もう一人のホワイトルーム生は後悔なく生きたい   作:竜と虎

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よう実0巻を友人から借りて読んでたら、何となく書いてみたくなった。


ホワイトルーム編
01:Restart


 

 

 

 

 ―――羨ましいな。

 

 

 

 中学時代の悪友の結婚報告を聞いて、素直にそう思った。

 恥ずかしそうに当時の事を語りながら、時折嬉しそうな表情を浮かべる悪友の姿に僅かながらの嫉妬が浮かぶ。

 

 先を越されたかと、暗い気持ちになりかけるが、自分は仕事も忙しかったし、母の介護も大変な時期だったし、いつも通っていた妹の墓参りにもいけないほど多忙だったのだから仕方がないと、自分自身にそう言い聞かせる。

 

 ……いや、これは言い訳だな。

 

 仕事や親の介護を理由に結婚できない事実を誤魔化しているだけだ。

 そもそも自分には出会いがない。あったとしてもこんな自分を好きになってくれる女性などいやしない、と卑下(ひげ)していた。

 

 だが、それも当然だろう。

 俺は容姿が優れていた訳でもなければ、コミュニケーション能力が高かった訳でもなく、勉学やスポーツに優れていた訳でもない。

 さらに言えば家が金持ちだった訳でもないし、自分の事を陰キャの中の陰キャだったと自負しているくらいだ。

 当然、彼女なんて出来た事もないし、友達だって少ない。

 そんなつまらない男を好きになる女性など、いる筈がないと思ったからだ。

 

 ……いや、これも言い訳だな。

 幼少の頃、自分を高められる環境に身を置きながらそれを面倒だと切り捨て、現状維持を選択したのは紛れもなく自分自身だ。

 今の自分の現状は、どうしようもない自業自得な結果だと言う事を理解する。

 

 

 あの時、どうしてもっと真面目に勉学に励まなかったのか。

 

 あの時、どうして失敗を恐れず、もっと真剣に物事を捉えなかったのか。

 

 あの時、どうしてもっと真剣に――――。

 

 

 当時の事を思い出しては後悔ばかりが押し寄せてくる。

 後悔先に立たず、とはまさにこの事だろう。

 かつての同級生たちが結婚していき幸せな家庭を築いたり、仕事が大成して日々の生活が充実していると認識する度に、自分との差に絶望し涙が流れてくる。

 

 

 もうどれだけ後悔しても遅いというのに。

 

 

 金に余裕もなければ、時間も足りない。

 何かに熱中するにしても、社会の厳しさを知った今では、昔のようにただ夢に向かって真っすぐに突き進む原動力もない。

 

 

 ―――嗚呼、叶う事なら、また幼少の頃からやり直したいな。

 

 ―――勉強も、スポーツももっと真剣に取り組みたい。

 

 ―――もっと自分に自信が持てる男になりたい。

 

 ―――そして叶う事なら、結婚して幸せな家庭を持ちたいな。

 

 ―――そして今度は、家族で『幸せ』に暮らしたい。

 

 

 そんな人間なら誰もが一度は考えた事があるようなやり直しの機会を想像しながら悪友と別れ、寄り道せず帰宅し、自分の家のベッドに横になる。

 モヤモヤとする心と疲れた体を少しでも癒すために、瞼を閉じる。

 すると気付かない内に相当疲れが溜まっていたのか、すぐに意識が遠のいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その願い、叶えてやろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に意識が途切れる寸前、そのような声が聞こえたような気がした。

 俺はその事に僅かな疑問が浮かんだが、睡魔には適わず、すぐさま意識を飛ばす事になった。

 

 

 そして、俺の意識がその世界で目覚める事は二度と無かった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 視界全体に広がる『白色』を認識した瞬間、俺は疑問に思う。

 初めて認識した色であるはずなのに、何故かそれが『白』だと理解できた事に。

 そして疑問に思った次の瞬間には、身体の自由が利かない事に気付く。

 腕や足を動かそうとしても、思ったように動かせない。

 ならば口はどうだと、言語を発しようとしても言葉にならない声が出るだけ。

 

 おかしい。

 

 具体的に何がおかしいのかは不明だが、俺はこの状況に疑問を抱いている。

 身体や口が思ったように動かないのなら目はどうだ?

 周囲へと目線を動かしてみると、ピントが合わない。

 視界がぼやける。

 ぼやけた視界の中、懸命に視線を動かしてみると、俺は柵の付いたベッドに寝かされているらしいという事を把握する。

 そして自身の肉体が思っていた以上に小さいと感じた。

 何故、自分の肉体が小さいと思ったのかは分からない。

 だが。

 

 

 ……これは本当に俺の身体なのか?

