正史.Cパルス変異波形シンシア
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文書データ:⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の口述筆記
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破損した端末から抜き取った文書データ
ルビコン調査技研職員 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の口述筆記と思われる
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コーラル増殖実験中に発生した爆発事故に
巻き込まれてから耳鳴りがおさまらない
だが…耳鳴りと切り捨てるにはどうも違和感がある
例えるならば…これは寝息だろうか?
どうせ暫くは退屈な入院生活だ
童心に返って幻聴の観察日記をつけるのも悪くはない
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今日も耳鳴りに混じって寝息が見える
幻聴の呼吸というのもおかしな話だが
この幻聴についてだが私は相変異によって
発生した変異波形ではないかと睨んでいる
観察日記をつけるのに変異波形呼びでは味気ない
女性と考えた方が楽しいので今後はシンシアと呼ぼう
…悲しくなってきた
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対話を試みていた所を見舞いに来てくれた
ウォルター少年に見られて恥ずか死にそうだ
彼の父親に知られると面倒事になる気がする
適当なことを言って誤魔化し口止めはしたが…
それにしても少年は寂しそうにしていた
第1助手はどうしてしまったのやら…
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第1助手にシンシアの件が露呈した
ウォルター少年は隠し通せなかったらしい
賢い子とはいえまだ子供だから仕方ない
第1助手の様子は明らかに異常だ
変異波形を寄越せと言われても…
増殖実験の事故を止められなかったように
コーラルは人の手に余る代物のようだ
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耳鳴りがおさまった代わりに幻聴がはっきり
聴こえ始めたのは気がかりだが
無事に退院することが出来た
手始めに脳波を測ってみた所
私の脳波に重なってもう一つ波形を確認
これが変異波形のシンシアなのか…?
第1助手の件も気がかりだ
ナガイ教授に相談するとしよう
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…第1助手の実験で奥さんが亡くなった
ナガイ教授は彼を止められなかったことを
深く後悔していた
流石に今のナガイ教授にこれ以上の
心労を掛けるのは気が引ける…
私に何か出来ることはあったのだろうか
…シンシアが応えることはない
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今度は第1助手が亡くなった
恐らく彼は俺と同じ状況を再現し変異波形を
手に入れようとしたのだろう
…コーラルが絡むと死人が増える
コーラルに罪はないとはいえこれが現実だ
ウォルター少年はナガイ教授が引き取ることになった
彼がまた心の底から笑えることを祈る
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コーラル潮位が異常な速度で上昇している
あの実験と同じ状況が集積地で起きれば
今度はルビコンだけでは済まないだろう
猶予は約2日
ナガイ教授がアイビスで出撃したようだ
シンシア…結局君が俺の声に応えることはなかったが
きっとそれで良かったんだ
…目覚めることなく死んでくれ
この都市で…私と共に
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…微睡みの中で漂っていたわたしの意識は、懐かしい気配で唐突に覚醒した。
「声が見える…そこに…誰かいるのか?」
《あなたは…?》
「俺はルビコニアンのアクス、君は…?」
《わたしは…シンシア。コーラルの織りなす波形から生まれました》
目覚めたばかりのわたしに名前は無いはずなのだが…誰かにそう呼ばれたことがあるような気がする。
「コーラルから…生まれた…?」
《…その…良ければ、あなたの側に居させてくれませんか?》
わたしがそんな提案をしたのは、わたしとアクスの間にある違いとこの世界について知りたい。そう思ったからだ。
「?まぁ、それくらいなら良いが…」
そうしてわたしは「ルビコン3」に生きる命を、そして「ヒト」をアクスの側で学ぶことになった。
アクスにはソフィーという幼馴染みが居て、同じ場所に集まった集落の仲間達と協力しながら日々を過ごしているらしい。
コーラルによって汚染され痩せた大地で惑星封鎖機構に抑圧されながら、それでも人々は懸命に生きている。
「俺たちのやっていることってさ、シンシアからしたら同胞を…」
コーラルの恵みを以って人々はミールワームを育み、血肉を成す。人々がこの地で生きて来られたのは、間違いなくわたしの同胞たちの犠牲があったからだろう。彼はそのことを気にしてくれているらしい。
《大丈夫、尽きることはないから心配は要らないよ》
コーラルは自己増殖する生体物質だから、どれだけ使った所で支障は無い。人間でいう髪の毛…いや、髪の毛は再生しない個体もいるから爪と呼ぶべきか?まぁ、伸び過ぎた爪を切って人殺しと怒る人間はいないだろう。
…それに、コーラルが増殖していけば人々の生活を脅かすことになってしまう。助け合ってこれまで生きてきた彼らのことを同胞達が傷付けるなんてことがあってはならない。
アクス達を守る為にも、“私”に何か出来ることがあるのではないか?アクスの後ろで彼らの生活を観察しているだけだった私は、情報導体としてのコーラルの性質を活かして技研の資料を調べ始めた。
調査の結果は芳しくない。コーラルの増殖を制御する方法を技研の人々は見つけられておらず、ただコーラルの危険性だけが明らかになっていくばかりだ。
コーラルが生きる為には、増殖して生きとし生けるもの全てを呑み込まなくてはならない。人を生かすには、コーラルを根絶するしかない。
わたしとアクスが、同胞たちと人々が共に生きられる道は本当にないのだろうか?
