むしかごのなかのちょうちょは
とぶけはいがありませんでした
――いかせてください
そう ねがいはじめる
――はしらせてください
そう おもいはじめる
「――ぁ」
はしりたい
いきたい
おいつきたい
つかまえたい――
わたしも わたしも
みんなと おなじばしょに いきたい――
「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ――」
だから
おねがいします
だから
おねがいします
「ぁぁぁぁぁああ――」
わたしを
わたしを
そこへ
そっちへ――
いかせて ください
「――あああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
わたしを――
じゆうに
してください
「――ッ!!」
あしをふみこむ
ちからづよく かけだそうとする
でも――
そのしゅんかん
「――?」
なにかに
あしを つかまれたきが しました
すべてが とまったせかいで
つかんでいたのは
わたし でした
「……」
それは ひかりのないひとみで
わたしを みつめています
わたしは また こわくなって
なきそうに なってしまいましたが
「――……」
それは そのとき
これまで みたことのない やさしく
やわらかで
いとしげな かおで わらうと
「 、 」
くちが ことばを
つむいで いました
そのこは
――もう、
大丈夫だね、と
いった きがしました
とても
とてもあつい なつのひに
「――あ」
それは やがて
はねを おおきく うごかしました
そして
ちょうは
はばたきました
「――」
――なんだろう
「――、」
なんだろう、このかんかく。
「――、――、――」
からだのそこから、ちからがわきあがる。
何か、かけていたものが。
急速に、戻ってくる、感覚――
「――ひ」
――あぁ。
どうしよう。
わからないけど。
よく、わからないけど――
「ひ、ひ、ひ」
楽しくて。
「――ひっ――」
楽しくて――
「――ひ――っはははははははっ!!」
楽しくて――たまらないッ!!
「い、」
だから。
「く、」
わたしは。
「――よぉぉぉぉぉぉッ!!」
その感情のまま――前へと、一気に、走り始めた!
「――!?」
西崎は、実況席にて、その変化をしかと目撃していた。
それは、コハクダブルスター。
もはや集団の最後方にて、速足のような速度で走っていた、彼女が。
突然――とんでもない速度で、走り始めたのだ。
「なんつー加速……!!」
『暴走』の事実がある彼女が、そのような変化を見せたのは、あまり穏やかなことではない。
だから西崎は、一瞬は身構えるが――すぐに気を取り直していた。
なぜなら、彼女のその走りは。
遠目でもわかる、その様子は――
あの時のような。
嫌な感じを、覚えなかったからだ。