16年度の卒業生   作:Ray May

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最高峰の夢 p3

「……」

 

 ……瞬間。

 

『……とまぁ、ここまで十四人、誰も彼も、注意すべき手練ればかりだけどな、』

 

 トレーナーさんの、

 

『そいつらを差し置いてでも……お前が、真っ先に注意しないといけない奴がいる』

 

 あの言葉が。

 

『……わかるな?』

 

 脳裏を。

 ――過ぎっていた。

 

 

「――お久しぶりですね」

 

 

 そう。

 本当に、久しぶりに聞いた。

 

 

「こうして、またターフの上で会えて……良かったです」

 

 

 可憐で。

 可愛らしいながらも。

 威圧的な。

 声――

 

「……うん」

 

 それに。

 私も、応じていた。

 

「こちらこそ、だよ」

 

 茶色がかったボブカットに。

 ピンクを基調にした、巫女服のような服装。

 何度も見たその姿を。

 忘れるはずがない――

 

『――十五人目』

 

 

『黒桜の舞姫』。サクラチヨノオー

 

 

『……去年の日本ダービー制覇を皮切りに――続く宝塚記念、秋の天皇賞を連続制覇――

 

 その後も多くの重賞レースを優勝して、確実に力をつけてきた……言うまでもない、強力な新鋭。

 

 お前とは弥生賞でやり合ったのが最後で……こちらを避けるようなローテーションを組み続けてきた。

 

 ……ってか何なら、一部のレースじゃ、こっちが出るかどうかを直接聞かれたこともあった。

 

 明らかにお前を意識している。それだけに……正直、何をしてくるのか読めん。

 

 くれぐれも。

 くれぐれも、用心するんだ――……』

 

 

 

「……どうしました?」

 

 トレーナーさんの言葉を思い出していると。

 チヨノオーさんは。

 ……チヨさんは。

 小首を傾げて、問いかけてくる。

 

「ボーっとしてますけど。久々すぎて、感動しちゃってます?」

「……そんなところ。もう会えないかと思ってたよ」

「ふふっ、そうですか。そう思ってもらえるとは、光栄です」

 

 私の答えに。

 チヨさんは。そう言って。

 私の脇を、通り過ぎる――

 

 

「……覚悟してくださいね」

 

 

 その時に。

 確かに、言っていた。

 

 

「あなたにだけは……絶対に勝つ」

 

 

「……」

 

 ……それに。

 私は、自然、笑っていた。

 

「――こちらこそ、だよ」

 

 そして、そう答えながら。

 私も、その背に着いていく。

 みんな、まだゲートインを済ませていない。

 なんだか、私たちがやってくるのを待っていたようにも見える。

 多少なりとも『事情』を知っているだろうから。

 彼女なりの――そういう『祝福』とか、『歓迎』なのかも。

 

「さ~、『主役』も来たことだし」

 

 それを証明するかのように。

 スカイさんが、そう言った。

 

「始めよっか? そろそろ」

「……」

 

 それを皮切りに。

 みんな、それぞれに声を上げて。

 ゲートへと、向かおうとする――

 

「……皆さん」

 

 そんな彼女らに。

 私は、声を掛けた。

 

 みんなは。

 

 それに、しっかりと反応して、立ち止まり。

 こちらを見てくれる。

 

 合わせて十五人分。

 多くの視線を、一身に受けながら――

 

「――、」

 

 私は。

 

「――ありがとう、ございます」

 

 頭を。

 下げていた。

 

「今日……こうしてここに立てたのは、皆さんの協力があったからです」

 

 思い出す。

 

「私ひとりじゃ……絶対、ここまで来られなかった」

 

 思い出す。

 

「だから……ありがとうございます」

 

 思い出す――

 

「本当に、ありがとうございます」

「……はは。仰々しいな~」

「まだレースは始まってすらないですよ、ミザールさん!」

「……」

 

 スカイさんと。

 スペさんが、そう言ってくれる。

 それを聞いて、私は。

 

 ……口端を。

 上げていた。

 

「……その上で」

 

 そして、そう。

 その上で。

 

「皆さんに、言っておくことがあります」

 

 私は。

 みんなに。

 顔を上げながら。

 

「――……」

 

 

 ……

 

 ……言った。

 

「……このレース、

 

 

 

 

 

 一番を獲るのは、

 

 

 私です」

 

 

 

 

 

 ――ピリ、と。

 

 

 いや、ピシ、という表現の方が、正しいかもしれない。

 

 

 誰もが、その一言で。

 目の色を、変えていた。

 

「……言うねぇ」

 

 最初に反応していたのは、スカイさんだ。

 

「なるほど殊勝な心構えだ。君も今年シニア級だからね。それも無理な話じゃない――」

 

 彼女の声色は、変わっていなかったけれど。

 

「――でもごめんね」

 

 そこには。

 獲物を狙う獅子のような光が、灯っていた。

 

「一番は、私だよ」

「――いいえ、セイちゃん。私です!」

 

 それに、スペさんが。

 

「ノンノンノン! エルデスよ! こればっかりは譲れマセん!」

 

 エルさんが。

 

「いいえ。私です」

 

 グラスさんが。

 

「いーや、ボクだね」

 

 テイオーさんが。

 

「いいえ。私です……」

 

 カフェさんが。

 

「いやいや。そこは私も譲れないなぁ」

 

 タキオンさんが。

 

「私よ」

 

 スズカさんが。

 

「いーや、ターボだぞ!!」

 

 ターボさんが。

 

「いやいやいや! 俺だぜ!」

 

 ウオッカさんが。

 

「何言ってんのよ! 一番は渡さないわ!」

 スカーレットさんが。

 

「悪いけど、あたしがとるぜ」

 

 カペラちゃんが。

 

「いいえ。私ですよ」

 

 ヒスイちゃんが。

 

「ん。わたし」

 

 コハクちゃんが。

 呼応する――

 

「……」

 

 でもなぜか。

 チヨさんは――

 黙って、微笑むだけだった。

 

 

『……』

 

 

 ……ともあれ。

 バチバチと。

 十六人分の視線が。

 交錯し。

 絡み合い。

 火花を。

 散らす――……

 

 

「……あ、あのー」

 

 

 そんな私たちに。

 係員さんが、いつかのように、声を掛けてくる。

 

「皆さま、そろそろゲートへ……」

「あ、すみませ~ん」

 

 スカイさんが、飄々と笑ったのを皮切りに。

 私たちは、とうとう、ゲートへと収まる。

 実況の声を聞きながら……

 ……

 私は。

 

「……」

 

 ちょっと。

 赤面していた。

 

 やっべー……

 いくら。

 いくら、テンション上がっていたとは、いえ。

 

 ――なんで。

 なんで、炊きつけてんだ、私!!

 

 相手は仮にも伝説級の実力を持つ面々なのに!! 炊きつけてぼこぼこにされたら目も当てられないぞ! むしろ謙虚に、感謝だけして黙っておけばいいものを。なんであんなことを……!!

 

 ……まぁ。

 

 でも、ほぼ無意識に、あぁ言う言葉が出た、ってことは。それだけ、無意識にでも、自信を持っているということでもあるだろう。

 だったらもう、そんな野獣のごとき本能を信じて。

 突き進むしかない……

 

 だから。

 深呼吸をして。

 その時を、待つ。

 

 私の番号は――

 

 8番、だった。……

 

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