16年度の卒業生   作:Ray May

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異次元の逃亡者 p1

-◆◇◆-

 

 

 

 午後六時。

 街中は、ちょうど祝日ということもあってか、いつもより人が多い。

 普段なら、その人ごみと生み出されるざわめきに自然と高揚し、楽しくなってしまうところなのだけれども。

 今日ばかりは、そんな風に高揚することはなく――

 それどころか。そんな溢れんばかりの人ごみに、憎悪すら抱きそうだった。

 

 

「ミザールさん!」

 

 

 道路上にて、左右を見回しながら、『彼女』を捜し続けていると。聞き慣れた声がこちらに飛んでくる。

 見ると、スペさんとテイオーさんが、人の間を縫いながら、こちらへと駆け寄ってきていた。

 

 

「どうですか!?」

「いや……駄目。全然見当たらない」

「まぁ、最後にいるってわかってから三時間近くだもんね。やっぱり結構離れちゃってるか……」

 

 

 もどかしそうなスペさんとは対照的に、テイオーさんは冷静に分析する。三時間。ウマ娘でなくとも、それだけあれば十二分な距離を移動出来る。

 この街はそう広くはない。もしかして……もう、市外に出てしまっているんだろうか。そうなると、捜索なんてとてもじゃないけど不可能になってしまう。

 

 

「ど、どうしましょう……もう街の外に出ちゃったんでしょうか……もしそうだとしたら、見つけるのがすっごく難しくなりますよ!」

「時間も時間だから、おいそれと遠出も出来ないしね。なのにあっちはそういうとこお構いなしだろうし……うーん。どうしたもんか……」

「……」

 

 

 ……捜索を初めて、もう一時間近くは経つ。

 その間、休憩もろくに取っていないだろうからか、二人の顔には疲労の色が見え隠れしている。

 せめて何か手掛かりがあればいいのに、それすらもつかめない状況は……精神的にも苦しいだろう。

 本当は……そんな二人に頭下げて、もう少し頑張ってほしい、と言いたいけれど。

 

 元を辿れば。

 元を辿れば、この事態の全部。私の我儘な夢に起因しているもので。

 

 元を辿れば。

 無関係な彼女らに、そこまでして付き合う理由なんて……当然ない。

 

 善意と厚意から。

 手伝っている彼女らには――

 

 ゆっくりと羽を休める権利はあるし。

 投げ出す権利もある。

 私は――そう思った。

 

 

「……お二人とも、無理しなくて大丈夫です」

 

 

 だから。

 だから私は、二人に言った。

 

 

「適度に休憩しといてください! 私、あっち捜してきます!」

「あ、ちょっと!」

 

 

 そう、二人は――片手間でもいい。

 

 もっと気を抜いて、協力するかたちでいい。

 

 手助けしてくれるその気持ちだけで――私はもう、どこへでも行ける。

 

 大丈夫。だから私は――

 

 

「――……」

 

 

 行かなくちゃ。

 捜さなくちゃ。

 何もかもが――手遅れるなのだと、本当にわかる、その瞬間まで。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「――もォー、本当に人の話聞かないんだからっ」

 

 

 人ごみの中に紛れていく背中を見届けながら、テイオーは苛立たしげに言った。

 

「確かにちょっとは疲れてるけど、休もうなんてひと言も言ってないよ?」

「あはは……まぁ、あの子なりの気配りなのかもしれませんね。自分の我儘に付き合わせちゃってる……とか考えてるのかもしれません」

 

 

 スペシャルウィークもまた、その背中を見送る。疲労。確かにそうであった。二人はお互い、ここまでろくに休みもせずに捜索を続けていたため、休むべきタイミングではある。

 ただ――それを蔑ろにしてでも、『彼女』に協力したい、という気持ちがあるのも、また事実だった。

 

 

「……なんか」

 

 

 それを自覚しながらも。

 スペシャルウィークは、ぽつりと言う。

 

 

「本当にこう……不思議な子ですよね。あの子って」

 

 

 独り言のように、言う。

 

 

「独りよがりで自分勝手で、向こう見ずで無茶ばっかりして。放っておけばいいのに。手伝わなきゃいいのに……でも見てると、自然に助けたくなっちゃうっていうか」

「わかるよ。ボクだって同じ気持ち。本当いっつも一人で突っ走ってさ。今までも何度も呆れて、もう放っておこうって思ったよ、実際」

 

 

 それに、テイオーも続く。

 

 

「……だから、放っておけない」

 

 

 呆れと優しさの混在する声色で、言う。

 

 

「だから、みんながあの子を放っておけない。この子は、自分が助けなかったらどうなっちゃうんだろう。自分がいなかったらどこまで行ってしまうんだろう。そう思って……自然と助けちゃう。そういう不思議な……魅力? とは違うかもしれないけど。力……みたいなものは、確かにあるよね」

 

『――さぁ! ここまでお届けしました、道行く人に聞いた、今人気のウマ娘ランキン! いよいよベストスリーの発表です!』

 

 

 二人が話す中。

 高層ビルに取り付けられた大型モニターが、喧しく、元気な声を届ける。

 

 

『第三位は――こちら!』

 

 

 彼女らの目は、そこでふと、そのモニターの方へと向き。

 

 

『その特徴的な走りと、異端な経歴からコアな人気を誇る! 『栗毛の怪物』、サファイアミザールさん! 得票数は――』

 

 

 そこでちょうど。

 モニターに、『彼女』の姿が映っていた。

 

 

「……」

「……」

 

 

 それを見届けた二人は。

 互いに、顔を見合わせて、

 

 

「……もっと別の場所、捜してみよっか」

「そうしましょう! ――もしもし、こちらスペチームです!」

 

 

 そう決めると。

 無線にて連絡をし、また別の方角へと、走り始めた。

 

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