と――そんなこんなで、ルーミエ達に探りを入れることしたララ達。
……なのだが、ここで話し込んでしまうのはとてもマズイのだった。
何故ならここは、前述した通りアジトの中だからだ。
仲間の誰かが来たら大変に面倒くさい。
と言うわけで、ララとぼたんは一旦外に出て、そこら辺の喫茶店の中に入ったのだった。
そこはとても小さく古い喫茶店である。
席はポツポツとしか埋まっておらず、しかも皆お年寄りで、なんだか喫茶店というより、休憩所や老人ホームみたいな雰囲気になっている。
隅っこの方ではお爺さんが新聞紙を読みながらブツブツ何かを言っているし、入口の方ではガヤガヤとお婆さん達が遠慮なくお喋りをしていた。
うるさい……と、迷惑そうに隣のぼたんが困った顔をしたのも無理はなかっただろう。
でもここならバレずに話をすることが出来る。
(初めて来たけど……近くにお店もないし仕方ないよね)
こんなのは田舎特有の光景なので、別にララは慣れっこなのだった。
そうして、適当な席に座って、飲み物を注文。
その時も店員の愛想がなく、ぼたんが少しムカッとした表情になったり、いざ飲み物が来たら来たで間違ったものを届けられたりしたので、ララもムッとなったりしたが……、まあ良いやと気にしないことにする。
これも田舎あるある? だから。
それよりも。
「作戦会議、ですわ」
「うん」
二人は向かい合い、改めて目的を確認し合った。
やるからには気合いを入れるべきだ。
「やみくもに調査しても上手くいかないものですしね。最初に気になる事を事前にまとめてみましょう」
「あ、それだったら良いものあるよ」
と、ララはふと思い出し、宿題を入れていたランドセルをゴソゴソと漁ると、取り出したものをテーブルに乗せた。
「ジャジャーン! ララの秘密ノートでーす!」
「こ、これはまさか――十周年記念イベントにて販売された、“プリンセス×プリティー&ビューティフル探偵♡ラブリーフラッシュ(秘密はノンノン、ハートズッキュン!)”の特別限定表紙のノート……ですの!?」
するとぼたんは驚愕のあまり思いっきり目をかっ開き、フルフルと震え始めた。
そんなに驚くことなの? とララは思い、ノートを見下ろす。
確かに表紙には二人の可愛らしい女の子がポーズを取っているし、実際ララもそれが気に入って使い続けているのだが……、
「え、これってもしかして有名なものなの? 珍しいの?」
「ええ、何万とプレミアが付きますわよ! 一体どうやって手に入れたんですの!?」
「なんかお爺ちゃんが知り合いからもらったって聞いたけど。いらないからくれるって」
「なんと気軽な……ある意味羨ましいっ……」
「???? 何も分からずに使ってたけど、ボタちゃんこのキャラ詳しいの?」
「ふぇ!? べ、べべべべべ別にそんなことありませんわよぉ!」
そしてぼたんはどうしてか妙に慌てふたむき、誤魔化すかのように話題を逸らし、
「で、その秘密ノートがどうかしたんですの?」
「うん。まあ大したことじゃないけどね、いつもこれにね、好きなものとかやりたい事とか、書きまとめて持ち歩いてるんだ。お父さん達に見つかったら、怒られちゃうから」
「え………そっ、それはその……、大変……ですわね。しかし成程。ここに作戦内容をまとめてはどうか……ということですのね」
「うん。ページ数も余裕あるから遠慮なく使って」
ララはノートを取り出したのと同じようにまたランドセルを探ると、今度は筆箱から鉛筆を出した。
それもお爺ちゃんがくれた“プリンセス×プリティー&ビューティフル探偵♡ラブリーフラッシュ(秘密はノンノン、ハートズッキュン!)”のキャラものの鉛筆だった。
手渡すとぼたんはお礼を言ってから受け取って、
「ありがとうございます。では失礼して……。…………………」
ノートをパラパラとめくると、そこに書かれてある内容を見たのかしばらくちょっと怪しいくらいに無言になり。
だが次には無理やり無視するかのように、新しいページをバババッと開くと、そこへ「星尾さん達の調査大作戦!!」と丁寧な字を書き込んだ。
「うわぁ、ボタちゃん、字がちょー上手いね! 達筆だねー」
それを覗き込んだララが素直に感嘆の声を上げれば、ぼたんは少し苦笑しながら答えた。
