プロットの変更によりかごめ達(マギレコ本編キャラ)の登場は遅くなる予定
ララとの出会いから、数日が経った。
ララはあれから毎日、アジトに遊びに来ては皆から可愛がられている。
「ララさん」
「あ、ララさんだ」
「ララさんおやつ食べる?」
そして何故か渾名がララさんになっていた。
どうやらギークやぼたんの呼び方が皆に移ったらしい。
ララの方もすっかり皆に懐いていた。
年齢差がある分、どうしても浮くかもしれない……などと考えていたルーミエだったが、逆に年下だからこそ、綺麗に末っ子ポジションに納まったようだ。
とは言え、ここにいるメンバーは殆ど星の鳥籠――養護施設出身である。
当たり前のように幼い子供達の面倒を見て来た。
そんな彼らにとって、新しい妹分が出来ても違和感はなかっただろう。
むしろギークを除き星の鳥籠から離れているので、久しぶりに年下の世話を見れて皆嬉しいらしい。
仕舞いには、ララを取り合って喧嘩まで起きる始末。
「ちょっと!! 今ボクの方が先にララさんとゲームしようって言ったんだけど!?」
とララを挟んで右隣にいる生意気そうな少年が叫べば。
そのララの左隣にいる無愛想な少年だって不服そうに返す。
「ふん、俺のが先だ。ララさん、こんな奴ほっといて俺と一緒に向こうで遊ぼう。けん玉持って来たんだ……後竹蜻蛉……」
「ハァ? そんな古典的な遊びに何が引かれるワケ? 今時の子供と言えばゲーム!! ここに最新版ゲーム、SwitchceesWXがあるよ!! ララさん、ボクと一緒にこのゲームでレッツパーティだ!!」
「ハッ……お前こそ分かりやすく物で釣る作戦とは。笑止」
「何だと!?」
「やるか?」
バチバチバチッ!
っと二人の視線が火花を散らしてぶつかり合う。
それぞれ一宮正人ことカズトと、春日井䳑矢ことユーヤである。
カズトは大人しそうな顔立ちの割に、深緑の髪を伸ばし、前髪をピンで止めており、今着ている私服も色んな布をパッチワークしたような派手な柄。見て分かる通りのお調子者で、仲間内では明るいムードメーカーの役割を担っている。
一方でユーヤの方は艶のある紫髪にキリッとした三白眼で、一見花のあるチャラそうなイケメンであるが、その実かなりのんびりとした性格で、いつもヌボっとした表情をしている。
常日頃から仲の良い二人ではあるが、今日この日はララを奪い合い、普段はしないような怒りの表情を浮かべ、互いにガンを飛ばし合っている。
そしてその二人の間にいるララは言うと……、
「イヤー、ヤメテ二人トモー! ワタシノタメニ、アラソワナイデー!」
などと騒いでいた。
完全に面白がっている。
そうしてユーヤとカズトが言い争いをしている内に、人影が近づいて来た。
スラリとした手足に、反面がっしりとした肉付きの体型。
百八十センチを超える大柄なその青年は、白い長髪を後ろで括り、穏やかそうな笑顔を浮かべて、
「ララさん。クッキー作ってみたんだけど食べる? ララさんのために猫型にしたんだ」
「クッキー!?」
途端、目を輝かせて、やったーと飛び上がるララ。
喜びのあまり、青年に抱きついて、パッと笑顔を咲かせる。
「リーダー大好き!! 嬉しい!!」
「ハハハハハ、それは良かった、ハハハハハ」
当然、横から掻っ攫われた形になったカズトとユーヤはギョッとし、リーダー――日高景虎に詰め寄る。
「リーダー!! 何でララさんを! 返せ!」
「そうだ。ズルい。ズルすぎるぞ……!」
「そんなこと言われたってなあ。ねえララさん。ララさんは、誰のことが一番好き?」
「今はリーダー!」
「「そんな!!」」
ガガガンとショックをカズト達が受ける横で、リーダーは小さく微笑み、勝利を誇っているように満足げにしていた。
