ゲヘナ学園風紀委員副長、レイジです。 作:QAAM_M1911
『ゲヘナの風紀委員長……空崎ヒナ。そして副長の暁星レイジ。外見情報も一致します。間違いなく本人の様です。』
ゲヘナ学園の治安維持組織とは聞いていたが、まさか男子の生徒が副長をしているとは。勿論顔も名前も一致しているけど、男子禁制とも思える様なキヴォトスでその手腕を振るっているのは、只者ではない……なんて評価に収まらないだろう。
「総員、聞いていませんでしたか?銃を下ろしなさい。構えていては話が出来ない。ヒナ、アコとの話は任せて大丈夫ですか?」
「うん。撤退準備を進めさせて。」
「了解しました。」
既に便利屋68は逃げている。アコが彼女らを捕まえる事を口実としていたのだから、証拠がなくなっている。と言うか、もうヒナは大体の事情を把握している様だ。
「アコ、詳しい話は帰ってから。通信を切って校舎で謹慎、いい?」
『……はい。』
気が付けば、風紀委員会は撤退準備へと入っていた。とは言え、ほぼチナツが主体となって準備を進めている。殆どの戦闘員が負傷しているから、救護班と最後の一押しであった第八分隊しか手が回せないのだろう。
「……じゃあ、改めてやろうか。」
『ま、待ってください!ゲヘナの風紀委員長と言えば、キヴォトス最強の1人とも言えるほどの、強者中の強者です!それに、特殊部隊“ヴェスパー”の隊長である暁星レイジだって、相応以上の力を持っているんですよ!?下手に動かず、一旦交渉するのが吉ですっ!』
「こちらの力を誇示する形になってはしまいますが、理解してくれているなら話が早い。とりあえずここはお話をしましょう。」
「ご、ごめん……」
一歩前進するレイジ。懐から取り出した眼鏡を掛けると、ホログラムのアヤネに向かって一礼する。
「ゲヘナ学園、風紀委員会副長の暁星レイジです。」
「同じく風紀委員会の委員長、空崎ヒナ。」
『こちらアビドスの対策委員会所属、奥空アヤネです。初めまして。この状況については理解されていますでしょうか?』
「もちろんです。事前通達ナシで他校の自治区における兵力の無断運用、それに関連する他校生徒との衝突。しかし、そちらの生徒による風紀委員会の公務執行妨害もまた事実です。」
「それはそうかも。でも、私たちの意見は変わらない。」
『ちょっと待ってください!?セリカさんもノノミさんも頷いてないで止めてくださいって!?あうぅ……こういう時にホシノ先輩がいたら……!』
ホシノ……一体何処にいるのやら。ホシノの名前が出ればヒナの表情は変わり、レイジの顔は少しばかり険しくなった。
「アビドスのホシノって……もしかして、小鳥遊ホシノ?」
「うへ~、こいつはまた何があったんだか。すごいことになってんじゃーん。」
「話題の中心人物がいらっしゃいましたか。」
「ごめんごめん。ちょっと昼寝しててね~、少し遅れちゃった。」
「……ヒナ?どうしました?」
「……もしやり合うとしたら、レイジ一人で残りの3人を相手取れる?」
「ふむ……難しいですね。流石にアジャストメント*1を置いて来てしまってはどうにもなりません。というか、それがあっても1対3はキツイです。せめてLCが欲しいところです。」
ヒナの顔は驚愕に染まっている。まぁ無理もない、俺も閲覧した事がある資料に乗っていた、狂暴さは鳴りを潜めている。少々拍子抜け……とは言わないが、傍から見ればオーラなんてものがない。
「ゲヘナの風紀委員会かぁ……便利屋を追ってここまで来たの?」
「そういう事になりますね。」
「うーん……事情はよく分からないけど、対策委員会はこれで勢ぞろいだよ。ということで、改めてやり合ってみる?風紀委員長ちゃん?」
「……一年生の時とはずいぶん変わった、人違いじゃないかと思うくらいに。」
「……ん?私のこと知ってるの?」
「私たちは情報部に居ましたから。要注意人物は把握せねばなりませんでした。無論、あなたはその第一人者。」
「あの事件の後、アビドスを去ったと思ったけど……そうか、だからシャーレが……」
考え込むヒナの代わりに、話を進めよう。そもそもが、外交的なものはアコか俺の仕事だ。アコは今回みたく暴走するので……まぁ、うん。
「とりあえず、我々は今から争う程万全な状態ではありません。今回の件はアコ行政官の暴走とは言え、こちら側の失態です。先の失態、申し訳ございませんでした。今後、風紀委員会が事前通達なしでアビドス自治区に侵入する事はないと約束します。」
「ま、待って副長!あの校則違反者たち……便利屋はどうするんだ!?」
「放っておきなさい。どうせゲヘナには来れないですし、大きな騒動になる可能性は極めて低い。それより、撤収準備はどうなっているのですか?」
「あ、えっと……」
「口を動かすなら手を動かしなさい。何度も言わせないで欲しいですね。私の手を煩わせるな、と。」