「ええまあ……実際に書道をしていましたのでこれくらいは。ララさん、良ければ貴女にも字を綺麗に書くコツを教えて差し上げますわよ。……今から学んでおいて損はありませんのよ」
「? うん、じゃあ後で教えてねー!」
そして、ぼたんは付け加えるようにボソリと「ノートのまとめ方も後で教えないと……」と呟きつつ、
「それで皆さんの怪しいところは――」
そうやってララとぼたんの二人は、仲間達の怪しいところをまとめ、作戦会議を始める。
その会議をしているうちに、何だか楽しくなってしまって、いけないことをしているみたいでドキドキしてきたのは言うまでもないことなのだった……。
◆◇◆◇
そして作戦、始動。
まずは作戦その一。
聞き込み調査。
◆◇◆◇
「良いですかララさん、事前に皆様の情報をまとめた結果、どうやら私達を意識しているみたいだ、という結論に至ったのは言うまでもないことですわね?」
改めてアジトの前にて、ぼたんがララに対し、そう声をかけてきた。
ララはこくりと頷く。
ぼたんの言う通り、仲間達はこっそりと何かをやっているからかこっちを気にしているようだった。
それは皆の怪しい点は見れば一目瞭然だ。
以下、ノートにまとめた仲間達の行動である。
『・ルーミエ→付き合いが悪い。特訓中も帰っちゃう。時々こっちのご機嫌伺いをする。
・カズト&ユーヤ→ララさんに妙に絡んでる。
・ギーク→ソワソワしてこっちをチラチラ見てる。緊張してるの?
・リーダー→グイグイくる。機嫌が良い。こっちを見てニヤッと笑ってくる。言っちゃ悪いが滅茶苦茶怖いですわ……。
追記
こっちも調子が狂うので何とかすべし。絶対に皆様の秘密を暴いてモヤモヤとおさらばですわー!!』
一部……いや大分ぼたんの思いがこもっているのはさておき。
「こちらを意識しているということは、つまり私達に何かを仕掛けようっていう魂胆ってことですわ」
「うん」
「だからこそ、反対に私達の行動に釣られて相手も何か反応を返してくるかもしれません。ここまでは良いですわね?」
「うん」
ぼたんの説明を聞きながら、何度もコクコクと頷き続けるララ。ぼたんはわざとらしい真面目しくさった表情で、言い切る。
「それを利用し、情報を引き摺り出してやるのですわ! さりげなく会話の中で聞き出してやるんですの! 誘導尋問、ですわ!」
「おー!」
ララは誘導尋問の意味ってそんな感じだっけ? と思いつつも、ぼたんのやる気に応えるように拳をグッと胸の前で握りしめ、突っ込まないでおいてあげた。
多分ややこしくなるから。後、面倒臭い。
「貴女は男性の方を、私は星尾さんを担当しますわ。皆さん貴女にメロメロですからね、あざと可愛さでイチコロにさせてやるハニートラップ作戦でいきますわよ。裏で私が見守って差し上げますから、頑張るんですのよ!」
「うん! 頑張る!」
そんなアホな会話をしながら、二人はアジトの中へと入っていったのだった。
すると丁度良いタイミングだったのか、エントランスのソファーには既にカズトとユーヤが座っていた。
何やら楽しそうに喋っている。二人はいつも一緒に行動しているから、特に珍しくもない光景だ。
だが今のララ達にとってはチャンス。
「あ、ボタちゃんにララさん。おはよー」
「ん……おはこんちくは」
っと、こちらに気がついたらしく、カズトとユーヤがこっちを見て挨拶をしてくれた。
おまけにユーヤの方が無表情ながら手をヒラヒラさせてくれたので、思わずララも嬉しくなって、右手を上げて振り返した。
「おはよう! カズトにユーヤ」
「おはようございますわ、一宮さん、春日井さん。……ところで、今日は少し暑いですわねー。ちょっと歩いただけで汗が出てきて嫌ですわ〜」
そして、パタパタと手でうちわのように仰ぎ、やれやれと困った表情をして見せるぼたん。
実際に天気予報では「今日はいつもより暖かくなるでしょう」と報道されており、ぼたんの家もアジトから離れているので、カズトとユーヤは特に違和感を抱くことなく、同意を示した。
「そうだよね。ボク達もここに来る時暑かったよ」
「……ああ」
「それにお二人とも楽しく喋っていらっしゃったみたいですし、そろそろ喉が渇きませんこと? 実はうちのセバス……えーと、養父が、皆様によろしくとお茶っ葉を渡しまして、ぜひ一度で良いから、飲んでみてくれると嬉しいのですが。きっとお口に合うと思うのですわ」
