16年度の卒業生   作:Ray May

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可能性の徒 p4

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 さいしょ とれーなーさんが なにをいっているのか わからなかったです

 

 こわくて こわくて こわくて しょうがなくて

 また いやなところに こわいところに つれてかれるのかなと おもうと

 こわくて ずっと ずっと くるまのなかで ふるえていました

 

 ついたばしょは ちっちゃなおうちで ここが あたらしいおうちだよと あのひとは いってくれました

 そこは とてもしずかで きもちがよくて すごしているうちに

 だんだんと こころが かるくなっていくような きがしました

 

 すこしして がっこう というところにいく ことになりました

 きっと おなじねんれいのこが いっしょのほうがいい と あのひとはいってくれましたが

 なにをいっているのか やっぱり よくわからなかったです

 

 がっこうには いろんな こはくと いっしょのこがいて

 さいしょは こわくて どうすればいいかも わからなかったけど

 そこが みんなと べんきょう したり あそんだり するところだと わかると

 しぜんと そこにいくのが すきになっていました

 

 とくに かぺらちゃん ひすいちゃん みざーるちゃんとは とってもなかよしで

 まいにち おそくなるまで あそんでいたのを おぼえています

 

 こんなひが こんなたのしいことが いつまでもつづけばいい

 わたしはいつか そんなふうに おもうようになっていました

 

 

 

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 でも おわりは とつぜんに おとずれました

 

 

 

 

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 北部校の廃校のタイミングでどうするか、というのは、彼の悩みではあった。

 更に別の場所へと移住するには、コハクダブルスターの心理的負担が大きいだろうし、都合のいい場所がそうそうあるとも思えないと考えたからだ。

 何より資金も厳しい。北部校で職員として雇ってもらっていたものの、貯金もほとんど出来なかった。

『次』へ行く余裕など――とてもではないが、なかった。

 

「――コハク」

 

 だから、彼は言う。

 彼女に、意を決して、提案する。

 

「帰ろう。……『おうち』へ、帰るんだ」

「え……」

 

 それが何を意味するのか、コハクにもよく理解出来たらしい。

 彼女は、瞬時に顔面蒼白となったが。それを安心させるため、彼は彼女の頭を撫でていた。

 

「……大丈夫。親父殿も、その家族も、あれで一定の理解はしてくれる方たちだ」

 そして、言う。

 

「外への移住で、変わった君を見れば、きっと考えを改めてくれる。今までのように……厳しいトレーニングを積むことも無くなる。きっと……君に寄り添った決定をしてくれる」

 

 彼女を元気づけるように、出来るだけ確信を持って。自信を持って――

 

「だから……帰ろう。そこで、もう一度……やり直そう」

「……」

 

 それに、コハクは依然として、不安そうな顔を隠さなかったが。

 

「……ん」

 

 やがて、それを振り払うように、頷きを返していた。

 

 

 

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 男の言った通り、トレーニングは、以前ほどの様相を呈さなかった。

 和装の男性は相変わらず介入してくるが、何か声を掛けるたび、眼鏡の男性が噛み付き。

 口論する、というのが、日常茶飯事となっていた。

 

 コハクは、自分自身が罵倒されたわけでもなく、貶められたわけでもないというのに、それを見るのが、たまらなく苦しかった。

 もっと頑張らなくては、と熱を入れるも。その熱は、和装の男性には届かず。

 ただ、昔のようにはならないようにと、とにかく彼女には、目の前のことをこなすしか出来なかった。

 

 

 

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 そんな、折だった。

 

 

 

 

 

 

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 よる

 

 わたしは ろうかをあるいていました

 

 おといれにいきたかった というのもありましたが ちょっと おなかがすいたので

 なにか たべものはないかと しょくどうに むかうところでした

 

「――?」

 

 そのときでした

 

 なにかが われるようなおとがしたのは

 

 ちょうど そのでどころは しょくどうで

 

 むかってたところでもあったので わたしは ほんのこうきしんで

 

 そこを のぞきこみました ――

 

 

 

「………………」

 

 

 

 その時に目の前に広がった光景を、コハクダブルスターは、今でも覚えている。

 

 目の前に立つ、和装の男性。その手には、ビール瓶と思しき瓶が握られており。

 