自分でもいやに冷静なのが分かる。まぁそれもそうだ、最早怒りを通り越して冷静になっている。
「さて委員長、こんなところで大丈夫ですか?」
「……うん、上出来。」
と言うとヒナが目配せをする。とっとと帰らせろという意味だ。俺が後方を向けば、既に総員の撤退準備が終わっていた。
「あなたたちの責任追及は……まぁ良いでしょう。我々の不手際ですから、当然です。では皆さん、下らない遠足は終わりです。……総員、撤退せよ!!」
皆が一様に車両へと乗り込み、順次出発していく。最後に残ったイオリとチナツには、少しばかり話がある。
「イオリ、お話があります。帰還後執務室に来るように。チナツは明日で構いません。」
「分かりました。」
「えっ、何で別!?」
「チナツは救護班として今日は動いてもらわねばなりません。少し頭を使いなさい、トラップに引っ掛かりますよ?」
「はぁ……ついてないなぁ……」
「別に説教する訳ではありませんから、肩の力は抜いておきなさい。」
そう言い残して、ヒナの所へと向かった。その先に居るのは、最近よく話に出て来る“先生”だ。
「初めまして、シャーレの“先生”。ヒナからは何か?」
“うん、ちょっと情報をね。”
「……なるほど。確かに伝えておいた方が良い情報ですね。もし何か判明したら、便宜しましょう。ではまた。ゲヘナに来られるのをお待ちしています。」
そう言うと、既にヒナが乗ったバイクに歩いて行く。エンジンを吹かすと、そのまま反転してゲヘナの自治区へと向かった。
「昨日の出動、お疲れ様でした。」
「いえ、これくらいはどうって事は。」
「LCの調子はどうですか?」
「まずまずと言ったところでしょうか。確かに防御力に機動力は良いですが、攻撃力がどうしても……」
「まだFCSは姿勢制御システムだけですからね。そろそろ火器管制システムも出来上がるとは思いますが……それまでは各自の武器で対応するしかありません。レーザーガンが支給されるので、それまでは各自の能力で対処してください。」
ヴェスパーの面談は非常に重要なファクターである。何せ導入を決めたLC……パワードスーツのテスターとして高い能力を持つ。
その前に少々ヴェスパーについて話しておこう。5番隊とは、風紀委員会の精鋭を集めた部隊である。各隊の中で突出した能力を持つ者を、非常召集出来る……風紀委員会に絞ったシャーレの様なものだ。故に平時は各々の所属で活動している。まぁ、それ故に問題児も集まりやすいのだが。一応Ⅴ.Ⅰはヒナが務めている。しかし取りまとめているのはやはり俺だ。Ⅴ.Ⅲはアコが、Ⅴ.Ⅳはイオリ。Ⅴ.Ⅴはチナツだ。
先程のⅤ.Ⅵは唯一ヴェスパーに常駐している生徒であり、名前は“
とは言え、動員される事はかなり少ないので仕事も少ない。故に実験部隊としての意味合いも持たせている。俺が開発しているパワードスーツ、LC及びHCの実験も控えさせている。と言うか、仕事はそれぐらいだ。
「通常の生徒でもヒナ級に……とは行きませんが、イオリ程度に戦える様にするプラン。やはり無理があるのでしょうか?」
俺の趣味とは言え、完成しなければ意味がない。だからこそ、俺は他人を頼ることにした。現在LC及びHCはそちらに任せ、俺個人は別の機体を組んでいるところだ。
「よろしい、“Ⅴ.Ⅵ”はこれにて解散。業務に戻りなさい。」
「了解、失礼致します!」
LCの開発状況も中々好調と言える。HC機体は発展系であるから問題ない。だが・……目下の課題は俺の専用パワードスーツ。HCを更に発展させた機体の予定だったが、そのHCはまだ完成していない。コードだけは決めてある。“バルテウス”だ。
「……ミヨイ、今よろしいですか?」
『聞こえてますよ。こっちは忙しい、手短に頼むよ。』
「副長命令です。現在作成しているFCSが完成したら、HCの完成を急ぎなさい。」
『も、元よりそのつもりだ!こ、こっちは忙しいのに……と言うか、どうして戦闘センスのカケラもない私がヴェスパーなんかに……』
「それを証明する為のあなたです。というか、原案提出の明後日に現物動かしながら来たあなたが、戦闘センスが欠片もないとでも?」
整備班、“
「とりあえず、FCSの納品はいつになりそうですか?」
『明日には。それと滝川んとこも完成したから、それも合わせてお披露目したいかな。』
「パルス技術も完成しましたか。よろしい、明日伺います。どうせシキも来るのでしょう?」
『仕事ない時間はここに入り浸ってるし、どうせ来るでしょ。』
「まぁ連絡は入れておきましょう。忙しい中ありがとうございました。」
内線を切り、報告書を手に取る。情報班のものだが、相手はプロ集団。中々崩せるもんじゃない。こればかりは仕方なかろう。
「……バルテウスはまだでも、HCは騒乱には間に合いそうですね。」
まだまだ、やらねばならない事は多くなりそうだ。