なんか主人公がいるんだけど   作:散髪どっこいしょ野郎

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最終話

 その城は天空にそびえ立っていた。

 

 

「どうする?俺たち空を飛べないけど」

 

「こういう時の為に、この魔法はあるのよ。『風よ』!」

 

 

 ルグランが魔法を唱えると、全員の体が宙に浮く。

 

 目指すは魔王の討伐。最終決戦は間近だった。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「ここが魔王の城……」

 

 

 辺りは息苦しくなるような瘴気に満ち溢れ、太陽は黒い雲に覆い隠されていた。

 

 

「ゲホッ、ゴホッ、アンタたちよく平気でいられるわね」

 

 

 聖職者であるラヴィーナと瘴気に耐性のあるアッシュとは違い、ルグランはただの魔法使い。

 

 

「『光よ』」

 

「────っふう、ありがとうラヴィーナ。楽になったわ」

 

 

 ラヴィーナの聖なる力を纏わせることにより通常と変わらない状態まで至った。これなら魔法の詠唱も可能となる。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「それにしても……誰もいないなあ」

 

 

 側仕えの魔族や魔獣ぐらいいてもいいものの、魔王の城はがらんどうとしていた。

 

 長く歩いていると広間に出た。辺りには檻のような鉄格子が備え付けられている。

 

 

「「「……!」」」

 

 

 奇しくも三人の思考は一致していた。

 

 これは罠だ。そう言って退却するよりも速く、魔獣たちは鉄格子を破って出た。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「『業火よ』!」

 

 

 ルグランの唱えた魔法により多くの魔獣が焼き溶かされるが、それでもまだ出てくる。

 

 俺はラヴィーナを守りながら片っ端から斬り伏せているが、それでも魔獣たちは途方もなく出てくる。

 

 

「『業火よ』!……コイツらどれだけいるのよ……!」

 

 

 今日のルグランは絶好調だ。詠唱に時間のかかる魔法もすぐに唱えられている。

 

 俺も俺で体の調子がいい。元々瘴気に慣れていたからか、いつも通りの力で戦えている。だからこそ、魔獣程度に時間を割いてはいられない。

 

 

「ルグランも俺の後ろに回れ!魔力は節約しろ!」

 

「……そうね。ここはお言葉に甘えさせてもらうわ」

 

 

 斬って捨て、斬って捨てる。血と瘴気が辺りに充満し、闘争本能が掻き立てられる。

 

 

「だりゃあっ!」

 

 

 最後の一匹を斬る。一時間程かけて、ようやく広間は大人しくなった。

 

 大分血を浴びてしまった。俺は耐性がある程度あるとはいえ、多少支障は出るかもしれない。

 

 

「ラヴィーナ」

 

「『光よ』」

 

 

 念のため瘴気を洗い流してもらう。魔王戦に向けてコンディションは保っておきたい。

 

 

「やはり、雑兵では相手にならないか」

 

「ッ!?」

 

 

 広間の奥から強烈な魔力と威圧感が流れ込む。間違いない、コイツが──

 

 

「……魔王……!」

 

「……そうだ。我がこの大陸の魔王だ」

 

 

 不意に足が竦みかける。退くな。何のために俺はここに来た。

 

 

「さて、やろうか」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「『炎よ』!」

 

 

 先手を打ったのはルグラン。炎が魔王に迫るが、奴は避けようともせず受け止めた。

 

 

「まだまだ行くわよ!『業火よ』!」

 

 

 強力な暴炎が魔王を包む。魔獣を丸ごと溶かした魔法だ。そう簡単に破られない──と、思っていたが。

 

 

「ぬるいな」

 

「……やっぱりこの程度じゃ効かないわよね」

 

 

 腕を振るうだけでかき消された。

 

 

「おりゃあっ!」

 

 

 続いて出たのは俺。魔力を込めた斬撃を食らわすも、またもや片手で止められた。

 

 

「よもや、これが全力ではあるまいな」

 

「冗談。まだ勝負は始まったばかりだろ」

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 俺が前衛で、ルグランが援護に回る形で戦っているが、魔王は攻撃しようとすらしない。

 

 

「弱いな。勇者とはこの程度の者なのか」

 

「……そいつはどうかな。ルグラン!合わせろ!」

 

「『雷よ』!」

 

 

 放たれた紫電に合わせる形で魔力を交差させ斬る。ルグランの最大火力と俺の最大火力、二つを合わせた力だった。

 

 

「ぬう……っ」

 

「効いてる!ルグラン、もう一回だ!」

 

「ちょっと待ってなさい!」

 

「……認めよう。貴様らは我の敵だ」

 

「────な」

 

 

 魔王が魔力を解放すると、先程とは比べものにならないくらいの圧が膨れ上がった。威厳すら感じる程の。

 

