マジカルレイサが欲しいなぁと思いながらゼンゼロを起動する今日この頃です。
対策委員会編もようやく佳境に辿り着いた気がします。もう少しで対策委員会編も終わるのでそこまで読んでくれると嬉しいです。
────角はいらない。守る家は疾うになくなったから。
────翼はいらない。羽ばたく空もないから。
生きる意味も目的もあの雨の日に全て奪われた。
◇
「それで、アロナ。本当に宵闇ウルカがアビドスに来る前にいたゲヘナ第三孤児院についてあれ以上の詳細を調べられないの?」
『はい。ネットの深層に潜っても精々名称までしかわかりません。ゲヘナ公式のホームページ、孤児院のリスト、ありとあらゆる情報に穴があるように思います。おそらく、彼が消したのかと』
先生と呼ばれる女性は椅子の背もたれに寄りかかる。その顔には焦燥感が貼り付けられている。あの時の彼のことを思い出すと酷く後悔してしまう。仮面で隠れているとはいえ、驚愕は声色から簡単に伝わった。情報を消されており彼のトラウマもしくは何かしらのターニングポイントであることは容易に理解できる。それでも、あそこで言わなければ彼はあのまま消えていただろう。言ったところで消えてしまったが、それでも確実に楔は打てた。彼はこの後、いつになるかはわからないが私を尋ねに来る。それだけはわかる。
「アロナ。今からゲヘナに向かおうと思う」
『わかりました。…やはり、彼についてですか?』
「まあね。彼は否定するだろうけど、ちゃんと私の生徒だからね」
そのために、まずは彼についてちゃんと知ろう。
◇
暖かいクリーム色の思い出。
孤児院の室内に自分を含む多くの子どもが遊んでいる。
みんなどこかしら歪で変に交じり合い、それでも笑顔で生きていた。
先生はいつも優しい声色で僕たちの頭を優しく撫で、たくさんの見知らぬ物語を語ってくれた。
先生はこの孤児院から出られない僕らに「いつか必ず、この広い世界を見せてあげる」と夢を見せてくれた。
◇
ゲヘナ学園内にある風紀委員会。その施設の委員長室に先生はやってきていた。委員長の空崎ヒナはデスクに座って書類の山に向かっていた。今日はあまり事件がないのか幹部メンバーが勢揃いしている。
「それで先生、話って?」
「忙しいところを邪魔したね。……ええっと、それで話ってのはゲヘナ第三孤児院についてなんだけど」
『ゲヘナ第三孤児院』というワードを出した途端に空崎ヒナと天雨アコの体が強張る。
「先生、何処でそれを知ったの?」
「何故3年前に無くなった孤児院について調べるのですか?」
驚愕の声色を浮かべながら彼女達はそう返答する。対照的に銀鏡イオリや火宮チナツはなんのことかわかっていない様子。
「無貌こと宵闇ウルカについて」
「なん、」
「アレが生きていたんですか!?」
アコが先生の目の前のテーブルを叩き壊す勢いで手をつき顔を近づける。
その顔には先ほどと同じ驚愕、それに加えて畏怖や恐怖の表情が貼り付けられている。
「やめて、アコ。……先生、ごめんなさい。その場所はゲヘナじゃあタブーなの。ゲヘナ、トリニティ両方の後ろ暗い出来事だから部外者には教えられない。例え、先生でも」
今にも取っ組みかかってきそうなアコを制しながら説明する。
「部外者じゃないよ。私は宵闇ウルカを知っている」
「そう。なら、いいよ。教えてあげる。ただ、私の話だけじゃ不十分だから、終わったらトリニティにも聞きに行ってほしい」
ヒナはデスクから離れ、先生の座るソファの向かいに座る。そして、一言一言噛み締めるように話し始める。
◇
夢は夢。いつか醒めることになる。
私たちが幸せに生きていられたのは儚い夢に過ぎないことをあの日知らされた。
先生のいない夜。耳のいい子が、目のいい子が異変に気付く。
私たちの前に広がるのは悪意に染まった真っ赤な景色。先生が私たちから遠ざけた世界。
私たちは人々の悪意と嘲笑の混じった世界に押し潰される運命だった。
◇
「先生は〝普通〟ってなんだと思う?……キヴォトスには数多くの人がいる。動物の特徴を持った生徒やゲヘナの生徒みたいに角や羽を持つ生徒。トリニティに多く見られる鳥のような翼を持つ生徒。…でも、そのどれにも当てはまらない、いや、どれにも当てはまる異質な人がいたら。それって普通って言えるかな?」
