16年度の卒業生   作:Ray May

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散らばっていた全てが
今ひとつに重なる
手を取り 始めよう
僕たちの物語

―― かくれんぼ / AliA




Act.5 End of the Dreams - 夢の終着点
先達に献ぐ祈りの頌 p1


-◆◇◆-

 

 

 

 中山競技場は、分厚い歓声に包まれている。

 この類の歓声は、これまでに何度も浴びてきたので。さすがに少しは慣れてきた。

 新緑の芝、ターフの上。これから共に走る、ライバルたちの目は。

 決して先を譲らない、とばかりに、ぎらぎらとした闘志に光っている。

 そのほとんどは、私とそう関わりのない子のもので……

 

「……」

 

 ……有マ記念、迎えた、その大舞台に。

 私がよく見知った、『彼女ら』の姿はなかった。

 見慣れた、『同級生』の姿は。

 そこには、なかった。

 

「…………」

 

 息を吐き。

 今のこの状況と向き合う。

 

 そう。大丈夫。別に――何も、哀しくなんかない。

 そこに、『彼女ら』の姿がなくたって。

 全然――悲しくないし、辛くもない。

 

 だって。

 だって――

 

 それは。

 彼女らが、出走の抽選に漏れたとか。

 そういう話――

 

 ……では、なく。

 

「……、」

 

 ……単に。

 その資格を、『まだ』持っていない、というだけの話で。

 

「――ミザールー!」

 

 歓声を切り裂いて聞こえてきた声に、振り向くと。

 

 幼馴染、三人組――カペラちゃん、ヒスイちゃん、コハクちゃんが。

 チームスピカ――スペさんとテイオーさん、

 チームカノープス――ターボさんとイクノさん、

 そしてチームリギル――ブライアンさんとシービーさんたちと、共にこちらを見ていて。

 私は、それに手を振っていた。

 

 ……というわけで。

 

「――ふぅ」

 

 えへへ。驚きました?

 そう、私が今立っているのは、確かに、有マ記念の大舞台。

 年末の総決算――多様な想いの集う、中山競技場。

 でもそれは――私たち、16年度の卒業生を巡るいざこざのあった、その年の暮れのもの。

 

 彼女らはジュニア級で。

 私はクラシック級。

 

 ――私たちが目標とするものとは、別のもの。

 一年早い方の、有マ記念大会なのです。

 

 ……本当は、トレーナーさんとのミーティングで。散々回避する、という話になっていた。

 なっていたし、実際私も、その方がいいだろうとも思っていた。

 けれど。だけれども。今回、この大会は絶対に外せないと思い直したし。

 外してはいけない、やっぱり絶対、参加したい――と考えて、

 まぁいい下見になるし、ということで、結局、出走することとなったのだ。

 

 なぜ、そうまで出走したがったのか。

 なぜ、そこまで拘るのか。

 

 その理由。その目的は――

 ……ほかならぬ。

 私の、視線の先。

 

「――いやぁしかし、ホンマにここでやり合うことになるとは思っとらんかったで」

「……、やってみたいって言ってたじゃないですか。要望通り来ましたよ――」

 

 揺れる芦毛。

 小柄な体躯ながら。

 これまでにない威圧感に。私は、口角が吊り上がる感覚を覚えながら、言った。

 

「――タマちゃん先輩」

「……」

 

 タマちゃん先輩。

 白い稲妻――タマモクロスさんは。

 私の目の前に辿り着くと、不敵な笑みで、応じていた。

 

 ……そう。

 

 この有マ記念は。何を隠そう――彼女、タマちゃん先輩の、栄えあるラストランなのだ。

 これがどんな結果に終わろうとも、彼女はもう、今後公式のレースでは走らない。DTLにも移籍せず、正真正銘、一線から身を引いてしまう。

 併走、くらいはそれでも付き合ってくれるかもしれないけれど――

 本気の彼女と。

 正式なレースとして、ターフの上で走れるのは――もう、今日で、最後となってしまう。

 だから。

 だから、無理言ってここまで来たのだ。

 なんだかんだ言って私、本気の彼女と、走り合ったこと、なかったから。

 一度だけでいい。

 勝っても、負けてもいい――

 本気の彼女と。

 走り合いたい、と思ったのだ――

 

「はは」

 

 遠い昔に見た気がする。

 タマちゃん先輩は、ぞっとするような冷えた声色で笑っていた。

 

