なんか主人公がいるんだけど   作:散髪どっこいしょ野郎

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第一話

 夏休みももう終盤に入った。宿題の大体は済ませたけどまだ肝心の自由研究ができていない。

 

 我ながらこれは失策だった。こういう面倒なのは序盤に終わらせておくものであって、土壇場にどうこうできる問題でもないからだ。

 

 仕方ないので世界を創ることにしよう。命題は……鬱でいいだろう。

 

 惑星(ほし)を創った。そこに人間を投入してそいつらを喰らう魔獣も入れた。後は巻きで仕上げれば完成。

 

 世界の速度を上げる。しばらくすれば人類壊滅鬱ファンタジーものができるだろう。

 

 

「ごはんよー」

 

「はーい!」

 

 

 ちょうどいい。飯から戻ってくる頃には人類絶滅だ。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「ふぅ~美味かったぁ~」

 

 

 最近ひとりごとが増えた気がする。老化の始まりか?

 

 さてさて、それよりも世界はどうなっ、て、

 

 

「……絶滅していない……?」

 

 

 人類はしぶとく生き残っていた。まあ最初に投入した魔獣の量が少なかったこともあるだろうが、しっかり文明を築いて領域(テリトリー)を広げていた。

 

 ならばと魔獣に加え魔王も増やし、各大陸に設置する。世界観は剣と魔法のハイファンタジーなので違和感はない筈だ。

 

 今日はもう遅い。明日になれば今度こそ世界が出来上がっているだろう。

 

 というわけで寝た。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「ふぁあ~よく寝たぁ~……」

 

 

 寝起きの眼を擦り、昨日創った世界を見る。自分の予想が正しいならこのへんで人類は滅亡している筈だが……。

 

 

「……あれ?」

 

 

 なんか主人公がいるんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 俺が産まれる時、流星群が見えたらしい。

 

 流れる星と共に産まれた俺は、体が人一倍丈夫だった。軽い傷を負ってもすぐに治るし、魔獣に傷つけられても瘴気に体が冒されることはなかった。

 

 俺はきっと、魔獣を倒す為に強く生まれてきたのだろう。

 

 俺はやがて剣を振るうようになった。みんなを護れるぐらい強く、誰よりも強くならなければと思ったから。

 

 魔獣が出る森にも何度も行った。薬草を採ったり、魔獣を倒す特訓をしたりするために。

 

 いつしか俺は村の用心棒となっていた。

 

 

「アッシュ、悪いんだけどまた薬草お願いできる……?」

 

「大丈夫だよばあちゃん。俺に任せろ」

 

「いつも悪いねぇ……」

 

 

 アッシュというのが俺の名前だ。

 

 村のみんなのために狩りに行ったり薬草を採ったりするのは俺の役目になっている。

 

 今日も変わらず剣を携え籠を背負い、森へ出発した。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 今日の森は静かだ。運良く魔獣もいない。これなら早く帰ってこられそうだ。

 

 薬草を採り、鹿を高所から一撃で仕留める。

 

 今夜は肉だなと思いながら帰路につくと、

 

 

「……なんだ……?」

 

 

 遠くの方から誰かの叫び声が聞こえる。魔獣に襲われているのか?

 

 急いで現場に急行する。間に合ってくれよ……!

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 ラヴィーナ・ヴィワルツは聖職者である。

 

 魔を祓い神を信仰する教えを広める為、遠路はるばるツワルグ村へやってきていた。

 

 その旅路の途中現れた一匹の魔獣。人間五人分もあろうかと思える程の巨躯から繰り出された攻撃により、二人の護衛はあっという間に虫の息に。

 

 ラヴィーナ・ヴィワルツは戦う術を持っていない。負傷した人間を回復させる力はあるが、悠長に待ってくれる程魔獣も優しくはない。

 

 彼女が貪り食われるのはもはや避けられない未来。──この場にいるのが彼女だけだったならば。

 

 

「ウオオオオォォォッッ!!」

 

 

 声のした方向──魔獣の後ろ側から声が響く。注意を取られた魔獣は振り向くが一歩遅く。

 

 

「□□□□□□□!!」

 

 

 眉間に突きつけられた刃に暫し抗うも、やがて沈黙。魔獣は完全に絶命した。

 

 

「ふぅー間に合……ってないか。悪い、遅れちまった」

 