彼は特に小さい子供が好きなのである。ララを殊更可愛いがっていたのがリーダーだった。
が、そこで、お邪魔虫として登場したのがぼたんである。
いつの間にか遮るように目の前に現れ、仁王立ちで言う。
「ちょっと皆さん。それ以上ララさんを甘やかさないで下さいまし! 少しは自粛しろですわ!」
「な――今良いところだったのに。そんなに駄目なことなのかい? 年長として年下を可愛がるのは当然のことなのに?」
「そうは言っても、ですわ! 限度があります!」
ぼたんはララをビシッと指差した。
「見てみて下さいなこの顔を! 調子に乗っているし、何より太って来てますわ! 皆さんがおやつを与え過ぎるからこうなるのです!」
「直球過ぎる上にひっど!」
今度はリーダーに引っ付くララが叫んだ。
そのララにぼたんは歩みよって、手の中のプリントを見せつけるように示す。
「ついでに宿題をサボってるじゃありません! せめて勉強を片付けてから遊んで下さいまし!」
「ああ〜! 何を勝手に! いつの間に見つけたの!?」
「そこら辺に投げ出されてましたわよ! まったく! 出したら仕舞う! それもこれも、貴方達が甘やかすから!」
「「「え、俺達のせいなの?」」」
ぼたんの怒りが飛び火した男性陣が、口を揃えて驚く。
流石に理不尽過ぎるだろ……と。
だが、それは火に油を注ぐようなものであり――
「だから、限度があるって言ってるんですのー!!」
ぼたんは遂にキレてしまった。
実際、やれ宿題を代筆するだの、やれお小遣いを渡すだの、男性陣がララを甘やかし過ぎたせいで、ララはここ最近ますます怠惰になっているのであった。
そのこと知っているからぼたんの小言は止まらず――しかしそこでリーダーが宥める。
「ま、まあまあ。もうそこら辺で良いだろう。それよりユーヤ達もボタちゃんも、クッキーを食べるかい? 話はそれからってことで……」
「新作ケーキもあるんだよー」となどとリーダーが言えば、ぼたんはあっさりと怒りを引っ込め、顔を背けてボソッと呟く。
「……まあそう言うなら、頂きますけど」
反対にユーヤ達は素直に歓声を上げた。
「やりー! 久々だ〜!」
「……新作楽しみ」
そんな三者三様、喜んでいる様子を――ギークとルーミエは遠くから見守っているのだった。
ゆっくりカップの中のホットココアでも飲みながら。
最も、さっきのやり取りがツボに入ったのか、ギークは笑いを堪えている。
「ぷっくくく……くくく! ぷふふふ!」
「お、おい、あんま笑い過ぎると後でなんか言われっぞ。抑えろ」
「ごめん。けどこれは……くぷぷ!」
ルーミエから注意され何とか笑いを抑えたギークは、しかし咽せてしまったのか、ケホケホ咳をして。
それから涙が出てきたらしく目元を拭う。
「あー、ヤバい。最高過ぎる。マジでボタちゃん面白過ぎるでしょ」
「まぁ、それは否定しないけど。リアクション無駄に良いし」
「でも何だかんだ、さっきの見てると安心するよな。ボタちゃんも馴染んで来てさぁ」
「そうか? いやそうかも……?」
ギークの言葉に一瞬、首を傾げてしまうルーミエだったが、次にはギークの言う通りだと思った。
魔法少女になった経緯もあり、ぼたんは本当に落ち込んでいた。そこでルーミエが仲間達を紹介したところ、すっかり彼女もこのアジトに入り浸るようになったのだ。
きっと赤の他人から見れば、何年も前から一緒だったと言われても、信じてしまうくらいには、皆から受け入れられているだろう。
そのことを考えると、確かにほっこりした気持ちになるのだった。
自然、ルーミエの口元に笑みが生まれていた。
