16年度の卒業生   作:Ray May

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Shadow Break p4

-◆◇◆-

 

 

 

 身体が軽い。

 これまでに感じたことがないくらい、身体が軽い。

 

 鎖か何か――自分を縛っていたものが砕け、そこから解き放たれたような感覚。

 

 遠かったいくつもの背中が。望むだけだったいくつもの姿が。

 

 次々と、自分の脇へと流れていく。

 

「――!」

「――!?」

「――……!!」

 

 彼女らが、口々に何かを言っているような気がしたけれど。

 なんかもう、ごめんだけど、全然聞こえない。

 

 聞き取れない! ごめんなさい! あとでゆっくりお話しよう!!

 

 今は……

 今は!!

 

「あっははははっ……!!」

 

 ただただ。

 走りたい。

 

 ただただ。

 前に、向かいたい……!

 

「――コハクさん!!」

 

 でも――そんな中でも。

 わたしが散々聞いてきた声だけは、そんな感情を掻き分けて、響いていた。

 揺れる、緑がかった、長い黒髪。

 

「!」

 

 ひすいちゃんは。

 走りながらも、こちらに掌を差し出していた。

 わたしは――その掌に。

 

「――っ!」

 

 自分の掌を打ち付けて。

 彼女の、先へと走る。

 

「コハク!!」

 

 それからさらに走ると。

 また別の声。

 かぺらちゃんもまた――わたしに、掌を差し出している。

 それを同じように、掌で打つと。

 不思議と――力が、強まったような気がする。

 

「――」

 

 そして、そうして、更に、更に、走った先で――

 

「コハクちゃんッ!!」

 

 栗毛のポニーテールが。

 ……みざーるちゃんが。

 手を、差し出している――……

 

「――っ」

 

 だから。

 彼女の手も、同じように、打って。

 

「――コハクちゃん」

 

 刹那。

 彼女は――確かに、言っていた。

 

「行ってらっしゃいっ」

「――」

 

 私は――それに、少し微笑んで。

 

「――ん!」

 

 短く返すと。

 前へと、前へと、ただ、ひた走る――!

 

『と、とんでもない追い上げ! とんでもない追い上げだぁー!! コハクダブルスター、まさかの下克上か! 先頭までぶち抜いてしまうのかぁーっ!!』

 

 えーっと、でもえーっと……

 なんだったっけ。確かゴール板まで、って話をしてたはず。

 

 ゴール板……ゴール板って……あぁ、みざーるちゃんが言ってた。たぶん、あのおっきな看板のことだ。

 

 あそこまで……あそこまで行けば、ゴール?

 

「……!」

 

 困惑しながらも――そっちを見てみると。

 そこには、見覚えのある姿がある。

 忙しなく揺れる、黒いポニーテール。

 あの激しいレースの中でも、わたしに話しかけてくれた――

 

 ――あの人。

 

 名前は――

 

 ――わかんない!

 

「――ッ!!」

 

 でも、とにかく。

 とにかく、その背を目指して。

 その背を見つめて、ただ走る、走る、走る。

 

 悠然と、超然と――譲らない、とばかりに、走り続けていた、その背中は――

 

「――!」

 

 しかし、やがて。

 ゴール板を、通り過ぎる。

 

『――おーっと、しかし決めたぁー!! 一着は、ナリタブライアン! その圧倒的な速さで、無慈悲に勝負を決めて見せたぁー!!』

 

 実況が、歓喜に湧く中――

 わたしは、終わりを、感じるけれど。

 

「――っ!」

 

 でも、

 でも。

 その姿は。

 まだ、ターフの上にあって。

 私の方を――ちょうど、振り返っていた。

 

「――……」

 

 急速に。

 目前に。

 迫るその人は。何事かを、私に言った気がしたけれど――

 

「――!?」

 

 ……気にせずに。

 

 構わずに。

 

 わたしは――その人の元へ。

 

 

「――っ」

 

 

 その胸の中に。

 飛び込んでいた。

 

 

「――つか、」

 

 

 飛び込んで、

 

 

「まえっ――」

 

 

 両腕で。

 抱き締めて、いた。

 

 

「――ったっ!」

 

 

 ――捕まえた。

 彼女を。

 捕まえていた。

 

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