今後は一話ごとの文字数をちょいと減らすかもしれない
――特訓は毎日続いた。
キュゥべえの「安定してきているよ」という言葉通り、ララの魔力制御の特訓は順調に進んでいた。
二日かけてやっとコツが分かり、石ころの振り子が揺れる速度を一定に保つことに成功したのだ。
今は実際に石ころを浮かし、左右に動かす練習をしている。
と言っても数ミリ程度しか動かせないが。
今後はこれを基礎練習としつつ、魔力の応用や配分ペースをルーミエが教えてくれるらしい。
一方でぼたんの方は大分苦戦していた。
何度か試してみたが、やっぱりドラム缶に穴を開けるのは難しかったらしい。
本人に聞いたところによれば、「怖いし痛いし自信がない」とのことだ。
まあ無理もないのかもしれない。
ぼたんの拳はそのメリケンサックの性質上剥き出しだ。その上一回魔女との戦闘で死にかけている。
魔力を乗せたとしても、攻撃する前にどうしても怖気付き、勢いが死んでしまうのである。
そこでルーミエは、ドラム缶ではなくもっと柔らかい素材にハードルを下げることにした。
まずは木の板、次はプラスチックの看板、その次はレンガ……と徐々に殴って穴を開ける対象を固くしていくことによって、自信をつけてもらおうという作戦である。
ルーミエが監督に就き(ララは一人で自主練)、ずっとぼたんの特訓に付き添った。
効果が現れたのは三日後だ。
一発ではなく、しかも正攻法ではなかったが、ドラム缶に風穴を開けることにぼたんは成功したのである。
「や、やりましたわ〜!!」
その成果に彼女は飛び上がるくらいにはしゃぎ、よっぽど嬉しかったのか、珍しくルーミエに抱きつく程だった。
ルーミエの方も素直にそれを受け入れつつ、「やったなー!」と喜びを分かち合った。
かくして一先ず与えられた課題をクリアしたララ達。
特訓は次のステップへと移行した。
それは実戦――即ち使い魔狩りである。
◆◇◆◇
「ほら、よそ見をしない!」
――色鮮やかな極彩色の世界。
その空間に、遠くで見守っているルーミエの声が響いた。
とは言え――そこはあまり視界が開けていない結界だった。
何しろあちこちに甘い匂いのするマーブル柄の大樹が生えているのである。さながら飴玉を溶かしてできたような木々。御伽噺に出てくるようなファンシーな大森林で――が、地面はぬかるんでいる。
雨上がりのグランドを歩いているようだ。
動きにくい。
しかも肝心の使い魔の方はすばしっこかった。
べっこう飴のような素材で形作られた蛇みたいなフォルム。
四対の短く小さな羽を羽ばたかせ、その細長い体をくねらながら宙を泳ぐ。
高速で移動しているその使い魔は、いくら狙って攻撃しても当たらない。ララの電撃も、ぼたんの殴打も、ひょいひょい、するりと木と木の間に滑り込みながら躱してしまうのだ。
擦りすらしない。
流石のララもぼたん程じゃないがイライラしてきた。
頭上を見上げる。
枝や葉っぱが邪魔でよく見えないが、その空の上に間違いなくルーミエはいる。空中に五芒星のチャクラムを浮かべ、それを足場としてこちらを見落ろしているのだ。
色々言ってくるから、きっと面白がっているんだなって思う。
だからララは衝動のままに叫んだ。
「分かってるってば! ちゃんと見てるよ! ルーミエ!」
「いやいやいや、見てないだろ! 俺の方向くな!」
するとギョッとしたようにルーミエから返事が返ってきた。
確かに彼女の言う通り。これは言い訳出来ない。
思わず「うう……」と声を漏らせば――
「そうですわよー! そうする暇があるならこっちを手伝って下さいましー!」
っと、ぼたんがヤケクソ気味に……というかキレ気味に怒った。
視線を前方に戻す。
ぼたんはさっきからずっと使い魔を追い回している。
当然、ここが結界である以上、ララとぼたんは魔法少女に変身している。ララの服装は軽装な反面、ぼたんは動きにくそうな格好なのに、どうやら身体能力はぼたんの方が上なようだ。こんな森の中でも素早い使い魔について行けている。
ララが使い魔を見失ないのも、ぼたんのおかげだと言えるだろう。