「それにさ、この光景も少し懐かしいよな」
「懐かしい?」
「ほら、子供の時、ルーミエがまだ施設にいた頃。年上の兄ちゃん姉ちゃん達、みーんな年下の子可愛がってただろ。誰がプレゼントあげるかで競ったりさ。兄ちゃん達が年下の子を甘やかすと、姉ちゃん達が怒ってたりして。ここ最近のユーヤ達を見て、それを思い出したんだ。こんな感じだったな〜って」
「ふふ。それ言われると俺も懐かしくなるよ。あの頃は楽しかったよな」
「本当」
二人で顔を合わせて笑い合う。
養護施設、星の鳥籠は、大人である先生達が子供を虐待する劣悪な環境だった。ルーミエが暗殺者となり、働き始めてからかなりマシになったが――だからと言って先生達が冷たいのは相変わらずだった。
しかしその分、子供達同士の結びつきは強い。
誰も味方が居ない中、大人は敵だという共通認識が、子供達の絆を逆に強固にした。そうしなければ、孤独で押し潰されそうになるから。
クリスマスパーティーだって、ハロウィンパーティーだって、全部自分達で準備して、自分達だけでやった。
大変だったが、今となっては良い思い出だ。
何もないルーミエにとって、大切で大事な、自分を形作るための拠り所となる記憶。
「施設に出てそんなに時間経ってないけどさ、また遊びに来なよ。チビ達も寂しがってた」
「うん」
小さく頷いて、ルーミエは同時に思い返す。
先に孤児院を卒業した先輩達。今も星の鳥籠に残っている後輩達。
皆、こんなルーミエと仲良くしてくれた。彼らをルーミエは守りたい。
そう――ルーミエは皆を守りたいのだ。
どんなことをしてでも、皆を守ることが存在意義。
(だから俺は、人を殺す。皆を守りたいから、暗殺者として人を殺し続ける)
やっぱりどんなに両手が血に染まろうが、皆が笑ってくれたら、それだけでルーミエは幸せなのだ。
勿論、その報いはいつか訪れるだろう。それでも今だけは……なんて思ってしまうのは、都合が良い話なのかもしれない。
(馬鹿だよな、本当)
心の中で呟いて、自嘲する。
その時に声がかけられた。
「二人とも、こっちに来ておやつ食べるかい? 自信作だよ」
「うん、ありがとう。今行く」
リーダーの呼びかけにギークが返し、彼の元へ向かい始めた。
続いて、ララとぼたんがルーミエに呼びかける。
「ルーミエ!」
「ほら、星尾さんも行きましょう」
「……ああ」
それに、ルーミエは眩しいものでも見るように目を細めた。
新しく仲間になったララとぼたん。彼女達だって、既にルーミエの中では大事な人達だ。
後どれくらい一緒にいられるんだろう。いずれ地獄の底に行くルーミエにとって、この先の未来も時間も、あまり残されてはいないものだ。
(せめて、前の友達みたいに嫌われたくはないな……)
ふとそう思って、昔の辛い記憶が蘇り、ルーミエの笑みはちょっとだけぎこちなくなった。
あんな事が起きないよう、もっと仲良くなりたいなあと、純粋に心の底から思って。
(ララとボタちゃんに何かしてあげたい)
そんなことも考えながら、ルーミエも仲間達の元へ行く。
――そして後日。
ルーミエは一生懸命アイデアを練って、皆に「ボタちゃんとララの歓迎会をしよう」と提案した。
仲間達はそれに頷いて、早速ぼたんとララに内緒で、歓迎会の準備を進めるのだった……。
◆◇◆◇
二日市ララはここ最近、楽しくて仕方がなかった。
それというのもいっぺんに仲良くしてくれる“お兄ちゃんとお姉ちゃん”ができたためだ。
学校が終わると毎日のようにアジトへと通った。
ルーミエの仲間達は皆、ララが来ると優しくしてくれたり、甘やかしてくれる。
相変わらず友達もいないし、先生からはぐちぐち言われるし、何ならずっと夜遅くまで両親は喧嘩しているけれど、そんなのもうどうだって良かった。
