16年度の卒業生   作:Ray May

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想いを背負って

-◆◇◆-

 

 

 

「……なんで泣いてんだよオメーは」

 

 トレーナー室で。

 カペラちゃんが、呆れたように言っていた。

 その表情は、涙で滲んでしまっていてろくに確認することも出来ない。きっと、その声色に相応しいような顔色になっていることだろう。

 でも……でもしょうがない。

 だって。

 だって……

 

「――っ、だってぇ~!!」

「だっても何もねーだろ!! 泣いてるとあたしらがなんかしたみてぇじゃねぇか!!」

「あなたの顔が恐ろしいからですよ。もっと穏やかな顔になったらどうです?」

「無茶苦茶言うな!! あたしは生まれつきこの顔だっての!! なんだ!? 整形しろってのか今から!?」

「ん。大丈夫。ペンならある」

「大丈夫じゃねぇよ!! 落書きする気満々じゃねーか!! 近寄るな! 許可もしてねぇだろ!!」

「……、……」

 

 ……室内を満たす喧騒は。

 その騒がしさは。

 私がずっと、ずっと追い求めていたもので。

 

 ずっと、ずっと。

 探し求めていたもので。

 

 それを求め始めてから。だいたい、三ヶ月。

 いや、四か月、かな。とにかく、それくらい……

 

「待てぇー、大人しくお縄につきなさぁーい」

 

 コハクちゃん。

 

「狭い室内で暴れないでもらっていいですか。鬱陶しいです」

 

 ヒスイちゃん。

 

「だったらコイツを止めろっての!! なんであたしが一番悪いみたいになってんだよ!!」

 

 カペラちゃん。

 

 いる。

 確かにみんな、ここにいる。

 離れ離れになって、散り散りになって、バラバラになって、もう、一つ所に集まることはないのかもしれない、なんて思ったこともあったけれど。

 

 いる。

 今日ここで。

 確かに、再会できた。

 

 ……

 ……そう思うと。

 

「……~~」

「だから泣くなっつーのオメーも!! そろそろあたしのキャパ越えんぞマジで!! 誰かなんとかしろぉ!!」

 

 と、まぁ。

 そんな、乱痴気じみた騒ぎがしばらく続いて。

 

「はぁー……」

 

 ようやく落ち着いた。

 カペラちゃんが、疲労に似た息を吐く中で。

 私たちはいつもと変わらない様子だったので、さすがにちょっと申し訳なかった。

 

「それでさ……お前はどうすんだよコハク」

 

 でもそれでも彼女は、会話の舵を進んで取ってくれていた。ところで――とばかりに言う。

 

「あたしらチームに入ってるけど……お前もチームに入ることになるんじゃねぇか?」

「そうでしょうね。私たちはチームに入って、あなただけは入らずに指導を受ける……なんておかしな話もありませんから」

「……お前なんでちょっと不満そうなんだよ」

 

 ヒスイちゃん、確かに少し黒いオーラが滲み出ていた。特別扱いが嫌なんだろうか。

 

「ん……大丈夫。もう決まってる」

 

 そんな私たちに、コハクちゃんはあっけらかんと答える。それに……私たちは顔を見合わせた。

 

「……決まってるの?」

 

「ん。かいちょーさんが、いいところがあるって教えてくれた」

 

 問いかけると、彼女は変わらぬ表情で続ける。会長さんが……教えてくれたチーム。もしかしてそれって……

 

「どこだ? もしかしてあたしんとこか?」

「んーん」

 

 カペラちゃんは、チームスピカが受け入れてくれた時のことを思い出したんだろうか。その推測に、しかし彼女は首を横に振り、答えていた。

 

 

「りぎる」

 

 

「――!?」

 

 それに。

 思わず、息を呑んでいた。

 

「リ――リギル!? え!? あのリギル!?」

「ん」

 

 ……思わず立ち上がりながら復唱すると、彼女は何ともなしに頷く。いや本当に。どうしてこんなことに動揺してるのか、と言わんばかりに動じていないけれど。

 あのね君。これは結構衝撃的な事実なんですよ。私たちからしたら、予想外も予想外過ぎることなんですよ、実際は……!!

 チームリギル。

 チームの中でもエリート集団、と言われている彼女らに――

 コハクちゃんが入るだなんて……!

 

「なりたいあんもいるっていうから、受けた」

「なりたいあん……? 誰……?」

「ぶらいあん」

 

 あぁ……ブライアンさんね。絶妙に珍妙な名前だったから全然わからなかった。あの人、本当にすっかりこの子に懐かれちゃったんだな……

 

「な……なんつーか会長って、普段は威厳があって真面目だけど、こういう変なとこずぼらっていうか、テキトーだよな……」

「まぁ、あのお方のことです。何か考えあってのことでしょう。あまり悪く言わないことですよ」

「あぁまぁ、別に批判してるわけじゃねぇけどさぁ……」

 

 釈然としない様子のカペラちゃん。気持ちはわかる気がする。以前の競技場での走りを見て、素質はあるとは思っているけれど。

 彼女が果たしてちゃんとやっていけるんだろうか、という親心じみた心配もある……

 

「……」

 