しかし、先程も言った通り、攻撃は当たっていない。
小回りが効くぼたんが、ちょくちょくその“鉤爪”で殴りかかっても、空振ってしまうのだ。
そうだ――今のぼたんには鉤爪が存在している。
勿論、ただの鉤爪ではない。揺らめく炎のような黒色の魔力が、両腕を覆い、禍々しくも鋭い爪を形成しているのである。
それは手にはめられたメリケンサックを媒介に生じている。
発想としては実にシンプルだ。
即ち――拳が剥き出しで、尚且つ魔力を乗せられないのなら、最初からその“魔力自体”を腕に纏わせれば良い……という考えだ。
これなら手を保護出来るし、同時に魔力をそのままぶつけることになるから、魔力を拳に乗せる必要もなくなる。
おまけに攻撃力の不足を補えるから一石二鳥どころか一石三鳥だ。
そうしてぼたんが実際に特訓で鉤爪を作ってみせた時、キュゥべえやララは「考えたね」、「すごーい」と感心した。
ルーミエも「少し力技……」と呟いたが、次に「いやでもこれ普通にいけるわ」と同じく褒めた。
確かに正攻法ではない。しかし結果的に恐怖も消えて自信がついたらしく、ぼたんはこの鉤爪でドラム缶に風穴を開けることに成功した。
メリットは他にもある。
「ララさん、いきますわよ! 私の言った通りに行動して下さいまし!」
「うん!」
短いやり取りをし、作戦会議をしたララとぼたんの二人。早速、彼女達はその作戦通りに動き出した。
まず、ぼたんが相変わらず逃げ続ける使い魔へ鉤爪を真っ直ぐに向ける。
すると、鉤爪が“伸びる”。これがこの鉤爪の最大の特徴である。
魔力で出来ているから、形状を変化させることが簡単に出来るのだ。
大きくするのも、伸縮させるのも、自由自在。
そして伸縮させた鉤爪の軌道を操ることも出来る。
「にゃあ!!」
ぼたんが魔力を操作すれば、鉤爪はグニャリと軌道を曲げ、木と木の隙間へ滑り込んだ使い魔を追った。捕まえんと掌を広げるが、しかし使い魔は細い体をくねらせ、また難を逃れる。
更に距離を取ろうとぼたんから全力で離れていって。
だが――その方角の茂みの向こうには、既にララがいた。
ぼたんはララの方に使い魔を追い込んだのだ。そしてララはぼたんが指定した位置へ先回りしていた。
(良い加減倒れてよ!)
そう思いつつ、ララは電気銃を構え、電撃を放つ。
「これで!!」
「yzgxjぎ――」
と思ったものの、やはり狙いは逸れた。
そもそもララの電撃は広範囲に攻撃出来る代わりに周りを巻き込む。
そのため味方と一緒に戦う時、障害物が多い場所では出力を落とさざる得なくなる。するとヒョロヒョロの電撃しか撃てなくなるので、安定しなくて外れやすくなるという欠点があるのだ。(ララの実力が低いのが原因)。
だからこそ、この結界との相性は最悪と言って良い。
ならば――
「私がララさんをフォローするだけですわ!」
と――ララと合流してきたぼたんが、強く言い放つ。
「ぬにゃー!!」
掛け声と共にぼたんの魔力が迸った。
周りの木々の両側面から一斉に黒針が何本も生えた。それは周囲の樹間を完全に埋め尽くし、ララ達をぐるりと囲う簡易的な檻となる。
まあ……所詮は“黒鉢”であるので、檻を形成する針の一本一本はとても細いのだが。
実際使い魔はキョロキョロと辺りを見渡し、その針と針の間を潜って逃げ出そうとした。
でも。
「そこですわ!」
「えい!」
そのタイミングでぼたんが指示を飛ばす。
合わせ、再度ララが電気を発射。
使い魔が逃げ出そうとした針の隙間に着弾。使い魔は感電し、今度こそ黒焦げになって、死んだ。
「おおー。逃げ場を制限して攻撃しやすくしたのか。やるじゃねえか」
上からルーミエの賞賛が降ってくる。すべてを見ていたルーミエは、作戦の内容から、ララ達がしたかったことを見抜いたらしい。
同時に結界が消え、元の現実世界へ戻ってくる。
人っこ一人いないガラガラの無人駅。天球市は田舎なので別に珍しくもなんともない光景である。
と、ストンという音がして、ルーミエが空から降りてきた。
