16年度の卒業生   作:Ray May

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束縛 p3

-◆◇◆-

 

 

 

『あーっと!!』

 

 

『転倒、転倒です!! ███████、転倒しました!!』

 

 

『医療班による診断が実施されています。将来有望なウマ娘です。最悪の事態にならなければいいですが――』

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「███████さんですが、芳しい状態とは言えません」

 

 

「骨が度重なる酷使で悲鳴を上げています。これ以上走らせれば、そのうち日常生活も……」

 

 

「……一体どんなトレーニングを積んでいたのです?」

 

 

「練習は大事ですが、成長には休息も大事で――……」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

『彼女』は病室から外を見つめている。

 俺が入室しても、その空虚な目に光は灯らない。

 それを誰が奪ったのか、何が消したのか、わかっているくせに、理解しているくせに、俺は彼女の手を握り、せめて、と伝えるのだ。

 

 

「……例の手術、来週実施するらしい」

 

 

「金は俺が全部出す。お前は何も気にしなくていい」

 

 

「うまくいけば、お前はまた走れるように……」

 

 

「  、      」

 

 

「……ん? なんだって?」

「……」

 

 

 

 

 

「██、██████」

 

 

 

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「……」

 

 

 男は、住処の寝床で目を覚ました。

 とても悪い夢を見ていた気がするし、思い出したくない記憶を思い出していたようにも思える。

 どちらにせよ気分は最悪で、気分転換に水を一口飲んだ。

 テレビを点けると、相変わらず『例の事件』で話は持ちきりだ。

 全ては順調に行っている、と不気味に微笑み、書斎へと続く扉に手を掛けた。

 その時。

 

 

『えーここで速報です。██ホテルにて、緊急の記者会見が行われるということです。松下さーん?』

「……?」

 

 

 そのような話が聞こえ。

 彼は振り返る。

 画面に映し出された、その映像を目の当たりにし――

 

 

「――っ!」

 

 

 彼は。

 テレビも消さないまま、部屋の外へと飛び出していた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

『十二時ごろ、█チャンネルを観ていてください』

 

 

 目を覚ました秋川やよいが、まず初めに見たメッセージはそれだった。

 そのあるじが誰なのかにも驚いたが、画面を見て、更に驚く。

 思わずその場から駆け出そうとするも、

 

 

「はーい、病人は病室で安静に!」

 

 

 と、スーパークリークに止められ、保健室の中に留まることになった。

 

 

「……」

 

 

 彼女は観念して、保健室に備え付けのテレビの画面を見つめる。

 何が始まるのか、何となく察しながらも、目を逸らさず、その時を待つ。

 そしてそれは――程なく訪れる。

 

 

「――!」

 

 

 ――やはり、と息を呑む。

 同時に、不甲斐なさと、情けなさに、胸がいっぱいになる。

 なぜなら、緊急記者会見と銘打たれた場内の、会見席、そこに現れたのは、よく見知った姿だったからだ。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 シンボリルドルフが、そこにいた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「――皆様。突然の会見にも関わらず、お集まりいただきありがとうございます」

 

 

 ルドルフは、会見場を一望し、そう切り出す。

 

 

「私はトレセン学園中央校生徒会長、ウマ娘のシンボリルドルフです」

 

 

 その瞳に、恐れはなく。

 怯えも、少しも灯ってはいなかった。

 ただただ、決意が。

 燃え滾る炎のような、強固な意志だけが、見て取れた。

 

 

「先の学園の件――まずこの場を以って宣言させていただきたい」

 

 

 その意志を以って。決意を以って。

 彼女は――言う。

 

 

「公衆に流布されたありとあらゆる情報は――全て虚偽であり、真実ではございません」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 タマモクロスたちは見る。すっかり静まり返った食堂にて。

 教室に備え付けられた小さなテレビが、生徒たちにその様子を放映している。

 

 

『現在、この情報を流布した主に対する開示請求を実施しており、必要であれば訴訟に踏み切る所存です。これは我々の、厳格かつ不動の対応になります。そしてその上で――私は宣言します』

 

 

 自分たちの会長が。代表として、率先して前に出てくれた人物が。

 

 

『……』

 

 

 一旦は止まり。目を閉じ。何かを決意したかのように、再び目を開けると。

 

 

『――トレセン学園中央校は』

 

 

 静かに、しかし、力強く。

 

 

『これからも、存続すべきであると』

 

 

 そう、宣言したのを。

 

 

「……」

 

 

 食堂に集まった生徒たちは、何も言わない。

 いや、何も言えない。

 画面上に映る、誰もの憧れの的、畏敬の先、崇敬の対象が。

 がんじがらめの自分たちの想いを、代弁してくれているがゆえに。

 

 

『彼の言い分も、理解出来る箇所はあります』

 

 

 彼女は、続ける。

 

 

『トレーニング設備も、教師による授業も、トレーナーの指導も……他でいくらでも替えが効くかもしれない。だが……だが。この場所でなければ。この学園でなければ、得ることが出来ない、何にも変えることの出来ない大事で、重要で、大切なものが、ひとつですが、確かにあります』

 

 

 迷いなく。

 躊躇なく。

 恐怖も何も――なく。

 

 

『それは、』

 

 

 言った。

 

 

『『繋がり』です』

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 静まり返った会見場で。

 ルドルフは、続ける。

 

 

