――追ってくる。
「あぁもう、辿り着くなりこんな状況なんて!」
「ッ!!」
ダイワスカーレットを。
「おりゃあぁー!!」
ウオッカを。
彼女は看破する。
「うおぉー!! ターボもいるぞっ!!」
ツインターボを。
彼女は回避する。
――追ってくる。
「――っ、ちくしょーすばしっこい!」
「ふははは! バカめ! そのターボは囮!!」
イクノディクタスが。
網を掲げて、向かってくるも。
「喰らえ! セイさん印の――『タモ』アターック!!」
それをも――難なくすり抜ける。
「ちょわぁー!!」
「あ、間違えた」
マチカネタンホイザが、それに誤って捕えられ。
「――ったくもうみんな、コントしてんじゃないんだから――」
ナイスネイチャが、飛び込んでくるが。
「――っさ!!」
「ッ!!」
やはり――それも、すり抜ける。
「っ、まるで雲か霧だね……!!」
「アンタたち! 追いかけるわよ!」
「言われなくてもね!!」
「い、イクノさーん!! 早く解いてー!!」
「待ってくださいマチタンさん。動けば動くほど髪が絡まって……」
「何してんのそこ! さっさと行くよ!!」
そんな騒がしさを背に、コハクダブルスターは走り続ける。
今度こそ彼女らを、完全に振り切るために――
「――!?」
突入した人ごみを。
乱雑に、掻き分ける。
「きゃあっ!?」
「な、なんだ――!?」
「いってぇな何すんだ――!!」
「バッカヤロォ!! 危ねぇ――!!」
悲鳴に似た困惑の声が上がる中。
「――あぁもう、ホントにこの子は――」
これでようやく――と、思うも、束の間。
その人の間を、器用にすり抜けて。
――追ってくる。
「――人様に迷惑かけちゃっ、」
現れるのは。
ミザールとはまた別の、鹿毛のポニーテール。
「駄目でしょッ!!」
「~~っ!!」
トウカイテイオーの、人知を超えた動きに動揺するも、コハクはそれをも回避する。
「もぉー! これでも駄目なのっ!?」
「テイオーさん!!」
その背後――
走ってきたスペシャルウィークが、テイオーに呼びかけていた。
「――!」
テイオーはそれに応じ、彼女に向けて手を差し出す。
スペシャルウィークは、辿り着くなり、その勢いのまま、テイオーの手を踏みつけ――
「おッ――りゃあァーッ!!」
テイオーは――
そのまま、スペシャルウィークを、力のままに、投げ飛ばした。
その推進力で飛び上がったスペシャルウィークは、雑多な人ごみを瞬時に飛び越え、
「――!?」
逃走するコハクダブルスターの間近に着地し。
「でりゃあーっ!!」
両腕を広げて、飛び込むも。
「――っ!!」
やはり寸でのところで――届かない。
「あぁもうー!! 惜しかったのにー!!」
「任せて!」
地面に倒れ、悔しがるスペシャルウィークの肩を叩き――
走り出すのは、サイレンススズカだ。
「ッ――!!」
自慢の脚で走り出し、ぐんぐんとコハクとの距離を縮めるが――
「――あっ」
その先――
交差点に差し掛かり、速度を緩める。
その信号が――赤になっていたからだ。
じれったく感じるが、好機とも考える。
なぜならこれで、目の前の彼女も――
きっと止まる。
そう、スズカは考えていた。
「――!?」
が。
目の前のコハクダブルスターは。
止まらない。
「ち――ちょっと待って!」
信号が赤なのにも関わらず――
止まらずに、走り続ける――
「まだ信号赤よ! そのまま行ったら……!!」
その言葉を遮るように――クラクションが鳴り。
侵入してきた車と接触――
「――!」
しかけた。
コハクダブルスターは、その場に飛び上がることで。
それすらも、回避し。
「……」
車の波をものともせず。
渡り切っていた。
「――おいおい、マジかよ」
そこに、ゴールドシップとマックイーン、スペシャルウィークとテイオーが合流する。
「車も何も関係なしか……」
「やれやれ……とんだ無法者ですわね」
「よし、ボクらもあれでここ突っ切っちゃおう!」
「いやいや、さすがにそれは無理ですよテイオーさん……」
