16年度の卒業生   作:Ray May

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勝利の鼓動 p18

 

『――!!??』

 

 ――歓声が轟く。

 いや、どよめき、の方が近いのかもしれない。

 

『え――あ、あ!? え……』

 

 会場に響くのは――

 これまでに聞いたことがない類の、困惑した、実況の声。

 

『ど――同時!? ほ、ほぼ同時……!!』

「……!」

 

 ……同着。

 その事実に、目を見開くが。

 

『え、えっと! た、ただいまより、写真判定が行われるようです! 皆さま、しばしお待ちを……!』

「……」

 

 ざわざわと、どこか不安そうな声が、競技場を満たす中。

 走り終えた私たちに……

 会話は、なかった。

 

 

『…………』

 

 

 そこには労いも。

 労わりもない。

 誰もが、その瞬間を待ち。

 上がり切った息を、各々、整えている……

 

 私も。

 膝に手を突き、息を整える。……

 

 ……全力は尽くした。

 全身と、全霊をぶつけた。

 だから、もう、どんな結果になろうとも、受け入れる準備は、正直、出来てる、けど。

 

「……、」

 

 ――あぁもう。

 なんだ、この時間。

 なんだこの、判決を言い渡される直前の、被告みたいな感じ……!!

 

 早く、言ってくれ。

 早く、教えてくれ。

 

 誰が勝ったのか。

 誰が負けたのか。

 

 誰が、一着だったのか。

 誰が、一番だったのか――

 

 

 誰が。

 想いを、遂げたのか――……

 

 

『――か、確定したようです!!』

「――!」

 

 顔を上げる。

 それと同時。

 ターフビジョンの一部が、切り替わる。

 

『ターフビジョンをご覧ください!!』

「……」

 

 

 観衆の。

 出走者の。

 注目が、そちらに集まる。

 映し出された映像には。

 ゴール直前の模様を、出走者を番号の振られた丸に見立て、真上から写したスチル写真が、映されている。

 

 

 そこに、ゴールラインと思しき線が引かれ。

 さらに、一部にズームインする。

 

 

 

 すると、丸のマークが、点滅する。

 

 

 

 その線に。

 引っかかっている。

 

 

 

 

 

 つまりは、最初にゴールラインを切った。

 

 

 

 

 

 その、

 

 

 

 

 

 

 マークの、

 

 

 

 

 

 

 

 番号は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『8』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……え。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……8?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そ。

 

 それって。

 

 それって……

 

『――年末の総決算!! 有マ記念大会!!』

 

 呆然とする私の耳に。

 

『これまでにない熾烈な激闘を、制したのは――!!』

 

 実況は。

 溢れんばかりの熱量で。

 宣言していた。

 

 

 

『――8番、サファイアミザールーーーッ!!』

 

 

 

 ……そして。

 競技場を、再びの大歓声が、包んでいた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「……」

 

 もう一度。

 もう一度、画面を見る。

 そこに、改めて、着順が――

 掲示板が、光る。

 

 目を擦って。

 目を凝らして。

 もう一度。

 本当に、もう一度。

 それを、見た。

 

 ……

 ……ある。

 その、一番上の部分に。

 

 私の、

 名前、が……!!

 

「――……」

「――ミザールッ!!」

 

 目を見開いて。

 立ち尽くしていると。

 見慣れた赤色と、緑色と、白色が。

 一斉に。

 こちらへと、駆け寄ってきていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

『うおああああああっ!!』

 

 歓声とは無縁に見える。

 閑静な一軒家に、その声が響く。

 ミザールたちの教頭は――その親戚と、知り合い、友人一同は。

 ある者はガッツポーズをし。ある者は互いに抱き合い。またある者は涙しながら――

 その結果に、歓喜していた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

『――!!』

 

 府中刑務所もまた――

 歓声が轟く。

 正直、彼らとしては、誰が一着でも変わらなかったが。

 その少女の存在は、かの『サングラスの男』によって、いたずらに広められてもいた。

 それによって――誰もが、心底楽しそうに笑い、喜び。

 

「……」

 

 とうのサングラスの男、本人は。

 これまでにないほど、柔らかな目で――それを、見つめていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「――っはっはっはっはっはっ!!」

 

 ヒスイグループ本社ビル、社長室にて。

 社長の男は、磊落に笑っていた。

 自分の娘が勝てなかったのは、悔しいが。

 それでも、自分の娘を救ってくれた、変えてくれた彼女が、見事、栄光を勝ち取ったことに。

 祝福の笑いを、届けていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「……」

 

 ブラウン管テレビの伝える模様を見届け。

 使用人の女性は、目尻から流れた涙を、指で払う。

 それから、何かを決心したように立ち上がると。

 テレビの電源を切らないまま――

 その部屋から、立ち去っていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 観客席――

 

「――あっ」

 

 結果が出た、その瞬間。

 タマモクロスは、柵を飛び越え、ターフを突っ切っていた。

 それに倣うように――

 

「ちょ、ちょっとタマモさん――ライスさんも!?」

 

 ライスシャワーもまた、柵を乗り越え、彼女の後に走っていった。

 

「……もう」

「はははっ、元気があっていいじゃねーか」

 

 嘆息するマックイーンに、ゴールドシップは言い。

 

「……、」

 

 目を薄く閉じたオグリキャップが――言った。

 

「……やったんだな。本当に」

「……えぇ」

 

 まるで、親のように。

 彼女らは、歓喜に湧く場内を、見守る。……

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 そして――

 サファイアミザールの父も、また。

 

「……」

 

 溢れる涙をハンカチで拭きながら、それを見届ける。

 

「……母さん」

 

 そして、言う、傍ら。

 再び、懐から、写真を取り出し。

 

「あの子が……やったぞ」

 

 涙ながらに。

 そう、告げていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 レースの結果に。

 

 西崎は、悔しそうに、笑い。

 南坂は、開いていたノートパソコンを閉じ。

 東条は、安堵したように息を吐き。

 チヨノオーのトレーナーは。邪気が抜けたように。脱力していた。

 

 そして――

 そして。

 

 ミザールのトレーナーは。

 座りながらも。

 

「……」

 

 静かに。

 誰の目にも映らないように――

 

 

 小さく。

 ガッツポーズをしていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 第██回有マ記念大会 1着――

 

 8番、サファイアミザール

 

 レコード

 2分32秒9――

 

 

 

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