違います。放置していたわけじゃないです。展開が思い浮かばなすぎて別の二次創作に手を出していただけです。
こんなに時間が空いてもなお感想が来るのは嬉しく感じています。
漸くですが少しずつ更新していきたいです。できるならアビドス編は終わらせたいなぁ。
1年経つので書き方がめっちゃ変わってるのはご愛顧。
無貌が煙から飛び出すと同時に上空から3羽の鴉が風紀委員を取り囲むように飛び回る。突如、空中に現れた鴉はカァカァと鳴きながら翼を羽ばたかせる。上空にいるのはその3羽だけ、他の鴉が寄ってくる様子もその3羽がその場からいなくなる様子もなく、ただ只管決められた道を行くように風紀委員のいる範囲内を飛び回る。
「なんだこれは?羽根?」
イオリが鴉から落ちてくるものを無意識に手に取る。
それは鴉の羽根。本来、このように数多く落ちてくる筈ではないもの。それが大量に雨のように降ってくる。他の風紀委員も体に付着するものを鬱陶しそうに振り払う。
何故ここまで多く落ちてくるのか。何故鴉がいきなり現れたのか。心の内底からいくつもの疑問が絶えず湧き上がる。何時もならその疑問を解消するために考えを巡らせるのだが今は違う。
「無貌との距離、100mを切りました!!」
「クッ、迎え撃て!!」
こんな鴉の羽根などより目の前の敵である。
イオリは手に取った羽根捨て正面の戦場を見る。更に20m、10mと無貌と風紀委員会との距離は縮まる。
未だに降り続ける鴉の羽根が頭や体に付着する中で風紀委員は銃を構える。全員が目の前の無貌に標準を合わせる。
そして一斉にトリガーを引く。
カチッカチッ
全員の銃から同じような音が鳴る。誰1人銃から弾丸を放っている人物がいない。
弾を込め忘れたのか、使い切ったのかと弾倉を見てみるもちゃんと弾は入っている。はて、と不思議に思いながらももう一度トリガーを引く。しかし、弾丸は出ない。
「なんで!?」
一人の風紀委員が声をあげる。致し方ない。何もしていないのに銃が使い物にならなくなったのだ。それも、つい1時間前まで普通に使えていた銃がだ。
その瞬間を見逃さなかった無貌は1人の風紀委員に近づき胸近くに銃口を向けデザートイーグルを撃つ。
鈍い着弾音と共に風紀委員は前方に倒れ込む。頭の上のヘイローが消えていることから気絶しているのだろう。
無貌は気絶した風紀委員を抱えると別の風紀委員へと投げつける。いきなり人を受け止めた風紀委員はそれを追従する形で肉薄した無貌に一撃で気絶まで持っていかれる。
銃が使えずあたふたしている風紀委員は無貌1人に簡単に制圧される。
「銃がダメなら戦車だ!!やれぇ!!!」
イオリは背後で待機していた戦車に向けて大きな声で命令する。
異常事態のため思考が纏まりきっていないのか、何時もなら気づいていたであろうことに気づかない。
1秒、2秒、10秒経っても戦車特有の心臓に響く重低音の砲撃音が聞こえない。
不思議に思い始めた頃、戦車の中から1人の風紀委員が頭を出す。
「戦車の砲撃が出来ません!!」
「っ!?チッ、貴様何をしたッ!!」
イオリは自身のkar98kの銃口付近を持ち棍棒の要領で振り下ろす。キヴォトス人特有の異常なまでに発達した腕力から繰り広げられる一撃は容易に無貌の意識を刈り取ることができる。
しかし、無貌もこの程度で終われるほど柔ではない。軌道を予測し、振り下ろされる地点を避けて、イオリの脇腹へと銃口を向ける。
ドンッと乾いた音が鳴った。銃弾はイオリの脇腹を捉えるも然程ダメージが入っている様子がない。やはり。胸や頭といった急所があるところでないと簡単に倒すことはできないようだ。
「こなくそぉ!!」
「…くっ」
