「はぁ、はぁ……出来た!」
明け方になる頃、俺は漸く魔力を扱うことに成功した。
こうしちゃいられない。すぐに試そう──として、視界が傾くのを感じる。
──ああ、そういえば魔力を使い果たすと気絶するって言ってたな……。
そう顧みながら、俺は目を閉じた。
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「信じられない!アンタ昨日の夜からずっと魔力を使ってたってこと!?」
「悪かったって」
「はぁ……今日も泊まりね。魔力が回復するまで動けないわよ」
「あの……」
「ん?どうしたのよラヴィーナ」
「私の力ならアッシュ様の魔力を回復させることが出来るかもしれません」
「ふーん。じゃやってみせなさいよ」
「それでは……」
「──おお、体が軽い」
「アンタも中々凄いわねラヴィーナ……ま、私程じゃないけど」
ラヴィーナのおかげで体が最低限動くようになった。魔力が完全に回復するまではまだ時間がかかりそうだが、旅に出る分には問題ない。
「それにしても昨日の夜から朝までねぇ……アッシュの魔力量も中々侮れないわね……」
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三人で相談した結果、今日は資金集めの為にクエストを受注することになった。
中でも目を引いたのは近くの山に潜む魔獣の討伐。金に詳しくない俺でも分かるくらいに報酬がおいしい。
コイツが中々くせ者のようで、討伐に行った奴らが悉く殺されているだとか。
どの道コイツを倒せないなら魔王だって倒せないということでそのクエストを受注することにした。
「にしてもこんなとこに魔獣なんているのか?植物全く生えてないけど」
「人を食って生き延びているのかもしれないわね。油断は禁物よ」
そうして魔獣探しに身を投じていると、段々と日が暮れてきた。
「今日のところは帰るか?」
「そうですね。夜になると魔獣の領域ですし……」
「──よし!帰るわよ二人とも!」
踵を返そうとしたところ、ソレは現れた。
「残念だが、君たちはここから帰れない」
「「「!?」」」
そこにいたのは人型だった。人ではなかった。体中を覆う銀髪と赤い眼。爪は鋭く尖り、これ以上ないほどの威圧感を放っていた。
「……アンタ、何?」
ルグランが冷静に問いかける。既に杖には魔力がみなぎっており、俺も剣に手をかけていた。
「件のクエスト、魔獣の正体は──僕だ」
ソイツは、なんてことないようにそんなことを言ってのけた。なるほど、確かに目撃証言が無く人が死んだとの情報だけがあれば魔獣の仕業として片付けられるだろう。
「お前の目的は……なんだ」
今度は俺が問いかける。奴は爪の先で前髪をいじくっている。
「人を殺す。それだけだよ」
「……分かった。お前は魔獣だ」
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「どっちかと言うと魔族なんだけど、なっ!」
高所からルグラン目指して飛びかかる魔族の前に、アッシュが立ちはだかる。
数回打ち合うと魔法による援護を危惧してか魔族は距離を取る。事実、あと二秒遅ければ焼かれていた。
「とっておきの魔法を準備するわ。アンタは時間稼ぎをお願い」
「分かった」
「作戦?いいと思うけど僕に当てられる?それに──」
標的を変えたのか、ラヴィーナに照準を合わせる魔族。既にこのパーティーの弱点は割れていた。
「させるか……っ!」
「あはっ、やっぱその子戦えないんじゃん!」
詠唱を続けるルグランと、戦力にならないラヴィーナ。両者を守りながら戦うのはアッシュといえど至難の業だった。
「はぁっ!」
「君、なかなかやるね……じゃ、もっと本気出しちゃおっかな」
そう言った瞬間、魔族の速度は飛躍的に上がった。辺りの岩肌を縦横無尽に飛び回りかく乱。アッシュですら目で終えない速さだった。
(落ち着け……たしか魔力で感覚を鋭く出来るはずだ……)
アッシュの考えは正しい。だが、彼が実戦にて魔力を使用するのはこれで初めてとなる。ぶっつけ本番で出来る程魔力の扱いは簡単ではない。
