当然の話ではあるが――
実況も解説も、もはやその展開から、一時も目を離せなかった。
「さぁ最終直線先頭は未だメジロマックイーンとタマモクロスの熾烈な競り合い背後からサファイアミザールが追い上げるがこれは厳しいか、5番サファイアミザール厳しいか!」
それをしかと目に焼き付けながら。
刻々と変わる状況を、出来るだけ如実に、かつ簡潔に紡ぎあげていく。
「残り直線100m!! 未だ先頭は競り合いが続いている!! 7番メジロマックイーンか10番タマモクロスか!!」
残りの距離が縮むごとに。
観衆の熱狂は高まっていく。
「――!!」
メジロマックイーン。
「ッ――!!」
タマモクロス。
双方とも一歩も譲らない状況で、残り80m、50m――
「――ッ」
身体はもはや限界を超えている。
一瞬でも気を抜けば、転倒すらしてしまいそうな勢い。
それでも――いや、だからこそ。
タマモクロスは、死力を尽くして走り続ける。
「――ぁ」
前へ。
「ぁぁぁぁぁああッ――」
前へ。
「――」
前へ――
「う――お――ッああああああぁぁぁぁッ!!」
強靭な意志と、強烈な闘志のもと。
走り続けた身体は――……
メジロマックイーンの。
ほんの少し、先を走った。
『――決まったぁぁぁぁッ!!』
声が爆発する。
歓声が巻き起こる。
タマモクロスは、しばらく走り続け。
やがて、停止していた。
『一年の締めくくり、有マ記念大会!! 見事『一年越し』に、その雪辱を果たしてみせましたッ!! 一着は――!!』
彼女は。
実況の声を聞きながら。
自身の掌を、見つめ――
『――10番!! タマモクロスーッ!!』
声と共に。
それを握ると。高々と、頭上に上げていた。
それに応じたように――会場に、再びの歓声が沸き上がる。
腕を下したタマモクロスは――
ゆっくりと、場内を見回した。
「……」
歓喜に湧く観衆。
「……」
拍手を送っている、先輩と、後輩。
「……」
そのはるか後方。
こちらを、確かに見つめている――親友。
「……」
それに向けて、タマモクロスは。
渾身のサムズアップを、示していた。
「――タマモさん」
そんな彼女に――
声を掛ける影。
「……マック」
「お見事でした」
メジロマックイーンの顔は……
達成感に、満ち溢れていた。
「まぁ、道中で汚い言葉を使ったのは、ちょっとアレでしたけれどね」
「あー……あはは……いやぁ、アドレナリン出まくると、ついお口が悪くなってもうてなぁ」
「いいですわ。よくあることですし」
「……冷静に考えると、レース中や言うても、普通に暴言出る環境ってクレイジーやな」
「全くですわ」
冗談っぽく笑い。
メジロマックイーンは、タマモクロスに手を差し出す。
「……おめでとうございます」
「……あぁ」
「もう、『負け犬』なんて言えませんわね」
「……、」
その言葉に。
タマモクロスは――かつての、苦い思い出を噛み締めながら。
「――おぉ。
もう、誰にも言わせへんわ!」
その手を。
強く取っていた。
「――タマちゃん先輩!」
そして、手を離した時。
聞き慣れた声が、彼女を呼ぶ。
「……さ、行ってあげてくださいませ」
「え? 自分はえぇんか?」
「構いませんわ」
相対しようとするタマモクロスと、相反して――
メジロマックイーンは、背を向ける。
「……淑女は、色々忙しいのです」
「……」
その声が、若干ながら震えているのを感じ。
タマモクロスは、『それ』を察した。
「……わかった」
だから。
多くは語らず、『後輩』の元へと向かう。
それを背中で見送ったマックイーンは、
「……っ」
声を押し殺して。
涙を流していた。
いやはや。
これが本気のタマモクロスか――と、驚愕した。
「……完敗です、先輩」
「当たり前や」
お互い、話せる距離になるなり。そう言うと。
彼女は、どうだ、とばかりに胸を張っていた。
「何年キャリアの差がある思っとんねん! そんなんでウチに勝となんて1000年早いで!」
「いやぁー、ぶっちゃけ最後の最後まで、タマちゃん先輩は来ないのかーとか思ってたんですけど」
「最後の最後、油断したとこを刈り取るのが、『追込』の性や」
「ヤな性ですね……」
いや、戦法としては普通なんだけども。もうちょっとで勝てる! と浮足立ったとこを狩るのは、なかなか無情だった。
「……、でも、大丈夫です」
「ん? 大丈夫?」
「はい。……あはは。結局今回、3着で終わっちゃいましたけど」
そう、いいと思う。
マックイーンさんも、タマちゃん先輩も。ライスさんも……みんな強くて。
結局、入賞止まりになってしまったけど……
……それでも。
それでも、良かったと思った。
ここに来て。
良かったと、思った。
……だって。
「……だって」
そう。
だって――
「……最高にカッコいいタマちゃん先輩。特等席で、見られましたから」
「……」
そう言うと。
彼女は、目を丸くしていた。
自分は。
どうなっていただろう、と、タマモクロスは考えていた。
「……?」
もちろん、あのような――気まずい空気が、ずっと続くとは思えない。
どこかで、『折り合い』を着けていただろうと思う――が。もしかしたら、それは、ずっとずっと手間も、時間も、掛かっていたかもしれない。
「先輩? どうしたんです?」
そして、解決したとしても。
お互いの関係性に、どうにもならないキズがついていたかもしれない。
「……先輩……?」
「……」
そうならなかったのは。
ならずに、済んだのは。
彼女のお陰だった。
あの日、メイクデビューで走ってくれたから。
あの日、食堂にいてくれたから。
この学園に。
来てくれたから――
「…………」
『――おっす』
『――前、
えぇか? ――……』
「……ミザール」
そんな、あれこれを。
そんな、奇跡を。
思い出しながら。
噛み締めながら――
「――、」
タマモクロスは。
言っていた。
「ありがとうな」
「……」
「タマモさーん! 呼んでますわよー!」
「! 今行く! じゃ、また学園でなっ」
「あ……はい」
それを受けたミザールは。
しばし、呆然とするも。
「……」
果たして。
柔らかく。
笑みを、浮かべていた。
「……ミザールちゃん」
そんな彼女に。
声を掛ける影が、また一つ。