16年度の卒業生   作:Ray May

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可能性の徒 p1

-◆◇◆-

 

 

 

 はしりたい

 ただ どこまでもはしりたい

 どこへでもいきたい とびたちたい いつも ただそれだけをねがっていました

 

 はしっているあいだはしあわせで はしっているあいだはたのしくて

 しあわせで たのしくいることが わたしは なによりもだいすきだったのです

 

 でも なぜでしょう みんなは それをゆるしてくれません

 みんなは わたしが ただはしるだけではおこります

 

 けっかをだせと けっかがすべてだと くちぐちに いうのです

 おこるのです さけぶのです たたくのです いじめるのです

 

 やだ やだ やだ

 

 こわい やだ おこらないで どならないで

 

 やだ やだよ やだ たすけて

 

 わたしはただ ただはしりたいだけなのに じゆうでいたいだけなのに

 

 どうしてだめなんですか どうしていけないんですか

 

 どうして それだけじゃだめなんですか

 

 どうして

 

 

 

「     」

 

 

 

 たすけて

 

 

 

「  ――  」

 

 

 

 たすけて

 

 

 

「  ――しろ、――が――  」

 

 

 

 たすけて――

 

 

 

「――おれが――」

 

 

 

 たすけ――

 

 

 

「安心しろ」

 

 

 

「俺が」

 

 

 

「オレガgg]]]]]]&0$;@::!”#,-^]]]]███」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 勢ぞろいだった。

 

「……」

 

 学園に戻ってきたころには、既に陽は落ちていて。

 校舎に灯っていた光は、ほんの数えるほど。

 さすがに明日になるか、と思ってした連絡への返事は、簡素な『トレーナー室へ来い』というものだった。

 私はてっきり。トレーナーさんだけがいるものと思っていた。

 

 ……決して広くはないトレーナー室には。

 トレーナーさんはもちろん。カペラちゃんに、ヒスイちゃん。

 会長さんに、ナリタブライアンさん、シリウスさん。

 更にはたづなさん、理事長さんまでもがいた。

 そこに、私と、タマちゃん先輩までもが加われば。

 それはもう、立派な『大所帯』だった。

 

 ピリピリとした、張りつめた糸のような空気の中。

 入室した私たち。

 背後でブライアンさんが扉を閉める中。

 私は、とりあえず、言う。

 

「……ど、どうもです、皆さん」

「おう」

 

 真っ先に反応してくれたのは、トレーナーさんだった。

 

「長旅ご苦労さん。で、まぁ。なんだ。帰って早々、こんなこと言うのもアレなんだがな。なんつーか……」

 

 彼は、後頭部を掻くと。

 盛大なため息と共に、言っていた。

 

「――ホンッ、トにろくなのがいねーなオメーの同級生は!」

「ごめんなさいぃ……」

 

 ……反論したいところだったけれど、ここまでの騒ぎを起こしておいて、そんなことない、なんて言えるはずもない。

 でも、でも、私だって。私だって、こんなことになるだなんて、想定外も想定外だ。

 まさか。『暴走』なんていうのが、ここまで容赦のないもので。

 ここまで大規模なものになるだなんて、思ってもみなかったもの……

 

「……彼はこう言っているが、君が気に病む必要はないよ」

 

 縮こまった私を見てか、会長さんは言ってくれる。

 

「どんな事情があれ、最終的に彼女を受け入れることを選んだのは『学園側』だ。君に落ち度はない」

「あぁ……そうだ。全ての責任は、私にある」

 

 それに、申し訳なさそうに肩を落とした理事長さんが続いていた。

 

「――皆、すまない! 私が、軽率な判断をしたせいで、このようなことに……!!」

「いえ、理事長」

 

 悔しそうに言う理事長さんに、会長さんは語り掛ける。

 

「私がもし同じ立場であったら、同じことをしていたでしょう。私にそれを責める権利はありません。あのように不当に自由を縛られることが……元より、あってはならないのです」

「それで他の生徒に被害が及んでたら世話ねぇだろ」

「シリウスは、別の気持ちのようだがね」

「そうだろうが。何かしら理由があって拘束されてるのはわかっていた。それを自分から解くなんて、バカのすることだろ」

「ふむ。ならば気が済むまで、理事長をバ倒するといい。君にはその権利がある」

「……」

「どうした? 早くしたまえ」

「……ちっ。そうだよな。オメーはそういうやつだよ」

「どういたしまして」

 

 ……いやでも。シリウスさんの言うことも正しい。未知の出来事が先に待ち受けているのが分かっているのだから、解放しない方が賢明ではあった。

 ただ……親友として共に過ごしてきた私としても、きっと、理事長さんと同じことをしていただろうと思う。拘束服なんて……そんな物騒なもの。創作の中だけで十分だ、って……

 

「まぁとにかく。各々気になること、意見などあるだろうが。役者も揃ったんだし、改めて状況を整理するぞ」

 

 トレーナーさんは、私たちに向けて言っていた。

 

