16年度の卒業生   作:Ray May

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勝利の鼓動 p17

「――えへっ、お待たせしました皆さんっ!!」

「はは――あんま待ってないかも今はっ!!」

 

 可愛らしい笑顔を浮かべるスペシャルウィークに。

 セイウンスカイが、強張った笑顔で応じる。

 サファイアミザールもまた、それをしかと目撃し――

 

 ヤバすぎる、と戦慄していた。

 

 まさか、この時まで、虎視眈々と狙っていたのかと。

 自分が介入出来る、ベストの状況が整うまで。

 ずっと、ずっと――背後で、待ち構えていたのか、と。

 ――そんなの。

 そんなの――!!

 

 ――カッコよすぎるでしょ、と――

 

「っ……!!」 

 

 だからといって。

 だからといって、前は譲らない。

 死力を尽くし。全力を掛け。

 彼女は、前へと走り続ける。

 そしてそれは――

 他の彼女らも、同じ――

 

 ――負けない。簡単には……!!

 トウカイテイオー。

 

 ――あと少し、ほんの少し……!!

 セイウンスカイ。

 

 ――譲らない、譲らない。絶対譲らない……!!

 サイレンススズカ。

 

 ――行け行けターボ、あと少しだターボッ!!

 ツインターボ。

 

 ――もうこっから先は、気合いの勝負……!!

 スペシャルウィーク。

 

 ――負けねぇ、負けられるかよ……!!

 ガーネットカペラ。

 

 ――一番しか、一番しか認めません……!!

 ヒスイレグルス。

 

 ――負けない、負けない、負けない……!!

 コハクダブルスター。

 

 そして。

 そして――

 

 ――勝つ。

 ――勝つ、勝つ、勝つ、絶対勝つッ!!

 サクラチヨノオー。

 

 誰も彼もが一歩も譲らない――

 大接戦――

 

『先頭は、先頭は総勢十人のウマ娘による熾烈な争いしかし背後バ群も最後方まで1バ身と少ししかありませんこれはもう、あぁこれはもう……!!』

 

 その、あまりに先の見えない展開に――

 

『もう、誰が勝ってもおかしくありませんッ!!』

 

 もはや、解説を放棄したかのように。

 

『年末の総決算!! 有マ記念大会!! その栄光を勝ち取るのは――!!』

 

 それでも、彼は言う。

 

『誰だッ!』

 

 そのあおりに。

 

 ――私だ。

 

『誰だッ!!』

 

 出走者たちの。

 

 ――私だ――

 

『誰だぁーッ!!』

 

 想いが。

 願いが。

 望みが――

 一つになる――

 

「――ッ」

 

 

 

 ――私だッ!!

 

 

 

 その、

 熱の渦の中――

 

「――」

 

 サファイアミザールは。

 冷静に、考えていた。

 思っていた。

 至っていた――

 

 

 ――、

 

 駄目だ、と。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 わかってる。

 

 わかってる、レースが気迫の勝負ってこと。

 わかってる。あらゆる物事は、気合いで負けたら終わりだってこと。

 わかってる。何かを勝ち取るなら、気持ちを確かに持たなくちゃいけないってこと――

 

 でも、

 でも。

 この状況を見て、この現況に置かれて。冷静に考えていた。いやに落ち着いて考えていた。

 

 

 このままじゃ、

 負ける――!!

 

 

 足りない。本能的にそう感じる。あと一歩、あと半歩足りずに終わる未来が見える。

 もうこれは気迫とかじゃない。気持ちとかじゃない。気合いとかでもない。もう純粋な、能力の次元の話!

 私の力が及ばない、自分の力が足りない。その不足した隙を突かれて――

 

 

 辛酸を舐める、

 未来が見える――!!

 

 

 でも。

 でも、もう。

 他に、何もやりようなんてない。

 レースはもう、小細工の利かない最終直線。

 自分に出来るのは、最後にやれるのは――

 

 

 ただ全力を賭して、

 走ることだけ――!!

 

 

「っ……!!」

 

 諦めるな。

 立ち止まるな。

 走れ、走れ、走り続けろ!!

 お決まりのあの姿勢で――

『怪物』の力を借りて――

 前へ、前へ出るんだ!!

 

 でも――

 

 でも、一歩抜け出せない。

 

 この異様な集団に囚われて。

 前に、出ることが、出来ない――!!

 

「――、――」

 

 それでも。

 一心に走る。

 無我夢中で、足を動かす。

 

 さなかで――

 色んな事が。

 脳裏をよぎる。

 

 

 ……宿題を、手伝ったこと。

 

 

 赤色。

 

 

 ……ドッヂボールで、ぼこぼこにされたこと。

 

 

 緑色。

 

 

 ……数々の奇妙な言動を。

 優しく見守ったこと。

 

 

 黄色。

 

 

 そして。

 

 

 ……あの、立派な大樹の前で。

 約束を、したこと――

 

 

 青色。

 

 

 

 

 虹。

 

 

 

 

「――、」

 

 想いを背負って。

 それらを噛み締めて。

 それでも、それでも、と。私は、走り続ける。

 

 あと一歩。

 夢まで、あと一歩。

 未来まで、あと一歩。

 

 

 約束まで。

 あと、一歩――……

 

 

「――っ」

 

 だから。

 

「――ぁ、ぁ、ぁ、」

 

 だから。

 

「――ッぁぁぁぁあああああ――」

 

 だから――!!

 

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 絶叫と共に――

 足をまた、前に出した――

 

 

 

 ……

 

 その時だった。

 

 

 

「――?」

 

 瞬間。

 ふわりと。

 身体が、軽くなる。

 やば、転倒――なんて、一瞬、思ったけど。

 

 足の裏は。

 確かに、地面を捉えていた。

 

 ……そして。

 その足は……

 

 

 

 これまでにないほど、

 力強い一歩を、

 踏んでいた。

 

 

 

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