今まで寂しかったのが嘘みたいなのだ。
明るくなったララを、お爺ちゃんもほっとした顔で、「良かった」と笑ってくれて。
全部が良い感じ。
何でも上手くいきそうな気がしていて――
「いや、やっぱりそうじゃないかも……」
「? ララ? ぶつぶつ呟いてどうした?」
「えと、何でもないよ。それよりもう一回挑戦させて」
――雲母町郊外、人目につかない空き地にて。
魔法少女姿のララはルーミエに対してそう言った。
その額にはちょっと汗が浮かんでいる。
ここは山の森に近くて、風通しも悪くない。だがこれまでの特訓で集中していたからか、既に疲れが現れ始めていた。
それでもララの目にはまだまだやる気が宿っている。それを感じ取って、ルーミエは八重歯を出してニカッと笑った。
「よーし。なら最チャレンジだな」
「頑張って。目標まで後もう少しだ」
ルーミエと同じく特訓を見守ってくれているキュゥべえが、何とも事務的な応援をしてくれる。
少しモヤっとしつつも、ララは微弱な魔力を手の中に集めた。
「――ぎぬぬぬぬぬ!!」
「良いぞ、良い感じだぞ! ララ!!」
「おりゃあ!! てりゃあ!!」
「よーしその調子!!」
「うりゃあああ!!」
――そうして、そのまま“それ”に魔力を注ぎ、流れを操り、その出力の安定を保とうとする。
現在、ララが手に触れているのは、台に置かれた大きな大きなガラス製の半球だ。
その内側の天辺には鎖が吊り下げられており、先端には星の形をした石が取り付けられている。まるで振り子のようにゆらゆら揺れているが、揺れている速度は一定ではなく、急に速くなかったかと思えば、極端に遅くなったりもする。
その度にララは「うぎぎぎぎぎ」とうめき声を漏らす。
彼女が今何をやっているかと言うと、それは魔力制御の特訓だった。
きっかけは二日前である。
その日、ララとついでにぼたんの二人は、ルーミエによって今いる空き地に連れてこられた(後監督役としていつの間にかキュゥベえも呼ばれていた)。
何でも約束通り、魔法少女の特訓をしてくれるとのことで。
ララは素直に「やったー!」と喜んでいたが、反対にぼたんは頭にハテナマークを浮かべまくっていた。
「あれ? 何で私も何ですの? 私何かありましたっけ?」
するとルーミエはぼたんに対し、珍しく呆れ顔で答えた。
「おいおい。忘れたのかよ。ボタちゃん、前に固有魔法を暴走させてるだろ? そのままってのは流石に駄目なんで、ちゃんと制御出来るように呼んだんだよ」
「うぐっ」
「? 暴走? 何かあったの?」
今度はララの方が首を傾げると、ぼたんは少し迷うような素振りを見せて、
「まあ、隠しているわけでもないですし。せっかくなので私の事情を説明いたしますわ」
と自らの境遇を教えてくれた。
「私、実家は神浜の水名の出身でして、とっても厳しく育てられたんですの。色んなものを制限させられて、家柄のために色んなお稽古を習わされて。私自身、親が大好きだったので、とても頑張りましたわ。地元じゃあ令嬢の鏡などと呼ばれていましたわ」
「令嬢の……鏡?」
思わず再度首を傾げれば、ぼたんが「失礼ですわよ!」と叫んだ。
「ごほん、それで、そうやって頑張り続けていくうちに、私は自分のことを見失っていったのですわ。私の中身はこの通りどうしようもない程テキトーなのです。その内、親に内緒で反抗し始めました。ポテチを食べてみたり、ゲーセンに寄ったり」
「え、それが反抗なの? ……可愛い」
「お黙りなさい。当時の私としては大冒険だったのですわ。でも楽しかったんですの。ああ、こっちの方が、私の生きる世界なんだなあと痛感いたしました」
