16年度の卒業生   作:Ray May

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先達に献ぐ祈りの頌 p5

-◆◇◆-

 

 

 

 あぁもう。

 ホンマに、もう駄目なんやな、ウチの身体は。

 そう思う。

 

「……、……」

 

 あの程度の加速で、もう身体中がギシギシ言うとる。

 ミシミシ軋んで、もうこれ以上はやばい、ってウチに必死に訴えとる。

 

 これ以上いったら、

 これ以上やったら、

 もう、駄目になってまうで、と。

 ウチに、決死で、警告しとる。

 

「……」

 

 ……わかっとるわい。

 ウチかて、わかっとる。

 

 自分の身体の持ち主やし。自分の身体が限界かどうかくらい、見極められるわ。

 だからこそ、身を引くタイミングをわかっとったし。

 だからこそ、あんな込み入った事件が起きてもうたんや。

 

 でもな。

 でも。

 ウチらには――決して、譲れんモノ。

 譲っちゃあかんタイミングってもんが、あんねん。

 

「――っ」

 

 えぇ。

 

 別に、えぇ。

 

 これで走れんくなっても。

 これで、歩けんくなっても。

 いやいや、もう、これで、まともに動くことすら出来んくなっても。

 

 ウチは――かまへん。

 

 かまへん。今、全力で走れれば。

 

 ……だって。

 だって――

 

「……」

 

 ――偉大な先輩の前で。

 

「……」

 

 ――大切な同輩の前で。

 

「……」

 

 ――可愛い、後輩の前で――

 

「……ッ」

 

 

 

 

 

 カッコ悪いとこなんて、

 

 

 見せられへんやん――!!

 

 

 

 

 

 ……

 

 だから。

 

「――れ」

 

 だから。

 

「ゆずれ――」

 

 だから――!!

 

「前譲れやッ!! クソ貴族ッ!!」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「――ッ」

 

 タマモクロスからの、怒号に似た叫びに。

 マックイーンは、即座に反応する。

 

 それに、自身の口端が。

 下品にも、歪むのを感じながら。

 

「――だったら、」

 

 全力で。

 心の底から、応じた。

 

 

「だったらッ!! 奪い取ってみせなさいッ!!」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 ――すごい。

 そんな感想しかなかった。

 

 最後、ライスさんと競り合いながら、マックイーンさんに追い縋って終わりか。

 ぼんやり、そんな風に考えていたのに。

 

 背後から、無慈悲に追い上げてきた――タマちゃん先輩。

 

『白い稲妻』。

 

 正しくその異名のままに。

 突然に、激しく――駆け抜けてきた。

 今やその背中は。

 私たちよりも、前にある。

 

「……」

 

 その姿は。

 あまりに荒々しく、しかし――可憐な。

 その、後ろ姿は。

 雄姿は――……

 

「……っ」

 

 

 ――最高に。

 カッコよかった。

 

 

「――、」

 

 それに、煽られたように。

 胸の奥から、熱いものがこみ上げる。

 

「――ッ!!」

 

 それに押されるまま。

 私も、強く足を踏み込んでいた。

 私だって。

 私だって――!!

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「――……」

 

 ライスシャワーは。

 驚愕に、目を見開いていた。

 

 ――嘘。

 

 それは、自分の勝利のパターンが崩れたからではない。

 そんなものは、即座に組み替えればいいだけの話だ――そうではなく。

 

 目の前の変化――に応じて起きた。

 すぐ傍のウマ娘の、変化にあった。

 

 ――嘘でしょう……?

 

 彼女は、突如現れた『稲妻』に。

 一時、心奪われたように、呆然としたかと思えば。

 一気に――その速度を上げていたのだ。

 それに呼応し、ライスもまた、速度を上げようとしたが。

 というか――実際、上げたのだが。

 

 ――追いつけない――!?

 

 追いつけない。

 追い縋るどころか。

 その背中との距離は――一方的に、開くばかりだ。

 

 彼女とは、半年ほど前に、共に走った。

 例の模擬レースにて――その才能の片鱗を見せた彼女だったが、地力の差で、こちらが危なげなく勝利を収められていた。

 どころか向こうは、下から数えた方が早いくらいの順位で、これからが楽しみだな、などと、楽観した印象さえ覚えていたのに。

 

 それなのに。

 それなのに――

 

 もう。

 自分が、置いてきぼりを、食らう立場になっている――

 

「……」

 

 だが。

 ライスは、それに悔しさを感じない。

 目の前――のみならず。その更に先、見果てぬ何かを見つめて走る彼女に、親愛の情すら湧く。

 

 今まで、何人もの先輩に出会ってきた。

 何人もの先輩の雄姿を、見送ってきた。

 いずれは自分も、そんな立場になるのだろう。そんな風に、いつも、漠然と考えていた。

 ライスシャワーは。

 

「…………」

 

 ――『その時』が。

 とうとう来たのだな、と。

 

 その目元を――ミザールの背中を見ながら。

 

 優しく。

 柔らかく。

 綻ばせていた。

 

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