午後六時。
街中は、ちょうど祝日ということもあってか、いつもより人が多い。
普段なら、その人ごみと生み出されるざわめきに自然と高揚し、楽しくなってしまうところなのだけれども。
今日ばかりは、そんな風に高揚することはなく――
それどころか。そんな溢れんばかりの人ごみに、憎悪すら抱きそうだった。
「ミザールさん!」
道路上にて、左右を見回しながら、『彼女』を捜し続けていると。聞き慣れた声がこちらに飛んでくる。
見ると、スペさんとテイオーさんが、人の間を縫いながら、こちらへと駆け寄ってきていた。
「どうですか!?」
「いや……駄目。全然見当たらない」
「まぁ、最後にいるってわかってから三時間近くだもんね。やっぱり結構離れちゃってるか……」
もどかしそうなスペさんとは対照的に、テイオーさんは冷静に分析する。三時間。ウマ娘でなくとも、それだけあれば十二分な距離を移動出来る。
この街はそう広くはない。もしかして……もう、市外に出てしまっているんだろうか。そうなると、捜索なんてとてもじゃないけど不可能になってしまう。
「ど、どうしましょう……もう街の外に出ちゃったんでしょうか……もしそうだとしたら、見つけるのがすっごく難しくなりますよ!」
「時間も時間だから、おいそれと遠出も出来ないしね。なのにあっちはそういうとこお構いなしだろうし……うーん。どうしたもんか……」
「……」
……捜索を初めて、もう一時間近くは経つ。
その間、休憩もろくに取っていないだろうからか、二人の顔には疲労の色が見え隠れしている。
せめて何か手掛かりがあればいいのに、それすらもつかめない状況は……精神的にも苦しいだろう。
本当は……そんな二人に頭下げて、もう少し頑張ってほしい、と言いたいけれど。
元を辿れば。
元を辿れば、この事態の全部。私の我儘な夢に起因しているもので。
元を辿れば。
無関係な彼女らに、そこまでして付き合う理由なんて……当然ない。
善意と厚意から。
手伝っている彼女らには――
ゆっくりと羽を休める権利はあるし。
投げ出す権利もある。
私は――そう思った。
「……お二人とも、無理しなくて大丈夫です」
だから。
だから私は、二人に言った。
「適度に休憩しといてください! 私、あっち捜してきます!」
「あ、ちょっと!」
そう、二人は――片手間でもいい。
もっと気を抜いて、協力するかたちでいい。
手助けしてくれるその気持ちだけで――私はもう、どこへでも行ける。
大丈夫。だから私は――
「――……」
行かなくちゃ。
捜さなくちゃ。
何もかもが――手遅れるなのだと、本当にわかる、その瞬間まで。
「――もォー、本当に人の話聞かないんだからっ」
人ごみの中に紛れていく背中を見届けながら、テイオーは苛立たしげに言った。
「確かにちょっとは疲れてるけど、休もうなんてひと言も言ってないよ?」
「あはは……まぁ、あの子なりの気配りなのかもしれませんね。自分の我儘に付き合わせちゃってる……とか考えてるのかもしれません」
スペシャルウィークもまた、その背中を見送る。疲労。確かにそうであった。二人はお互い、ここまでろくに休みもせずに捜索を続けていたため、休むべきタイミングではある。
ただ――それを蔑ろにしてでも、『彼女』に協力したい、という気持ちがあるのも、また事実だった。
「……なんか」
それを自覚しながらも。
スペシャルウィークは、ぽつりと言う。
「本当にこう……不思議な子ですよね。あの子って」
独り言のように、言う。
「独りよがりで自分勝手で、向こう見ずで無茶ばっかりして。放っておけばいいのに。手伝わなきゃいいのに……でも見てると、自然に助けたくなっちゃうっていうか」
「わかるよ。ボクだって同じ気持ち。本当いっつも一人で突っ走ってさ。今までも何度も呆れて、もう放っておこうって思ったよ、実際」
それに、テイオーも続く。
「……だから、放っておけない」
呆れと優しさの混在する声色で、言う。
「だから、みんながあの子を放っておけない。この子は、自分が助けなかったらどうなっちゃうんだろう。自分がいなかったらどこまで行ってしまうんだろう。そう思って……自然と助けちゃう。そういう不思議な……魅力? とは違うかもしれないけど。力……みたいなものは、確かにあるよね」
『――さぁ! ここまでお届けしました、道行く人に聞いた、今人気のウマ娘ランキン! いよいよベストスリーの発表です!』
二人が話す中。
高層ビルに取り付けられた大型モニターが、喧しく、元気な声を届ける。
『第三位は――こちら!』
彼女らの目は、そこでふと、そのモニターの方へと向き。
『その特徴的な走りと、異端な経歴からコアな人気を誇る! 『栗毛の怪物』、サファイアミザールさん! 得票数は――』
そこでちょうど。
モニターに、『彼女』の姿が映っていた。
「……」
「……」
それを見届けた二人は。
互いに、顔を見合わせて、
「……もっと別の場所、捜してみよっか」
「そうしましょう! ――もしもし、こちらスペチームです!」
そう決めると。
無線にて連絡をし、また別の方角へと、走り始めた。