「しっかしこんなとこに武器屋なんてあるのか?」
「黙ってついてきなさい。地図によると……この辺りね」
武器を買いたいと申し出た所、街の住民から森の中にあるらしい武器屋を勧められた。
俺は街のやつでも構わなかったが、どうせならいいものをということで例の武器屋に足を運ぶことに。ちなみに防具は既に新調してある。
「着いた……ここね」
「ここが……」
小さな庵だった。とても武器を作っているとは思えないぐらいの。
「すみません、誰かいませんか」
「なんじゃい」
「え──ヒッ!」
驚いたようにルグランが飛び退く。
その爺さんは音も無く俺たちの傍に来ていた。最低限魔力を回していたのにも関わらず、気づくことすらできなかった。
「……武器が欲しいんだ」
「……ついてきな」
▫▫▫▫▫
「おぉぉぉお……」
思わず息を吞んだ。そこら中に括り付けられている剣だの鎚だの斧だの。素人目から見ても分かるくらいの業物だった。
「あれ、あの剣はなんなんだ?」
目を引いたのは屋外にある、台座に突き刺さっている剣。
「……昔、この地には妖精がいた。鉄を叩く音に惹かれ多くの妖精が儂の元へ来た。あれは、その友好の証として儂と奴らが打ち立てた物よ」
「じゃあ非売品ってことなのか?」
「……抜けんのよ」
「え?」
「多くの者があれを引き抜こうとした、じゃが、今日まであれを手にした者はおらん」
「ふーん、アッシュ、試しに抜いてみなさいよ」
「いいのか?」
「構わん」
台座の前に立ち、柄を握る。上に持ち上げようとすると、何の抵抗もなくその剣は引き抜かれた。
「────」
その瞬間、途方もない魔力が吹き荒れた。
「…………え?アッシュ様、その剣……」
「……なんじゃと?」
「……抜けた」
試しに剣を振ってみるとこれ以上ないくらいに手に馴染んだ。
「……見つかったのじゃな、主が」
「あ、爺さん。これいくらするんだ?」
「金は取らん。その代わり、何のために剣を握るのか教えろ」
「魔王を倒すため。それだけだ」
「……そうか。いいぞ。持って行け」
▫▫▫▫▫
「いやー思わぬ掘り出し物だったな」
「装備も新調したし、行くわよ。魔王の支配下地域まで」
「あの、ルグラン様……」
「何?」
「私に魔法を教えていただけないでしょうか」
「?アンタには回復魔法があるじゃない」
「ですが、あの魔族との戦いの際、私は何もできませんでした」
「あのねラヴィーナ。魔力にはそれぞれ特性があって、特にアンタのは聖なる力を帯びているのよ。私がどうこうできる話じゃない」
「……それならその聖なる力で俺たちを強化できるんじゃないか?回復魔法の要領で」
「!アンタいいとこに目付けたわね。確かに私たちの補助役になれば多少は戦闘に貢献できるんじゃないかしら」
「……ありがとうございます。練習してみます」
▫▫▫▫▫
(魔力をアッシュ様とルグラン様に流すイメージ……主への祈りを解放する……)
野営することになりアッシュが食料を調達している間、ラヴィーナは魔力の新たな使い方を模索していた。
「そこまでにしときなさい。魔力の使いすぎは体に毒よ」
「……はい」
「そういえばアンタ、前にアッシュの魔力を回復させた時どんな感じでやってたの?」
「…………あ!……ありがとうございますルグラン様。何か掴めたのかもしれません」
「ん。──そろそろアッシュが戻ってくるころね。『火よ』」
ルグランが魔法を唱えると、小さな種火が積み上げた木に燃え移った。
「今日は魚だぞー」
「野草もあるわね」
「では早速煮込みましょうか」
▫▫▫▫▫
「ここが魔王の支配下地域……」
その街は昼間ながらどこか薄暗く、住民の表情にも光は無かった。
「ねえ、ちょっと」
「…………」
ルグランが声をかけても住民は上の空。完全に呆けていた。
「反応が無いってことは魔法にかけられてる可能性もあるわね。アンタたち、ちょっとそこの人を抑えてて」
魔法をかけることができるということは、その逆も可。
ルグランは住民にかけられている魔法を解いた。
「──ハッ!あ、あなたたちは……!?」
「ただの旅人だ。それよりもこの街はどうなっているんだ?」
「ここは──」
数年前に魔王が誕生してから、ここは魔族に子供を捧げる為の街となっていた。
