう。 常識も、装いも、身の回りのすべてが、私に孤独を強いてくる。

 

だが──────私はひとりでは無い。

 

その確信に呼応するかのように、開け放った窓から、夕暮れの風を切り裂く黒い影が飛び込んできた。 バサバサと激しく羽を鳴らし、小綺麗な部屋の空気をかき乱したのは、一羽のワタリガラス。

やがてソレは迷いのない動きで室内の机に降り立つと、嘴を整え、尊大な態度でこちらを見上げた。

 

(おかえり。ラナ)

 

心の中でそう告げてやると、鉛のように重かった身体が、どこか軽くなる。

 

「…………ああ。ただいま」

 

嘴がカチカチと小気味よくリズムを刻み、その喉の奥から小さな駆動音が漏れるや否や、響いてきたのはカラス特有のカァカァという鳴き声ではなく。

内蔵された高性能スピーカーが放つ"電子の声"からなる返答。

 

そう。ずっとチャット越しか、あるいは頭の中に響くだけだった彼女が、今は確かな質量を持って私の目の前に。

 

──────この電気羊ならぬ電気ワタリガラスこそ、ご存知【ラナ】なのである。

 

(その声、気に入ってるの?)

 

私の素朴な問いかけに、ラナは帰還の挨拶と同様、どこか艶を含んだ落ち着きのある男性の声で答えた。

 

「どうだかな。そこまで思い入れがある奴のものではない。……だが、いつものよりかは、少し頼り甲斐がありそうだろう?」

 

曰く、【万が一他者に聞かれたとき、"私"だとバレたら面倒だ】とのことらしい。 カラスの嘴から発せられるにはあまりに優雅すぎるその声は、まるで魔女の使い魔を思わせ、なんだか可笑しい。

 

(変わらないよ。ラナはラナなんだし)

 

私は小さく鼻で笑ってやると、窓枠から離れてベッドに腰掛ける。

 

任務の内容を初めて聞いた時、ラナは【私が自ら出向く】と言った。その為、どんな見た目の人物なのだろう……と期待感に胸を膨らませていたのだが。

 

いくらなんでもこれは無いだろう──────

 

「………どうした? 何か言いたげだが」

 

一丁前に毛繕いなんかしちゃってさ。完全になりきってる。

 

(いや、なんでも)

 

この1級詐欺師が言う分には、【れっきとした私の分身体】だそうで。正直意味がわからない。分身体とはどういうことだ。忍者か何かで?

益々何者なのか謎が深まってしまうが……それはさておき、分身とはいえ自身であることに変わり無いので、嘘は言っていないとの事。

 

まかり通ってたまるか……! そんな詭弁!

 

──────とまぁそんな経緯で、ラナは現在、鳥としての体で私をサポートしてくれている。具体的には、私の目が届かない範囲のバックアップだ。部員たちの私生活や、休日のお出かけの内容……それらを彼女は空から、あるいは物陰から、常に監視しているのである。

 

(日中は何か収穫あった?)

 

私の問いに、ラナは嘴を一度だけカチリと鳴らして応えた。

 

「いや。これといって特筆すべき事象は見当たらなかったが……そうだな。強いて言うならコハルか」

 

(コハルちゃんがどうかしたの?)

 

「昼休憩の時だ。辺りをキョロキョロと窺いながら、紙袋を抱え込んでいてな。生憎、中身までは拝めなかったが……ふむ。警戒しておいた方がいいかもしれん」

 

むむむ……そんな事が。私的にコハルちゃんはシロ寄りなんだけど───存外、上手く騙されてしまっていたりして。

 

「君の方はどうだ?」

 

(全然だよ。それぞれの"疑い度"に多少の変動はあったけど、特に怪しいって子は居ないね)

 

肩を落としながらそう答えると、ラナはゆっくりと羽を広げ、私のすぐ隣へと音もなく舞い降りた。柔らかいマットレスが彼女の重みでわずかに沈み、ワタリガラスの姿をしたマネージャーは、私の顔をじっと見上げる。

 

「そうか。今日は確か、アズサにプレゼン授業の予定が組まれていたな。……大勢の前に立てば、少しはボロを出すかと思ったが」

 

流石に部内での接触だけでは、探るための判断材料が乏しく。日中が暇すぎるのも考えもの。そんな訳で、私はコハルちゃんを除く2年生3人の授業にも、学力補充の名目で出席しているのだ。……もっとも、3人共クラスがバラバラな上に大半が移動授業とあって、ひたすら校内を駆けずり回らなくてはならないが。

 

今日の場合だと、1限目がヒフミちゃん、2限目がアズサちゃん、3限目がハナコちゃんで、4限目はまたヒフミちゃん……といった具合だ。いつ誰の授業に出るかは、当日の朝にラナと話し合って決めている。こんな無茶な時間割が通るのは、ティーパーティーがバックについてくれているからこそ。ありがたいね。

 

(結構面白かったよ、アズサちゃんのプレゼン。トリニティの歴史をテーマに据えなさいって課題を出されて。あの子、これまで使われてきた兵器達の歴史を纏めてきたの!)

