ゲヘナ学園風紀委員副長、レイジです。 作:QAAM_M1911
「シャーレの手はまだゲヘナには伸びませんか……まぁ仕方ありません。募集こそ来ても風紀委員会全体が忙しいのですから。まず協力しないことには……ですがその穴を埋められるほど治安が良いわけでもない。」
四苦八苦中のレイジです。ホントにキツいのなんの、シャーレが活動を始めて少ししたが、物理的な距離が遠い関係上、ゲヘナへの介入はまだ先になりそうだ。
「レイジ。ちょっと、良い?」
「どうしましたか?」
「情報班からの報告があった。先日の違法製造された兵器の売り手が、アビドスで確認されたみたい。」
「距離も程遠くない……風紀委員で対処したい所ですが、ふむ……」
アコが第1〜3分隊を駆使して遊撃を組んでいる現状、控えも必要になる。自由に動ける人員は委員長のヒナしかいない。確かに捻出すれば臨時分隊を組めるだろうが、そんな時間を潰すならヒナを出した方が早いし確実。
「私が行くわ。」
「えぇ、私もそう思っていました。情報は多めに欲しいので……このカメラを持っていってください。」
「待ってて。すぐに終わらせてくるから。」
「待ちなさい、今何時だと思っているのですか。仕方ない、私がバックアップをしますから……失礼、アコは居ますか?」
『アコ行政官は執務中です。なにやら大慌てでしたが……何かありましたか?』
「であれば伝言を頼みます。明日ヒナ委員長と私が偵察任務に出ます。共に明日は不在と伝えて下さい。」
『……えっと、それでしたら我々を動かしても良いと思いますが……』
「かなり重要度と危険性が高い任務です。あなたたちを出せる程生優しいところではありません。明日は業務はいつも通り行いなさい。何か連絡事項があればメールの方に。」
『り、了解です!!』
通信を切ると、風紀委員会の制服の上にジャケットを羽織る。
「帰りましょう。明日の計画を練らなければ。」
「分かった。」
「では、明日の作戦をおさらいしましょう。復唱始め!」
「作戦地、アビドス市街地の外れ。構成員、空崎ヒナと暁星レイジ。目的、ゲヘナに侵入した違法兵器の売り手の追跡。移動方法、バイク。」
「よろしい。ではブリーフィングを終了しましょう。」
彼の顔が仕事モードからプライベートへと緩んでいく。
「お疲れ様。コーヒー飲むか?」
「眠れなくなるからいい。朝に頼もうかしら。」
「はいはい。」
その口調も非常に柔らかいものだ。彼は意図的に人格を変えている、と思える程普段とプライベートの性格が乖離している。激務が祟っているのかそうでないかはいざ知らず、休日は基本家に篭っている。そのため、この顔を見た事があるのは幼馴染のヒナ以外に居ない。
「いつ見ても、あなたの家は広い。」
「色々趣味を考えたらな……嫌でもこの広さは欲しかったんだよ。」
「……ロボット、やっぱり作ってるの?ミレニアムに行けば良かったのに……」
「お前を置いて高飛び出来るかっての。それに、話は合いそうでも目指すものが違う。」
「……レイジが望む事って、何なの?」
「飽く事なき闘争、そして浪漫だ。最後に平穏があればバッチリだ。」
「……変なの。矛盾してるじゃない。」
実際そうだ。だが、それこそ彼の目指す場所でもある。銃で撃たれても死に難い、この世界だから目指せる目標なのだ。
「そうだな、結局楽しめれば良いだけさ。さ、寝よう……って帰れよ。隣だろ。」
「面倒くさい。泊まってく。」
「……ベッド使え。俺はソファで寝る。」
「一緒に来て。」
「……おいもう俺はガキじゃねぇんだぞ?読み聞かせはいらねぇぞ?」
「今度は私の番。寝かしつけて。」
「はぁ……ったく、お前が寝るまでだ。」
趣味がヒナな残業中のアコよ、皆まで言わんが……強く生きろ。
レイジです。朝起きてすぐに飯の準備とバイクの用意をしている。昔はよく互いの部屋に泊まりに行ったりはしたが、ここ3年はそう言えば無かったな。
「お、おはよう。よく眠れたか?」
「……まぁまぁ、かしら。けどいつもよりは。」
「飯出来てるから、食ったら準備しよう。」
「……久しぶりね、レイジのご飯を食べるの。」
「とは言え、最近料理してなかったからな。味は保証出来かねん。」
フライパンからスクランブルエッグとベーコンをよそい、トーストと共に出す。因みに昼飯はレタスとたまごのサンドイッチ。
「ありがとう……そろそろ行こう。早く終わらせよう。」
「……そうですね。では作戦を開始します。乗ってください。」
バイクに跨ると、ヒナがサイドカーに乗る。ヒナの銃であるデストロイヤーはそこに擬似タレットとして載せられるようにしてある。本来は俺の銃が搭載されるが、バイクである以上、デカブツは一本しか載せられん。今日は
「20分ほど掛かります、揺れに注意してください。それは一応撃てるようにしてますし、弾薬も予備がありますが……あくまで偵察任務です。撃つ事は極力避けなさい。」
