16年度の卒業生   作:Ray May

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異次元の逃亡者 p5

-◆◇◆-

 

 

 

 ――追ってくる。

 

 

 

「あぁもう、辿り着くなりこんな状況なんて!」

「ッ!!」

 

 

 ダイワスカーレットを。

 

 

「おりゃあぁー!!」

 

 

 ウオッカを。

 彼女は看破する。

 

 

「うおぉー!! ターボもいるぞっ!!」

 

 

 ツインターボを。

 彼女は回避する。

 

 

 

 ――追ってくる。

 

 

 

「――っ、ちくしょーすばしっこい!」

「ふははは! バカめ! そのターボは囮!!」

 

 

 イクノディクタスが。

 網を掲げて、向かってくるも。

 

 

「喰らえ! セイさん印の――『タモ』アターック!!」

 

 

 それをも――難なくすり抜ける。

 

 

「ちょわぁー!!」

「あ、間違えた」

 

 

 マチカネタンホイザが、それに誤って捕えられ。

 

 

「――ったくもうみんな、コントしてんじゃないんだから――」

 

 

 ナイスネイチャが、飛び込んでくるが。

 

 

「――っさ!!」

「ッ!!」

 

 

 やはり――それも、すり抜ける。

 

 

「っ、まるで雲か霧だね……!!」

「アンタたち! 追いかけるわよ!」

「言われなくてもね!!」

「い、イクノさーん!! 早く解いてー!!」

「待ってくださいマチタンさん。動けば動くほど髪が絡まって……」

「何してんのそこ! さっさと行くよ!!」

 

 

 そんな騒がしさを背に、コハクダブルスターは走り続ける。

 今度こそ彼女らを、完全に振り切るために――

 

 

「――!?」

 

 

 突入した人ごみを。

 乱雑に、掻き分ける。

 

 

「きゃあっ!?」

「な、なんだ――!?」

「いってぇな何すんだ――!!」

「バッカヤロォ!! 危ねぇ――!!」

 

 

 悲鳴に似た困惑の声が上がる中。

 

 

「――あぁもう、ホントにこの子は――」

 

 

 これでようやく――と、思うも、束の間。

 その人の間を、器用にすり抜けて。

 

 

 

 ――追ってくる。

 

 

 

「――人様に迷惑かけちゃっ、」

 

 

 現れるのは。

 ミザールとはまた別の、鹿毛のポニーテール。

 

 

「駄目でしょッ!!」

「~~っ!!」

 

 

 トウカイテイオーの、人知を超えた動きに動揺するも、コハクはそれをも回避する。

 

 

「もぉー! これでも駄目なのっ!?」

「テイオーさん!!」

 

 

 その背後――

 走ってきたスペシャルウィークが、テイオーに呼びかけていた。

 

 

「――!」

 

 

 テイオーはそれに応じ、彼女に向けて手を差し出す。

 スペシャルウィークは、辿り着くなり、その勢いのまま、テイオーの手を踏みつけ――

 

 

「おッ――りゃあァーッ!!」

 

 

 テイオーは――

 そのまま、スペシャルウィークを、力のままに、投げ飛ばした。

 その推進力で飛び上がったスペシャルウィークは、雑多な人ごみを瞬時に飛び越え、

 

 

「――!?」

 

 

 逃走するコハクダブルスターの間近に着地し。

 

 

「でりゃあーっ!!」

 

 

 両腕を広げて、飛び込むも。

 

 

「――っ!!」

 

 

 やはり寸でのところで――届かない。

 

 

「あぁもうー!! 惜しかったのにー!!」

「任せて!」

 

 

 地面に倒れ、悔しがるスペシャルウィークの肩を叩き――

 走り出すのは、サイレンススズカだ。

 

 

「ッ――!!」

 

 

 自慢の脚で走り出し、ぐんぐんとコハクとの距離を縮めるが――

 

 

「――あっ」

 

 

 その先――

 交差点に差し掛かり、速度を緩める。

 その信号が――赤になっていたからだ。

 

 じれったく感じるが、好機とも考える。

 なぜならこれで、目の前の彼女も――

 きっと止まる。

 そう、スズカは考えていた。

 

 

「――!?」

 

 

 が。

 目の前のコハクダブルスターは。

 止まらない。

 

 

「ち――ちょっと待って!」

 

 

 信号が赤なのにも関わらず――

 止まらずに、走り続ける――

 

 

「まだ信号赤よ! そのまま行ったら……!!」

 

 

 その言葉を遮るように――クラクションが鳴り。

 侵入してきた車と接触――

 

 

「――!」

 

 

 しかけた。

 コハクダブルスターは、その場に飛び上がることで。

 それすらも、回避し。

 

 

「……」

 

 

 車の波をものともせず。

 渡り切っていた。

 

 

「――おいおい、マジかよ」

 

 

 そこに、ゴールドシップとマックイーン、スペシャルウィークとテイオーが合流する。

 

 

「車も何も関係なしか……」

「やれやれ……とんだ無法者ですわね」

「よし、ボクらもあれでここ突っ切っちゃおう!」

「いやいや、さすがにそれは無理ですよテイオーさん……」

 

