「……」
……瞬間。
『……とまぁ、ここまで十四人、誰も彼も、注意すべき手練ればかりだけどな、』
トレーナーさんの、
『そいつらを差し置いてでも……お前が、真っ先に注意しないといけない奴がいる』
あの言葉が。
『……わかるな?』
脳裏を。
――過ぎっていた。
「――お久しぶりですね」
そう。
本当に、久しぶりに聞いた。
「こうして、またターフの上で会えて……良かったです」
可憐で。
可愛らしいながらも。
威圧的な。
声――
「……うん」
それに。
私も、応じていた。
「こちらこそ、だよ」
茶色がかったボブカットに。
ピンクを基調にした、巫女服のような服装。
何度も見たその姿を。
忘れるはずがない――
『――十五人目』
『『黒桜の舞姫』。サクラチヨノオー』
『……去年の日本ダービー制覇を皮切りに――続く宝塚記念、秋の天皇賞を連続制覇――
その後も多くの重賞レースを優勝して、確実に力をつけてきた……言うまでもない、強力な新鋭。
お前とは弥生賞でやり合ったのが最後で……こちらを避けるようなローテーションを組み続けてきた。
……ってか何なら、一部のレースじゃ、こっちが出るかどうかを直接聞かれたこともあった。
明らかにお前を意識している。それだけに……正直、何をしてくるのか読めん。
くれぐれも。
くれぐれも、用心するんだ――……』
「……どうしました?」
トレーナーさんの言葉を思い出していると。
チヨノオーさんは。
……チヨさんは。
小首を傾げて、問いかけてくる。
「ボーっとしてますけど。久々すぎて、感動しちゃってます?」
「……そんなところ。もう会えないかと思ってたよ」
「ふふっ、そうですか。そう思ってもらえるとは、光栄です」
私の答えに。
チヨさんは。そう言って。
私の脇を、通り過ぎる――
「……覚悟してくださいね」
その時に。
確かに、言っていた。
「あなたにだけは……絶対に勝つ」
「……」
……それに。
私は、自然、笑っていた。
「――こちらこそ、だよ」
そして、そう答えながら。
私も、その背に着いていく。
みんな、まだゲートインを済ませていない。
なんだか、私たちがやってくるのを待っていたようにも見える。
多少なりとも『事情』を知っているだろうから。
彼女なりの――そういう『祝福』とか、『歓迎』なのかも。
「さ~、『主役』も来たことだし」
それを証明するかのように。
スカイさんが、そう言った。
「始めよっか? そろそろ」
「……」
それを皮切りに。
みんな、それぞれに声を上げて。
ゲートへと、向かおうとする――
「……皆さん」
そんな彼女らに。
私は、声を掛けた。
みんなは。
それに、しっかりと反応して、立ち止まり。
こちらを見てくれる。
合わせて十五人分。
多くの視線を、一身に受けながら――
「――、」
私は。
「――ありがとう、ございます」
頭を。
下げていた。
「今日……こうしてここに立てたのは、皆さんの協力があったからです」
思い出す。
「私ひとりじゃ……絶対、ここまで来られなかった」
思い出す。
「だから……ありがとうございます」
思い出す――
「本当に、ありがとうございます」
「……はは。仰々しいな~」
「まだレースは始まってすらないですよ、ミザールさん!」
「……」
スカイさんと。
スペさんが、そう言ってくれる。
それを聞いて、私は。
……口端を。
上げていた。
「……その上で」
そして、そう。
その上で。
「皆さんに、言っておくことがあります」
私は。
みんなに。
顔を上げながら。
「――……」
……
……言った。
「……このレース、
一番を獲るのは、
私です」
――ピリ、と。
いや、ピシ、という表現の方が、正しいかもしれない。
誰もが、その一言で。
目の色を、変えていた。
「……言うねぇ」
最初に反応していたのは、スカイさんだ。
「なるほど殊勝な心構えだ。君も今年シニア級だからね。それも無理な話じゃない――」
彼女の声色は、変わっていなかったけれど。
「――でもごめんね」
そこには。
獲物を狙う獅子のような光が、灯っていた。
「一番は、私だよ」
「――いいえ、セイちゃん。私です!」
それに、スペさんが。
「ノンノンノン! エルデスよ! こればっかりは譲れマセん!」
エルさんが。
「いいえ。私です」
グラスさんが。
「いーや、ボクだね」
テイオーさんが。
「いいえ。私です……」
カフェさんが。
「いやいや。そこは私も譲れないなぁ」
タキオンさんが。
「私よ」
スズカさんが。
「いーや、ターボだぞ!!」
ターボさんが。
「いやいやいや! 俺だぜ!」
ウオッカさんが。
「何言ってんのよ! 一番は渡さないわ!」
スカーレットさんが。
「悪いけど、あたしがとるぜ」
カペラちゃんが。
「いいえ。私ですよ」
ヒスイちゃんが。
「ん。わたし」
コハクちゃんが。
呼応する――
「……」
でもなぜか。
チヨさんは――
黙って、微笑むだけだった。
『……』
……ともあれ。
バチバチと。
十六人分の視線が。
交錯し。
絡み合い。
火花を。
散らす――……
「……あ、あのー」
そんな私たちに。
係員さんが、いつかのように、声を掛けてくる。
「皆さま、そろそろゲートへ……」
「あ、すみませ~ん」
スカイさんが、飄々と笑ったのを皮切りに。
私たちは、とうとう、ゲートへと収まる。
実況の声を聞きながら……
……
私は。
「……」
ちょっと。
赤面していた。
やっべー……
いくら。
いくら、テンション上がっていたとは、いえ。
――なんで。
なんで、炊きつけてんだ、私!!
相手は仮にも伝説級の実力を持つ面々なのに!! 炊きつけてぼこぼこにされたら目も当てられないぞ! むしろ謙虚に、感謝だけして黙っておけばいいものを。なんであんなことを……!!
……まぁ。
でも、ほぼ無意識に、あぁ言う言葉が出た、ってことは。それだけ、無意識にでも、自信を持っているということでもあるだろう。
だったらもう、そんな野獣のごとき本能を信じて。
突き進むしかない……
だから。
深呼吸をして。
その時を、待つ。
私の番号は――
8番、だった。……