16年度の卒業生   作:Ray May

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勝利の鼓動 p19

-◆◇◆-

 

 

 

「――あっははははっ!!」

 

 彼女に一番に飛びかかったコハクダブルスターは、無邪気に笑っていた。

 

 

10着 コハクダブルスター

 

 

「やった! みざーるちゃん! ほんとにやったぁ!」

「やったね……うん。正直、実感ないよ全然……」

「やれやれ、あと一歩及ばなかったな。最後追い上げた時はいけるって思ったんだけどよ」

 

 そんな彼女らに、カペラは言うも。その顔は悔しげだった。

 

 

7着(同着) ガーネットカペラ

 

 

「最後の最後でいかれたかぁ」

「やってくれましたね、本当に……」

「うわ、オメー無茶苦茶悔しそうじゃねぇか……」

 

 カペラの言う通り。

 共に駆け寄ってきたはいいものの。ヒスイレグルスの顔は、いかにも悔しそうに顰められていた。

 

 

7着(同着) ヒスイレグルス

 

 

「……というか、どうして私があなたと同着なのですか」

「え? いやそんなんあたしに訊かれても。オメーの実力が伴ってねぇ証拠だろ? 次はもっとがんばんな!」

「……この」

「ほらもう喧嘩しない喧嘩しない……」

「ミザールーッ!!」

 

 ミザールが、そんな二人を宥めると同時。

 聞き慣れた声が、そこに投げかけられる。

 

「――え」

 

 彼女が目を向けたと同時。

 それは、彼女の胸に飛び込んできていた。

 

「た、タマちゃん先輩!?」

 

 ミザールは、それを受け止めるも。

 

「ちょっと、さすがに一般客がここに来るのは……!」

 

 慌てて、彼女に――タマモクロスに、そう呼びかける。

 

「う、うぅ~!」

 

 しかし。

 間もなく聞こえてきた、押し殺したような泣き声に、止まっていた。

 

「ようやった……」

 

 見上げた、タマモクロスの顔は。

 既に、涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 

「――ホンマにっ、ようやったなぁ!!」

「……先輩……」

「ミザールちゃん!」

 

 それに、そう応じると。

 また別の影が、彼女に呼びかける。

 

「――!? ら、ライスさんまで!?」

「えへへ。ライスも、釣られてきちゃった」

「き、来ちゃったじゃなくて……もう」

 

 怒られても知りませんからね――などと、和気藹々と、やり取りをする彼女らから、少し離れた位置。

 

「……」

 

 サクラチヨノオーは。

 空を見上げて、立ち尽くしていた。

 

 

2着(同着) サクラチヨノオー

 

 

 その頬に、一筋の涙が流れるが。

 顔を正面へと戻しながら、それを親指で払う。

 そして、一歩ずつ。

 ゆっくりと、歩き出す。

 その足の向く先には――

 栗毛のポニーテールが揺れている。

 

「……ミザールさん」

 

 仲間たちと喜びを分かち合う彼女に、

 チヨノオーは、声を掛けた。

 

「……」

 

 手を。

 差し出しながら。

 

「……完敗です。いい、勝負(レース)でした」

「……」

 

 今にも消えてしまいそうな。

 儚げな微笑みを。

 ミザールは、一目見て。

 浮かべていた笑顔を、引っ込めていた。

 

「…………」

 

 それから、真っ直ぐに。

 彼女と、相対すると。

 

「……チヨさん」

 

 彼女の名を呼び。

 

「……、ありがとう」

 

 そう、言っていた。

 

「……私がここまで来られたのは、みんながいたからだよ」

 

 そして――続ける。

 

「支えてくれた、人がいたから」

 

 今までの苦難を。

 

「追うべき背中が、あったから」

 

 今までの苦悩を。

 

「競うべき姿が、あったから」

 

 今までの、困難を――

 思い出しながら。

 

「……一人じゃ、ここまで、来られなかった」

 

 彼女は。

 目を、逸らさなかった。

 

「だから……ありがとう」

 

 その声は。

 柔らかな暖かさに、満ちていた。

 

 

 

「……私の……ライバルでいてくれて」

 

 

 

「――……」

 

 チヨノオーは。

 その言葉を聞き、目を見開く。

 瞬間、自分の中の、凝り固まった黒い感情が。

 氷解していくのを感じ。

 

「……、」

 

 その表情を。

 綻ばせていた。

 

「――、」

 

 二人は。

 果たして、強く、手を握り合う。

 それに煽られたように、ひときわ大きな歓声が、観客席から巻き起こっていた。

 

「……」

 

 その光景を。

 トウカイテイオーは、少し離れたところから見ていた。

 

 

2着(同着) トウカイテイオー

 

 

