16年度の卒業生   作:Ray May

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可能性の徒 p6

-◆◇◆-

 

 

 

 ヒスイちゃんの一連の『可能性』を聞いて、トレーナー室は、再びの沈黙に包まれていた。

 聡明な彼女ならではの、絶妙に有り得そうなそのお話に。

 

「……筋は通っているな」

 

 最初に声を上げていたのは、会長さんだった。

 

「少し無理のある部分はあるが……納得は出来る」

「おっさんの言う通りだとしたら、『そういうこと』があってもおかしくはねぇな……」

 

 それに、カペラちゃんも続く。……敬語じゃないのは、独り言のつもりだからかな。

 

「……胸糞悪ぃ。まるで『あの頃』のトレセンじゃねぇかよ」

「まぁ、飽くまで『可能性』ですから。どこまで信じるかは、皆さまにお任せします」

「いや、しかし重要な推察だ。理事長。コハクダブルスターの過去については、その線で調べてみてはいかがでしょうか」

「うむ……そうだな。たづな」

「はい」

 

 理事長さんに呼びかけられたたづなさんは、一礼して部屋から退室する。もしかして、早速調べてくれるんだろうか。

 

「……けど、事態の打開には繋がってねぇな」

 

 そこで、シリウスさんが核心をついたことを言う。

 

「あいつの過去を知るのは大事だが。処遇をどうするかの答えにはならねぇぞ」

「そうだね。けれど、人格の出所が分かれば、それと逆のことをしてあげることで、人格統合を促すことも出来るんじゃないか」

「そんな簡単にいくかね」

「簡単でなくとも。それが今のところの最善策だよ。シリウス」

「――ん」

 

 そんなシリウスさんに、会長さんが応じる中。

 理事長さんが、携帯電話を取り出す。

 

「すまない。……もしもし」

 

 この間のトレーナーさんみたいに。

 彼女は、部屋の隅に行くと、電話をし始めた。どうやら、着信があったらしい。

 

「……けれど、解離性同一性障害の治療など、さすがに知見にはないからな。専門医を呼ばなくては駄目か……」

「メジロのとこに腕利きの医者がいるっちゅうし、頼んでみよか?」

「あそこの主治医は精神科医なのか」

「いや、知らへんけど……」

 

 会長さん、ブライアンさん、タマちゃん先輩が話し。

 

「しかし意外なところから話が繋がったな。あの『サングラス』が情報を握ってたとは」

「あぁいう場所っすからね。自然とそういう、黒い噂も集まってくるんじゃないっすか」

「……今からでも赴いて、もう少し情報収集しますか」

「いやいやいや! あたしはもうごめんだからなあんなとこ!!」

 

 シリウスさん、カペラちゃん、ヒスイちゃんが話し。

 

「……」

 

 トレーナーさんは。

 無言で、何かを思案しているようだった。

 

「……」

 

 ……斯く言う私も。

 話に加わる精神的余裕なんてなくて。

 俯いて。

 とにかく、ぐちゃぐちゃな胸の中を。

 整理、しようとした――

 

 

 

「――は!?」

 

 

 

 その時だった。

 理事長さんが、大きな声を上げたのは。

 

「い――いえ。しかしそれは……!!」

「……?」

 

 部屋中の誰もが、隅に寄った理事長さんの背中へと視線を向ける。彼女は、それを浴びながらも、振り返らず。

 

「……」

 

 しばし無言になったかと思うと。

 

「……お言葉ですが、『事務総長』」

 

 そんな風に。

 威厳溢れる声色で、言っていた。

 

「そのような『提言』を、容易く受け入れることは出来ません。学園で『彼女』の身柄を預かっている以上、その是非は我々にあります。思うに私は……まだ様子見をするべきと考えています。その決断は……あまりに性急過ぎる。

 

 ……えぇ。当然です。責任は私が全て負います。何の問題もありません。えぇ。はい。……わかりました。必ず。はい……では」

 

 通話を終えた理事長さんは――

 どこか荒々しげに、こちらに振り返る。

 私たちを一瞥すると。

 

「……厄介なことになったぞ」

 

 普段の彼女からは考えられない、神妙な声で言っていた。

 

「え……?」

「URAの方から、提言があった」

 

 私が、呆然と声を漏らす中。

 彼女は、続けた。

 

「その……件のコハクダブルスターを……」

 

 それを。

 私たちに――告げていた。

 

 

 

「可及的速やかに――『処分』せよ、とのことだ」

 

 

 

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