あぁもう。
ホンマに、もう駄目なんやな、ウチの身体は。
そう思う。
「……、……」
あの程度の加速で、もう身体中がギシギシ言うとる。
ミシミシ軋んで、もうこれ以上はやばい、ってウチに必死に訴えとる。
これ以上いったら、
これ以上やったら、
もう、駄目になってまうで、と。
ウチに、決死で、警告しとる。
「……」
……わかっとるわい。
ウチかて、わかっとる。
自分の身体の持ち主やし。自分の身体が限界かどうかくらい、見極められるわ。
だからこそ、身を引くタイミングをわかっとったし。
だからこそ、あんな込み入った事件が起きてもうたんや。
でもな。
でも。
ウチらには――決して、譲れんモノ。
譲っちゃあかんタイミングってもんが、あんねん。
「――っ」
えぇ。
別に、えぇ。
これで走れんくなっても。
これで、歩けんくなっても。
いやいや、もう、これで、まともに動くことすら出来んくなっても。
ウチは――かまへん。
かまへん。今、全力で走れれば。
……だって。
だって――
「……」
――偉大な先輩の前で。
「……」
――大切な同輩の前で。
「……」
――可愛い、後輩の前で――
「……ッ」
カッコ悪いとこなんて、
見せられへんやん――!!
……
だから。
「――れ」
だから。
「ゆずれ――」
だから――!!
「前譲れやッ!! クソ貴族ッ!!」
「――ッ」
タマモクロスからの、怒号に似た叫びに。
マックイーンは、即座に反応する。
それに、自身の口端が。
下品にも、歪むのを感じながら。
「――だったら、」
全力で。
心の底から、応じた。
「だったらッ!! 奪い取ってみせなさいッ!!」
――すごい。
そんな感想しかなかった。
最後、ライスさんと競り合いながら、マックイーンさんに追い縋って終わりか。
ぼんやり、そんな風に考えていたのに。
背後から、無慈悲に追い上げてきた――タマちゃん先輩。
『白い稲妻』。
正しくその異名のままに。
突然に、激しく――駆け抜けてきた。
今やその背中は。
私たちよりも、前にある。
「……」
その姿は。
あまりに荒々しく、しかし――可憐な。
その、後ろ姿は。
雄姿は――……
「……っ」
――最高に。
カッコよかった。
「――、」
それに、煽られたように。
胸の奥から、熱いものがこみ上げる。
「――ッ!!」
それに押されるまま。
私も、強く足を踏み込んでいた。
私だって。
私だって――!!
「――……」
ライスシャワーは。
驚愕に、目を見開いていた。
――嘘。
それは、自分の勝利のパターンが崩れたからではない。
そんなものは、即座に組み替えればいいだけの話だ――そうではなく。
目の前の変化――に応じて起きた。
すぐ傍のウマ娘の、変化にあった。
――嘘でしょう……?
彼女は、突如現れた『稲妻』に。
一時、心奪われたように、呆然としたかと思えば。
一気に――その速度を上げていたのだ。
それに呼応し、ライスもまた、速度を上げようとしたが。
というか――実際、上げたのだが。
――追いつけない――!?
追いつけない。
追い縋るどころか。
その背中との距離は――一方的に、開くばかりだ。
彼女とは、半年ほど前に、共に走った。
例の模擬レースにて――その才能の片鱗を見せた彼女だったが、地力の差で、こちらが危なげなく勝利を収められていた。
どころか向こうは、下から数えた方が早いくらいの順位で、これからが楽しみだな、などと、楽観した印象さえ覚えていたのに。
それなのに。
それなのに――
もう。
自分が、置いてきぼりを、食らう立場になっている――
「……」
だが。
ライスは、それに悔しさを感じない。
目の前――のみならず。その更に先、見果てぬ何かを見つめて走る彼女に、親愛の情すら湧く。
今まで、何人もの先輩に出会ってきた。
何人もの先輩の雄姿を、見送ってきた。
いずれは自分も、そんな立場になるのだろう。そんな風に、いつも、漠然と考えていた。
ライスシャワーは。
「…………」
――『その時』が。
とうとう来たのだな、と。
その目元を――ミザールの背中を見ながら。
優しく。
柔らかく。
綻ばせていた。