「へぇ、そこまで言うならきっと美味しいんだろうなぁ」
「うんうん……」
カズトとユーヤの視線が、ぼたんが肩に下げているトートバックに注がれた。
実はぼたん、ララが男性陣と二人きりや三人きりになるよう、自分が自然と場を離れるための口実としてわざとお茶っ葉を持ってきたのである。
勿論ガバガバの作戦であるが、本人は完璧であると信じているらしい。
ララもナイスアイディアと思っているのはご愛嬌だ。
「では、ただいまお茶を入れて参りますわ。ちょっとお時間いただきますけど、そこはごめんあそばせ」
うふふふふふ、と誤魔化すためか気持ちの悪い声を漏らしながら、ぼたんは奥へと引っ込んでいく。
無論、そのまま台所には行かず、角の方に移動し隠れ、ひょっこりと顔だけを出す。
その際ララにチラッと視線をよこし、テレパシーを飛ばしてきた。
『ララさん、今のうちですわよ! よろしくお願いしますわ!』
『アイアイサー!!』
ララは脳内でのみ敬礼をしながらも、同じくテレパシーで返事を返す。
早速カズトとユーヤの元へ、トテトテと小走りで近寄って……数秒何を言って良いか分からず沈黙。
そう言えば考えなしだったことに気づき、とりあえず、ええいままよと口に任せ、
「ねえ二人とも、この間何処かに行ってなかった? コソコソしてるし、面白いこと隠してるんでしょー」
「「!?」」
すると明らかに場が凍った。
カズトとユーヤは動揺したのかギクリとしたみたいに硬直し。
こちらを覗いているぼたんはゲッと青ざめた。
『お、おバカーーーーーーーー!!!! 今のは直球過ぎですわよーーーーーー!!!! 最初っから飛ばし過ぎですわーーーーーーーー!!!!』
『ちょっ、う、うるさっ! もうテレパシーで叫ばないでよ! 頭が割れる!』
『うっ、それはすみませんでしたわ……。ですがさっきも言った通り直球過ぎです! もっとこうさりげなくって話じゃありませんでしたの!』
『そのつもりだったんだよ! けどどうすれば良いかそもそも分かんなかったの!』
『開き直りですわ!!』
そうやってギャーギャーと言い合い、念話で喧嘩をするララとぼたん。
でもやはりカズトとユーヤの様子はおかしい。
どうやら慌てている。目配せで何かを確認し、そしてこっちに聞いてくる。
「え、ララさんボク達のこと見てたの? その……いつの間に……」
「え、そ、それは……」
が、逆にララの方もギクリとして、目が泳ぐ。本当はこっそり後ろ姿を見ていたのだがそんなことはとても言えない。
結局、また勢い任せにワーと言葉を捲し立てる。
「そ、そんなの偶然に決まってるじゃん! 別にたまたまだし。ていうか勘違いしないで欲しいんだけど、私は二人のこと怪しいって言うか、疑ってるとかじゃあなくって、ただ二人が遊びに行ってたみたいだから、ズルいなってなっただけで、私ももっと仲間に入れて欲しいのに、一緒にいたいたいから!」
最後の方は自分でも何を言っているのかよく分かんなくなっていた。ただ再びぼたんがテレパシーで『おバカ、おバカ!!』と叫びまくっていたので、マズイことを言ったのだと思う。
彼女はララと同様、すごく冷や汗を浮かべているようだ。フォローのために出るか出ないか迷っているようで、ソワソワし始めて。
なのだが、しかし――
「……そうか。……ララさんごめん、寂しい思い、させて……」
「うん、ごめんね……でも一緒に居てほしいかぁ……うんうん、もっと沢山遊んであげるからねぇ、ララさん」
いきなりカズトとユーヤの態度が豹変し、デレデレした顔になったと思ったら、立ち上がり、よしよしとララの頭を撫で始めた。
それで最初は困惑していたララも、次第に嬉しくなって、笑顔になっていく。
「えへ、えへへへ」
そしてそのまま流されて、いつものようにカズトとユーヤと一緒にゲームで遊び始めたので、お前何してんねんと言いたげに、ぼたんが困ったように半目になったのだった。
『こりゃダメですわ』
かくして、ララの聞き込み調査は大失敗。
ぼたんも出てこらざる得なくなって、しばらくティータイムになってしまった。
◆◇◆◇
――それから、やがて二時間後。