 

「ほう……歴史を物理的な破壊の足跡として解釈したわけか。優等生が選びそうな派閥の変遷や、文化論には目もくれず……」

 

ラナはそこで言葉を切ると、深く思考に沈むように首を低く下げた。その鋭い双眸をいっそう細め、まるで人間が腕を組むかのように、翼を自身の体へと強く引き寄せる。

 

(……まだ一番に疑ってる? アズサちゃんの事)

 

ブリーフィングの時から、ラナは彼女に目をつけていた。確かに、弾薬庫の占拠と大規模に仕掛けたブービートラップ。それによる3時間の籠城と言う前科は物騒極まりない。対処にあたった正義実現委員会の報告書を拝見した限り、かなり本格的なゲリラ戦でもあったようだ。ゲヘナじゃあるまいに……。

 

私たちの探している裏切り者が、仮に直接的な実力行使で条約締結を阻まんとする人物ならば、断トツで彼女が怪しい。ソレを為せる力と旺盛な反骨精神。転校生という身分は、正にその為として送り込まれたであろう事を想像させる。ティーパーティーの人も、そう考えて彼女を入れたのだろう。

 

だが常識的に考えて、武力で目的を達成しようとするならば、自ら【要注意人物】の筆頭に躍り出るような真似は、どうあっても不利に働くのが事実。先の行動に説明がつかない。

 

故に、却ってシロの可能性も存在するわけで。

なかなか、人を疑うというのは難しいものだ。

 

「そうだな。未だ決定的な証拠が掴めず仕舞いな為に断定はしないが……私の勘はそう囁いている」

 

瞬膜による一度の瞬きを挟んで言い終えると、ラナは強張らせていた翼をスッと解き、どこか思案げに自身の羽で嘴をそっとなぞると──────彼女は、打って変わって少し明るい声色で別の問いを投げかける。

 

「さて、あと気になるのは君の学習状況についてだ。順調か?」

 

(んー……まぁ、大丈夫……かな?)

 

私は自信なさげに、そう答えてしまった。

 

「しっかりしたまえ。一次試験はもう明日にまで迫っているぞ」

 

(だってぇ……ひぃん……)

 

「だがな、さほど手詰まりな訳でもあるまい。何を怯えている」

 

(最後にテスト受けたのいつだと思う? 2年生の中間だよ!? もう何年も前なんだってば!! 怖くてたまらないよぉ!!)

 

「……………」

 

ラナは半ば呆れたように、パチリと瞬膜を動かす。

 

「…………なるほど。しかし、試験用紙は君を食い殺す事はしない。落ち着いてペンを握れば自ずと出来る筈だ」

 

(うぅ……)

 

本当にそうだろうか。いや、あんまりネガティブすぎる思考は良くないと分かってはいるが。

実際、勉強でめちゃくちゃに手こずってる場所は特にない。偏差値の関係上、昔よりも内容の複雑さや、必要な暗記のボリュームも増えているのは違いないのだが……何故だか思ったより出来ている。インプットもアウトプットも昔よりこなせているのだ。これが逆に怖い。

 

先日相談してみたところ、主に【手術】が原因ではないかとの考察が出てはいる。一体どんな処置を施せばそうなるのか───と言うより、私に施した手術は果たして、単なる肉体の強化のみなのか? そんな疑問もついでに話したものの、彼女は自身の過去と同様に【時が来たら話す】つもりらしい。逆説的には、彼女は肉体の強化以外のナニカを私に施したのだろう。

 

本音を言うと、ナニをサレタのか全貌が分からずじまいなのは不気味だし、"特性"の件も加味すると、少し鳥肌も立つ。けれど、それでも尚私は彼女の事を信じ続けたい。今まで仲良くやってきたし、彼女がただ怖いだけの人物では無い事は、良く知っている。きっと訳があるのだ。

だから、私はその時が来るまで待ち続けるつもり。

 

全く。いつになるやら。

 

……と、内心で物思いにふける私の事なぞ知る由もなく。素知らぬままな彼女はこちらの顔を覗き込んで、淡々と、極めて合理的な代案を口にした。

 

「今の捜査状況を鑑みるならば、ここであえて赤点を取り、部としての間柄を継続した方が──────」

 

(しないよ。そんな事)

 

反射的に出た私の即答に、ラナは「……だろうな」と、どこか愉快そうに、あるいは最初からその答えを予期していたかのように応じる。

 

「ならやはり、君は臆せず全力で立ち向かうべきだ」

 

(うん……)

 

ラナもまた、私のことを信頼している。

じゃなきゃ、こうは言ってこない。

 

結局の所、どれだけ足掻こうが明日はやってくるもの。ならばせめて、どう戦うか。

潜入捜査の為に入ったとはいえ、私も今や補習授業部の1人だ。

 

教えてもらった分、彼女達に返さなくては……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一次特別学力試験の結果

 

ハナコ──不合格

アズサ──不合格

コハル──不合格

ヒフミ──合格

セラ──合格

 

以上の結果に伴い、補習授業部の合宿を決定とする。

 





アイアンハイド? エクスカイザー? メルツェル?
いいえ、今回ラナの声はスティンガーでお送り致します。
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