 その先端付近は、真っ赤に染まっていて。

 

 

 彼の目の前には。

 一人の男が。

 

 

 あの、見慣れた、見飽きたほどに見た、眼鏡の男性が。

 

 

 倒れている。

 横たわっている。

 頭から血を流しながら、

 

 倒れ伏し、微動だに、しない――……

 

 

 

「        」

 

 

 

 ――わたしは ことばをうしない

 

 あとずさりました

 

 それにきづいたのでしょう おやじどのは

 わたしのほうへふりかえると

 

「……ち、違う」

 

 と いいはじめました

 

「違う……違う! 私ではない!!」

 

 と いいました

 

「私のせいではない! こいつが、この男が、私に生意気を――!!」

「……、……」

 

 ――コハクダブルスターが、その『事実』を受け止めるには。

 あまりにも、彼女の身体は、小さ過ぎた。

 結果として、それを目の当たりにした彼女は。

 

 

 

「――!!」

 

 

 

 甲高い叫び声を。

 上げていた。

 

 それに呼応するように。

 どたどたと、多くの足音が近付いてくる。

 

 

「――!? お、お館様!? これは……!!」

「ちょ、ちょっとお父様!? どういうこと!? その人、し、死んで……!!」

「救急車!! 早く救急車を!!」

「待て!! 呼ぶな!! 呼んで大事になったら取り返しのつかないことに――!!」

 

「…………」

 

 

 ――なにこれ

 わからなかったです

 

 めのまえがゆれて しかいがふるえて

 こころのそこから なにかがわきあがるかんじがしてきました

 

 めのまえのひとたちは しんせきは かぞくは そのたかんけいのないおともだちは

 みんな ほしんと せきにんのがれに ごしゅうしんで

 かれの ようだいなんて どうでもいい みたいにみえました

 

 

 

「――、――!!」

 

 

 

 みにくい

 

 

 

「――!? ――、――!!」

 

 

 

 みにくい

 

 

 

「――、――……、――……!!」

 

 

 

 みにくい

 

 

 わたしは どうすればいいか わからなくなりました

 

 ただ ただ たちつくすなかで とっても とっても あついなにかが あたまのなかにまで あふれてきます

 

 どうして?

 どうして こんなことになってるの

 

 どうして?

 あのひとは たおれているの

 

 このひとが やった

 このひとたちが やった

 あんなに いいひとだったのに あんなにやさしかったのに

 

 

 なんで?

 なんで?

 こうならなくちゃ いけなかったの

 

 

 わからない

 いみがわからない

 いみがわらかない

 いみがわからない――

 

 わからないわからないわからないわからない

 こわいわからないいたいあついこわいこわい あついこわいわからないいたこわいあついあついあついあついあつい

 

 あつい

 

 むねのここのとこが

 

 あつくて ぐるぐるして もやもやして いやなかんじで

 

 たまらない

 

 

 

「――」

 

 

 

 かけだしたくて

 はしりだしたくて

 

 

 

「――なァ」

 

 

 

 こ わしたく て

 たまら な い ―― ……

 

 

 

「――だよなァ」

 

 

 

 そのとき

 

「意味わかんねぇよなァ。人が死んでるってのに、みんな自分の身を守ることしか考えてねぇ」

 

 そんなこえが

 

「こんな醜い連中、見っともねぇ連中、生かしておいちゃ世のためにならねぇ。そうだろ?」

 

 きこえてきました

 

「ならやるべきことは一つだろ。もうこんな連中に構うこともない。全部綺麗さっぱり『お片付け』して、一からやり直そうぜ?」

 

 あなたは だれ?

 

「誰? おいおい、誰? はねぇだろ。兄弟。俺はお前で、お前は俺だ。ずっとずっと見守ってきた。そうだよな。こんなわけのわからん家族に押し付けられて、抑え込まれて、好きなように生かしてももらえなくて、もう、何もかもやってらんねぇよなぁ」

 

 なにを するきなの?

 

「何、大丈夫だ。お前は何も心配しなくていい。全部俺に任せておけ」

 

 なに   を

 

「俺に任せて、いつものように、眠っておけ」

 

 い     って    

 

「安心しろ。俺ガ」

 

 

 

 

「オレガオマエヲマモッテヤル」

 

 

 

 

 

 

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