16年度の卒業生   作:Ray May

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勝利の鼓動 p7

-◆◇◆-

 

 

 

 ――そう、あの日。

 私は、声を押し殺して泣いていた。

 全てが、なんとか繋ぎ止められたことが、嬉しくて。

 それでも、あと一歩のところで負けたことが悔しくて。

 ボロボロの身体で。ズタズタの心で。

 それでも再起して、大層な夢を目指して走り始めたのだ。

 

 ……遠い、遠い、夢のお話。

 叶えられないかも、と何度思ったことか。

 出来ないのかも、と何度挫折したことか。

 もう無理なんだと。

 何度、絶望したことか。

 

 でも、それを乗り越えて。

 それを、踏み越えて。

 ここにいる。私は、私たちは、今、ここにいる。

 もう気兼ねはない。気にすることはない。暗くなる要因なんて、ない。

 

 行くだけ。

 もう、行くだけ。

 あとは走り続けて――

 自分にとっての、最善を、掴むだけ。

 

 あの日の自分のために。

 あの、心苦しい悲しみのために――

 勝利を。

 もぎ取るだけ!

 

「……」

 

 だから。まずは状況確認だ。

 冷静に、落ち着いて。

 状況を確認し、作戦を組み立てる――……

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 レースが開始し。

 真っ先に先頭に躍り出たのは、サイレンススズカだ。

 逃げ戦術としての常套手段。

 まずとにかく先頭に立つこと――

 自分が今まで、何度も繰り返してきた立ち回り。

 堅実で、確実な走り方――

 

「――!」

 

 しかし。

 それを見ていた西崎は、目を見開く。

 ついで、眉を顰め、冷汗を垂らしていた。

 

 ――感じてはいた。

 予感はしていた。

 だが、いざ『それ』を目の当たりにすると、苦い気持ちにならずにはいられなかった。

 やはり、と。

 やはり、そう簡単にはいかないか――と。

 なぜなら。

 

「――……」

 

 スズカのすぐ背後――

 1バ身も無い距離に。

 長い芦毛が、揺れていたからである。

 

『――しかし飛び出したサイレンススズカの背後――!』

 

 実況は、その状況を、如実に伝えていた。

 

『10番コハクダブルスターぴったりとくっ付いた!!』

 

 その、無邪気ながら――冷徹な瞳が。

 橙の髪を、冷酷に映していた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「――さて、体力テスト、お疲れ様」

 

 コハクダブルスターが編入して、しばらく。

 チームリギルの総括トレーナー――東条は、彼女の能力に関する、一通りのデータを取り終えていた。

 

「最高速度、加速力……それとパワー。これらは申し分ないけど、スタミナと……あと学力に少々問題がありそうね」

「……ごめんなさい……」

「ふむ……」

 

 データを分析する中で、東条は、不自然なほどの能力の偏りに着目する。

 最高速度と加速力が高い、とは言ったものの、ひときわ目立っているのはそのパワーだ。

 例の暴走事件で何となく想像は付いていたものの、実際目の当たりにするとその高さはすさまじい。

 それと学力に関しても、全てが悪いというわけではない。

 国語、社会、理科、英語は壊滅的だったというのに、なぜか数学だけはずば抜けていた。

 そのあまりの能力の偏りに、東条は見覚えがあった。もしかしたら彼女は――

 

 ――『サヴァン』、というのに近いかもしれないわね。

 

 東条は、うぅむ、と無言で悩む。難しい問題だと。彼女の元から持っている素質を、さらに伸ばしてやるべきか。

 それとも、その素質を補う形で、他の能力を伸ばしてやるべきか。

 ともあれ、メイクデビューはまだ先だ。ひとまずレースの様子を見てから決めるか――と、彼女が考え至った時。

 

「……?」

 

 コハクの様子が、目に入っていた。

 彼女は。

 両手を握って、縮こまっていた。

 

「どうしたの?」

「……お」

 

 東条が問いかけると、コハクは目を逸らし。

 消え入りそうな声で――言っていた。

 

「……怒らない、の……?」

「……」

 

 よく見ると。

 彼女のその手は、小刻みに震えており。

 その先にある出来事に、怯え切っているように見えた。

 

「……、」

 

 東条は、そんな彼女の頭に、ぽん、と手を置いていた。

 

「……どうして怒る必要が?」

 

 その行動に、一瞬こそコハクは大きく身体を震わせるも。そこから続く、優しく頭を撫でる動きに、彼女の顔を見上げていた。

 

「無知は恥ずかしいことではありません。無知であるのを自覚しながら、知ろうとしないのが恥ずかしいの。知らないことがあるのなら、これから知ればいいのよ」

「……とれーなーさん」

「まぁ、同じ間違いを四度も五度も繰り返したら、さすがにちょっと怒るけど」

 

 ゴゴゴゴゴ……と黒いオーラをまとい始めた東条に、コハクは思わず目を逸らす。それに苦笑いした東条は、彼女から手を離した。

 

「それじゃ、もう少しトレーニングをしてみましょう。まず――」

 

 そして、再度。確認のために、彼女に別のトレーニングを課す。……

 

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