ふと宿題をやっていなかったのを思い出したらしく、「ごめん」と謝りながらカズトとユーヤが慌てて帰っていった。
その後ろ姿を窓から確認していると、入れ替わるようにルーミエが歩いてきているのが目に入った。
またもチャンス到来。
次は自分の番だと言いたげに、ぼたんが声をかけてくる。
「ララさん、これから私、星尾さんとお話しますので、貴女は物陰に隠れて怪しいところを見ていて下さいまし。今度は私が聞き込み調査の手本を見せて差し上げますわ」
「ええ? ボタちゃん、一人で大丈夫? ボタちゃん自分が思ってるよりアホなんだよ?」
「お、お黙りなさいませ! 少なくとも貴女よりはマシ! ですわ!」
そうやって、ふんふん鼻息を荒くするぼたん。
その時ルーミエが玄関の扉に手をかけ入ってくる。
幸い、眠いのかぼーとしているらしく……その隙にララはサッとその場を離れた。
ぼたんが隠れていた角に移動し、こっそりとその影から見守る。果たしてぼたんは上手くやれるのか。お手並み拝見。
だが流石に不審がられたのか、ルーミエはちょっと不思議そうにして。
「あれ? なんか今さっき人影がいなかったか? ララさん?」
「え、ふぇ? そ、そんなことありませんわよ。疲れているのではないですか? おほほ」
「ああうん……。実はそうなんだよね。仕事が長引いて、もう眠くて眠くてさぁ」
ルーミエがそう言って涙目になりながら、ふぁあと大欠伸。
ララは内心ホッとする。一瞬ギョッとしたのは言うまでもなかったからだ。
『誤魔化してくれてありがと〜』
テレパシーでお礼を言ったら、ぼたんは背を向けつつも、手を後ろに回して親指を立てた。
後は任せろですわ。
多分、そう心の中で言ったに違いない。
「それは大変でしたわねぇ。ああ、そうですわ。丁度お茶っ葉を持ってきておりますのでよろしければ飲んでいってくださいませ。頭がシャキッとしますわよ」
本当は反対のリラックスする効果なのだが……。
ぼたんはいけしゃしゃあと嘘をついて、更にはいつの間に用意したのか、その手にケーキ箱を持っており、
「それからお茶に合うケーキも持参しましたのよ。いただきましょう?」
するとルーミエは嬉しそうに明るい表情になり、それを見ていたララは比例するようにムッとなった。
単純にズルいと思ったのだ。そして実際にテレパシーで騒いだ。
『何それズルイズルイ! 何でルーミエだけなの、私にも頂戴!』
『はいはい、後で何か奢るから我慢して下さいまし! そもそも洋酒ケーキですわよ! 貴女にはまだ早いですわ!』
『ん? 洋酒ケーキ?』
その響きに何だか嫌な予感を覚えるララである。
ああ、これってもしかして……、
『あえてほろ酔いにさせればガードが緩くなるに違いありませんわ! これぞまさしく知略を使った完璧な作戦!』
『いや思いっきりズル!』
が、ぼたんは聞く耳を持たないのだった。
ハラハラしている間にも、ルーミエとぼたんは向き合うようにソファに座り、美味しそうな洋酒ケーキが切り分けられ、紙皿に移され、ルーミエの口の中にパクリと入って。
そのまま、むしゃむしゃ、ごくん……。
「……、……………………ひっく?」
「ん?」
途端にルーミエの様子がおかしくなった。
これにはぼたんも、ついでにララも訝しがる。
何だかルーミエの頬がすっごい赤いような。
目がトロンとなって視線がフワフワしているし、ちょっと言ってることもおかしい。
「あ、あれ? 世界が回ってる……ひっく、あれ、なんでボタちゃん、三人になってるの? 何でー?」
「え、これってもしかして」
「ねえ何で何で!! あはは!! なんかおもしろ〜い!! あははは!」
そうして大口を開けて笑っているルーミエは完全に酔っ払ってるとしか言えなかった。これの何処がほろ酔いなのか。
絶句しているぼたんを置き去りに、ルーミエは笑いに笑って、「あひゃひゃひゃ」と声をカラカラ響かせる。
そしてしばらくすると、
「ん〜、ボタちゃんはぁ、本当おもしろいなぁ〜」
「ぐえ」
とさっきと同じ言葉を繰り返しながらぼたんに突如として抱きつきいた。
勿論、ぼたんは苦しそうにもがいている。
だがルーミエの力が強いのか完全に拘束されていた。
その内、ルーミエはふにゃりと力の抜けた笑みを溢し、染めた頬を押し付けるかのようにぼたんの胸にその顔を埋めた。