「ぐっ!」
「ほらほら、がんばんなよ!」
ヒットアンドアウェイ。徐々に彼の体に切り傷ができる。だが、
(落ち着け……集中……)
彼はかつてないほどに集中しきっていた。生死を分ける境目にて、魔力のコントロール精度が飛躍的に上達させられる。
「──そこだ!」
「えっ?」
魔族は困惑した。翻弄していた筈の相手に突如斬り付けられたのだから。
油断と慢心。これが決定的な隙を生むことになり──
「『雷よ』!」
紫電が、迸る。
▫▫▫▫▫
「やっ……てくれるなあ」
「ウソでしょ……私の最大火力よ……!?」
奴は生きていた。
間違いなく、ルグランの魔法は最大級のものだった。それをコイツの生命力は上回った。
「ンッ!」
間髪入れず剣を振るう。ここが最大のチャンスだ。ここを逃したらこちらとしても厳しい。
「……分かった。分かったよ。これが僕の究極体だ」
剣が弾かれる。ウソだろ。コイツ、まだ力を残して──
体中を覆っていた銀髪が頭部にのみ収まり、黒い何かが胸に浸食しだしていく。
「僕の名はツプエ。さあ──行くよ」
「な──ぐは、っ……!?」
「キャッ!」
「い──っ」
一瞬にして三人が弾き飛ばされる。マズい。俺とルグランならまだしも、ラヴィーナがやられたら回復役がいなくなる!
──速すぎる。
魔力を最大にしても反応するのがやっとだ。剣の腕ならこちらに分があるが、それをもってしても圧倒的な速度にやられる。
「ッ、なめんじゃないわよ!『風よ』!」
突風が吹き荒れる。!間違いない。今コイツ、体制を崩した……!
「そのままやってくれ!後は俺に任せろ!」
「こんな風程度で……!」
俺たちの体に傷ができる。だが、いずれも致命傷には至らない。恐らく奴自身も自分の速度を完璧に把握しきれていないのだろう。
集中だ。勝負は奴が決めに来る最後。魔力を剣に集約させ、その時を待つ。
心臓──を僅かに離れた箇所に奴の爪が刺さる。今だ!
「オオオォォォォオオッッッッ!!!!」
「な、ウソだ、こんな……!」
渾身の力で奴の腕を掴み地面に叩きつけ、その胸に剣を突き立てる。そして何度も何度も刺突を繰り返す。
「魔王、様……」
──死んだ。間違いなく、俺が殺した。
「アッシュ様!」
「アッシュ!」
よかった。二人は生きていた。ラヴィーナが健在なら後は大丈夫だろう。それにしても血を流しすぎた。魔力もこの一瞬に全てを賭けたため空っぽだ。
二人が駆け寄ってくる音を聞きながら、俺は少し眠った。
▫▫▫▫▫
ウソだろ?魔王幹部クラスの奴倒しちゃったよ。
夏休みもあと僅か。自由研究にそこまで時間を割いてはいられない。
しょうがないから魔王の強さを盛るか。ついでに自分の分身を世界に配置して──ヨシ!これならバッドエンド間違いなしだな!
……そういえば、なんで自分はここまでバッドエンドにすることにこだわってるんだろう。だけど安易なハッピーエンドにするのも気に入らないし。とりあえずこのまま様子見でいいか。
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ツプエの死骸を持ち帰ると、彼らは英雄のように扱われた。
長らく街の住民を脅かしていた魔獣の討伐。その功績が、彼らの街での待遇を上昇させていた。
「それにしたってアンタ無茶しすぎ。あの瞬間に魔力を全投入するなんて自殺行為よ」
ルグランの忠告も尤もだ。先の戦いは完全に賭けに勝ったが故の勝負だった。
「そうだな。俺ももっと……強くなんねえと」
少年は決意を固めたように天井を仰ぐ。
ラヴィーナは報酬を受け取りに出かけていた。
「ただいま帰りました」
「ん、おかえりラヴィーナ……どうしたのよその荷物」
「街の方々からぜひ貰ってくれとのことで」
大量の食料を抱え、ラヴィーナは帰還した。その一つのパンにかじりつきながらアッシュは提案する。
「なあ、一回装備を新調しないか」
「私は構いませんが……」
「賛成ね。アンタの剣、もうボロボロだし。お金もそこそこ入ったしちょうどいいわ」
ということで、当面の目標は装備の更新となった。