だからこそ……キュゥべえと出会った時も、迷いなんてなかったらしい。
それこそ、二つ返事で魔法少女になったのだと言う。
「けれども最悪な形で願いは実現しましたわ。その日の翌日、身一つで家から追い出されたのです。親からは、お前なんて娘でもなんでもないと罵られました。お友達の真央さんと世話役のセバスが助けてくれなかったらと思うとゾッとしますわ。本当……あの時は目の前が真っ暗になって、二日も神浜中を彷徨っていたのですから」
それを聞いて、ララもゾッとなった。
まさかそんな願いの叶い方をしただなんて、信じられない。
同時に、自分は運が良い方だったのだなと思った。
少なくともララの場合、ちゃんとお爺ちゃんのプラネタリウムは元に戻ったのだから。だがもしかしたら、ほんの些細な違いだけで、ララも酷い目にあったかもしれないのだ。
そう考えると、途端にキュゥべえに怒りが湧いてくる。
「キュゥべえ、どうして願う前に忠告してくなかったの? それにボタちゃんを酷い目に合わせて……こんなのあんまりだよ」
そしてその怒りをキュゥべえに素直にぶつけると、しかしキュゥべえは何でもないように、返した。
「聞かれなかったからさ。加えて言うと、願ったのぼたん自身の意思だし、その結果がどうなるかなんてボクにも予想がつかないよ。そもそもぼたんの望みである“自由に生きてみたい”という思いはちゃんと実現している。仲間に囲まれて、普通の生活が出来ているんだ。それの何がいけないんだい?」
「……!?」
あまりに淡々とした無責任かつ無機質な答えに、ララは半ば恐怖を感じて息を飲む。
そこに白い獣の本性が垣間見えた気がして、ララは一歩下がった。
その反応に、ルーミエは苦笑、ぼたんは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「私のために怒ってくれてありがとう、ララさん。でもキュゥべえに何を言っても無駄ですわよ。あー言えばこー言うもの。信用なりませんわ」
「心外だなあ。ボクとしては、キミたちに寄り添ってるつもりなんだが」
「ハァ? 何処がですの。貴方のことは一生許しませんわ」
ふんとそっぽを向き、ぼたんは話を続けて、
「そんな訳で、私はセバスの伝でこっちに来まして、でもやっぱりなかなか吹っ切れませんでしたわ。その中で固有魔法が暴発しましたの。私の固有魔法は“幻覚”ですわ。自らを責めるあまり、それは暗示となって私に悪夢を見せ……しかも戦っている最中だったのでこれもゾッとしないお話ですわね」
「精神に干渉する魔女だったのが最悪だったんだよな。ギリギリで助けられて良かったよ」
ルーミエは当時のことを思い出したのか、腕を組んでうんうんと頷く。
よっぽど危険だったんだな……と何となくララは思った。
「以来、俺が暴走しないよう見張って世話をしてるってこと。だがそれもいつまでもって訳にはいかないだろ? なのでボタちゃんにはさっき言った通り制御の仕方を身につけてもらって、同時に強くもなってもらいます。オーケー?」
「オーケー、ですわ。私だって死にたくないですもの。そう言うことなら頑張りますわ」
ぼたんがグッと拳を胸の前で握ったところで、ルーミエはニッと笑う。
「よし。なら、暗い話はこれで終わりだなっ! じゃあ早速体力測定しよっか!」
「「体力測定?」」
ララとぼたんの疑問の声が重なる。
ルーミエはニシシと悪戯っぽい微笑みを返すだけだった。
それから本当に学校で行っている体力測定のようなものをさせられた。
具体的には空き地を走らされたり、走り幅跳びをさせられたりだ。
勿論魔法少女なので、魔法を使う能力も見られた。
