しばらくして――……
「――会長さんたちも来ればよかったのに」
「仕方ないやろ、さすがに大所帯過ぎるから」
私のボヤキに、タマちゃん先輩はそう答えていた。
「っていうか、今でも十分大所帯やで。みんなにも都合があるし、これ以上は贅沢っちゅうもんやろ」
「まぁ、そうですね」
私もそれに応じつつ、少し離れた場所を見る。公園――『元・北部校』隣の、広大な敷地で。
教頭先生は、オグリさん、マックイーンさん、チヨノオーさん、ゴルシさん、あとカペラちゃんとヒスイちゃん、コハクちゃんにまで囲まれながら、『それ』をいじっていた。
三脚に取り付けられた、最新式のカメラを。
なんだかいつもよりそわそわしているように見えるのは……まぁ、有名人に囲まれまくってるからだろうなぁ。
「――しっかし、残念やなぁ」
タマちゃん先輩の目は、そこで私たちのすぐ傍に向いていた。
そう、今も変わらず聳え立つ、立派な大樹へと。
「気前よく咲いててくれたら、最高やったんに」
「そうですね。まぁ、『ご神木』側の都合もありますから……」
苦笑いしながら答える。そう、今日は、例の有マ記念大会での優勝を、『ご神木』へと『報告』しようかと思って。
本当ならもっと早くに来るつもりだったんだけど、どうせ行くなら、誘える人誘って行きたい! と思い立ったところ、なかなかスケジュールが合わず……
気が付いてみたら、ようやく来られたのが、今、春先の陽気の下、という感じ。
時間もあったから、『色々』準備も出来たけど。もう少し早く来れたよなぁ……と、少し反省。
「でも、良かったな」
「え?」
やや唐突なタマちゃん先輩の声に返すと、彼女は、男前に笑っていた。
「『約束』、果たせて」
「……」
その言葉に、重みを感じて。一瞬、呆然とするけれど。
すぐに私は、微笑みを返していた。
「……はい」
「――おーい、タマ! ちょっと手伝ってくれー!」
「あぁ、今行く! おい、ミザール」
「あ、はい」
オグリさんの声に反応して、私たちはそちらへ駆け寄ろうとする。
でも、その瞬間――
傍を。
すぐ、顔の横を。何かが通り過ぎた気がして。
弾かれたように。背後に振り返っていた。
……
すると。
背後の、ご神木は……
「……? どないしたん、ミザール……」
まだ駆け出していなかったタマちゃん先輩が、怪訝そうに問いかけてくる。
私は……答えられなかったけれど。
……答えは。
目の前に、既に、あった。
ご神木が。
満開の花を、咲かせていた。
「……な」
タマちゃん先輩は、唖然と声を漏らす。
「な、なんでや!? さっきまで蕾やったろ……!?」
「……」
……それは。
たまたま起きた、珍しい現象だったのかもしれない。
偶然が重なった結果、見られただけの。
有り触れた、出来事だったのかもしれない。
でも、私は、それを見て。
それに触れて。
確かな温もりを。暖かさを感じて……
笑っていた。
……色んな人と、出会った。
色んな人に、支えられた。
「――オグリ、もうちょい右に寄ってくれ!」
タマちゃん先輩。
「この辺か? 微調整が難しいな……」
オグリキャップさん。
「む。少し身体が隠れすぎますかね……ちょっと大き過ぎましたか」
マックイーンさん。
「いやー、でも凄い横断幕ですよね~、みんなからの想いも伝わってきます!」
チヨさん。
「仕方ねぇ、ゴルシちゃんが真ん中持ってやる! これで万事解決だ!」
ゴールドシップさん。
「じゃ、あなた達は前に座って! その方が、画が綺麗でしょ!」
教頭先生。
「ん、わたし、みざーるちゃんのお膝!」
コハクちゃん。
「やはり恥ずかしいですね……こういうのは……」
ヒスイちゃん。
「文字見えた方がいいよなもっと? あたしは寝転ぶか!」
カペラちゃん。
そして。
…… さん……
……観ていますか、校長先生。
色々なことが、ありました。
悲しいこと。苦しいこと。いっぱい、いっぱい、ありました。
でも、でもそれ以上に、楽しいこと。嬉しいこと。
いっぱい、いっぱい、ありました。
ちょっと、時間が掛かっちゃったけど。
ちょっと遠回りも、しちゃったけど。
でも、私は。
でも、私たちは。
ようやく、
ここまで、
辿り着けました。
「――さ、撮るわよー、みんな!」
だから、
だから――
この声を。
この姿を。
これからも。
見守っていて、くださいね。
――教頭先生が、カメラのタイマーをセットし、私たちに加わる。
「せー、のっ!!」
そして、その声の合図で、私たちは、横断幕を掲げ。
息を、大きく吸い――
――、
――言っていた。
『――我らっ!!
トレセン学園ーっ!!』
そして、それを合図としたように。
小気味いいシャッターの音が、響く。
――『我ら、トレセン学園!!』
横断幕には、そんな文字が、騒がしく、踊っていた。