 魔王が剣を抜く。それだけで濃厚な死のビジョンが脳裏に焼き付いた。

 

 

「──さて、始めようか」

 

「──────ッ!?!?!?」

 

 

 咄嗟に剣で受け止めなければ間違いなく死んでいた。速さも、重さも、今までの敵とは段違いだ。

 

 

「ぬんっ!」

 

「が────はっ」

 

「ルグラン様!」

 

 

 続いて狙われたのはルグラン。腹に重い拳を入れられ、胃の中のものを丸ごと吐き出しながら気絶した。

 

 

「ラヴィーナ!急いでルグランを回復させろ!魔王は俺が引きつける!」

 

「は──」

 

「させると思うか?」

 

 

 間に入りなんとか受け止める。魔力を全開にしてなければ一瞬で死ぬ!

 

 ──だが、なんだろう。

 

 さっきよりも剣を振るう感覚が軽くなった気がする。俺の剣から、何か温かい力が迸っているような気さえする。

 

 

「……その剣。厄介だな」

 

「なんだ……これ」

 

 

 剣から光が放たれている。それを浴びるだけで魔力が回復していくのを感じる。

 

 理由は分からない。けど、今の俺なら魔王に対抗できる!

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 その剣は、遙か昔より妖精たちの中で広まっていた秘術が込められている逸品である。

 

 魔獣の瘴気に抗う為の、特別な力。

 

 前座の魔獣、そして魔王という特に濃い瘴気を浴びたことでその剣は目覚めた。

 

 

「オオオオッッ!!」

 

(動きが速くなったな。剣の影響か?だがこの勇者の技量も高まっている)

 

 

 何十回にも渡り打ち合う。手加減無しの、一切の優しさを捨てた剣撃に彼は渡り合っている。

 

 命をかけた戦いによりアッシュの潜在能力も引き出されていた。

 

 

「『大爆炎よ』!」

 

「ヌグッ!?」

 

 

 目覚めたルグラン──剣の光に当てられた彼女は『業火』以上の魔法も手にしていた──の援護もあり、魔王討伐はすぐそこまで迫っていた。

 

 しかし、いくら奇跡が続こうとそう易々と倒せる程魔王は甘くない。

 

 

「──ならば食らうがいい!我の全力を!」

 

 

 魔王が剣を掲げると黒い光が集まっていく。アッシュはその動作を止めるか防御に回るか数瞬逡巡し──防御に徹した。それが致命的なミスとも知らず。

 

 

「『ダングラグ』!」

 

 

 黒い閃光が、広間に解き放たれた。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「アッシュ様……?」

 

「……アッシュ?」

 

 

 勇者は、倒れ伏していた。真っ向から魔王の一撃を受けたことにより、その意識すら刈り取られていた。

 

 

「……よくぞここまで磨き上げた。若き勇者よ。我が直々に葬ってくれよう」

 

「──アッシュ!起きなさいよ!アンタ、こんなところで死ぬ気!?」

 

「ッ!」

 

 

 ラヴィーナが駆け寄るも魔王の魔力によって吹き飛ばされる。

 

 ルグランを放置しては危険と判断した魔王は、またもや気絶させた。もうこの場に戦える者はいなくなった。

 

 

「し、主よ……」

 

 

 それでもラヴィーナは祈る。

 

 

「どうか、彼の者に力を……」

 

 

 祈る。眼前に迫った絶望から逃れる為?否、彼女を突き動かしていたのはそれだけではない。

 

 

「『光よ』……」

 

「……ヌ?」

 

 

 彼女はアッシュが目覚めることを信じ、全ての魔力を彼の回復と強化に当てた。

 

 当然、魔力切れを起こし倒れる。

 

 少年は未だに倒れている。その深層意識に、呼びかける者がいた。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「──シュ……」

 

 

 誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。ルグラン……ラヴィーナ……それ以外にも、誰かが俺を呼んでいる。

 

 

「アッシュ……」

 

「……お前は、誰だ?」

 

 

 目の前にいたのは男とも女ともつかない誰か。

 

 

「私は、この世界の神です」

 

「…………は?」

 

「事態は急を要します。聞き分けてください」

 

 

 ……確かに、今は魔王と戦っている最中だ。全て鵜呑みにするのもどうかと思うが、ひとまずは目の前の神の話に集中しよう。

 

 

「この大陸、いえ、この世界には、人々を脅かす存在がいます」

 

「ああ、それは知ってる。魔王だろ?」

 

「いえ、魔王よりも更に強大な力を持つものです」

 

 

 魔王よりも更に強い奴?それを言うなら神こそがそうだと思うが……。

 

 

「この世界には、魔獣や魔王、神である私ですら生み出した者がいます」

 

「……え?」

 