そんな彼女らを尻目に――
コハクダブルスターは、狭い商店街を駆ける。
先ほどと同じように、人ごみの中を掻き分ける彼女を――
「――どこまで逃げるつもりだ……!!」
追うのは。
ナリタブライアンだ。
「いい加減、お縄につけ!!」
「っ……!!」
――追ってくる――
コハクは、素直には従わない。
従わずに、むしろなおのこと激しく、荒々しく、人の波の中を逃げていき――
「――」
そんな彼女に。
追い縋る影――
「――!!」
商店街に連なる建物の壁を蹴り走る――という。
異次元の追跡方法で現れたのは――白いミニハット。
「――ッ!!」
ミスターシービーは。
その勢いのまま壁を蹴り、コハクダブルスターへと飛び込む。
その手は、恐らく今までで最も近くまで近づき――
「――っ」
その髪の先端に。
シービーの手指が、触れていた。
だが当然――それだけでは、捕獲には至らず。コハクダブルスターは、なおも逃走を続ける。
「あぁーも~」
「シービー! 平気か!」
「あー、平気平気」
追いついたブライアンは、シービーに声を掛けるが。彼女は、ひらひらと手を振りながら返す。
「……もうちょっとだったのになぁ」
ぼやく彼女の先――
コハクは、そろそろ逃げ切れるか、と思い始める。
「――!」
その期待を裏切るように――
正面からは、かつて嫌というほど目にした、赤髪。
「――見つけたぁ!!」
「っ……――!?」
こちらを指差し、高らかに宣言したガーネットカペラから逃げようとし、踵を返した西側には――
「うおー!! エンカウントデース!!」
「したたかに参りますよっ」
「~~~っ……!!」
エルコンドルパサーと、グラスワンダー。
否応なく――コハクは、最後に残された、東方面へと走り出す。
「――ははっ、久しぶりだろコハク! こういうの!!」
先頭を走るカペラは、心底楽しそうに言う。
「今日こそは、捕まえてやるぜ!!」
そんな彼女らの先――
逃走するコハクの、更に先では。
『――ヒスイ! カペラたちがそっちに追い込んでる! 準備しろ!!』
『彼女』が、担当からの通信を受けていた。
「――イエス。問題ありません」
そんな彼女は。
そこにしゃがんでいる。
一人の、スーツ姿の大男と、同じようなスーツ姿の、小柄な男を携え――そこにいる。
大男の方は。
巨大な、バズーカ砲のようなものを担いでいた。
「準備は万端、整っています」
「――!?」
それを確認したコハクは、目を見開く。
しかしヒスイは容赦なく、手を前方へ差し出した。
「――総員、
合図と共に。
大男はバズーカ砲を構え、小柄な男は双眼鏡で前方を見つめる。
「
そして。
「――
大男のバズーカ砲――
対ウマ娘用キャプチャーランチャー『UCR-504』*1――と呼ばれるその装備から、巨大な網が放たれる。
その網は路地一杯に広がり、もはや避けようがない――
かのように、思われた。
「――!?」
が。
コハクダブルスターは、途端にビルの壁へと飛び移ると。
そのまま極限まで姿勢を低く取ることで。
網にかかることを――回避する。
――代わりに。
「――んなっ」
背後から追ってきていたガーネットカペラが。
それに捕えられてしまっていた。
「なにぃぃぃぃッ!?」
「――!」
そうして網を回避したコハクダブルスターは――
ヒスイたちを押しのけ、逃走を続ける。
「……お嬢様」
「追いましょう。再装填を忘れずに」
「だ、大丈夫デスかー! カペラさーん!!」
「まさかあんな避け方をするなんて……」
「お、おいヒスイ! オメーも助けろ! なんだよこの網、全然ちぎれねぇ……!!」
「……」
ヒスイはそこで、網にかかったカペラと、慌てふためくエル、グラスを見つめていたが。
やがて明後日の方向に、視線を飛ばすと。
「……バカは放っておいて。行きますよ」
無慈悲に、歩き出していた。
「は、はぁ!? おいちょっと待て!! これに関しちゃあたし悪くねぇだろ!!」
路地裏にて。
彼女の、悲痛で怒り心頭な叫びが木霊する。……