 サクラチヨノオーのレースの様子は、何度か観たことがあったが。

 今日の彼女の様子は、明らかに、そのどれとも異なっていた。

 何か思い詰めているのか、と心配していたのだが。

 どうやらそれが――解消されたらしいことを悟り。

 口元に、微笑が灯る。

 

「……」

 

 それと同時――

 ふと、自分の手が。

 小刻みに震えていることに気が付いた。

 それを収めるように、きゅっと握った時。

 彼女の内心に、ある考えが、浮かぶ。

 

「テイオー!」

 

 そんな彼女に、溌溂とした声が投げかけられる。

 ツインターボだった。

 

 

9着 ツインターボ

 

 

「……おぉ、ダブルジェット師匠」

「いやツインターボだ――って、あはははっ、こういうのもなんか久しぶりだなっ」

 

 彼女は9着。

 僅差とは言え、勝ったか負けたかで言ったら負けた方だ。

 にも関わらず、彼女の表情は、悔しそう――ではあるものの。それを越えるほどに、晴れ晴れと、清々しい笑顔だった。

 それを見たテイオーは、ふと、先のレースで感じたことを言う。

 

「なんか、いつもと走り方違ったよね」

「おう、そうだぞ! 今日のレースに向けて、『にくたいかいぞー』したんだ! あと、みんなといっぱい『さくせんかいぎ』したんだぞ! ちょっとけんかもした!」

「喧嘩……」

 

 チームカノープスの仲の良さ、団結力は指折りだ。

 なんだかんだ言いながら、上手くやれているチームだった。

 そんな彼女らが、喧嘩。

 冗談、誇張だったかもしれないが。それでもテイオーは、その単語の裏に、彼女の並々ならぬ覚悟を感じ取っていた。

 

「まぁ、結局勝てなかったけどな……」

 

 そんなこともいざ知らず、ターボは自虐的に後頭部を掻きながら笑う。その表情の端々に、再び悔しさが滲むが。

 

「……でも、なんか、それなのに、すっごく気持ちいいっていうか、なんか……」

 

 目を閉じ。

 中空に顔を向けていた。

 

「全部、出し切った、って感じだ……」

「……」

 

 その姿は。

 悔しがっている、ながらも。

 心の底から、満たされているような。

 そんな想いも、感じられた。

 

「……ボクも」

 

 それに背を押されたように。

 テイオーも、言う。

 

「ボクも、似た気持ちだよ」

「おっ、そうなのか! 仲間だなっ」

「うん。正直今日まで……不安なところがあったんだよね」

 

 ここ最近の、激動。

 捲し立てるように巻き起こった出来事の、全てを。

 

「カイチョーから『会長』の役を引き継いで、仕事にレースに授業にって齷齪働いて……会長ってこんなに忙しいんだなーって思いながら……自分の後ろを振り返った時。

 ボクの想いは……力は……ちゃんとみんなに伝わってるのかなって、不安になってた」

 

 思い出しながら。

 

「……テイオー?」

 

 そんな、儚げで。

 どこか、はるか遠くを見ているように見える彼女に。

 ターボは、小首を傾げて声を掛ける。

 テイオーは――優しく、微笑んでいた。

 

「……でも、良かった。今日、そんな心配は……杞憂だった、っていうのが、ちゃんとわかった」

 

 その瞳は、再び、ミザールたちの方に向けられる。

 そこでなおも楽しそうにやり取りしている、彼女らを見て。

 

「……もう。思い残すことは……ない」

「テイオー……」

 

 言った彼女に。

 ターボもまた、何かを感じ、呆然と、彼女の名を呼んでいた。

 そんな彼女らからも、離れた別の位置。

 

「……」

 

 サイレンススズカは、膝に手を突き、息を整え切っていた。

 モニターを見直し、それが嘘ではないことを再確認する。

 

 

4着(同着) サイレンススズカ

 

 

「……、」

 

 逃げきれなかったか――という思いと共に。その口元に、自嘲に似た笑みが灯った。

 

「スズカさん!」

 

 そんな彼女に、投げかけられる、利発な声。

 

「……スペちゃん」

「お疲れ様ですっ!! 終始すごかったです! あんな速さでずっと前にいられるなんて、やっぱりスズカさんはすごいですよっ!」

「……あなたもね」

 

 スズカの返事に、スペシャルウィークは無邪気な笑顔で答えていた。

 

 

4着(同着) スペシャルウィーク

 

 

 思い出す。最後の彼女の、驚異の追い上げを。あんな走り方、自分ではやろうとは思わないだろうと。

 最後まで、自制し、自制し、自制し尽くして、一気に喰らう戦い方。

 同着だったのは――運が良かったかもしれないな、と彼女は感じていた。

 

「そうそう、あれはえげつなさ過ぎるよスペちゃん~」

 

 そんな彼女の背後。

 ぞろぞろとやって来るのは、三つの影だ。

 セイウンスカイは――

 後頭部で手を組みながら、彼女に言っていた。

 

