16年度の卒業生   作:Ray May

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最高峰の夢 p4

-◆◇◆-

 

 

 

 さて、少し時は遡り――

 

『さぁ年末の中山で争われる夢のグランプリ、有マ記念! あなたの夢、私の夢は叶うのか!』

 

 ミザールたちの故郷では――

 教頭の家に、親戚知り合い友人諸々一同が、集まっていた。

 

「斎藤さん!! ほら早く早く!!」

「あぁーもう、わかってるって!!」

 

 その、お世辞にも広いとは言えない居間に集まった彼らの目は、目の前。

 この日のために導入した大型テレビ――

 そこに映る、中山競技場に向けられている。

 各々――ハチマキやらメガホンやらタオルやら何やら、物品を持ち寄り。

 その時を、緊張した面持ちで待ち続ける。……

 

 

 

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『毎年歴戦の猛者たちが集まる有マ記念ですが、今年は特に素晴らしい面々が揃っていますね! まずは三番人気から紹介していこうと思います!』

 

 府中刑務所――

 食堂に備え付けられたテレビは。

 遠く離れた地の、競争の様子を届ける。

 

「……」

 

 かつてサングラスと呼ばれたその男は。

 食事を続けながらも。その様子から、目が離せないようであった。

 その眼光に、往年の鋭さ、悪意はなく――

 どこか。

 親愛に似た光が、灯っていた。

 

 

 

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『さぁ、そういうわけで今年も粒揃いの有マ記念ですが、解説の中村さん、いかがでしょうか!』

「――あ! みんな! また社長が抜け出そうとしてる!!」

 

 ヒスイグループ本社――

 社長室を通りがかった秘書の女性は、廊下にて大声で呼びかける。

 

『――!!』

 

 するとどこに隠れていたか、大勢のスーツ姿の社員が現れ――

 ぎくり、と身体を震わせた壮年の男性を、やや乱暴に取り押さえていた。

 

「社長室に連行しなさい!! パスワードをもう一度替えますよ!!」

「嫌だぁー!! 行きたい行きたい行きたいぃー!! 実の娘の晴れ舞台に立ち会えない親なんて、親失格だぁー!!」

「わからないことを言わない!! この日のために社長室に32Kのハイエンド大画面モニターを取り付けたんでしょう!! ほら!! さっさと仕事に戻る!!」

うわぁー!! ちくしょー!! 小林君めぇー!! こんなタイミングで面倒な商談持ってきおってー!! 末代まで恨んでやるー!!」

 

 駄々っ子のように叫ぶ社長が連行されていくのを見ながら、秘書は腕時計を確認する。時計の針は、間もなく出走することを示していた。

 

 

 

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 薄暗い、監獄のような部屋。

 かつて、あるウマ娘を幽閉していたその部屋を。

 使用人であるその女性は、日課として、その日も掃除する。

 ふと、部屋の隅。薄汚れたブラウン管テレビが目に留まり――

 おもむろに、電源を入れていた。

 

『――、――……』

 

 そこに映った、見覚えのある姿に。

 彼女は、思わず手を止め。食い入るように、画面を見つめ始めていた。

 

 

 

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 そして――現地。

 

「……」

 

 サファイアミザールの父は、実の娘の、一世一代の晴れ舞台を見守る。

 既に潤み始めている目元を、ハンカチで拭いながらも。

 懐から出すのは、一枚の写真。

 そこには、一人の女性が微笑んでおり。

 彼はその女性と目を合わせると、自身もまた、優しく微笑む。

 

「……ミザール」

 

 そして彼は。

 誰にともなく、ぼそりと呟いた。

 

「思い切り、やってきなさい。……後悔の、残らないように」

 

 

 

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「――はぁ。よーやくゲートインかいな」

 

 観客席の最前列。

 タマモクロスは、呆れたように息を吐いていた。

 

「いくらなんでも話し過ぎやろ。同窓会やないんやで?」

「積もるお話があったのでしょう。ここまで、色々ありましたからね」

「おっしゃ、じゃあアタシたちも演奏会で対抗しようぜ! ファゴット持ってこい!」

「微妙に韻踏んでるのが腹立ちますわね……」

 

 呼応するのは、メジロマックイーンとゴールドシップ。

 