「───それは、、、普通だと思う。だって、みんなこの世界に生きている存在でしょ」
「うん、それが一番。でも、それすらできないところだってある。ゲヘナはトリニティを毛嫌いしてる。トリニティも同様にゲヘナを毛嫌いしてる。どちらも出会っただけでドンパチし出すほどのこと。これは、キヴォトスで生活してれば耳にするくらい〝普通〟の出来事なの。じゃあ、そんな中でゲヘナとトリニティ両方の身体的特徴を持った存在が現れたらどうなると思う?ゲヘナ生徒に多い角とトリニティ生徒に多い白い翼を持った子」
「……どちらからも、追い出される」
「それどころかあの時のゲヘナとトリニティは、その子を親の仇、いや殺す勢いでいた。それが宵闇ウルカ。男子だったのもそれに拍車をかけたの。そして、」
「彼を保護してたのがゲヘナ第三孤児院」
「実際は他にも同じような子供を一様に保護してた孤児院。動物の耳に羽を持つ子供やゲヘナ生徒みたいな尻尾と動物の耳をもつ子供とか十数人。彼女達は同様に生まれた自治区から追い出され孤児院に拾われたの」
「それじゃあ、なんで今はなくなって」
「簡単なこと。ゲヘナとトリニティはその孤児院が目の敵だったから。その2校の特徴を持った子どもが居るんだから当然よね」
◇
初めに真っ赤な孤児院から飛び出したはーちゃんが撃たれた。先生を呼びにいくために飛び出たら頭を撃たれた。真っ赤な花が咲いて動かなくなった。
次に尻尾に火がついて逃げ出したさっちゃんの胸に花が咲いた。
恐怖で固まるたっくんは煙に巻かれて動かなくなった。
みんな、みんな、みんな、みんな、みんな、みんな、みんな、みんな、みんな、動かなくなる。
僕らの家は燃やされ、僕らの尊厳は踏み躙られ、僕らの命は奪われる。
そして、僕は捕まった。
◇
「決行の日。当時1年生だった私やアコも参加した。万魔殿とティーパーティーが主催だったから風紀委員会にいた私たちが駆り出されるのは当然みたいなことだった。3年生が中心となって、孤児院院長がいない時を狙って火をつけた。『異端には火を』よくあるスローガンだったけど当時のゲヘナやトリニティには大きな旗印となっていた。そして、火によって炙り出された孤児が出てくるのを狙って銃を撃った。キヴォトスの人は銃に大きな耐性を持つからこの程度じゃ問題ないはずだった。上もちょっと脅かしてゲヘナでもトリニティでもないところに行って欲しかった。でも──────」
「でも?」
「脆かった。弱かった。銃火器で簡単に被害が出る体だったの。だから、死んだ。みんな死んだ。その場の高揚感で動いていた誰もがその光景に血の気が引いていた。脳漿が溢れ、四肢が捥げた。一時は悲鳴が喚き声が昂揚を煽ったのに、数時間経てば頭にこびり着いて離れなくなった」
先生はキヴォトスに来る前の世界の話を思い出す。戦争経験者は重度のPTSDに陥ることがある。それは自分が殺した人を幻視し、その時の感触を思い出すからだ。それにより多くの患者が普通の生活すらままならなくなる程、トラウマというものは深く根を張る。
「それでもまだ戦意のある両組織のトップが孤児院の中を確認して見つけたのが、宵闇ウルカ。彼女たちにとっては本来の目的が悪魔の角と天使の翼をもつ彼だったから、彼を見つけるまでは終わらせようにも終わらせられなかったのでしょう。そして起きたのは彼への暴力。幸い、と言っていいのかわからないけど、彼は私たちと同じくらい体が頑丈だったから無事だった」
◇
蹴りを受ける。
蹲る僕のお腹に鬼気迫った誰かが蹴りを入れる。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
でも、みんなよりは全然痛くないんだろう。
周りで誰かが見ている。ぼんやりとしか見えない視界に映るたくさんの目。
何を見ているのだろう。これらもみんなを殺したんだろう。何をしてるんだろう。
あぁ、みんなが褒めてくれた角が折れた。
みんなを包み込むための翼が捥がれた。