「繫がりとは……決していいものばかりではない。それは時に諍いを起こし、時に争いを起こし、時に……すれ違いを引き起こす。実際、それに起因する、数多くの悲しみや苦しみが、この学園では産まれてきました。

しかしそれは――何一つの例外もなく。最後には、それを上回る喜びや、楽しさ。そして何よりも――強さに繋がってきました。

ウマ娘同士の関わり合いは……競い合いは、情熱と情熱のぶつかり合いであり。

その化学反応は、思わぬ奇跡を生み出す。他に代え難い記憶を。絆を――生み出してきました」

 

 

 彼女は思い出す。生徒たちが、お互いに支え合い、困難を乗り越えた様子を。

 

 

「それは友情であり、」

 

 

 彼女は思い出す。歓喜に満ち溢れ、喜びに湧く瞬間を。

 

 

「それは歓喜であり、」

 

 

 彼女は、思い出す。

 苦難と、困難と、艱難の果てに掴み取った、何にも代えがたい栄光を。

 

 

「それは――勝利である」

 

 

 続ける。

 

 

「『名誉』である。『栄誉』である。全ての『想い』の源流が――ここから生まれる」

 

 

 続ける。

 

 

「関わり合いも、繋がり合いも、この先へと、未来へと『繋がる』強さを生み出すには、決してなくてはならない!」

 

 

 そして――止まる。

 再び目を閉じ、自分の想いを確認し。

 目を開け。

 新たな決意の元に、言う。

 

 

「……誰が。誰が何と言おうと、私は。そんな学園が、好きです」

 

 

 言う。

 

 

「そんな学園を……愛している」

 

 

 そう。

 

 

「そんな学園を作った……先人たちを」

 

 

 言った。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 

 私は、

 誇りに思う。

 

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 特大のため息が、理事長室にて吐き出される。

 してやられた、と彼女は――

 秋川やよいは、目頭を押さえるが。

 

 同時に、微笑んでもいた。

 手のかかる『娘』だが。

 

 全く、その真っ直ぐさには――

『大人』では。決して敵わないな――と。

 

 

「……」

 

 

 敢えて、介入も、助言もせずに。

 見守り続けた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「……私が言いたいのは、以上です」

 

 

 シンボリルドルフは、最後まで揺るぎ無く、自身の主張を貫いた。

 自然、会見場も、独特な空気に包まれる。

 人々は言葉なく――

 感心し。

 拍手でも、湧き上がりそうなほどであった。

 

 

「では、質問のある方は――」

 

 

 それを受け、締めとばかりに。

 挙手を、と。彼女が言いかけた時だった。

 

 

 

「――詭弁だ!!」

 

 

 

 その会見場の最後方。

 怒号は、そんな空気を貫いて、響き渡っていた。

 誰もが、一斉にそちらを見る。

 そこには、誰もが数日前に、テレビ画面で目撃した黒髪。

 ――あの男が。

 鬼気迫る表情で、そこにいた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 男は、ずかずかと前進する。

 人々は、誰に言われるでもなく、男に道を開ける。

 程なく、シンボリルドルフを見上げる形で、目の前に辿り着いた男は。

 その表情の一切を崩さずに、口を開く。

 

 

「……何もかもバカげた綺麗事だ。お前たちは知らない。それが数多の屍の上に成り立っていることを」

「屍」

 

 

 それを聞いて、なお。

 ルドルフは動じず、見下すかのように応じた。

 

 

「……『十年前』のことか。確かにあの頃はひどい時期だった。だが私はそれを忘れたことはない。全ての想いは汲み取られていると信じている」

「それが詭弁だというんだ」

 

 

 そして男も、なお。

 動じず、揺るがず、見上げながらも、応じる。

 

 

「現にお前たちは何をした? 学園で自由と明るさを盾にのうのうと過ごしていただけだろう」

「……聞き捨てならないな。それではまるで、私たちが何も考えずに生きているかのように聞こえる」

「そうだろうが。積み重ねられた屍を踏みにじり、敷かれたレールの上に寝そべり、惰眠を貪る生活を堕落と言わず何を言う」

「あなたは我々の実際を目にしていない。誰もが日夜、目標に向けて励んでいる。情熱を以って、意志を以って、日々鍛錬に励んでいる。決して無為に日々を過ごしてなどいない」

「『あいつら』はそんな光も経験せずに散っていった――それに対する悔恨も後ろめたさも無いのか!」

「無いはずがない! だから私たちはこうして学園で生活している。戦っている! 散っていった想いと共に、少しでも前に進もうと努力している!」

「そのためにその在り方が間違っているということが、どうしてわからない!!」

「そのためにこの在り方こそが正しいということが、なぜわからないのだ!!」

「……」

「……」

 

 

 ……一頻り口論を終え。

 二人は、睨み合う。

 その視線で、相手を打ち倒さんとばかりに。

 重く、苦しい空気が、しばし漂い。

 

 

「……平行線だな」

 

 

 男が、やがて口を開く。

 

 

「あぁ……()()が開かないとはこのことだ」

 

 

 ルドルフもまた、口を開く。

 

 

「なら……俺たちがすべきことは、ひとつだけだ」

「あぁ――」

 

 

 その視線同士が、再び、宙でぶつかり、

 交錯し、

 絡み合い――

 その末に。

 お互いに、宣言していた。

 

 

 

『――『勝負』(レース)で、『決着』(ケリ)を着ける』

 

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