 ……でも、まぁ。

 それも含めて、この子が決めたことなのだから。

 私たちが、外からとやかく言うことはないか……

 ならば。

 それならば……

 

「……なら、あとは」

「あとは?」

「……何もないね!」

「そ――う、だな」

 

 カペラちゃん、そんなことはねぇと言いたかったのか、勢いづいた言葉は、急速に萎んでいた。

 そう。

 もはや何もない。

 私たちの間に――

 問題は、なかった。

 もうあとは。

 あとは――

 

「あとは、やるだけ!」

「『目標』に向けて、か」

「ありまー!」

「すみません。前々から思ってたのですが」

 

 何て言っていると、ヒスイちゃんが控えめに手を挙げていた。

 

「どうして有マなのです?」

「へ?」

()()を軽視しているわけでは()()()せんが、大きな舞台なら他にもあったと思うのですが」

「あー……まぁ、それは……」

「ひすいちゃん……おやじぎゃぐ! あははー!」

「……五月蝿いですよ」

 

 あ。確かに親父ギャグになってた。今気が付いた……じゃない。えっと。そうだよね。確かにそうだ。

 その理由。まだみんなに話していなかった。理由って言っても――

 そこまで大層なものじゃないんだけれど。

 

「まぁその……私の中で、有名な大会で……全員が出られそうで、ほどよく準備期間もありそうだったのがそれってだけで……あはは。深い意味はそんなないですー……」

「そうですか。そんなところだろうと思っていました」

 

 言外に浅い女って言われた気がする。なんか、ごめんなさい。

 

「別にシニアまで待つって選択肢もあったんじゃねぇか? 準備云々って話なら」

「まさか! そんなに悠長に待ってられないよ! 『全盛期』だって過ぎちゃうかもしんないし!」

「ん。遊ぶなら、早い方がいい」

「いや、あたしら別に遊びに行くわけじゃねぇからな?」

「いいのではないですか。クラシックシニア級なら、ここで負けても、次にリベンジもしやすいですしね」

 

 まぁそういうわけだ。要は私の自己満足でしかない。そこに、深い意味も難しい理由もない。

 目標を、無理にそれだけに絞ることもない。

 

「……変えたいなら、変えるでもいいよ」

 

 だから。念のため、と問いかける。

 

「そこに拘ることもないから。みんなが望むなら……」

「何を仰います」

 

 でも、ヒスイちゃんは眼鏡を指で押し上げて、言っていた。

 

「元々私たちは、『その名』の元に集まったのです。ここで曲げる理由はありません」

「だな。こっちも『その気』で準備してんだから。今更曲げるなんて、こっちから願い下げだ」

「ん。逃げない」

「……そっか」

 

 結局。

 想いは一緒で、変わることもなさそうだった。

 それを確認出来て。

 

「……よし」

 

 私は、もう一度、確認も兼ねて、言う。

 

「それじゃあ、目標は『来年』の、有マ記念大会。それまでちょっとの間……お別れになるかな、また」

「そうですね。各々、指導方針などもありますから。別の大会でぶつかるかもしれませんけれど」

 

 でも、実際は基本的に、別々の練習、別々の場所で、頑張ることになると思う。ようやく一緒になれたのに、再び散り散りになってしまう。それは少し寂しかったけれど。

 けれどそれは。

 今までの『別れ』とは――根本的に違っていた。

 

 今回のそれは。

 明確に、目標地点が同じだから――

 

 ……最果てで。

 再会出来ると、保証があるから。

 

「……一年後、ですね」

「はっ、一年ありゃあ追い越すのなんて訳ねぇぜ」

「ん。半年でもいい」

「いや、さすがに半年は短ぇだろ……」

「あはは……ま、まぁ、私が一年早く来ちゃってるしね」

 

 どうしても、そこのとこのアドバンテージは消せない。

 消せないから――もしかしたら、この大会は。

 

「……私が、ぶっちぎっちゃうかもしれないけど」

「言っとけ。吠え面かかせてやる」

「いいえ。吠え面かくのはあなたたちですよ」

「んーん。わたしが一番」

「……はは」

 

 ……やる気も闘志も、満ち満ちていて。

 もう、躊躇う理由はどこにもない。

 だから、私は、目の前の机の上に、手を差し出す。

 手の甲を上に、手のひらを下にして。

 

「それじゃ、みんな……それぞれの場所で、頑張ろう」

「……おう」

 

 

 そこに、カペラちゃんが手を重ね。

 

 

「望むところです」

 

 

 ヒスイちゃんが続き。

 

 

「ん。頑張る」

 

 

 コハクちゃんが、締めた。

 

 各々、お互いに。

 顔を見合わせて。

 

 

 意志に。

 想いに。

 願いに。

 望みに――

 

 寸分の違いも、ほんの少しの揺らぎもないことを。

 改めて、確認して。

 

 

 ……そして。

 

 

「――中山の舞台で、会おう」

 

 

 私は。

 言った。

 

 

「また――一年後に!」

 

 

 それに、呼応して。

 

 

 

『――おーっ!!』

 

 

 

 威勢のいい声が。

 その部屋の中いっぱいに、響き渡っていた。

 

 

Uma-Musume

Graduate of 16

Act.4

Rise to the Freedom

自由へのはばたき

 

-End-

 

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