足場のチャクラムを消したのか。
軽やかに着地し、変身を解除する。ララとぼたんもつられるように変身を解いた。
三人とも、何処にでもいるような私服の姿の格好だ。
普通と何も変わらない、普通の少女達の姿がそこにはある。
と言っても、ルーミエは相変わらず涼しい顔だし、ララとぼたんは明らかに疲れが顔に滲み出ている。
緊張が解けたからか、ララは今更のように、自分の息が荒くなっているのに気付いた。
「うぅ……これで一体今日で何匹目なのかしら……」
「確か四匹目だよ、ボタちゃん。開始からもう二時間も経ってるよ……」
しかも使い魔狩りは毎日行われていた。
文句は言いたくないし、正直特訓をつけてくれてるだけでもとてもありがたい。でもいくら何でも拘束時間が長いから、ララ達の少し不満げな視線がルーミエに注がれる。
当の本人は気まずそうに頬を人差し指で掻いた。
「しょーがないだろ。魔女がここ最近多くなってるんだから。一緒にチームを組んでいる以上、俺の仕事を手伝ってもらうことになるって言っただろ」
「そうですけれど、こんなに忙しいものなのですか? まさか、昔は天球市全域を一人で見回っていたとか……?」
「そりゃな。だってご存知の通り、“危険な魔女の駆除、及び管理”が俺の役割だからな」
長年魔法少女として活動してきているあって、ルーミエは周りから信頼されていれるらしい。
ずっとこの天球市を相棒のキズナと一緒に守ってきたという。
主にキズナは魔法少女のまとめ役として仲裁役を務め。
ルーミエはさっき言った通り、危険な魔女を駆除したり、他の地域から魔女が流れてこないか見張っているのだとか。
実はキズナの方が戦闘力は上だが、探査や魔力の応用などはルーミエが優っている。そのため魔女の監視役を買って出ているそうだ。
使い魔狩りは、その仕事の一環だった。
魔女が増え過ぎないようその数を調整し、今後起こるだろう被害を事前に潰しているのである。
そしてララとぼたんは、ルーミエの仕事を特訓がてら手伝わされていたという訳だ。
それにしても、ここまで大変だなんて想像していなかったけど。
しかし、ルーミエの言葉通りなら、こんなことをずっと長年やってきたのだ。
それはかなりすごいことだ。ルーミエのおかげで、天球市は平和を保てていたということだから。
ララは少し考え直し、先程とは一転、尊敬の眼差しへと目の色を変えた。
ぼたんの方は、
「それはとても大変でしたでしょう……」
とかつてのルーミエの仕事量を想像したのか、何とも言えない顔になってしまった。
まあ……やっぱりただこき使われただけじゃ? ともララは思ってしまったけれど。
「でも二人ともありがとな。ほらグリーフシード」
だけどルーミエの表情は柔らかく、心からお礼を言っているようだった。
――そうだ。
ルーミエはいつだって優しいのだ。貴重なグリーフシードを、こうして惜しみなくララとぼたんに分けてくれる。
そしてぼたんと一緒に笑顔でルーミエに駆け寄ったララだったが、
「ありがとうございますわ」
「ありがとー――って、いっ!」
グリーフシードを受け取った直後、ルーミエからデコピンを喰らった。
思わず涙目になる。結構痛い。
「何するの、ルーミエ!!」
「よそ見をしたからな。お仕置きだ。あんな危ない真似二度とするなよ。下手したら死んでたぞ、ララ」
抗議の声を上げたら、逆にルーミエから言い返された。それから説教を始めようと思ったのか、腰に手を当てる。
「良いか。戦いの最中は油断を――って、いっだ!!」
……のだが、その言葉は途中で中断された。
ぼたんが横から手を伸ばし、ララの代わりにルーミエへ仕返しのデコピンをしたのである。
「何すんのボタちゃん!」
ちょうどデコピンが当たった額の横を押さえて、ルーミエはうぎーと、批難するようにぼたんの方を見る。
反対にぼたんはキッと目尻を釣り上げた。
「星尾さん、貴女にもお仕置きですわ。ララさんがよそ見をしたのは、そもそも貴女が頑張れだの、やれやれだの、上から煽ったからじゃありませんの。あんなの、気が散るに決まってますわ。反省して下さいませ。私、そこに関しては割と怒ってますの」
