アッシュがツワルグ村を旅立って少しした時のこと。
「そういえば、俺以外にも魔王退治に呼ばれた奴っているのか?」
「そうですね。王都に招聘された方は貴方を含め二人います。熟練の魔法使いだとか」
「へー。そうなるとじいちゃんばあちゃんになるのか?」
「いえ、私の聞いた話では──っと、そろそろつきますね」
王都、ヴィクローザ。華やかな街並みにアッシュは目を奪われた。
「なんていうか……すげぇんだな、王都って」
「十分後に王への謁見が始まります。準備は手早く済ませてください」
「マジか。俺礼儀とか分かんねぇけど」
「謁見と言っても軽い挨拶のようなものです。そう身構えず」
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王様に会うだとかで城の一部屋に案内されたけど……正直慣れない。
一緒に旅をする魔法使いがどんな奴なのかも気になる。ラヴィーナ曰くじいちゃんばあちゃんではないらしいが……。
「アッシュ様。お時間です」
「あっ、ハイ!」
メイドに連れられなんだか広い部屋についた。真ん中には王座がそびえ立ち、いかにも王です、って感じのおっさんがいる。
「まずは、よく来てくれた。若き者よ」
横に目をやると帽子を被ってローブを羽織った同年代くらいの女がいた。まさかコイツが熟練の魔法使いか?
「早速だが、君たちに頼みたいことがある。今でこそ平和だが、年々魔獣による被害が増えている。魔王の勢力も徐々に広がっているとの話だ」
魔王。そんな奴が本当に実在するとは。
「単刀直入に言おう。君たちに魔王を倒してもらいたい」
事情はあんまよく分かってないけど、これが村のみんなを護ることに繋がるのなら。
「分かりま──「分かりました王様!このルグラン・ルルグに任せてください!」
俺の言葉を遮るように隣の女が高らかに告げる。
「ふっふっふ……英気は充分のようだな。君は大丈夫か?アッシュ君」
「……ハイ」
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「あ~緊張した~」
「お疲れさまです」
「あれ、ラヴィーナ?どうしたんだ?」
「今回の旅には私も同行させてもらいます」
「……え?教えを広めるのはどうするんだ?」
「あれは勇者となる方を探す目的も兼ねています。貴方方が見つかった今、私も魔王討伐に参加させていただきます。万が一傷を負った時、癒やせるのは私しかいませんから」
確かに回復魔法を使えるのは世界広しといえど僅かにしかいないらしい。ラヴィーナがついてくるのは当たり前……なのか?
「あ!アンタがアッシュね!私、ルグラン・ルルグ!」
勢いよく飛び出してきたのは件の魔法使い、ルグラン・ルルグ。
今日からコイツらが仲間になるのか……。今までずっと一人で戦ってきたからなんか慣れないな。
「言っとくけど、魔王を倒すのはアンタじゃなくて私だから!」
「?おう、よろしくな」
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軍資金として用意されたのは銅貨五十枚。これらを上手くやりくりして旅をしなければならないが、アッシュには金を使った経験がなかった。
「と、いうわけだから金はお前らが管理してくれ」
「かしこまりました」
「まずは武器の調達ね。そんなナマクラ刀じゃ魔獣なんて到底倒せないわよ」
「え?俺は今までこいつで倒してきたから大丈夫だと思うが……」
「……ウソ、ホントに?んんっ、まあいいわ。これくらいあれば宿屋には何回か泊まれるわね」
「こっから魔王の住み家までどれくらいなんだ?これだけじゃ足りなそうだけど」
「クエストをこなせばいいじゃない」
「クエスト?ってなんだ?」
「……アンタそんなことも知らないの?クエストっていうのは────」
なんだかんだ面倒見がいいのかアッシュに事細かく説明するルグラン・ルルグ。まずは彼に世間のことについて知ってもらうことから始まった。
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「それじゃ出発!このルグラン・ルルグ様の名前を世界に刻んでやるわ!」
「ラヴィーナ、まず何処に向かえばいい?」
「東に魔王の城があります。まずは中継地点となる街を探しましょう」
「スルーしてんじゃないわよアンタら!」
とうとう始まった彼らの旅。前途多難のように思えるが──
「お、これは食える草だな。持って行こう」
「程々にしときなさいよ。腐らせたら勿体ないもの」
「ルグラン様は食べられる野草についてご存じで……?」
「ないわ。だから食料面はアッシュ、アンタに任せる」
「おう」
それなりに歯車は回り出していた。
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「今日はもう遅いな。野宿にしよう。お、こんなとこにヒワルカ草があるなんて珍しいな」
「ヒワルカ草?」
「ふわふわしてベッドにはもってこいなんだよ。ちょうど三人分あるしこれで寝るぞ」
「本当に……?あ、意外といいわねこれ」
「……ふわふわしています」
「見張りは三時間ごとに交代な。……時間計れるものないから月頼りだけど」
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「ふぅ~よく寝たぁ~」
「……アンタよくピンピンしてられるわね。私は長く寝ないと集中できないのに」
「俺んところは朝からやること盛りだくさんだったからな。ちょっとぐらいでも寝られたら回復できる」
「…………」
ラヴィーナ・ヴィワルツは眠たげに目を擦る。旅が始まってからの、最初の夜明けだった。
旅と言っても基本的にはただ目的地を目指して歩くだけ。よほどのことがない限りは平穏だ。……よほどのことがない限りは。
「……叫び声……?」
「え?叫び声なんて聞こえてないわよ?」
「いや、確かにこっちから聞こえた。魔獣に襲われてるかもしれない。行くぞ!」
「あっ、ちょっ、待ちなさいよ!」