イオリが脇腹に走る痛みに耐えながら振り下ろしたkar9kを今度は力を加えて振り上げる。ストックについた棘のような部品が殺傷能力を持って無貌の顔に掠る。ピシッと無貌の頬に1筋の赤い線が現れそこから止めどなく血が流れ出る。結構深いところまで切れたのか止まる気配は一向にない。
「何故襲う!?」
「それはこっちのセリフだ」
弾丸を放つ、銃を振り抜く、2人は激しい攻防の中で叫ぶ。
イオリにとっては無貌に襲われる理由がない。先ほどの店への襲撃も便利屋68を捕えるという立派な理由を持っているのだ。何一つ関係ないであろう無貌にこうまでして襲われるわけがない。
「一歩間違えればあそこの一般人が被害にあっていただろ?」
「何故だ!?ここはアビドスの所有している土地じゃない。ここで営業しているなんて犯罪者と同類だ!!」
「……ああ、そうかい。だがね、一歩間違えれば死んでたんだぞ?君たちみたいにヘイローを持った人じゃないんだよ」
死。それはヘイローを持つ生徒には理解しにくい事柄。
銃弾を受けても砲撃を受けてもほぼ無傷でいられる彼女らは、ヘイローを持たない一般市民の感覚を理解できない。一般人は銃弾を受ければ当たりどころが悪ければただでは済まないだろう。砲撃などもってのほか。
イオリは突然言われる『死』という概念に少しだけ怯む。
「だ、だからどうした!犯罪者など死んで仕舞えばいいだろ!!」
「…本当に理解していないな。もういい、話し合いじゃあ解決できそうにない」
無貌は白衣を脱ぎ捨て、無骨で体温の感じない無機質な右腕を露出させる。
イオリは突然脱ぎ出した無貌に驚くも、それ以上にその右手に興味を示す。
「ふん、何かと思えば義手か?」
「まあな、露出しないと排熱が難しいんだ」
ああ、あと。と無貌は左手に握ったデザートイーグルをイオリとは別の方向へと撃つ。
そこには今まさにデバイスを取り出してどこかと通信しているチナツを牽制する。
「勝手な真似はしないでほしい」
「なっ…」
「どうせ、増援を呼ぼうとしたのだろう?」
「ちがっ」
『違います。私と通話をしようとしていたのです』
チナツが落としたデバイスからホログラムが出現する。
そこからは青い髪に排熱機構の搭載された改造制服を着た生徒が現れる。
確か、名前は天雨アコと言った筈だ。
『初めまして、無貌。よくもやってくれましたね』
「はぁ…なんのようだ?俺は今からここの銀髪と殺し合いをするんだが」
『いえ、このゲヘナ風紀委員会を殆どが壊滅させた犯罪者擬きを一眼見たいと思いまして』
悪意の籠った瞳でアコは無貌を見る。仮面によって表情は見えないものの無貌は呆れたかのように肩をすくめる。
「御託はいい。さっさと要件を話せ」
『────何故邪魔をするんですか?』
1トーン下がった声が辺りを支配する。
『貴方にとってここは何も関係ないところでしょう?偶々居合わせただけのはず。それなのに何故、私たちに攻撃を仕掛けて邪魔をするんですか?』
「居合わせた、ねぇ。………お前らの勝手な砲撃であの店の人の命が危ぶまれた。立派な理由だろ?」
『なっ。そんなことで便利屋68を捕まえる邪魔を!?この土地はカイザーのものでその店の人がやっていることは犯罪なんですよ!?』
「ああ、そうだ。
『埒が空きません!イオリ!!やってしまいなさい』
無貌が身体をイオリの方へと向ける。左手にはデザートイーグル、右手は無気力に開いたまま。
イオリも立ち方を改める。銃の先端を握りしめ肩に担ぐ。
今まさに一触即発の空気がこの場所を支配する。どちらが先に動くのか、ただそれだけに注目してしまう。
「まちなさーい!!」
その空気をぶち破るように一際大きな声が響く。
それと同時に彼ら2人の間にいくつもの銃弾が打ち込まれる。
「何勝手にアビドス自治区で戦ってるのよー!!」
先行してきたアビドス高校所属のセリカがそう叫ぶ。