「うぇ? でも――」
「反省……して下さいませ?」
「わ、悪かったよ……」
途端、ルーミエが怒られてシュンと落ち込んで、ララは庇ってくれたことに対し、感激な眼差しでぼたんに瞳を震わせる。
「ボタちゃん……」
「ですが、星尾さんの意見も正論なので、ララさんも反省して下さいまし」
「う……」
「勿論、私もララさんとの連携が遅かったから、反省すべきですの。いや……そもそも幻覚の魔法を最初から上手く使えていたら簡単に使い魔を……」
そうやって自分の手を見下ろし、自身の力不足を嘆くぼたん。
攻撃力の問題は解決したが、ぼたんはまだまだ固有魔法を上手く扱えていない。そのためか心なしかどんよりしているので、ララとルーミエは慌てて励ました。
「いやいや、ボタちゃん、それでもすげーよ? 今回の戦い、機転効いててかなり驚いたよ?」
「うんうん」
するとぼたんは割と本気で嬉しそうにお礼を言って。
「ふ、二人とも……ありがとうですの。……よーし、それなら、このまま頑張って、誰よりも強くなってみせますの! やりますわよー!」
拳を空に高く上げ、続くララも「おー!!」と叫び、ルーミエでさえも、「俺も一緒に手伝うよ」とノリに合わせぼたんの真似をして……、
「……ってあれ? なんかおかしいな。いつの間にかボタちゃんがリーダーっぽくなってね? 俺と立場、逆転してね?」
「? そうでしょうか? ですが――」
しかし、そこでルーミエのポケットから聞き覚えのあるメロディーが鳴り響いた。
――ジャ、ジャ、ジャンボー♪
「……あの、星尾さん、それ何の曲なのですか? その……すごい個性的な曲ですわよね……」
「ん? 知らない? 日曜朝放送中の子供から大人まで人気な特撮ヒーロー、カメンジャーマンの主題歌だよ? 全人類が見るべき神みたいな番組だよ? なんかもうスッゲー熱くてヤベーんだよ。マジ見てないとか人生の半分は損してるって」
「え、す、すっごい力説してきますわね! 目がマジですわ……!」
何故かルーミエの瞳から一瞬ハイライトが消えたのでぼたんはビビっていた。
まさかルーミエってオタクなのだろうか? オタクって怖いっ……。
「いや人のことは言えませんが……」
そこで何故かぼたんは渋い顔をする。そんなぼたんにララが首を傾げていると、ルーミエが電話に出て、相手と何かを話していた。
うん、うん……っと何度か頷いた後。
ちょっとうへぇという顔になって、
「分かったよ、うん……ごめん、急用出来たから、帰るね」
電話を切るや否や慌てたように去っていった。
ララとぼたんは置いて行かれてポカンとしてしまう。
「前もこんなことあったよね」
「ですわ……」
前回と同じように顔を見合わせて、一体何なんだろうと、不思議に思う二人だった。
◆◇◆◇
しかし、その後もルーミエの様子はおかしいのだった。
一緒にいても、急用が出来たと言ってララとぼたんを残し、帰っていってしまうのである。
そして奇妙なことに……仲間達の様子もまた、それに合わせて変になっていったのだ。
例えば普段はグイグイ来ないリーダーがララ達に近づき、
「好きな料理とかある?」
と聞いてきたり(ぼたんがジャンクフードが好きだと答えたら微妙な顔になった)。
カズトとユーヤが競うように、
「二人とも欲しいものとかある?」
「ん……欲しいもの、何?」
とあれこれと欲しがってるものを聞いてきたり。
ギークは高みの見物……と思いきや、
「本当皆慌てすぎだよなぁ」
とか言いつつ、明らかにソワソワしているし。
本当に妙である。
何処か皆から避けられているような気もする。
ララとしては気が気でない。
だって初めて仲良くなった友達なのに。
(このまま余所余所しいのが続いたらどうなるんだろう。も、もしかして皆、離れちゃうとか……)
そんな不安が鎌首をもたげて、居場所がなくなっちゃうような気がして、ララは少し怖くなった。
だから二人きりのタイミングを見計らい……具体的にはアジトで宿題を見てもらってる時……に唯一違和感を共有しているだろうぼたんに対し、言ったのだ。