結果――
「二人とも基礎的な身体能力に問題なし。けどララの方は魔力制御に難あり。ボタちゃんは魔力出力が不安定で、攻撃に魔力を乗せきれていないと……」
すべての計測が終わり、ララ達が息切れをしている横で、ルーミエがそう結論付けたのだった。
どうやらララ達の得手不得手を把握したかったらしい。
そうしてルーミエが手のひらに魔力を集めると、ポンっと軽い音と共に、星形の石ころが彼女の手の中に生み出された。
「何ですのそれ」
「俺の武器の本当の姿。いつもはこれをチャクラに変えている」
ぼたんが聞くと、ルーミエは実際に石ころの姿を変えてみせた。
再びポンっと音が弾け、石ころにキラキラとした輝きがまとわりつくと、それは小さな五芒星の形をしたチャクラに変身する。そしてまたまた輝きに包まれると、ポンっと音を響かせて石ころに戻った。
ララとぼたんは二人して「おお〜」と歓声を上げた。ルーミエはかなり魔力を使い慣れているようだった。
「この石ころは魔力を与えてその流れを操ることで宙に浮く。慣れればこんなことも出来る」
途端に石ころが宙に浮き……そのままルーミエの手の中から離れて、周りをぐるぐるぐるっと回ったかと思えば、今度はルーミエから距離を置いて、空き地の中を縦横無尽に走り始めた。
まるで生き物のような動きだ。
やがて一分経ってから石ころはルーミエの元へ帰ってきた。そのまま石ころをキャッチしてルーミエは、
「ね?」
と笑いかけてくるが、どう考えても変態の所業にしか見えない。
隣のぼたんも口元が引き攣ってる。
せいぜい、
(あのチャクラムってこう動かしてたんだなあ)
と納得しただけである。
同じことが出来る気がしない。
しかしルーミエはララの気も知らず、石ころを渡してきたのだった。
「こんな風に、まずは石ころを動かして魔力の流れを掴んでみよーか。頑張ろう!」
「お、……おー!!」
――以上、回想終了。
そんな訳で、ララは星型の石ころを使って、ずっと魔力制御の特訓をしているのだった。
とは言え、初めからそんな簡単に上手くいく訳がない。
最初、石ころを浮かせようとしたが敢えなく失敗。
やむなく補助装置を使うことになった。
それがこのガラス製の半球だ。
魔力を流すだけで、勝手に石ころの振り子が左右に動くようになっている。無論、込める魔力が多ければ動きも大きくなるし、弱ければ小さくなる。
ララの課題は、この振り子の揺れる動きを一定の速度で保つことだった。
だが……、
(めちゃくちゃ難しい!)
これが意外に上手くいかないのだ。
集中力を使うし、結構な時間やっているのに未だにコツが分からない。
キュゥべえ曰く「大分安定してきたね」とのことだったがいまいちピンとこないのが複雑なところだ。
やっぱり石ころを自在に操ってみせたルーミエは凄すぎる。
心が折れそう。
「あっ……」
などと考えていたら、半球に流していた魔力が乱れた。
余計なことを思い出していたからだろうか。
振り子の動きが徐々に小さくなり……完全に静止。
失敗だ。これで本日四回目。
「あちゃあ」
その結果にララがシュンとして、ルーミエが困った顔をする。
と、更にドサっと音がした。
不貞腐れたぼたんが地面に座ったのだ。
ララと同じように変身したぼたんの姿は、髪をサイドで高く一つに結び(結んでいる髪飾りに赤いスペード型のソウルジェムがついている)、全身をゴテゴテしたアクセサリーで飾り立てたものである。
一応着ているのは黒と赤のチェック柄が特徴のシックなドレスなのだが、ヒラヒラしている割に首輪も腕輪も何ならブーツですら棘がついている。
