16年度の卒業生   作:Ray May

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最高峰の夢 p1

-◆◇◆-

 

 

 

「ミザールくん?」

 

 暖かな春の陽気の下。

『ご神木』の前に立っていると、校長先生は、そう話し掛けてきていた。

 

「何してるのかね? こんなところで」

「うん。あのね、えっと……『約束』してたの!」

「約束?」

 

 振り返って答えると、校長先生は不思議そうに首を傾げていた。

 

「うん! ご神木って、ずーっと前からあるんでしょ。だから、これからもずーっとあるだろうから、約束してたんだ!

 

 私、

 絶対、

 すっごいウマ娘になってみせます、

 

 って!」

「それはいいねぇ」

 

 校長先生は、私の隣に並ぶ。

 桃色の花びらで豪奢に着飾ったそれは、相変わらず一言も言葉を発しないけど。

 何故だか――私を、応援してくれているように見えた。

 

「……うん。先生! 私、絶対になるからね! 期待しててね!」

「うむ。期待しているよ。それじゃ、今からいっぱい、いっぱいお勉強しなきゃな!」

「……それとこれとはお話が別です!」

「別じゃあない! さ、教室戻るぞ!」

 

 差し出された先生の手は、私にとって、悪魔の魔手に見えたけれど。

 観念して、その手を取る。

 歩き出す私たちの背後で。

 朗らかに笑うみたいに、ご神木は、風に揺れていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 ……聞こえる。

 

 遠くから、聞こえる。

 

 何度も、耳にしてきた声。

 

 何度も、この身に浴びてきた音。

 

 

「……」

 

 

 道を歩いていくたびに。

 

 その音は近くなっていく。

 

 音が近くなるにつれて。

 

 鼓動も早くなっていく。

 

 

 歩きながら。

 

 私は、掌を見つめる。

 

 武者震いを。

 

 思い出を。

 

 ……想いを。

 

 そこに確かめて。

 

 強く――握った。

 

 

「――っ」

 

 

 大丈夫。

 

 怖がっていない。

 

 怯えてもいない。

 

 躊躇いもない。

 

 もう。

 

 もう。

 

 あとは、

 

 行くだけ。

 

 だから――

 

 だから。私は、足を速める。

 

 だから、私は。

 

 眼前に広がる。

 

 光の中へと、

 

 駆け出す――

 

 

『――!!』

 

 

 ……会場は。

 中山競技場は。

 相も変わらず、とんでもない分厚さの歓声が響いていて。

 

 ただでさえ昂っている心が。

 更に、更に昂っていく。

 

 目の前には。

 幾人もの、ウマ娘が立っていて。

 

 その中には――

 確かに――

 見知った。

 見慣れた。

 見果てた――姿も。

 ある。

 

「……」

 

 来た。

 遂に、来た。

 遂に、遂に、ここまで来た。

 ここまで、来たんだ……

 私の、私たちの、夢の舞台に……!!

 

「――、」

 

 と、

 いう思いのまま、叫びそうになって、踏み止まる。

 いやいや、さすがにまだ早い、私。まだ出走どころか、ゲートインも済んでないのに。

 まるで勝ったかのような感情出すのはまずいって。

 

「……ステーイ、ステーイ」

 

 自分で自分を落ち着かせるため、呟く。そして改めて……

 

 改めて、周囲を見回す。

 

 見間違えるはずはない。頬を抓っても……ちゃんと痛い。うん。大丈夫。夢でもない。

 

 とうとう来た。ここまで来たんだ。私の、私たちの望む状態で。

 中山競技場――有マ記念大会に……!!

 

 私も、今年でシニア級。

 ここまで、色々苦難があったけれど、体調は万全、調子も快調だ。

 

 あとはやるだけ。あとは……走るだけ。

 

 この大会で――

 1着を、もぎ取るだけ――!

 

「……」

 

 しかし、当然だけれど。

 簡単な話ではない。

 私は、そこに集った『出走者たち』を見ながら。

 控室で交わした、トレーナーさんとの会話を思い出す。……

 

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