「ねえ、ボタちゃん。皆、どうしておかしいのか一緒に調べない? ボタちゃんも気になるよね? ね?」
「え!? と、突然何を言い出しますの?」
すると当然、唐突のことにぼたんは目を見開き、驚いた声を上げた。
「そんなの失礼ですわよ! 確かに気にはなりますけど、何か重大なことがあるかもしれないじゃないですか。余計な詮索をして相手に迷惑をかけるわけにはいきませんわよ!」
「でもそれってさ、私達にわざわざ何か隠すことなの?」
「いやけど……私達はあの方達の仲間になって日が浅いんですのよ。何か言えないことがあったとしても不思議じゃないですわ」
「つまり仲間はずれってことじゃん。酷いと思うけど」
「う……まあそうとも言えますが……」
屁理屈混じりで論破すれば、ぼたんは言葉を詰まらせた。
そして何かを悩むような素振りを見せるが、次にはハッとする。
「って、今はお勉強の時間でしょう? そんなこと言ってないで、宿題に集中して下さいまし! 成績がヤバいんじゃなかったんですか?」
「それはそうだけどさぁ」
逆に正論を返され、ララは膨れっ面のまま開いた算数の問題集を見直す。
一通り問題文を読み直す。
うん、やっぱり……、
(分かんないや)
と頭を悩ませれば、そこでぼたんが助け舟を出してきた。
「ララさん、ここの問題は引っかけですけど、考え自体は単純ですわよ」
「単純?」
「そうですわ。例えば前の問題では――」
そんな風に、ぼたんは分かりやすく解き方のヒントを出してくれる。
厳しいように見えるぼたんだが、ルーミエとは別の方向で、また彼女も優しいのだ。
面倒見が良いと言えば良いのだろうか。文句を言いつつ、何だかんだ世話を焼いてくれるタイプである。
そのため今だってほったらかせば良いのに、わざわざララの勉強まで見てくれて。
だからララ自身、というかぼたんさえも気付いていなかったが、そんな態度はララに安心感を植え付けていた。
有り体に言えば、ララが一番懐いているのはルーミエだが、一番甘えている相手ははぼたんなのだ。そして甘えているからこそ、ララは素直にイライラを表現したのだった。
本当はぼたんの解説を理解したのに。
「うぅ……やっぱり分かんないもん。つまんない」
そう反抗して見せて、変わらぬブスッとした顔でそっぽを向いた。
それに一方でぼたんはキョトンとした。きっとララの考えを見抜いていたのだろう。
「……あの。ララさん、もしかして拗ねてるんですの?」
「……。そうだよ。ララちゃんは今は怒ってるの。すっごくすっごく」
「もう……そこまで気になるんですのね」
が、素直に答えてみたら、ぼたんは呆れたように溜息。
ちょっと心外。ララは更に機嫌が悪くなった。
「しかし、何か理由があるのですか? 面白がってるわけではないみたいですし」
「……だって……」
「だって?」
「なんかモヤモヤして嫌なんだもん」
「ララさんは寂しいんですの?」
「――寂しい?」
そう言われて、驚いてしまう。自覚なんてなかった。
だけど、思い出してしまった。
一人で魔女と戦っていた時のことを。
途端に、ギュッと胸が詰まる思いが込み上げてくる。
ああ、そうかもしれないな、とララは思った。
どう考えたって、この気持ちは――
「まったく、しょうがないですわねえ」
「え?」
いつの間にか顔を下げてしまっていた、その時だった。
ぼたんがまたまた溜息をしながら、それでもはっきりと告げる。
「そう言うことなら付き合いますわよ、ララさん。共に皆様の秘密を暴いてやろうではないですか」
「……良いの?」
「たった今、気が変わりましたの。まあ……正直思うところはまだありますが……」
途端にララは視線を上げ、パァっと表情を明るくさせる。衝動のままにぼたんに抱きついた。
「ありがと、ボタちゃん!」
「ぐ、ぐえ!? うぅ、ぐるじ……ギブ、ギブですわぁ!」
しかし、その力が強すぎて苦しむぼたん。
ララは慌ててぼたんを離し、ごめんなさいと謝ったのだった。