 

 そんな彼女らを尻目に――

 コハクダブルスターは、狭い商店街を駆ける。

 先ほどと同じように、人ごみの中を掻き分ける彼女を――

 

 

「――どこまで逃げるつもりだ……!!」

 

 

 追うのは。

 ナリタブライアンだ。

 

 

「いい加減、お縄につけ!!」

「っ……!!」

 

 

 

 ――追ってくる――

 

 

 

 コハクは、素直には従わない。

 従わずに、むしろなおのこと激しく、荒々しく、人の波の中を逃げていき――

 

 

「――」

 

 

 そんな彼女に。

 追い縋る影――

 

 

「――!!」

 

 

 商店街に連なる建物の壁を蹴り走る――という。

 異次元の追跡方法で現れたのは――白いミニハット。

 

 

「――ッ!!」

 

 

 ミスターシービーは。

 その勢いのまま壁を蹴り、コハクダブルスターへと飛び込む。

 その手は、恐らく今までで最も近くまで近づき――

 

 

「――っ」

 

 

 その髪の先端に。

 シービーの手指が、触れていた。

 だが当然――それだけでは、捕獲には至らず。コハクダブルスターは、なおも逃走を続ける。

 

 

「あぁーも~」

「シービー! 平気か!」

「あー、平気平気」

 

 

 追いついたブライアンは、シービーに声を掛けるが。彼女は、ひらひらと手を振りながら返す。

 

 

「……もうちょっとだったのになぁ」

 

 

 ぼやく彼女の先――

 コハクは、そろそろ逃げ切れるか、と思い始める。

 

 

「――!」

 

 

 その期待を裏切るように――

 正面からは、かつて嫌というほど目にした、赤髪。

 

 

「――見つけたぁ!!」

「っ……――!?」

 

 

 こちらを指差し、高らかに宣言したガーネットカペラから逃げようとし、踵を返した西側には――

 

 

「うおー!! エンカウントデース!!」

「したたかに参りますよっ」

「~~~っ……!!」

 

 

 エルコンドルパサーと、グラスワンダー。

 否応なく――コハクは、最後に残された、東方面へと走り出す。

 

 

「――ははっ、久しぶりだろコハク! こういうの!!」

 

 

 先頭を走るカペラは、心底楽しそうに言う。

 

 

「今日こそは、捕まえてやるぜ!!」

 

 

 そんな彼女らの先――

 逃走するコハクの、更に先では。

 

 

『――ヒスイ! カペラたちがそっちに追い込んでる! 準備しろ!!』

『彼女』が、担当からの通信を受けていた。

「――イエス。問題ありません」

 

 

 そんな彼女は。

 そこにしゃがんでいる。

 一人の、スーツ姿の大男と、同じようなスーツ姿の、小柄な男を携え――そこにいる。

 大男の方は。

 巨大な、バズーカ砲のようなものを担いでいた。

 

 

「準備は万端、整っています」

「――!?」

 

 

 それを確認したコハクは、目を見開く。

 しかしヒスイは容赦なく、手を前方へ差し出した。

 

 

「――総員、照準固定(ターゲットロック)

 

 

 合図と共に。

 大男はバズーカ砲を構え、小柄な男は双眼鏡で前方を見つめる。

 

 

攻撃準備(ゲットレディ)――」

 

 

 そして。

 

 

「――発射(ファイア)!!」

 

 

 大男のバズーカ砲――

 

 対ウマ娘用キャプチャーランチャー『UCR-504』*1――と呼ばれるその装備から、巨大な網が放たれる。

 

 その網は路地一杯に広がり、もはや避けようがない――

 

 かのように、思われた。

 

 

「――!?」

 

 

 が。

 コハクダブルスターは、途端にビルの壁へと飛び移ると。

 

 そのまま極限まで姿勢を低く取ることで。

 

 網にかかることを――回避する。

 

 ――代わりに。

 

 

「――んなっ」

 

 

 背後から追ってきていたガーネットカペラが。

 それに捕えられてしまっていた。

 

 

「なにぃぃぃぃッ!?」

「――!」

 

 

 そうして網を回避したコハクダブルスターは――

 ヒスイたちを押しのけ、逃走を続ける。

 

 

「……お嬢様」

「追いましょう。再装填を忘れずに」

「だ、大丈夫デスかー! カペラさーん!!」

「まさかあんな避け方をするなんて……」

「お、おいヒスイ! オメーも助けろ! なんだよこの網、全然ちぎれねぇ……!!」

「……」

 

 

 ヒスイはそこで、網にかかったカペラと、慌てふためくエル、グラスを見つめていたが。

 やがて明後日の方向に、視線を飛ばすと。

 

 

「……バカは放っておいて。行きますよ」

 

 

 無慈悲に、歩き出していた。

 

 

「は、はぁ!? おいちょっと待て!! これに関しちゃあたし悪くねぇだろ!!」

 

 

 路地裏にて。

 彼女の、悲痛で怒り心頭な叫びが木霊する。……

 

*1
provided by ヒスイグループ

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