 

 いや、そもそも先ほどから思考している『俺』とは誰だ?

 

 

 言い知れぬ違和感のようなものを憶える。

 何かがズレているように感じる。

 だが、何がズレているのかが理解できない。

 そのような疑問と混乱に直面していると、視界に巨大な三つの人影が現れた。

 

 

「この子は随分と大人しいですね。他の子はすぐに泣くというのに」

 

「健康状態は確認したのか?」

 

「はい、現状は特に問題はない筈です。どこにも異常な数値は見られませんでしたし」

 

「新生児が泣く理由は、空腹や排泄を訴える時や人が恋しくて泣くのが大半だ。『眞哉(しんや)』はただ単にまだその段階まできていないというだけだろう。この歳で大人し過ぎるのは気になるが、まぁうるさく泣き喚かれるよりは遥かにマシだ」

 

「……ふん、赤児は泣くのが仕事だろうに。それすらしないとはな。さすがはお前の子と言ったところか鈴懸(すずかけ)。親に似てどこまでもふてぶてしい限りだ」

 

「……アンタには言われたくないな、綾小路さん。『清隆』だって似たようなものだろう」

 

「まぁまぁ、落ち着いてくださいお二人とも」

 

 

 ぼやけた視界の中、三人の大人がそのような会話を繰り広げる。

 彼らの言葉は不思議と理解できる。そして自分の肉体が小さいのは赤児だからという事も理解した。

『俺』という意識は自分の肉体はもっと大きかった筈だと主張するが、きっとそれは勘違いだろう。何故なら俺の身体は現に赤児の肉体なのだから。

 

 

「それより鈴懸。本当にいいんだな? 撤回するなら今このタイミングでしかないぞ。お前の息子を4期生のカリキュラムに加えるという意味を、他ならぬお前自身が理解していないとは思えんが?」

 

「ああ、もちろんだ。何せここの教育カリキュラムは俺が主導しているんだ。当然理解しているさ。我が子にこそ最も厳しい教育を施す。これはアンタが言った言葉だ。俺もその言葉にあやかろう」

 

「ふん、自分の息子だからと言って手を抜く事は許さんぞ」

 

「分かってる。俺だって研究者の端くれだ。今更カリキュラム内容を変更するなんてふざけた事は言わないさ。アンタこそ、自らの発言を撤回するなら今の内だぞ? 俺はアンタの息子と言えど加減するつもりはない。やるなら徹底的にやる」

 

「それでいい。前にも言ったが今後の研究のためだ。息子だからと加減されたのでは人間の限界値が見えんからな。全員が脱落しても構わん」

 

「……綾小路さんも鈴懸さんも、決意は変わらないようですね。分かりました。私も覚悟を決めましょう。せめてこの子の未来に幸あらん事を」

 

 

 大人たちはそのような会話をしながら、俺の視界から消えていった。

 だが、その内の一人『すずかけ』と言われていた男だけはその場に残り、俺の目をまっすぐ見つめる。

 

 

「……お前も死にたくないのならしっかりと足掻けよ、眞哉」

 

 

 そう言い終えるとその男もまた、俺の視界から消えていく。

『しんや』……状況から察するにそれが俺の名前なのだろう。

 そして先ほどの発言から考えるに、『すずかけ』と言う男が俺の父親か。

 そうなるとフルネームは『すずかけ しんや』という事になるのか。

 これが俺の名前か。

 初めて聞く音の羅列だが……うん、やけにしっくりくるな。

 

 事情は分からないままだが、先ほどの大人たちの不穏な会話から察するに俺にはどうやらこれから災難が待っているらしい。

 詳しい内容は不明だが、歓迎すべき事ではないのは確かだ。

 来ると分かっている受難に喜びを見出すほど、俺は豪胆ではない筈だ。

 

 しかしそんな俺の考えとは裏腹に。

 その事実を胸に刻んだ時、俺の心が僅かにざわつく。

 それは疑問や不安といった感情であるのだが、そんな負の感情の中に紛れるように―――確かな“歓喜”の感情がチラついたのを自覚する。

 

 

 

 ―――今度は後悔する事なく、絶対やり遂げる。

 

 

 

 何をやり遂げるのかは分からない。ましてや何故このような思考に至っているのかすらも不明瞭。

 全く喜ばしい状況ではない筈なのに。何故だろう。俺はこの状況を喜ばしい状況だと感じてしまっている。

 それだけは、理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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