16年度の卒業生   作:Ray May

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Shadow Break p1

-◆◇◆-

 

 

 

 とても とてもあついなつのひに

 

 むしかごをみつめていると とれーなーさんが きいてきました

 

「……どう? 飛びそう?」

「ん……ぜんぜん……」

「そっか。まぁー、そういうこともあるよ」

 

 むしかごのなかには ちょうちょがいますが

 きに くっついてるだけで

 ぜんぜん とんで くれません

 

 ふたもあけて いつでもとべるはずなのに

 どうしてとばないのかと わたしは ふしぎでなりませんでした

 

「……どうして、とばないんだろ」

「さすがに蝶の気持ちはわからないからね……何とも言えないけど」

 

 わたしのこえに とれーなーさんは

 うーん と うなってから こたえました

 

「きっと、決めてるんだろうね」

「きめてる?」

「そう。自分の行き先を決めてるんだ」

 

 とれーなーさんは いいました

 

「自分がどこへ行くべきなのか。自分がどこへ行きたいのかを、うーんて、考えて、考えて、考えてるんだよ」

「……よくわかんない」

「そっか。まぁ、心配しなくても大丈夫だよ。きっといつか飛んでくれる」

 

 わたしが くびをかしげると

 とれーなーさんは わらって

 また こたえました

 

「行く先を見つけて、

飛ぶための勇気をもって

 

 ……恐怖を振り払ったなら。

 

 きっと、ね。……」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「――あぁーもう、あいつら滅茶苦茶しやがって……」

 

 

 コースの現況を実況席から確認した西崎は、呆れ切ったため息を吐いていた。

 コハクダブルスターを捕まえるため、血気盛んに走っていたはずの彼女らは――今やこうして、東京競技場というれっきとした公共施設に不法侵入し。

 

 あろうことか、そのターフの上を走っている。

 

 それが、コハクダブルスターを捕まえるために必要なことなのであれば、まだ納得は出来たが。

彼女らのその走り方は、どう見てもそうは見えない、ふんわりとしたそれだった。

 

「あれ……どう見ても本気で走ってねぇだろ」

「そうねぇ。見るからに明らかに、ただの追いかけっこって感じねぇ」

 

 呼応する声は、隣からだ。ウェーブのかかった黒髪の彼女は、妖艶な笑みを口元に張り付けながら、同じようにコース内を見つめている。

 その瞳には、母のような慈愛が灯っており、何一つ恐れてなどいないように見える。

 

「会長もコース傍で見てるだけだし……かといってこれを止めるのもな……っつーかそもそも止める方法がねぇか。あぁー、どうすっかなぁ」

「いいじゃない。それなら、『それ』を利用すればいいだけのお話よ」

 

 困り果てた様子の西崎に、女性は言い、前へと出る。彼女は雑多な実況席の機器類を、何やらごそごそと操作したかと思うと、

 

「――さ。あとはこのレバーを上げるだけよ」

「……はい?」

 

 あまりに唐突な進言に、西崎が呆然と声を漏らすと。彼女は口元の笑みを更に深める。

 

「『煽って』あげるのよ。あの子らを。実況の心得くらいあるでしょう? トレーナーなんだから」

「い……いやいや。それって思い込みじゃ……それにみんな同じ色のジャージだし。実況なんてとても」

「じゃ、このまま放置するしかないわね。さて、あの子らが疲れ果ててぶっ倒れるまで、あとどれくらいかかるかしらねぇ」

「……」

 

 女性の言った推測に。

 西崎は何も言えなくなる。

 深いため息を吐くと。

 覚悟を決めたように、放送用マイクの前に立った。

 

「――」

 

 レバーに手を掛け。

 息を吸ったが。

 

「……なぁ、あんた」

「ん?」

 

 その直前に、女性へと問いかけていた。

 

「こんなでっけぇ施設の鍵、平然と開けたり……実況席の操作方法知ってたり。どう見ても……普通じゃねぇよな」

「そうねぇ。一般人からしたら、そうかもしれないわねぇ」

「……あんた『ら』一体、何者なんだ?」

「知らぬが仏」

「……」

 

 西崎は追及しようとしたが。

 彼女の雰囲気は、それを一切許さなそうなそれであり。

 正直――彼も、この状況を作ってくれたことには、少なからず感謝していたため。

 言葉に甘え、それ以上は何も言わないことにした。

 

「――」

 

 そして。

 言われた通り、レバーを引き上げると。

 

 

『――さぁ! 始まりましたぁ! えー……、と、東京ゲリラステークスの幕開けですッ!!』

 

 

 高らかに、宣言していた。

 

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