16年度の卒業生   作:Ray May

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渇望する怪物 p3

-◆◇◆-

 

 

 

「……」

 

 トレーナー室にて。

 ミザールの担当は、ゲームパッドを握り、立てかけた携帯電話の画面を見つめている。

 自前のラジコンカーを通して見えるカメラの景色に、彼はひとつ深呼吸をし。

 

「……悪く思うなよ」

 

 そう言うと。

 ゲームパッドのボタンを、押していた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 その時だった。

 ラジコンカーの扉が、突然、上方向へと開く。

 その真下から、小型のスピーカーと思しき物体が這い出し。

 

「――!?」

 

 キィィィン――という、甲高く、耳障りな音が。

 その部分から、発せられていた。

 あまりに不愉快なその音に、その場にいたウマ娘たちが、思わず耳を塞ぐ。

 蟀谷を抑え、苦悶の表情を浮かべる者すらもいた。

 それはルドルフも同様であり、ブライアンでさえも、耳を捻じり、顔を顰める。

 コハクダブルスターも――例外ではなく。

 

「……」

 

 動きを止めた彼女は。

 その音の出所である、ラジコンカーへと目を向けると。

 

「――!!」

 

 ブライアンをそっちのけに、そちらを襲い始める。

 ラジコンカーは、それを確認したかのように、音を止めると、食堂の中をすばしっこく走り回り始めた。

 コハクもまた、それを追跡し、食堂の奥の方へと誘導されていく。

 

「――!」

 

 そこでルドルフは、そうか、と思い至る。

 

「――皆、今のうちだ! 外へ!!」

『――!!』

 

 一瞬は足を止めていた生徒たちだったが、ルドルフの声に応じ、避難を再開する。

 それを見届けたルドルフは、シリウスの元へと駆け寄る。

 

「シリウス!」

 

 未だ倒れ伏していた彼女を抱え起こし、ルドルフは呼びかける。

 

「シリウス! おい! 聞こえるか! しっかりしろシリウス! シリウス――」

 

 目を固く閉じる彼女に、ルドルフは根気強く呼びかけ続け――

 

「シリウスッ!!」

「……っせぇな……」

 

 果たして。

 彼女は、答えていた。

 

「……聞こえてんだよ……耳元で騒ぐな……」

「……、」

 

 目を開いた彼女に、ルドルフは安堵の表情を浮かべる。だが安心しても居られない、と、シリウスの同意も得ないまま、肩を貸し、その場から退避を始める。

 

「ブライアン」

「あぁ――行ってくれ。しんがりは私がやる」

「……すまない」

 

 勇気ある進言に、ルドルフは止めようとするも。

 悠長なことも言っていられない、と気付くと、頼む、と短く告げ、出口へと急ぐ。

 

「――!」

 

 そうして、すぐそこまで近づいた時。

 ガラスが割れたかのような、物騒で、痛々しい音が響く。

 ラジコンカーはコハクにとうとう捕獲され。

 その圧倒的な力の前に、潰され、壊れ、走行不能な状態となってしまった。

 

「……」

 

 それを見つめたコハクは。

 食堂の出口の方へ、目を向ける。

 

「…………」

 

 もはや物言わぬ玩具と化したそれを、その場に捨てると。

 

 

「――なんで逃げるの」

 

 

 自分へと背を向け、逃げ出そうとしている彼女らを見て――

 付近の柱の側面へと飛び移り。

 次いで、あろうことか、天井へと飛び移り。

 

「――!!」

 

 そのままの勢いで。

 生徒たちの最後尾、シリウスを担ぎ、逃げ出そうとする、ルドルフに襲い掛かろうとした。

 振り替えたルドルフの目に、非情なまでに真っ白な、芦毛が映る。

 

「――!」

 

 刹那。

 その間に、漆黒のポニーテールが割り込んでいた。

 瞬時に構えを取ったナリタブライアンに、コハクの腕は捉えられる。

 そしてそのまま、その腕は『ぐりん』、と捻じられ。

 

「――」

 

 宙で回転した、その華奢な身体を。

 器用に『キメ』られる――

 

「――ッ!!」

 

 その末。

 後ろ手、かつうつ伏せに。その場へと、抑え込まれていた。

 

「ブライアンッ!!」

 

 シリウスを他の生徒に託したルドルフは、ブライアンに何かを投げ渡す。

 ブライアンが目もくれずに受け取ったそれは――手錠。

 URAの憲章が刻印された、金色の手錠。

 それを素早く開錠した彼女は、それを、目にもとまらぬ速さで、コハクの両手に装着させる。

 

「――」

 

 腕が固定され、ウマ乗りになられ。

 まともに動けなくなり、身悶えるコハク。

 その姿を見下ろしながら、ブライアンは深めの息を吐いていた。

 

「これで少しは……大人しくなるか?」

 

 しかし、そんな彼女に。

 コハクは、依然として、不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「――っは、はぁ、はぁ……」

 

 ……電車の座席に落ち着いて。

 私たちは、上がり切った息を整えていた。

 

「……、さっ、さすがに、飛ばし過ぎてもうたか……」

 

 タマちゃん先輩はそう言うし、わ、私も、結構苦しいけれど。

 でも、大丈夫だ。これだけ急いだお陰で、駅をいくつか『飛ばす』ことが出来た。

 少なくとも、数十分は、時間を短縮できたはず。

 

「……」

 

 ……席に落ち着いて、息が落ち着いても、心までもは落ち着かない。

 何が起きているのか。どうしてこうなったのか。みんなは無事なのか、コハクちゃんはどうなったのか。

 色々な疑問が浮かんでは消え、薄暗い霧となって、どんよりと私の胸に立ち込める。

 そわそわと。

 到着するまでの一分一秒が、酷く歯痒い。

 

「……さすがに電車より速くは走れへん」

 

 そんな私の心情を見抜いたのか。タマちゃん先輩は、冷静にそう言う。

 

「乗ったからには、あとは待つしかない。気持ちはわかるけど……とにかく、みんなのことを信じて、待つんや」

「……」

 

 その淡い光のような言葉は、立ち込めた霧を少しばかり払ってくれた。気持ちが上向くには、足りなかったけれど。

 落ち着きを取り戻すには、十分だった。

 

「……はい」

 

 だから。彼女の言うとおり。

 走り出したくなる衝動を抑え、到着するまで、ひたすらに待ち続ける。……

 

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