「分かった。」
「もし事態が悪化した場合は射撃許可を出します。」
とは言え、俺もヒナも元々情報部出身だ。偵察も幾度かやっているし、万が一でも俺とヒナならどうにかなる。今までもそうやって切り抜けてきたのだから。
「……車列を追って1時間くらい。そろそろ砂漠の真ん中……かな。」
「いえ、絶妙にハンドルをきり続けています。そこまで深くはないでしょう。」
「……と、なると。ブラックマーケットに近くなる。そろそろ切り上げた方が良いかしら?」
「そうです……いえ、目標発見。偵察を開始しましょう。」
車列が入っていったのは、砂漠の中にあった基地。見つからない様な距離の少し丘の様になった場所にバイクを止め、反射を抑えた特殊スコープで覗き込む。
「……カイザーPMC。何を企んでるの?」
「変ですね。ここはアビドスの砂漠ですよ。管理しきれていないにしても、カイザーも馬鹿ではありません。他人の土地に基地を建てる真似はしないはず。」
「それは正直、どうでもいい。とりあえず、基地の偵察を」
「……いや、これ以上はやめておきましょう。座標は記録しましたし、銃の違法売買にカイザーグループが絡んでいる証拠を掴めたのです。喉元の刃……とまでは言いませんが、かなり痛いものになるでしょう。」
「分かった……ん?」
バイクのエンジンを掛けた時の事だ。俺とヒナの端末が同時に震える。俺は運転しなければならないので、ヒナに会話をしてもらう。
「どうしました?」
「……アコがアビドスに向かって委員を派遣したみたい。」
「どの部隊を動かしました?」
「第1から第8分隊、イオリとチナツが現地に居るって。」
「待て、となると昨日のアコの申請は虚偽だと……?」
「反省文何枚が妥当?」
「再教育も必要によっては考える必要はあります。いくら行政官とて他の自治区に入るのであればヒナと私の承認が必要になります。それを破るとは……余程の事があったのでしょうか?」
「分からない、けどアコは時々思い込みで暴走するから。」
「……取り敢えずアビドスに向かいましょう。風紀委員会に通達、コンディショングリーンからライムに引き上げなさい。それと
「風紀委員会、第三陣を展開してきました!」
「はぁ……はぁ!?まだ居るの!?」
アビドスの対策委員会、そしてゲヘナから半追放されている便利屋68の面々が息を切らしながら増援をみやる。指揮でどうにか戦力差を誤魔化しているが、これ以上長引けば徐々にすり潰されるのも時間の問題だ。
「……おかしい。これはもう、アコの権限で動かせる兵力を越えてる。」
「風紀委員長と副長も来るってこと……?」
「えっ、ヒナとレイジが来るの!?無理無理無理!?逃げるわよ早く!!」
「でも、百歩譲ってヒナは誤魔化せても副長を欺くのはまず無理。そうなると、2人は不在の可能性が高い。」
“副長?”
便利屋68の中でも、風紀委員会と少々繋がりがあったらしいカヨコがそう口に出した。やはりと言うべきか、途端に風紀委員会の動きが鈍った。
『アコ、何をしているのですか?』
『え?へ、ひ、ふ、副長!?』
『アコ。』
『ひ、ヒナ委員長まで!?』
「あ、あの通話相手が……?風紀委員会のトップ2ってこと……?」
最初に聞こえた声は男のものだった。後から続く声が風紀委員長のものであるのは想像に容易い。
『お、お二人は確か極秘任務に行かれてたのでは……』
『アコ。今どこ?』
『わ、私ですか?私は……そ、その……』
「思いっきり嘘じゃん!」
「やっぱり、行政官の独断行動だったみたいですね……」
『ゲヘナの治安維持をするため、パトロールに出ているのではありませんでしたか?』
『そ、それは……』
『そ、それよりお二人はどうしてこんな時間に……』
『今終わったところです。それより話を逸らさないでください。現在パトロール隊が居ない状況ですので、Ⅴ番隊を展開しました。』
『ご、Ⅴ番隊……』
『今ヴェスパーが温泉研究部の追撃に行ってる。この意味、分かってる?それとも、そんな大部隊を独断で、しかも他の学園の自治区で運用しないといけない理由があるの?』
過剰とも思えるが、真実であればこの追及は至極まっとうなものであると感じた。それより、遠方からエンジンの音が聞こえて来た。その音は徐々に近づいて来て、その音に風紀委員たちは恐れ戦いている様だ。最早戦闘は停止した。
『えっ?』
「い、委員長と副長!?」
「アコ。この状況、きちんと説明してもらうから。」
「全く……副長の権限より総員に命令します。銃を降ろせ。これ以上の戦闘行動をした場合は再教育センターに送ります。この意味、貴様らには分かるはずだ。」
風紀委員会の体制が整備されたため、戦闘員の量こそ減りましたが総合力で見ればキヴォトスの治安維持組織の中でぶっちぎりの戦闘力を誇ります。まぁ流石にSRTだと無理。ただそれでも追いつかない量の事件が起きる。