「ふか〜、良い臭い〜、柔らか〜」
そんな変態みたいなことを言って。
まあ実際に臭いを嗅いでいるのかもしれない。そのあまりの事態にパニックになったらしく、ぼたんはルーミエとは別の意味で真っ赤になった。
「なっ、ななななななななな……」
最早、まともなことさえ口に出来ないようだ。
目を白黒とさせ、ワタワタして、ララに助けを求める。
「ラ、ララさん、何とかして下さいまし! 星尾さんがっ!」
「ボタちゃん可愛いね〜、胸大きい〜羨ましい〜、こんちくしょ〜」
「ひゃあ、何処触ってっ! ララさん、ララさん!!」
仕舞いには壊れた機械のようにララさんとしか言わなくなった。
しかし……、ララはそれを無言で凝視してしまっていた。
何故ならば、
(何だろう、この込み上げてくる変な気持ちは)
どうしてか胸がキュンキュンするっていうか、喉の奥からキャーって叫びたくなるっていうか。
ルーミエとぼたんのやり取りから目を離せない。いつまでも見ていたいと思ってしまう。
――あ、そっか。
これが噂の、
「……萌えという感情なんだ!!」
「訳わかんない事言わないで下さいまし!」
とララが鼻血を垂らしながら呟いて、ぼたんが突っ込みを入れたタイミングで。
「え、何この状況?」
「うぎゃ!!」
背後から声をかけられた。
先程とは一転、驚きで思考が真っ白になり、ビビりながら振り返る。そこにいたのは茶髪に眼鏡の少年で――
「ぎ、ギーク!! 何で後ろから!」
「裏口から入ったからだよ。いつものことだろ?」
キョトンとした顔で言われて、ララはそうだったと思い出す。
何で気にしなかったのか、迂闊。
(ッハ――でもこの状況でギークが来たってことは――!!)
更なる萌えの予感にララの鼻血がまた垂れた。慌てて鼻を抑えつつも、ララはワクワクが止まらない。
ここでギーク加われば、彼がルーミエに両方思い中なのあって、萌えの相乗効果は二倍どころか十倍に――!!
そしてその予想は裏切られなかった。
「丁度良いところに来ましたわっ! 藤崎さん助けて! 洋酒ケーキを食べさせたらこんなことにー!」
っと、ギークの姿を見たぼたんが必死に叫んだのである。
するとすぐさまルーミエの方もギークの方を向いて、普段とはまったく違う口調でデレデレし始めた。
「あ、銀河君〜銀河君だ、えへへ、会えて嬉しい〜」
「あ、うん。俺も会えて嬉しいんだけど、それそれとして、――!?」
ルーミエはぼたんを離すと、立ち上がり、ギークの元へ走って飛び込んだ。
ぼたんがその拍子に倒れて「ぐえっ」と潰れたカエルみたいな声を漏らしたが、ルーミエはさほど気にしていない。今度はギークに抱きつくと、また胸元に顔を押し付け「ふか〜」と息を吐いた。
「ふへへ、銀河君の臭い……」
「う、うわぁ!? ルーミエ、何やってるんだよ!」
意中の相手にくっつかれ、思春期真っ只中のギークも平静ではいられない。
ワタワタしてルーミエを離そうとするが、やっぱり彼女の力が強いらしく無理である。
ルーミエは顔を離したが、代わりにへらぁと、だらしなく微笑んで。
「もー本当に好き、大好き♡」
爪先立ちして、ギークの頬に一つ、キスを落とした。
多分、本人がシラフだったら絶対言わないような甘ったるい声もおまけ付きだ。
ギークが受け止めるにはあまり刺激が強すぎる。
「――ぷしゅう」
途端にそう言い残して、彼は真っ白に燃え尽きてしまった。
それに錯覚だろうか。口から魂のようなものが出ている気がする。
そしてそれを見たララも無事では済まなかった。
あまりの萌えの供給に、鼻血がドバドバと止まらないのである。
ああ、何という“尊い”の最大風速――!!
「……………………………天国はここにあったんだね」
ガクリ。
遺言(?)を溢し、ゆっくりとララもギークのように魂が昇天する。
最早一変の悔いなし。
生まれてきて良かった。これまで生きてきて、心の底からララはそう思った。
「ララさん!? ララさーーーーーーーーーん!!!!」
後に虚しく響くのは残されたぼたんの悲鳴のみ。
彼女は辺りを見渡し、もう一度叫んだのだった。
「いやーーーーー!! こんなカオスな現場に私だけ取り残さないで下さいましーーーーーー!!」
本当に……そこは実にカオスな現場に成り果てていたのだった。