「唐突なことで申し訳ありませんがどうか聞き分けを。あなたにはその創造主を駆逐していただきたいのです」

 

 

 ……情報を整理すると、この世界の創造主とやらが神や魔王、魔獣を生み出して俺たち人類を脅かしているということ。

 

 しかしそんな強大な相手にどう太刀打ちすればいいのだろうか。

 

 

「私があなたに託せるのはその創造主に立ち会える権利だけです。現在戦っている魔王はあなたが独力で倒してください。あなたにはそれをできる力がある筈です」

 

 

 確かに、そろそろ起きないと。みんな殺される。

 

 

「じゃあ俺がやればいいのは魔王を倒してその創造主とやらを追い払うってことなんだな?」

 

「はい」

 

「分かった」

 

 

 できるかは分からない。だが、俺は俺の大切な人たちを護る。

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

「……ありがとな、ラヴィーナ、ルグラン」

 

「まだ立つか」

 

 

 託されたのはこの世界の運命。上等だ。やれるだけのことはやってやる。

 

 

「ハァッ!」

 

「オオオッ!」

 

 

 最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いは熾烈を極めていた。

 

 両者ともに血を吐き出し、深い切り傷ができる。

 

 

「ウオオォオッ!」

 

「ぬ、う……っ!?」

 

 

 そんな膠着状態もやがて終わりがやってくる。アッシュが攻勢になり始めていた。

 

 

「ならばもう一度食らうがいい!我が絶死の一撃を!」

 

 

 再び黒い光が集まっていく。このままではアッシュの死は絶対──だが、

 

 世界を護る者が、その程度の障害で斃れるわけがない。

 

 

「オオオオ……!!」

 

 

 魔王に対抗するように、目映い光がアッシュの剣に集約されていく。

 

 解き放たれる必殺の刃。それはアッシュも手にしていた。

 

 

「『ダングラグ』!」

 

「『ダグラガン』!」

 

 

 凄まじいエネルギー同士がぶつかり合い、勝者が確定する。生き残ったのは────

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 ────んん……。

 

 ──────────ん?

 

 え?

 

 え?マジ?

 

 どうしよう。寝ている間になんかとんでもないことになっちゃったよ。

 

 ──勇者が、魔王に勝っちゃったよ。

 

 本体になんて説明しよう。今からでも無理やりバッドエンドにするか……?いやそれだと自由研究発表の時にバレる。

 

 血の気が引くとはこういうことを言うんだろう。

 

 救われてしまった世界(一部)を前にして、自分は青ざめていた。

 

 

「おい」

 

「え?」

 

 

 ──なんか主人公がいるんだけど。

 

 

「痛あっ!」

 

 

 出会っていきなり殴られた。

 

 

「ちょ、ちょっと待って──」

 

 

 主人公は間髪入れずに自分を殴る。自分創造主やぞ。

 

 

『いててて……ちょ、お前何やってんだよ!』

 

 

 あ、感覚共有している本体からメッセージが来た。

 

 

「ごめん。魔王倒されちゃった」

 

『はあっ!?お前何やってんだよ!』

 

「し、しょうがないじゃん寝ちゃってたし。てか痛っ!や、やめろよアッシュ!」

 

「……本当だったんだな。お前がこの世界を作ったって」

 

 

 自由研究どうしよう……いや今の形で出せばいい話だけど、個人的にハッピーエンドにはしたくなかったな……。と、本体が考えている。

 

 

「出て行けよ」

 

「へ?」

 

「この世界から出てけって言ってんだよ!お前が魔獣たちを作ったんだろ!」

 

「痛っ、な、殴らないで!わ、分かった!他の大陸の魔王たちも消すから!」

 

『いやお前何言ってんだよ!』

 

「しょうがないじゃんこれ以上殴られたくないし!じゃ、そういうことで」

 

 

 白い光が辺りを包み込む。自分は本体の元へ戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 ……せっかくの自由研究がパアになってしまった。こんな安易なハッピーエンドにするつもりはなかったのに。

 

 しょうがないから泣き泣きこの状態で提出する。教師からはなんて言われるだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「──ただいま、みんな」

 

「おう、もう帰ってきたのかアッシュ」

 

 

 あれから、俺たちは王都ヴィクローザに戻り、魔王を倒したとの結果を報告した。

 

 どうやら他の大陸の魔王も突如消滅したようで、世界から魔獣の存在は消え、すっかり平和になっていた。あの創造主とやらも約束は守るらしい。

 

 ラヴィーナとルグランはいい奴らだった。これから何があっても、あの旅を忘れることはないだろう。

 

 俺たちが勝ち取った世界。使い切れない程の大金も貰ったことだし、近々一人旅でもしようかと思う。

 

 とりあえず今は、村のみんなの所に顔を出すか。

 

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