後ろからは他のアビドス所属生徒、そしてシャーレの先生が駆けてくる。
「待ってよ〜、セリカちゃ………」
ホシノが足を止める。その目を大きく見開いて無貌の姿を焼き付ける。表情は後悔や恋慕、ありとあらゆるものを詰め込んだような一言で表せないもの。土色のような真っ青のように顔色は変わる。
その様子に気がつき咄嗟にホシノの手を掴もうとした先生。しかしそれよりもホシノの足が動く方が早かった。
「ウルカ!!!」
足に力を集中させて爆発的な脚力を実現する。地面はその力に耐え切れずに抉れる。走る度に足を付けたところが抉れ、その度に更に力が籠る。一歩でも早く、一歩でも短く、一瞬でも速く、ホシノの頭にはそれだけが湧き上がる。
ホシノの手の無貌の服を掴む……ことはなかった。すんでの所で無貌は踵を返す。ホシノは空気を掴んだ手を一瞥して顔を上げる。
「なんで」
「…ごめん」
それは拒絶だった。無貌はホシノを嗜めるように優しく言葉を紡ぐ。
「俺のことはいいから、幸せになってくれ」
無貌はホシノに背を向ける。
ホシノは脚がすくんで動けない。手が震える。焦点がうまく定まらない。視界に映る無貌が揺れ動き滲み出す。
「待って」
その一言が喉まで上がるも声にならない。その一言さえ言えれば何かが変わるかも。そう思っても声にならない掠れた音しか発せられない。
無理もない。たった1人の、ずっと待ち望んでいた存在に拒絶されたのだ。
辺りを静寂が包む。先ほどまで戦闘をしていたイオリもアコも、介入してきたセリカもノノミも、誰も彼もが無貌の姿を目で追うしかない。ホシノのあれほどまでの執着を目撃してしまったが故にその行先を見ているしかできなくなっている。
だが、1人。たった1人だけはその状況を打破することができた。
「宵闇ウルカ。アビドス高等学校所属。ゲヘナ第三孤児院出身」
女性の力強い声が響く。
それはありふれた生徒の個人情報でしかない。こんなのがこの状況を覆せるはずがない。
しかし、それでも尚、無貌を振り向かせるのに足りる事柄であった。
無貌が勢いよく首を振り向かせる。仮面でわからないがその表情は驚愕に満ちたものだった。
「──────なぜ………何故そのことを知っている!!」
ここ1番の酷く狼狽した姿。先ほどまでの冷静さをどこへやったのかわからないほど無貌は狼狽えていた。
───ありえない。どこにもそれは載っていないのだから。
───そんなはずがない。誰もそれについて話すことがないから。
───絶対にそれは人伝でない限りわからない。情報系は全て消し去ったのだから。
無貌の脳内では素早く情報の伝達が行われていた。どれもこれも、先生が出した自身の情報に関係するため。自身で綺麗さっぱり消したはずの情報が全くもって関係のない外部から来た人物に知られているなど意味がわからない。
───この際、どうしてかはもういい。どうやってそのことに辿り着いた。
「何故って、私には頼りになる相棒がいるからね」
そう言って先生が取り出すのは1つのタブレット。
ありえない。そんな小さな端末一つで辿り着けるほど生優しく消去したはずがない。人伝だとしてもあの頃のことなんて話したい人間の方が少ない。そんな事柄だ。
「私にはあなたの事情はわからない。だけど、手助けしたい。私はみんなの先生だから」
「……………そうか。はぐらかすのか。それならもういい。それは決別した過去だ。あんたがどう使おうが関係ない」
「ちがっ、そういうわけじゃ」
「あんたからしたら俺は生徒だろうが、俺からしたらあんたは先生でもなんでもない。俺に戻る余地など既にないんだ」
突如、一陣の風が舞う。風は砂を巻き上げ無貌と先生の間に濃い砂嵐の壁が生まれる。
数秒経っただろうか。風が止み、見通しが良くなるころには無貌の姿はどこにもなかった。