16年度の卒業生   作:Ray May

128 / 163
Shadow Break p6

-◆◇◆-

 

 

 

「――うむ。事の顛末は理解した」

 

 

 晴天の、トレセン学園第一グラウンドにて。

 秋川やよいは、一連の報告を聞き、そう言っていた。

 

「無事にコハクダブルスターの人格は統合され、危険判定も外され、先に出された処分要請も取り下げられた。彼女は晴れて、我が校の一員として迎えられることとなった。うむ! これにて、一件落着だな!」

 

 その言葉は、一見心底に嬉しそうに見える。

 しかし――声色の方はというと。一辺倒に嬉しげ、というわけではなく。

 

 

「……で?」

 

 

 証拠に。

 一気に、その声を、威圧的に低めていた。

 

「その落とし前、どう着けるつもりだ……?」

『……』

 

 訊ねられた一同は。

 例の一件にて、コハクダブルスターの捕獲のため、街中を走り回ったウマ娘、並びにトレーナー一同は。

 

 誰一人の例外なく、そこに、正座させられていた。

 

 ずーん……と。

 一般的なウマ娘はもちろんのこと。

 生徒会であるルドルフ、ブライアンですらも、正座を、させられていた。

 

 

「――わかっとるのか!」

 

 

 答えない彼女らに。

 秋川は、我慢の限界、とばかりに声を張り上げていた。

 

「街中を勝手に走り抜けたことによる民衆の混乱! 交差点内に無断で侵入したことによる交通障害! 公共施設への無断侵入、設備の無断使用、更にそれによる近隣住民の苦情!! 君らはもしかしたら私が神か何かだと思ってるかもしれんがな、私にも庇える範囲には限度があるのだぞ!!」

「い――いやいや、でもちょっと待ってくださいよ理事長……」

 

 そんな声に、西崎が中腰で立ち上がり、戦々恐々ながら反論する。

 

「た、確かに俺ら、許されないことやったかもしれませんけど……結果として、『あの子』の危険要素は排除できたんですし。少しくらいは情状酌量n「じゃかぁしぃッ!!」

 

 が。そんな取ってつけたような反論に、秋川が納得するわけがなく。

 むしろ神経を逆撫でしたとばかりに、彼女愛用の扇子が飛来し、西崎の顔面を強打していた。

 暴力によって黙らされた西崎は、潔くその場に座り直し。

 投擲された扇子は駿川たづなによって回収され、再び秋川の手に戻っていた。

 

「……、」

 

 それで落ち着きを取り戻したのか。

 秋川やよいは、深く息を吐き、言う。

 

「……まぁ。君の言うことにも一理ある」

 

 それまでとは打って変わっての。

 静かな声色で、言う。

 

「手段はどうあれ……一人のウマ娘は、命の危機から逃れた。君らの尽力がなかったら……君らの行動がなかったなら、危うく我々は、史上初めての『処分者』を出すやもしれなかった。……その事実は認めなくてはならん」

 

 そこで、言葉を切ると。

 何事かを思案する素振りをし。

 

「――わかった」

 

 やがて、言った。

 

「その功績に免じて、生徒に関しては。今回の件、不問とする!」

『――!』

 

 下された判断に――

 生徒たちは、控えめな歓喜に湧き。

 

「……!」

 

 トレーナー陣も、立ち上がりかける――が。

 

「――ただし! トレーナーは向こう三ヶ月、減給!!」

「え、そ、そんなぁ~……!」

 

 その判断に、楽しげな笑いが、グラウンドに響いていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

『お説教』が終わり。

 コハクダブルスターは、学園内を歩いていた。

 その視線の先には、健気に羽をはためかせている蝶がおり。

 

「……」

 

 彼女はそれを追っていたが。

 やがては、立ち止まってしまう。

 なぜなら、蝶が、自分では手が届かない場所。

 学園エントランス付近の、巨大な像の頂点に、止まってしまったからだ。

 

「……」

 

 尊大で、壮大なその像を見上げる彼女に。

 

「――三女神像」

 

 声が掛けられる。

 コハクが振り向くと――そこには、黒色のポニーテールが揺れていた。

 ナリタブライアンは。

 彼女の隣に立ち、同じように、像を見上げる。

 

「この世のウマ娘の始祖となった、三女神と呼ばれるウマ娘を象った像だ」

「……聞いたこと、ある」

「誰もが一度は耳にする神話だろうからな。当然だ」

 

 そっか、とコハクは返し、三女神像を改めて見る。蝶は、未だにその頂点にて羽を休めている。

 

「……考えたことがあるの」

 

 さなかで、ぽつりと、話し始める。

 

「なんで……みんな、いいとか悪いとか、凄いとか凄くないとか、いちいち、決めるのかなって」

「不満か?」

「不満というか……不思議、なのかな。だって、みんな、同じウマ娘なんだよ」

 

 これまでの生活の中。

 これまでの日々の中で――常、思っていたことを。

 

「みんな同じ場所からくる。みんな同じところが始まりなのに……どうして、わざわざ、優劣を着けたがるんだろうって」

 

 常。

 考えていることを。

 

「……みんな、同じなんだから。みんな凄い、でいいのに……」

「……」

 

 血統。

 誉れ。

 そういった、形のない光に振り回された彼女だからこそ、の哲学なのだろう、とブライアンは思う。

 

 誰が凄く、凄くないのか。

 確かに、そんな観点がなければ、こんな風に、自分達が、齷齪走り回ることも無かったろうと。

 こんな風な、騒動が起きることもなかったろうと。

 全てが平穏で、安寧に、過ごせていたことだろう――と。

 

 しかし、と。

 ブライアンは、思う。

 

「……私は、そうは思わない」

「え……?」

「『競争』のない世界なぞ、退屈なだけだ」

 

 不思議そうに見上げる彼女に。

 ブライアンは言う。

 

「今よりも優れた世界を。誰よりも優れた力を。いつだってそういった思いが、世界を前進させてきた。誰もが凄い、誰も彼もが優秀――そう信じあえる世界は平和かもしれないが。誰もが誰をも目指さない、誰もが誰とも競わない世界なぞ、ただただ、退屈なだけだ。

 

 そこには、進化も、進歩もない。平坦な、何も起こらない世界があるだけだ。そんな世界こそ……私は、忌避するよ。もちろん、限度はあるがな」

「……わかんない」

「直にわかる」

 

 純粋で。

 純朴な、その瞳を見つめて。ブライアンは言った。

 

「『追われる側』になれば……今にわかるさ」

「……」

「行くぞ」

 

 不思議そうに。

 ただただ不思議そうに見つめる彼女に、ブライアンは手を差し伸べる。

 

「今日は、学園を案内する日だ」

「そうだっけ」

「そうだ」

「ん」

 

 コハクは、その手を取り。

 二人、歩き出す。

 

「――そういえば」

「なんだ」

「あなたのお名前、まだ聞いてない」

「ナリタブライアンだ」

「……なりた……ぶあん?」

「ナリタブライアン」

「なりた……りあん」

「ナリタ」

「なりた」

「ブライアン」

「ぶらいあん」

「ナリタブライアン」

「なりたりあん」

「……もうそれでいい」

「ん。わかった」

 

 蝶は。

 そんな二人が、立ち去った後。

 

 像の頂点から、どこかへと。再び、羽ばたいていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。