パンクファッションと言っても過言ではない。元お嬢様とは思えない、かっこ良さが光る衣装である。
が、今や全身が汗に塗れ、うら若き乙女がしてはいけない顔で、叫ぶ。
「だぁー!! 無理ッ、ですわぁっ! 無理に決まっているんですわァ!」
「そんなことはないよ。キミは既に魔法少女なんだ。その身体能力でドラム缶に穴を開けられても不思議じゃないよ」
「嘘に決まってますわ! だってこんなのが武器なんですわよ!」
そう言って、ぼたんが拳を持ち上げる。
その手に装着されてあるのは、衣装と同じく棘付きのメリケンサック。
見た目は確かに物騒だが、銃や剣に比べればとてもとても頼りなく……、
「今すぐ何とかなりませんの!? せめて籠手とかに変更するとか!」
武器ガチャの失敗に嘆くぼたんに、しかしキュゥべえが容赦なく一言。
「まあ……そうしたいならルーミエみたいに魔力の応用を覚えるしかないんじゃないかな」
「もっと無理ですわ〜!!」
遂にガクリとぼたんが項垂れた。
側にあるのは、傷が微かしか付いていないドラム缶である。
ぼたんに与えられた課題こそ、このドラム缶に風穴を開けるというものだった(ルーミエ曰く、攻撃に魔力を乗せる訓練)。
そのため、ララが魔力制御をしている横で、ぼたんはさっきからガンガンとドラム缶を殴っていたのである。
だがまったく成果は上がっていないらしい。
しかもぼたんが「魔法少女の素質がないんですわ〜」と愚痴れば、キュゥべえが「確かにキミの素質は三人の中で一番下だけど……」と追い討ちをかける始末である。
完全にやる気を失いつつあった。
そこで、ルーミエがぼたんに歩み寄った。
「なら俺がお手本を見せてやるよ。借してそれ」
「え?」
ルーミエが指差すのは、勿論ぼたんのメリケンサックである。
ぼたんは困惑した後、素直にルーミエに渡した。
「よーく見とけよ」
ぼたんが離れたのを確認し、ルーミエはメリケンサックを手に嵌めると……拳をグッと引き、パンチを繰り出す。それはドラム缶の中央部分に当たると、途端に大きな音と衝撃と共に、穴が空いた。
一発だった。
「ん、普通に出来た」
「……………………ですわね」
ぼたんは充分溜めてから、頷いた。
多分色々言いたいことがあったが、我慢したに違いなかった。
そしてメリケンサックを返してもらうと、ルーミエが持ってきた新しいドラム缶の前に、立つ。メリケンサックを握り直し、へっぴり腰で拳を引き、殴る。
軽い音しか鳴らず、凹みすらしなかった。
「ううう……ですわぁ」
「難しいかあ……」
と、ララもまた、ボタちゃん頑張ってるのになぁ……と渋い顔になったところで、ルーミエのポケットから、メロディが鳴り響いた。
――ジャ、ジャ、ジャンボー♪
――速いぞ、強いぞ、負けないぞ♪
――君のためなら駆けつける! 仮面戦隊、カメンジャーマン♪
その何とも軽快な音楽は、ルーミエのイメージからは遠くかけ離れている。
意外な選曲に驚くララ達を置き去りに、ルーミエはポケットを探り、スマホを出すと電話に出た。
「もしもし? え……うん……うん……おい今からかよ……うっそだろー」
どうやら相手は来やすい間柄らしく、ルーミエの口調は軽い。何度かうんうんと頷いた後、
「んー、分かった。りょ」
と手短に返事をして切った。
ポカンとしているララとぼたんに構わず、ルーミエは合掌するように手を合わせて謝罪のポーズをし、
「ごめん。ちょっと急用出来ちゃった。グリーグシード上げるから、そのまま時間まで練習しててね!」
そう言うや否や、言葉通りグリーフシードをそれぞれ渡して、慌てたように去っていった。
後に残されたララ達は当然付いていけず。
どうしたんだろうと不思議に思い、顔を見合わせるのだった。