16年度の卒業生   作:Ray May

136 / 163
先達に献ぐ祈りの頌 p6

-◆◇◆-

 

 

 

 当然の話ではあるが――

 実況も解説も、もはやその展開から、一時も目を離せなかった。

 

「さぁ最終直線先頭は未だメジロマックイーンとタマモクロスの熾烈な競り合い背後からサファイアミザールが追い上げるがこれは厳しいか、5番サファイアミザール厳しいか!」

 

 それをしかと目に焼き付けながら。

 刻々と変わる状況を、出来るだけ如実に、かつ簡潔に紡ぎあげていく。

 

「残り直線100m!! 未だ先頭は競り合いが続いている!! 7番メジロマックイーンか10番タマモクロスか!!」

 

 残りの距離が縮むごとに。

 観衆の熱狂は高まっていく。

 

「――!!」

 

 メジロマックイーン。

 

「ッ――!!」

 

 タマモクロス。

 双方とも一歩も譲らない状況で、残り80m、50m――

 

「――ッ」

 

 身体はもはや限界を超えている。

 一瞬でも気を抜けば、転倒すらしてしまいそうな勢い。

 それでも――いや、だからこそ。

タマモクロスは、死力を尽くして走り続ける。

 

「――ぁ」

 

 前へ。

 

「ぁぁぁぁぁああッ――」

 

 前へ。

 

「――」

 

 前へ――

 

「う――お――ッああああああぁぁぁぁッ!!」

 

 強靭な意志と、強烈な闘志のもと。

 走り続けた身体は――……

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 

 

 メジロマックイーンの。

 

 ほんの少し、先を走った。

 

 

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

『――決まったぁぁぁぁッ!!』

 

 声が爆発する。

 歓声が巻き起こる。

 タマモクロスは、しばらく走り続け。

 やがて、停止していた。

 

『一年の締めくくり、有マ記念大会!! 見事『一年越し』に、その雪辱を果たしてみせましたッ!! 一着は――!!』

 

 彼女は。

 実況の声を聞きながら。

 自身の掌を、見つめ――

 

『――10番!! タマモクロスーッ!!』

 

 声と共に。

 それを握ると。高々と、頭上に上げていた。

 それに応じたように――会場に、再びの歓声が沸き上がる。

 腕を下したタマモクロスは――

 ゆっくりと、場内を見回した。

 

「……」

 

 歓喜に湧く観衆。

 

「……」

 

 拍手を送っている、先輩と、後輩。

 

「……」

 

 そのはるか後方。

 こちらを、確かに見つめている――親友。

 

「……」

 

 それに向けて、タマモクロスは。

 渾身のサムズアップを、示していた。

 

「――タマモさん」

 

 そんな彼女に――

 声を掛ける影。

 

「……マック」

「お見事でした」

 

 メジロマックイーンの顔は……

 達成感に、満ち溢れていた。

 

「まぁ、道中で汚い言葉を使ったのは、ちょっとアレでしたけれどね」

「あー……あはは……いやぁ、アドレナリン出まくると、ついお口が悪くなってもうてなぁ」

「いいですわ。よくあることですし」

「……冷静に考えると、レース中や言うても、普通に暴言出る環境ってクレイジーやな」

「全くですわ」

 

 冗談っぽく笑い。

 メジロマックイーンは、タマモクロスに手を差し出す。

 

「……おめでとうございます」

「……あぁ」

「もう、『負け犬』なんて言えませんわね」

「……、」

 

 その言葉に。

 タマモクロスは――かつての、苦い思い出を噛み締めながら。

 

「――おぉ。

 

 もう、誰にも言わせへんわ!」

 

 その手を。

 強く取っていた。

 

「――タマちゃん先輩!」

 

 そして、手を離した時。

 聞き慣れた声が、彼女を呼ぶ。

 

「……さ、行ってあげてくださいませ」

「え? 自分はえぇんか?」

「構いませんわ」

 

 相対しようとするタマモクロスと、相反して――

 メジロマックイーンは、背を向ける。

 

「……淑女は、色々忙しいのです」

「……」

 

 その声が、若干ながら震えているのを感じ。

 タマモクロスは、『それ』を察した。

 

「……わかった」

 

 だから。

 多くは語らず、『後輩』の元へと向かう。

 それを背中で見送ったマックイーンは、

 

「……っ」

 

 声を押し殺して。

 涙を流していた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 いやはや。

 これが本気のタマモクロスか――と、驚愕した。

 

「……完敗です、先輩」

「当たり前や」

 

 お互い、話せる距離になるなり。そう言うと。

 彼女は、どうだ、とばかりに胸を張っていた。

 

「何年キャリアの差がある思っとんねん! そんなんでウチに勝となんて1000年早いで!」

「いやぁー、ぶっちゃけ最後の最後まで、タマちゃん先輩は来ないのかーとか思ってたんですけど」

「最後の最後、油断したとこを刈り取るのが、『追込』の性や」

「ヤな性ですね……」

 

 いや、戦法としては普通なんだけども。もうちょっとで勝てる! と浮足立ったとこを狩るのは、なかなか無情だった。

 

「……、でも、大丈夫です」

「ん? 大丈夫?」

「はい。……あはは。結局今回、3着で終わっちゃいましたけど」

 

 そう、いいと思う。

 マックイーンさんも、タマちゃん先輩も。ライスさんも……みんな強くて。

 結局、入賞止まりになってしまったけど……

 

 ……それでも。

 それでも、良かったと思った。

 

 ここに来て。

 良かったと、思った。

 ……だって。

 

「……だって」

 

 そう。

 だって――

 

「……最高にカッコいいタマちゃん先輩。特等席で、見られましたから」

「……」

 

 そう言うと。

 彼女は、目を丸くしていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 自分は。

 どうなっていただろう、と、タマモクロスは考えていた。

 

「……?」

 

 もちろん、あのような――気まずい空気が、ずっと続くとは思えない。

 どこかで、『折り合い』を着けていただろうと思う――が。もしかしたら、それは、ずっとずっと手間も、時間も、掛かっていたかもしれない。

 

「先輩? どうしたんです?」

 

 そして、解決したとしても。

 お互いの関係性に、どうにもならないキズがついていたかもしれない。

 

「……先輩……?」

「……」

 

 そうならなかったのは。

 ならずに、済んだのは。

 

 彼女のお陰だった。

 

 あの日、メイクデビューで走ってくれたから。

 あの日、食堂にいてくれたから。

 この学園に。

 

 来てくれたから――

 

 

「…………」

 

 

『――おっす』

 

 

 

『――前、

 

 えぇか? ――……』

 

 

 

「……ミザール」

 

 そんな、あれこれを。

 そんな、奇跡を。

 

 思い出しながら。

 噛み締めながら――

 

「――、」

 

 タマモクロスは。

 言っていた。

 

「ありがとうな」

「……」

「タマモさーん! 呼んでますわよー!」

「! 今行く! じゃ、また学園でなっ」

「あ……はい」

 それを受けたミザールは。

 しばし、呆然とするも。

 

「……」

 

 果たして。

 柔らかく。

 笑みを、浮かべていた。

 

「……ミザールちゃん」

 

 そんな彼女に。

 声を掛ける影が、また一つ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。