すっかり仮設本部と化した黒塗りワゴンの内部。所狭しと置かれた機械類とモニター類の数々を見て、南坂は改めて苦笑いを浮かべていた。
「……にしても、どこから集めてきたんですこんなに」
「
『こちらシービーチーム。西側にもう少し広がろうと思うけどどう?』
「あー、そうだな……」
話しながらも、『役割』をしっかりと全うする彼を見届け、南坂は一旦そこから離れる。自身もまた、自前のノートパソコンを用い、自分なりの情報収集を続けているが、
――やはり、思うように集まりませんね。
芦毛の、小柄なウマ娘の情報。
その目撃情報は、全くと言っていいほど得られておらず、胸の中にやきもきとした気持ちが募る。
「市外に出てる可能性も考えなくちゃいけないかもなぁ」
その傍、クリップボードに挟んだ紙束を眺める西崎は、ペンの尻の部分で額を叩きながら、深刻そうに呟いた。
「これだけ情報が集まらないんだ。もしかして全力疾走してとんでもねぇとこまで行ってるかもしれない」
「もしそうだとしたら、本格的に『詰み』ですね」
「お茶どーぞ」
「あぁ、すみません」
話す南坂に、ダイワスカーレットは紙コップに淹れたお茶を提供する。その表情は、もどかしそうに複雑に歪んでいた。
「あぁーもう、もやもやする! 『オークス』がなかったら今すぐにでも走り出すってのに!」
「こらこら、自分の『夢』まで投げ出すなって。こっちが重要じゃない、なんて言わないけどよ……」
『……『ソレ』はないんじゃないかしら』
外で彼らが話す中。
車の中で、妖艶な声が響く。
反応するのは――ミザールの担当だ。
『どういうことだ?』
「――私も方々を『回って』情報集めてるけどね。近隣県にそういった情報は入ってないわ」
薄暗いその一室で、『彼女』は腕を組み、その指に挟んだペンをトントンと上下に動かしている。
「芦毛で目立つウマ娘が走ったり移動してたりしたら、誰かしら目撃してるでしょう――ここまで完膚なきまでに情報がないというのはあり得ないわ。人為的な手段なしではね」
その視線の先には、壁に貼られた、赤色の×印や矢印の記入された、一枚の巨大な地図があり。
「……つまり『そういうこと』でしょう。いいえ、そう思わないといけない。どっちにしろ、『それ』が明らかになるのは『それ』の『終わり』で、だわ……」
息を吐いて、腕を組みなおした時。
彼女の垂らす、ウェーブのかかった黒い髪が揺れた。
薄暗い部屋の隅には――
優雅な日傘が立てかけられており。
窓からは――
『彼女』の管理する、今にも崩れそうな、オンボロのアパートが見える。
要は逆説的な考え方であった。
担当はそれを聞き、そうかもしれない、と考える。
それでなくとも、今日は祝日。いつもよりも人が多い状況のはずだ。
誰も彼も、一切合切目撃していないとは、考えづらい。
仮に。
仮に、そうでなかったとしても――
「……そう信じるしかない、か」
ルドルフが言うと、南坂が頷いていた。
「ですね。どっちにしろ、我々のやることは変わりません。……時間はあるのですから。手を尽くすだけです。悔いが無いように行きましょう」
「なぁトレーナー! 学園のすぐそばくらいだったら良くないか!? 俺たちも行かせてくれよ!」
「いや、学園のすぐ傍じゃあんまり意味は……いや、案外そうでもないか?」
さなかで、ウオッカは西崎に情熱的に訴える。それに押された西崎は、一瞬考える素振りをし、
「……オーケイ。そんじゃあ、無理はしないようにな。何かあったらすぐに伝えてくれ」
「おし! おい、行くぞスカーレット!」
「言われなくてもね!」
二人がお互いに同意して、その場から駆け出そうとした。
『――こちらシリウスチーム』
その時――入った通信で。
「おい、ちょっと待て!」
担当が叫ぶように呼びかけると。二人は、寸でのところで立ち止まる。
「――っととととっ!?」
「な、何よ! こっちはいい感じに気合い入ったのにー!」
「……シリウスたちから通信だ」
「どうした。何かあったか?」
西崎が二人に説明する中で。
担当は、対応する。
『今東側で聞き込みしてたんだけどな――』
対して――通信の主。
シリウスは、言っていた。
『――芦毛のウマ娘が、南に歩いていくのを見たらしい』
「――!!」
瞬間。
その場に居合わせた者、全ての間に、衝撃が走った。
『つっても見たような、って話だ。確定情報じゃないが……』
「いや。いい。十分だ。お前らはその周辺で引き続き情報収集してくれ」
『了解』
そして、
「チームエル! 聞こえるか!」
『シー! 聞こえてマスよー!』
状況は、
「お前たちのいる辺りに『対象』がいる可能性がある! 聞き込みと捜索を念入りに行ってくれ!」
『わかりマシたー!!』
それを皮切りに、
「全員、聞け!」
動き出す――