外に助けを呼ぼうとすると魔法をかけられ自我を奪われ、ただ子供をつくることのみに専念させられる。先程ルグランの言葉に反応を示さなかったのはこれが理由だ。
「そうか……じゃあ俺らがその魔族を倒せばいいってことだな」
「……勝てません」
「え?」
「かつて、村の者が何度も討伐しようと試みました。ですが、誰一人として帰ってはきませんでした。……あなたたちも早々にこの街を立ち去るべきです」
「魔族なら俺たちも倒してるぞ?それにただ突っ込むってぇわけじゃない。教えてくれ。そいつはいつやってくるんだ」
「……三日後に、広場で生贄となる者を選別します。魔族はその時にやってきます」
「よし、じゃあ後は俺たちに任せてくれ」
▫▫▫▫▫
三日後。アッシュは物陰に隠れて魔族を待ち伏せしていた。ルグランとラヴィーナは別所にて待機。
作戦としては、標的が通りがかった際に足に魔力を集中させ飛び込み、その首を刎ねるという寸法だ。
「あら、今日は客人がいるのね」
「……何故分かった」
その筈が、間合いに入るより先に気取られていた。
「それだけ強い気配があれば誰だって分かるわ」
「でやあっ!」
「『止まりなさい』」
「ぐっ!?く……」
その魔族は豪華絢爛な衣服に身を纏い、桃色の毛髪が顔全体を覆い隠していた。
無詠唱による魔法。たったそれだけで、アッシュはその場に固定された。
「マズいわね……今回ばかりは相性が悪いわ。私が出る。ラヴィーナはそこに待機してなさい」
続いて躍り出たのは熟練の魔法使い、ルグラン・ルルグ。彼女であれば敵の魔法にも対抗できる。
「あらあら、随分可愛い魔法使いさんね」
「そうやってなめていられるのも今のうちよ。『炎よ』!」
「あつつつ……侮れないわね、中々」
(効いては……いるわね)
小手調べの魔法にしてはよく効いている。勝機はある。そう判断したルグランは追加で魔法を唱えようとするも──
「『私を愛しなさい』」
「ッ!?」
咄嗟に魔力を全開にして抗うも、一瞬敵の魔法に吞まれかけていた。
無詠唱にも関わらず、この強さ。強力な魔法を扱う際には必ず詠唱を必要とするルグランとは明確な力の差があった。だが、その程度で諦める彼女ではない。
「『疾風よ』!」
今度は風の魔法で切り傷をつくろうと試みる。彼女が無詠唱で発動できる魔法では決定打には至らない。
だが、敵の力を削げばアッシュにかけられた魔法も解かれる筈。要するに持久戦の開始だった。
▫▫▫▫▫
「はぁ……はぁ……っ」
「人間にしては中々頑張ったわね。でも──私には届かない」
状況は最悪。アッシュの体の自由は奪えず、魔力の大半を使い切った。
「『私を愛しなさい』」
「────はい」
絶体絶命。アッシュは未だに動けず、ルグランは敵に魅了された。
「『その子の首を刎ねなさい』」
「くっ、そ……!ルグラン、逃げてくれ……!」
抗うこともできずアッシュはルグランへと歩いていく。剣を掲げ、今まさに振り下ろそうとした時──
「──『光よ』!」
聖なる光が、辺り一面を包み込んだ。
▫▫▫▫▫
ラヴィーナ・ヴィワルツが咄嗟に放った魔法は、正に神の光。破邪の特性を持った輝きは、万物を洗い流し魔を祓う。
「っあ、体が動く……!」
体の制御権が戻ったアッシュは、魔力を両足に叩き込み一気に敵の元へと距離を詰めた。
「ッ!『止まりなさ──」
一歩遅い。魔族は首を飛ばされ、絶命した。
▫▫▫▫▫
街は数年ぶりに活気を取り戻し、人々は英雄たちを称える宴を始めた。
殆どの住民にかけられた魔法は魔族が死んだことにより解除され、誰もが自我を取り戻していた。
「やったわねラヴィーナ。今回のMVPはアンタよ」
「ああ。おかげで助かった。あの魔法は何だったんだ?」
「神への祈りと、アッシュ様の魔力を回復させた時の経験で習得したものです。アッシュ様とルグラン様がいなければできませんでした」
魔獣や魔族にとっては天敵の力だ。これからの戦いでは必要不可欠となるだろう。
それはそれとして二人を強化する術も持っていなくては、とラヴィーナは密かに決意していた。
「そろそろね……魔王の城」
「そうだな。案外短かったな」
来たる決戦の日まで、あと少し。