「まずコハクダブルスターについてだ。事の経緯はこんな感じだ……拘束服から解放された奴は、突然敵意をむき出しにし、たづなさんを不意打ちで気絶させた。そしてその後、幽閉されていた居室から抜け出し、廊下の生徒たちを無差別に襲い始めた」

「えっ、たづなさんも襲われたんですか!? お怪我は……!!」

「大丈夫ですよ、この通り、ぴんぴんしてます」

 

 たづなさんはそう言ってくれるけれど。よく見るとその頬には、絆創膏が一枚貼られている。いつもならまず見かけないそれに、ちくりと胸が痛んだ。

 

「……続けるぞ。事態は騒ぎを通じて理事長まで伝わった。学園は緊急事態宣言を発し、生徒たちは各々避難を開始。コハクダブルスターはその間抑止されないまま生徒たちを襲い続け、やがて二次避難場所となっていた食堂を襲撃した」

「……襲われた生徒は、みんな無事なんか?」

「多少怪我は負ったが、どの子もレースに支障はないそうだ」

 

 タマちゃん先輩は、そうかと胸を撫で下ろしたみたいだった。私もその事実に、少しだけ救われた気分になる。

 

「で、食堂にてシリウスやブライアン、ルドルフ……それと俺のラジコンとの戦闘を開始。食堂に避難していた生徒たちは、その『時間稼ぎ』もあって避難出来た。紆余曲折あったが、鎮静剤を打たれたことで鎮圧され、今は『旧折檻部屋』と呼ばれる地下室に収容されている」

「ラジコンカーで戦闘……?」

「まぁ、実際は気を逸らしただけだけどな」

「いや。あれがあったお陰で、シリウスの救助も出来たし、我々も落ち着く余裕が出来た。我々は感謝しているよ。……補填も学園側から行う予定だ。あとで話を詰めよう」

「そりゃ助かる」

 

 補填、ということは、ラジコンは壊されたってことかな。とにかく、みんなが一丸となって彼女を抑えてくれたってことか。よかった……

 

「地下室……は、ちょっと狭苦しいですけれど。しょうがないですよね……」

「さすがに、普通の部屋じゃあまた同じことが繰り返されかねん。……気休めにもならんかもしれんがな」

 

 ここに来て、綺麗事を抜かすわけにもいかない。そればっかりは仕方のないことだ……納得するしかない。

 

「事態はURAにも報告済みだ。で、今、ひとまず関係者に集まってもらって、今後の対応を協議しよう、っていう状況だ。……ここまで、何か質問は?」

「……いえ」

「まぁ、ひとまず大丈夫やな」

 

 私たちが答えると、トレーナーさんはよし、と頷いていた。

 

「では理事長」

「うむ。では皆の者……今後の、コハクダブルスターへの対応についてなのだがな」

 

 トレーナーさんから話のバトンを受け取った理事長さんは、前に出る。が、その表情は、難しそうに顰められていた。

 

「正直学園でも……このような事態は前例がなくてな。どうしたものか困惑している……それでまず訊きたいのだが、『北部校卒業生諸君』」

「……!」

 

 呼ばれて、思わず姿勢を正す。カペラちゃんもびくり、と身体を震わせていたが、ヒスイちゃんは顔を向けただけで、いつも通りだった。

 

「在学中、あの子が『あぁ』なったことは?」

「……ないです」

「なかったな……」

「記憶にございません」

「そうか。なら少なくとも、在学中はあのような状態ではなかったか……あるいは『トリガー』が引かれなかったということだな」

「……お話を聞いていて思ったのですが。あれは解離性同一性障害と見ていいのでしょうか?」

 

 ヒスイちゃんは聞き慣れない言葉を口にする。理事長さんは、それに頷いていた。

 

「あぁ。職員の間でも意見は一致している。少なくとも、その類の精神病だろうと」

「あの……え? かいり……なんですか?」

「解離性同一性障害」

 

 困惑する私に答えてくれたのは、意外にもタマちゃん先輩だった。

 

「この言葉に聞き覚えが無いんなら、多重人格とか二重人格だったらどや?」

「……! 多重人格……!?」

「説明が漏れていたね。暴れ回っていた時の彼女は、まるで人が変わったように、声色も、性格も、変わっていたようだ」

 

 会長さんは、そう言いながら、壁際に腕を組みながら立っているブライアンさんを見ていた。

 

「そうだね、ブライアン?」

「あぁ……間近で見たから間違いない。大人しさとは無縁で、殺意に近い闘志をむき出しにしていた」

「……私も見たぜ。あの不気味な笑い方。今でも鮮明に思い出せる」

 

 どうやらシリウスさんも、『それ』の目撃者らしかった。

 

「ありゃ……一体、『誰』だったんだ?」

「……わかりません」

 

 言葉に。

 私は、俯くしかなかった。

 

「わかんないんです……あの子のことが……」

「……、ともかく、学園としての処遇は、現状は保留としている」

 

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