「先輩の引退試合に、花添えてくれるっちゅうんか。今どきの後輩はホンマに優しいなぁ」

「どうでしょうね。もしかしたらその花、奪っちゃうかもしれませんけど」

「はっ――ちぃと見ん間に、生意気言うようになったやん」

「お陰様で」

 

 ……自分で炊きつけといてなんだけど、視線が、バチバチと音を立ててぶつかり合ってる感覚がする。でも、それを怖いとか、嫌とかは感じない。

 同じ舞台、同じ世界。同じレベルに、立てている事実が。

 嬉しくて――たまらない。

 楽しくて。

 たまらない……

 

「ふ、二人とも……」

 

 ……しかし。

 ここは、有マの大舞台。

 警戒すべき、戦うべき『大物』は。

 何も、タマちゃん先輩だけじゃない……

 

「ま、まだ試合、始まってないよ……? そんなにバチバチにならなくても……」

「……ごめんなさい。私ったら昂っちゃって」

「えぇやんえぇやん。別に取って食おうっちゅうわけやないしな」

 

 けらけら笑う私たちに。

 困ったようにおどおどしているのは――

 豪奢な黒色のドレスに、黒いミニハット。アクセントのような、青い薔薇――

 ――ライスシャワーさん。

 

「――お気持ちはわからないでもないですけれどね、お二人とも」

 

 ……そして。

 そして。もう一人。

 

「せめて出走までは、礼儀正しく。淑やかにいるべきだと思いますわ?」

「……ご忠告どうもです」

 

 ライスシャワーさんに、勝るとも劣らない豪奢さの、漆黒のコートドレス。

 そして。薄紫色の、ロングヘアー。

 

「マックイーンさん」

 

 ……メジロマックイーンさん。

 例の模擬レースの時。辛酸を舐めた――苦い思い出が、蘇る。

 それを噛み締めながら、改めて、そこに集った姿を認めた。

 

『黒い刺客』。

『ターフの名優』。

 そして……『白い稲妻』。

 

 今日この場で、私が一番に注目すべき、警戒すべき――

 三人の、『怪物』。

 

 もちろん、他の子たちを軽視してる、ってことではないけど。

 特にこの人たちから、目を離さないようにしなくては……

 

 勝負は。

 

 一瞬で、終わってしまうだろう。

 

「……なんやなんや。もしかしてビビっとるんか? 『名優』はんは?」

「まさか。むしろビビってるからこそ、そういった攻撃的な言葉が出てくるのではなくて?」

「マックイーンさん。肩震えてますよ。素直になったらどうです?」

「あらあら。本当に小生意気な口を叩くようになりましたわねぇ。震えて見えるのは、あなたが震えているからではなくて?」

「も、もーっ、みんな仲良くしようよっ」

 

 周りからはバチバチに見えるだろうか。

 穏やかじゃないように映るだろうか。

 不敵なタマちゃん先輩。

 淑やかさの欠片もないマックイーンさん。

 おどおどするライスさん。

 そして、負けじと対抗する私。

 それを、客観視して……

 

「――ぷっ」

 

 思わず。

 

「あははははっ」

 

 笑っちゃっていた。

 

「……何笑ろてんねん自分」

「い、いやいや。なんかもう、出走直前なのに、ここまでバチバチなのが可笑しくって」

「ふふっ、出走前のバチバチは、淑女の嗜みですわね」

「そんな嗜みあってたまっかい!」

「そ、そうだよっ、出走前くらい、仲良くしなくちゃっ」

「バチバチやのうて、ガチガチにやるのが嗜みやろっ!」

「が、ガチガチ!? ら、ライス、着いていけないよぉっ」

「あ、あのー、皆様方?」

 

 なんて。

 冗談交じりの言い合いをしている私たちに、申し訳なさそうな声が掛けられた。

 

「……そ、そろそろゲートへ……」

「あ。ごめんなさい」

 

 それは、係員さんだった。マックイーンさんが、優雅に笑いながらそれに対応してくれる……

 ……いけないいけない。そうだった。もうお披露目も済んでるんだから。あとはゲートに入って、出走するだけ。

 こんなとこで、いつまでもやり合ってるわけにもいかない。

 

「――では、皆さま?」

 

 と。走り出そうとした時。

 マックイーンさんが、拳を前に差し出していた。

 

「いい勝負に、致しましょう?」

「……」

 

 それを聞いて。

 私と、タマちゃん先輩と、ライスさんは。一瞬だけ、顔を見合わせて。

 

「――おう!」

「言われなくとも!」

「が、頑張りましょうっ」

 

 彼女の拳に。

 自分たちの拳を、軽く打ち付けていた。

 

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