「……『彼女』がルドルフと走ったのが、もう遠い昔のことのようだな。懐かしい」

「そうだね。もう『悪役』(ヒール)なんて言う人もいないね……」

 

 柔らかな声で話すオグリキャップに、ライスシャワーが答え。

 

「なんなんだこの面子は……」

「行くっつったのはお前だからなシリウス」

「さてさて、去年の有マではかなりの好走だったけど。今年はどんな走りを魅せてくれるのかなぁ……?」

 

 シリウスシンボリとナカヤマフェスタは、どこか居心地が悪そうな顔をしており。

 ミスターシービーは、好奇心旺盛に言う。

 

「あ~~、なんかこっちまで緊張してきたぁ! ヒスイちゃんは大丈夫そうだったけど、ターボちゃん……最後まで走れるかな!?」

 

 不安そうな声色なのは、マチカネタンホイザ。

 

「大丈夫です、今日のために、あれだけ『作戦会議』をしてきたのですから」

「あの子……ちゃんと作戦通りに走ればいいけどね……」

「信じましょう。あとは、信じるだけです」

 

 それに、イクノディクタスと、ナイスネイチャが続いた。

 

「……」

 

 無言で見つめているのは――

 ナリタブライアン。

 それに声を掛けるのは――

 

「……はは。ブライアン。そんなに怖い顔をしなくてもいいだろう」

 

 隣に立つ。

 シンボリルドルフだった。

 

「何も、世界の終わりというわけじゃないんだからな」

「……ただ真剣に見ているだけだ」

「しかしホンマにえかったんかルドルフ。ここまで駆け付けて。色々あるんやろ――」

 

 朗らかに笑うルドルフに、タマモクロスは言った。

 

()()()がレースに出とるんやし」

「あぁ。エアグルーヴが代役を買って出てくれたよ。本当は手伝うつもりだったのだけれどね。私がそわそわしてるのを見て、許可してくれたんだ」

「本当にいつまでも()()()()()()()()卒業できませんわね、あなたは」

「ははは。手厳しいな……そうだな。そろそろ卒業しないとな」

 

 マックイーンの鋭い指摘に笑ったルドルフは、ターフの上の『彼女』の姿を見た。

 まだ『会長』としての日は浅いが――もうすっかり、威厳ある佇まいになった、彼女。

 

「……さぁ、魅せてくれ、みんな」

 

 そして――

 言っていた。

 

「君たちの、最高の舞台を……私たちに、見せてくれ」

 

 

 

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 その傍ら――

 また別の観客席から。

 彼らも、その時を待つ。

 

「……」

 

 いつになく真剣な表情の西崎が。

 

「……」

 

 ノートパソコンを開いた南坂が。

 

「……」

 

 眼鏡を指で押し上げた、リギルのトレーナー――東条が。

 

「……」

 

 そして――

 ミザールの、担当が。

 他――専属契約を結んでいる、トレーナーたちが。

 各々の育て上げた、各々のウマ娘を。

 

 親友を。

 戦友を。

 相棒を。

 見つめる。

 

 最良の結果になるように。

 最善の結果を出せるように。

 その時を。今か、今かと、待ち続ける――

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 そして。

 現在へと、時は戻り。

 

『さぁ、各ウマ娘、ゲートインが完了しました! 間もなく出走です!!』

 

 とうとう。

 その時は――来る。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 ゲートの中で。

 歓声が、遠のいていく。

 程よい緊張感の中。

 私は、ひとり、唱えていた。

 

 これまでの、苦難を。

 これまでの、苦悩を。

 これまでの、懊悩を。

 これまでの――困難の、数々を。

 

 それでも。

 それらを。

 確かに。

 乗り越えてきたことを。

 

 感じながら。

 思い出しながら――

 

 

「……位置について」

 

 

 唱えた。

 

 

「よーい……」

 

 

 唱えた。

 

 ――……

 

 

 

 ……、

 

 

 

 唱えた。

 

 

「――どん」

 

 

 ――刹那。

 

 重厚な金属音と共に。

 目の前の、ゲートが、開いた――

 

 

「――ッ」

 

 

 そして。

 走り出す。

 

 そして、

 駆け出す――

 

 

 前へと。

 決戦の舞台へと――

 駆け出した。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 そうして。

 総勢十六人のウマ娘による、熾烈な勝負が――幕を上げた。

 

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