「アッシュ様、お待ちください!」
「そーいやアンタは早く走れないわよね。『風よ』!」
ルグランが魔法をかけるとラヴィーナの体が浮かび上がる。
「さ、行くわよ!」
少女は両足に魔力を込めて、走り出した。
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起きて世界を見てみるとなんか主人公っぽい奴がパーティーを作ってた。このまま世界を救われたら自由研究がパアになる。
ということで主人公たちを折る為に強めの魔獣を複数対けしかける。これで死んでくれたら御の字だ。
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腥風が吹き付ける。無造作に貪られる死体。はみ出した臓物。そのどれもが地獄の如き様相を呈していた。
(クソッ。間に合わなかったか……)
遠目から事態を確認したアッシュは、そのままの勢いで急襲を仕掛けた。
「でえぃっ!」
大振りに剣を振るうと、魔獣の首が落ちる。群れの一頭が殺されたのを確認した魔獣数匹は、アッシュに一斉に襲いかかった。
「こ、のぉ……っ!」
隙を見て斬り付けるも決め手には至らない。魔獣の攻撃をいなすのはアッシュの得意分野だったが、数匹を一気に相手取ることはなかった。
「『炎よ』!」
そこで現れたのは熟練の魔法使い、ルグラン。
火が魔獣を包み込み、沈黙した……に思われたが、
「ウソ、効いていない!?」
火に焼かれながらも魔獣は怨嗟の雄叫びを上げ突進する。その爪がルグランへと迫る前に、アッシュが斬り捨てた。
「もっと強い魔法はないのか!」
「あるけど……ちょっと時間稼いで!」
ラヴィーナは宙に浮かびながら固唾を吞んで見守っていた。彼女は無防備だが、幸いにも魔獣の標的にはなっていない。
アッシュの剣技は見惚れる程に美しかった。正面から受け止めようとはせず、のらりくらりとかわしながら剣を薙ぐ。
二匹目の首が落ちた時、詠唱は完了した。
「『業火よ』!」
先程とは比べものにならない程の大火力。骨まで溶かされた魔獣は、今度こそ沈黙した。
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……思ったより主人公たちは強かった。
魔獣を百匹くらい用意するのは簡単だが、それでは負のご都合主義になってしまう。自由研究として提出する以上ある程度自然なバッドエンドにしなければならない。
ああ頭が痛い。……魔王軍の幹部でも寄こしてみるか?
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「アンタねえ、いくらなんでも一人で突っ走りすぎ!あそこで死んでたらどうするのよ!」
「……悪い、流石に軽はずみな行動だった」
その場に残っていた死体をかき集め簡易的な墓を作ってから、アッシュはルグランに叱られていた。
自分のみならずパーティーのことも考えなければならない。これはアッシュに課せられた課題でもある。
「さて、お説教はここまでにして……行くわよ!」
「……おう」
「はい」
「人がいたってことは近くに村か街があるってことよね。まずはそこを目指しましょうか」
歩き出した三人。ルグランはふと思い至ってアッシュに声をかけた。
「そういえばアンタ、そんだけ強いのにどうして魔力を使わないのよ」
「魔力?そんなものが俺にあるのか?」
「魔力自体は誰にでも流れているわ。アンタはその中でも多い方よ」
「でも俺魔法なんてできないぞ」
「魔法以外にも魔力を使うことはあるわ。身体能力を強化したり、感覚を鋭くしたり。まあ、魔力が空っぽになると気絶しちゃうのがデメリットだけどね」
「へぇ……じゃどうやって魔力を使うんだ」
「そりゃアンタぐぐぐ~ってやってドンよ」
「……?」
ルグランは人にモノを教えるのが苦手だった。
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辺りが夜になる頃に、俺たちは街へ着いた。
ゆっくり休みたいとのことでルグランたちは既に宿屋で眠っている。
俺は昼間の会話を思い出していた。
魔力。それが使えれば俺は今までよりもっと強くなれる。だが練習方も分からないものをどうやって使えばいいのか図りかねていた。
というわけで俺は酒場に顔を出した。ここなら魔力の使い方を知ってる奴もいるだろうと踏んだのだが、どいつもこいつも酔っ払いばかりで話にならない。
「魔力を使いたいのか」
「ん?」
酒場を出て街の中を歩いていると、嗄れた声が俺を呼び止めた。
そこにいたのは路上で座っている爺さん。放浪者なのか、着ている服はボロボロで荷物も持っていなかった。
「……知っているのか?爺さん」
「魔力の使い方ならな」
なんとなく怪しく思うが、なりふり構ってはいられない。この爺さんが何者なのかは置いといて話を聞くことにする。
「単刀直入に聞くけど、魔力ってどうやって扱うんだ?」
「そこに噴水があるだろう。水面に触れてみろ」
言われるがままに水に触れる。冷たい。
「腹の中に力を入れろ。手を動かさずに水面を波立たせるイメージを作れ」
ルグラン曰くぐぐぐ~ってやってドンだったな。それも意識してみる。
「水面が勢いよく弾ければ合格だ。まずはそこまで集中しろ」
「分かった──あ、ありがとな爺さん!ところでアンタ何者なんだ?」
「ただの老いぼれだ。じゃあな」
爺さんは何処かへ去っていく。……結局何が目的で手を貸してくれたんだ?
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酒場から漏れ出る声に耳を澄ますと、魔力の使い方を知りたいなどという小僧がいた。
魔王を倒す。そんな夢物語に多くの奴らが笑っていた。
何故俺はあの小僧に手を貸したのか。かつての自分たちと重ねたのか。
俺が教えてやれるのは魔力の扱い方、その基礎だ。それをどう活かすかは彼奴次第。
我ながららしくないことをしたと思う。
だがもし、あの小僧が本当に魔王を倒したのならば。
彼奴らも多少は浮かばれるだろう。