「あ、あなたは……」

 

「それよりもほら、そこの二人をなんとかしないと」

 

「ッ、すみません」

 

 

 虫の息だった護衛の二人は彼女が回復魔法を唱えることでなんとか命を拾った。

 

 

「俺、アッシュ。お前は?」

 

「私は──」

 

 

 彼女は自己紹介も兼ねて今回の事態に陥った経緯を説明した。

 

 

「ほーん……それならうちの村近いし案内するぜ」

 

「よろしいのですか?私としては願ってもないことですが……」

 

「ここまで来といて引き返すのもアレだろ。そこの二人が回復したら行こう」

 

 

 幸いにも馬車は無事だ。護衛の二人が目覚めれば出発の合図となるだろう。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「ここがツワルグ村……」

 

「そ。そしてここが俺んち」

 

 

 狩ってきた鹿二頭を下ろしながらアッシュは家へ案内する。

 

 

「まあゆっくりしていってくれ。茶の一杯も出せなくて悪いけど」

 

「いえ、お気遣いなく」

 

 

 薬草を詰めた籠からいくつか無造作に取り出し、彼はどこかへ出かけていった。後に残るのはラヴィーナ・ヴィワルツと護衛の二人のみ。

 

 彼女は家の中を見渡す。簡素な作りで余計なものはなく、実にこぢんまりとしていた。

 

 

「ラヴィーナ様、申し訳ありませんでした。碌にお守りできず……」

 

「いえ、あれは不運な事故でした。貴方方が気にする必要はありません」

 

 

 そうこうしている内にアッシュが家に戻る。

 

 

「今日宴会やるっぽいから。お前もその時に”教え”を広めればいーんじゃねえか?」

 

「……よろしいのですか?私のような部外者が参加して」

 

「気にすんなって。それじゃ、俺は鹿の処理してっから。用があったらなんか言ってくれよ」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 数時間後。村の中央に人が集まり、宴が始まった。

 

 各々が酒を飲み肉を喰らう中、彼女は教えを広めていた。

 

 

「そうは言ってもねぇ……今まで神様なんて信じたこともなかったんだから……」

 

「早々に信仰しなければならない訳ではありません。これは、主の御心に救われていく教えですから」

 

 

 この世界に神は存在する。この世界を創った創造主とはまた違った神が、各大陸を平定させていた。

 

 

「アッシュ様」

 

「んお、どうしたラヴィーナ。おかわりならまだあるけど──」

 

「お願いします。どうか、魔王を倒す為お力添えいただけないでしょうか」

 

 

 瞬間、広場に静寂が広がる。

 

 

「何を、言って──」

 

「先程の武勇を拝見して思ったのです。貴方なら、貴方の力なら魔王の首に届くと」

 

「そうは言っても……」

 

 

 少年は困惑していた。お伽話でしか聞いたことのない魔王を討ち果たしてほしいといきなり頼まれたのだから。

 

 

「……いいんじゃねぇか?」

 

 

 静寂を破ったのは村の壮年者。当然、発言主である彼に視線が集まる。

 

 

「でも俺がいないと森に行ける奴はいないんじゃ……」

 

 

 少年の不安は的中していた。彼がいなければ薬草は手に入らず、獣も狩れない。

 

 

「いいんだよそれくらい。元々お前におんぶに抱っこだったのがおかしかったんだ。村を護ることくらい俺らにもさせてくれよ」

 

「……いいのか?」

 

「おう。行ってこいアッシュ」

 

「…………」

 

 

 少年は思案する。村の生活と世界の安寧を天秤にかけて、どちらが重いか、選択の時だった。

 

 異論を唱える者はいない。元々彼によって救われていた命。彼がどんな選択を取ろうと尊重するつもりでいた。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「それじゃ、俺、行ってくるよ」

 

「おう!魔王、倒してこいよ!」

 

 

 明け方。彼らは夜明けと共に出発した。見送る村人は多い。

 

 後に世界を救う勇者となる少年、アッシュの旅が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 うーん、なんか主人公っぽい奴がいるけど……まあほっといて大丈夫だろう。魔王はそこそこ強めに設定してあるし、よほどのことが無い限りひっくり返されないと思う。

 

 世界の速度をもう一回上げて、二度寝を決め込んだ。

 

 

 

 

 

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