あぁ、なんでこうなったのだろう。なんで、みんないなくなるんだろう。嫌いだ。
◇
「業を煮やした彼女たちは彼の象徴である角と翼に手をかけて奪い取りました。これでもう終わりです。二つの組織は臨時の同盟を破棄し、元いた自治区に帰って行きました。そうして、私たちが三年になる時までいがみ合っています」
「これが、私たちの罪。どうですか?笑えるでしょう」
桐藤ナギサはそう自虐するように笑った。
「…そんなことは」
「お優しいですね。ですが、大丈夫です」
2人はトリニティ郊外を歩いていた。人の手が疾うに消えた草木の生い茂るアスファルトの上を道ながらに進んでいる。途中からはアスファルトすらない田舎道。土が剥き出しになった道の先には小高い丘がある。
丘の上には一つの教会の廃墟が辛うじて建っていた。
建物の外壁は黒く焦げており、誰も修復をしていないのか今にも崩れそうだ。しかし、建物周りには雑草がなく、普段から手入れされていることがわかる。
廃墟の近くには一つの大きな木が生えており、その根本に一つの石碑がある。墓だろうか。
そして、その石碑を丁寧に拭いている少女の姿もそこにはあった。
「あれ、黒百合さん?」
黒百合と呼ばれた少女は驚くことなくゆっくりとこちらを振り向く。
血のように赤い長髪に同じく深紅とそれとは相反する蒼穹のオッドアイ、時計の針と歯車を組み合わせたようなヘイローを持つ彼女はスカートについた土を払い落とす。
「ナギサさんではありませんか。どうしてこのようなところに?」
「先生の案内です。とある人物について知りたいとおっしゃられたのでここへ来ました」
「そうですか。では、私はこの辺りで帰らせてもらいます。丁度手入れも終わったことですし」
黒百合と呼ばれた少女は恭しく一礼するとナギサと共に来た道を遡るように歩き始める。
ふと、先生の脳裏に彼の姿が映る。彼女とは似ても似つかない姿形である筈なのに何故か重なって見えてしまう。
「あの、何処かで会ったことあるかな?」
一瞬だけ瞳が大きく開かれた。しかし、すぐに平静を取り戻し先生の方を見ることなく言葉を紡ぐ。
「なんのことでしょうか?私はあなたのことなんて知りませんよ」
黒百合と呼ばれた少女はそのまま街へと消えていった。
「ナギサの知り合い?」
「ええ、まぁ。彼女は黒百合ホズキ。元々私のサポートをしてもらっていました。もう疎遠ですけど。彼女は今ゲヘナとの外交を担当している筈です」
「聞いていいことなのかわからないけど、疎遠になった原因とかは…」
「なんてことない喧嘩ですよ。本当になんてことない」
「それで、ここが宵闇ウルカたちの住んでいたところです。あの出来事以降誰も住んでいないのでこれほど風化しています。時折、黒百合さんのような物好きが手入れをしているようですが、それでもまぁ、あと数年すれば倒壊して自然の一部になるでしょうが」
ナギサは道中で購入した花束を大樹の根元の席にの前に供える。石碑には12人の名前が刻まれている。その中に宵闇ウルカの名前はなかった。
「さて、この辺でよろしいでしょうか?私はこの後、エデン条約締結に向けた会議をしなければいけませんので」
「うん、忙しい中ありがとう」
「いえ、私もここに来ないといけないような気がしましたので。私が殺した彼女たちに私の決意を伝えるためにも」
そのあと、ナギサと先生は石碑の前で手を合わせて死者に思いを馳せた。
ここで亡くなった子供のためにもエデン条約締結が目標となったナギサ、もっと早く来ていればこんな悲劇が生まれなかったんじゃないかと考えてしまう先生。かたや過去に、かたや未来に目を向けて思いを馳せる2人はとても対照的で、決して相容れないものであった。
時間が経ち、シャーレに戻った先生。
少しだけでも宵闇ウルカについて知れた先生は少し笑みを浮かべ執務室に入る。
「やぁ、シャーレの先生」
そこには机に腰掛け、仮面も取り払った宵闇ウルカの姿があった。
ナギサ様にはセイアとかヒフミとか以外にも止まることのできない理由を用意したかった。
何処ぞの衛宮切嗣のように、ここで止まれば過去に犠牲になった人たちはなんだったんだと思える枷を用意してあげました。