 

4着(同着) セイウンスカイ

 

 

「上手く差せた時は、行けたと思ったんだけどな~」

「えへへ。こんな素晴らしい方ばっかりですから。勝ち筋はそこしかないなって」

 

 対するスペシャルウィークは、相変わらず、悪戯が成功した子供のような笑顔を見せる。

 

「でも、セイちゃんの追い上げもすごかったですよ! 私、思わずついていきそうになっちゃいましたもん!」

「それでも頑張って自制したわけね……はは。こりゃ一本取られたなぁ」

「うぅ……あんまりにも全部が想定外すぎマシたぁ……」

 

 その傍ら、肩を落とすのは、エルコンドルパサーだ。

 

 

11着(同着) エルコンドルパサー

 

 

「グラスにも削られに削られマシたし……あ! でも同着ってことは、勝っても負けてもいないとも言えマスね!」

「そうですね……悔しいですけれど、決着はまた次回に持ち越し、ですね」

 

 飛び起きるように気を入れ直した彼女に、グラスワンダーは優雅に微笑む。

 

 

11着(同着) グラスワンダー

 

 

「まぁ~、仕方ないよ。最後の最後で、あんな競り合いになるなんて思わなかったし」

「そうね……私も、あんなにアツくなったのは久々だったわ」

「え、アツくなってたんですかスズカさん! あー! 間近で観たかったかもしれませんっ!」

「間違いなく、レース史に残る名勝負になったでしょうね」

「キーッ! あとはエルが前にいればパーフェクツデシたのにーっ!!」

 

 そんな四人とは、更にまた別の場所。

 

「はぁー、結局下の方の順位じゃないのよもう……」

 

 橙色の大きなツインテールを靡かせ、ダイワスカーレットはいかにも悔しげだった。

 

 

13着(同着)ダイワスカーレット

 

 

「やっぱり最初の方で、無理にでも前に出るべきだったわね……」

「ははは。完全にエルにペース乱されたな」

 

 そんな彼女に、ウオッカはけらけらと笑いながら話し掛ける。

 

 

13着(同着) ウオッカ

 

 

 刹那、スカーレットは、ぎろりとウオッカを睨みつけていた。

 

「っていうか、アンタも何よあの最後の雑な追い上げ! ペース乱れたのはアンタのせいでもあるんだからね!?」

「まぁまぁそう怒んなって。お互いに、やれることはやったんだからさ」

 

 対して、ウオッカは怯みもせず、飄々と笑うばかりだった。

 その顔には――先のターボにも似た、清々しさが感じられる。

 

「またこれを糧にして……頑張ってこうぜ」

「……」

 

 いつになく大人びた言動に、スカーレットは、一時は不満そうだったが。

 

「……、そうね」

 

 息を吐くと、納得したように、言っていた。

 

「ははは。結局最後尾に甘んじてしまったな」

 

 そして、アグネスタキオンは。

 また別の場所で、独り言のように言う。

 

 

15着(同着) アグネスタキオン

 

 

「……その割に、悔しそうではなさそうですね……」

 

 隣に立つマンハッタンカフェは。

 それに、相変わらずの冷静な声で応じる。

 

 

15着(同着) マンハッタンカフェ

 

 

 彼女に、タキオンは頷いていた。

 

「いいさ。いい研究成果が得られたからね。それに……今回は、あまりに全体のレベルが高過ぎたのだよ。見たまえレコードを。かの『皇帝』に迫る記録だぞ」

「メンバーがメンバーなら……私たちも、もっと上の順位でしたでしょうね……」

「こればっかりは、神の機嫌次第だからねぇ」

 

 くつくつと笑ったタキオンは、空を見上げる。湧き上がる歓声は自分に対するものではないが。その声の海に身を任せるのも、悪い気分ではなかった。

 

「……いい勝負(レース)だった」

 

 ぼそり、とつぶやいた彼女に。カフェもまた、微笑みをもって答えるが。

 

「――そういうわけで、帰ったら早速実験に付き合ってくれるかなカフェ!」

「それはごめんです……」

 

 続けられた言葉に、即座の否定を返していた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

第██回有マ記念大会 最終順位――

 

 

1着 サファイアミザール

2着(同着) サクラチヨノオー

2着(同着) トウカイテイオー

4着(同着) サイレンススズカ

4着(同着) スペシャルウィーク

4着(同着) セイウンスカイ

7着(同着) ガーネットカペラ

7着(同着) ヒスイレグルス

9着 ツインターボ

10着 コハクダブルスター

11着(同着) エルコンドルパサー

11着(同着) グラスワンダー

13着(同着) ウオッカ

13着(同着) ダイワスカーレット

15着(同着) アグネスタキオン

15着(同着) マンハッタンカフェ

 

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