「シンシア?どうかしたのか?」
《…!少し考え事をしていたんだ、問題ないよ》
「…?ならいいけど…」
まだ時間はある。人とコーラルが共に生きられる未来も、きっと見つかるはずだ。
技研都市の論文から、共生の可能性を見つけた。
…「コーラルリリース」これが果たされれば、人とコーラルはひとつになれる。
…私は、アクスを通じて人を知った。アクスは幼馴染であるソフィーを始めとしたルビコニアン達と手を取り合って今を生きている。
だが人とコーラルがひとつになってしまえば、彼らが手を取り合うことは出来なくなってしまうだろう。だから…
《アクス…私は、コーラルを焼き払いたい。力を貸してくれないか?》
「なんで…そんなことを…?」
《生きる為にコーラルを手放せないのは分かるけれど、同胞たちをこのままにしておけば君の大切な人たちは生きることすら叶わなくなる》
「でも…そんなことをしたら君は…」
《ルビコニアンにとってコーラルは必要かもしれないが、人類にコーラルは不要だ。大丈夫、私が指向性を持たせればアイビスの火よりも被害は小さく…》
「そうじゃなくて、君はどうなるんだ」
《…?そりゃ消えるよ》
「人は君の同胞を貪って生きてきた…それなのに君は人の為に死ぬのか?」
《アクスは私に、人の営みの尊さを教えてくれた。君たちを守れるなら、死んだって構わないよ》
「…俺たちにはコーラルが必要だし、俺だって君という友人が自殺しようとしている姿は許容出来ない。何とか共存出来ないのか?」
《人とコーラルは相容れないよ。仮にお互いを理解し合えたとしても、コーラルがコーラルである限りは》
「っ………」
《…さよなら、アクス。私は…君たちの為に、火を点けてみせるよ。ソフィーと…お幸せに》
交渉は決裂。私の提案が受け入れられないのは分かっていた。アクスは優しいから、コーラルを失って苦しむ人々も、犠牲になろうとする私のことも認められない。
だからこれは私が彼への未練を断ち切る為の意志表明、だったはずなのに…
「良かった…目が覚めたんだね…!気分はどう?おかしいところは無い!?」
…ソフィーが私に話し掛けている?いや、アクスがおかしいだけで普通の人間が私と交信できる筈が無い。周囲を見回せば、すぐに理由は明らかになった。
「アクスはコーラルの発掘調査中に井戸に転落して意識不明になって…それで…」
どうやら、井戸に落ちた彼の身体の意識を私が上書きしてしまったらしい。
…やはり、私達コーラルは存在してはならないものだ。人の死体に乗り移ってその身体を弄ぶなど、あって良いはずが無い。
アクスはもう居ないけれど、彼の大切な人達はまだこの地に残されている。彼の代わりに人類の今を、そして未来を守り抜かなければならない。これが私の、果たすべき使命。
彼の肉体があれば、これまでは取れなかった手段も選べるようになる。行き詰まっていた計画も進められそうだ。
観測者達の結社もじきに動き始める。まずは彼らに接触する為に状況を整えなければならない。
…独立傭兵オルクスを名乗ってウォルターの猟犬…C4-621レイヴンとの接触に成功。想定より早く信用を得ることも出来たのだが、ひとつ問題が発生。
レイヴンが私の同胞…Cパルス変異波形エアとの交信に成功してしまった。
エアの自我は既に確立されている。私よりも早い段階で目覚めていたか、あるいは過去にも交信の経験があるかのどちらかだろう。
彼女の行動によっては、レイヴンがコーラルを焼くことを躊躇ってしまうかもしれない。そうなった場合私は…彼女に武器を振るえるのだろうか?
「…ざいれむをとめたいの。オルクス…ちからをかして…!」
危惧していた事態が起きてしまった。レイヴンはハンドラーの遺志を継ぐことよりも、エアの望みを聞き届けることを選択したのだ。
「わたしは…ゆうじんのねがいを…ひととこーらるがともにいきるみらいをしんじたい」
それは、かつての私が望んでいたもの。考えが甘過ぎると、今の私が切り捨てた夢。
私は、コーラルを焼かなければならないのに。コーラルは、この世界に存在してはならないのに。分かっているはずなのに、彼女達の願いを否定出来ない。
ここで彼女たちの決断を肯定したら、きっと私は後悔する。アクスへ一方的に決意を押し付けて去るべきじゃなかったと。彼と一緒に、歩み続ければ良かったと。だけど…私は…
「81,000COAMの20%ね…随分としょっぱい報酬だな」
「…ほうしゅうがたりないなら…!」
「…でも、それで良い。この条件で、僚機申請を引き受けるよ」
自分の使命を曲げてでも彼女達が作る未来を見てみたい…そう思ってしまう程度には、レイヴンに絆されていたんだ。
「…!ありがとう…!」
…紅き奔流が、
…彼女達の創っていく未来を見届けられないことは惜しいけれど、十分良い夢を見せて貰った。後悔はあるけれど、私の終わり方はきっとこれで良い。
「向こう側」に、アクスは居るのだろうか?いや、居たとしても会うことはないだろう。私は殺し過ぎた。それなのに、コーラルを焼く為に殺してきた人々の死は全て無意味になったのだから。
…私は人のことが好きだからここまで戦ってきたつもりだったが、どうやら違ったらしい。
アクスやレイヴン…好きな人の為にここまで戦ってきただけというのが、私の本質なのだ。
ならば今は…ふたりが願う未来が、無事に成就することを願おう。
オルクスっていつもそうですね…!
残されるレイヴンのことなんだと思ってるんですか!
勝手に満足してんじゃねーよクソボケ
今後文字色とか使う可能性があるかもなので聞きたいのですが、ハーメルンは
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白背景で利用している
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黒背景(夜間モード)で利用している