16年度の卒業生   作:Ray May

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勝利の鼓動 p5

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 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 片足のつま先が、何かを、抉った感覚がしたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「――……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ――……瞬間。

 世界が、

 

 

 

 

 傾く。

 

 

 地面が、

 

 

 

 迫る。

 

 

 衝撃が、

 

 

 

                走る。

 

 

 意識が。

 

 

 

 

 

             と

 

 

 

 

                              ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 これは、夢なんかじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 フラッシュバックだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 

 

 

 ――会場を包んでいた歓声が、悲鳴とどよめきに変わった。

 

 

『あーっと!! 転倒、転倒です!! ███████、転倒しました!!』

 

 

 実況は、楽しげであり、耳障りで。

 

 

『医療班による診断が実施されています。将来有望なウマ娘です。最悪の事態にならなければいいですが――』

 

 

 ___はそこに、呆然と立ち尽くすしか出来なくて。

 

 

「――███████さんですが、芳しい状態とは言えません」

 

 

 無情で、無感情な言葉が。

 

 

「骨が度重なる酷使で悲鳴を上げています。これ以上走らせれば、そのうち日常生活も……」

 

 

 胸を、言葉という名の凶器で、容赦なく突き刺す。

 

 

「……一体、どんなトレーニングを積んでいたのです? 練習は大事ですが、成長には休息も大事で――……」

 

 

 

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「……例の手術、来週実施するらしい」

 

 

 

 

 

「金は俺が全部出す。お前は何も気にしなくていい」

 

 

 

「うまくいけば、お前はまた走れるように……」

 

「  、      」

 

「……ん? なんだって?」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「もう、走りたくない」

 

 

 

 

 

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 ……あぁ、そうだ。

 

 

 

 

 

 あの時も。

 

 

 

 

 こんな、気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『着順、確定しました!!』

 

 

 会場中に、歓声が響き渡る。

 実況の声が、先ほどよりも落ち着いた声色で、状況を伝える。

 

 

『トレセン学園の未来を占う大一番、その重圧を跳ね除け、制したのは――!!』

 

 

 前代未聞の大勝負で。

 誰が、勝利したのかを。

 

 

『『皇帝』・シンボリルドルフ――!!』

 

 

 歓声が、さらに大きくなる。

 誰もが彼女の名を呼び、ある者は抱き合い、またある者は涙する。

 安堵や歓喜にそこらじゅうが満たされ、それにシンボリルドルフは、手を振ることで応じていた。

 その顔には、なお余裕そうな笑みが浮かんでいたが。

 

 ――それはすぐに翳り。

 自身の背後へと、向く。

 

 

「……」

 

 

 ……彼女は。

 サファイアミザールは。

 

 うつ伏せに倒れたまま。

 微動だに、しなかった。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 タマモクロスは、口を開けて、硬直する。

 

 メジロマックイーンは、両手で口を覆い、絶句する。

 

 サクラチヨノオーもまた、両手で口を覆い、沈黙する。

 

 ゴールドシップは、頭を抱え、目を見開く。

 

 オグリキャップは、視線を僅かに下げ、立ち尽くす。

 

 恐れていたことが起きてしまったと。

 

 誰もが、薄暗い悲嘆に暮れる。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 観客たちは、久々の『皇帝』の走りに酔いしれて。

 

 

 求めていた結果に、満足し出す。

 

 

 同時に――レース場の悲惨な様相に。

 

 

 ざわめき立つ者も現れ始めた。

 

 

 

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 ――誰もが。

 

 

 全てが終わったのだと。

 

 

 

 そう、信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ……

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 こえが きこえる

 

 

 

「――、――……」

 

 

 

 すごく、たのしそうなこえだ

 

 

 

「――? ――……」

 

 

 

 ……私、ころんだ、のに。

 

 

 

「――、――、――」

 

 

 

 ゴールライン、達してないのに。

 

 

 こんな音が聞こえる、ってことは。

 

 

 その理由。ひとつだけだよね。

 

 

「……」

 

 

 深い闇の底から。

 

 意識が浮かび上がり。現状を把握する。

 

 全身を襲う痛みに、人知れず悶えながらも。

 

 なんだか、嫌に冷静に考えた……

 

 

 ……あー……

 

 

 負けか。

 

 私の。

 

 勝てなかったか。

 

 結局。

 

 あれだけ、やったのに……

 

 

「……、……」

 

 

 みっともないなぁ、なんか。

 結構いいとこまで行ったんだけど。

 一瞬でも勝てる! って思ったんだけど。

 結局、やり過ぎちゃったってことか。

 

 ってか、確か、蹄鉄、飛んだ。

 靴底もべろべろだし……足、怪我してるかも。

 満身創痍ってやつかもしれない。とんでもない話だな。

 

 ……でも。

 でも、それが相応しいのかも。

 

『皇帝』に牙を剥こうとした。『王』に歯向かおうとした。無様な、『奴隷』の最期としては。

 

 これくらいの最後が、お誂え向きなのかもしれない。

 

 ……うん。

 正直さ。

 いい感じに、()()は出来たんじゃないか。

 

 結構みんな、ドキドキしたんじゃないか。

 だったら……うん。いいと思う。

 

 

 ……勝負は。の負け。

 

 

『皇帝』の勝ち。

 

 

 学園は無事存続し、私は学園から立ち去って……めでたしめでたし、って。

 

 それでいいと思う。

 物語は。

 

 

 それで、いい、と、思う……

 

 

「……、……」

 

 

 ……でも。

 でもね。

 

 

「……、……、」

 

 

 残念だけど、ね。

 

 

「――、」

 

 

 ()()はまだ。

 

 

 終わって、ないんだ。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「……あ」

 

 

 その時、タマモクロスが。

 希望を見出したかのように、声を漏らしていた。

 

 それに弾かれたように、面々は気を取り直し、顔を上げ。

 レース場を、改めて見る。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 そこで。

 

 

 

 サファイアミザールは。

 

 

 

 少しずつ、立ち上がっていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 震える膝を、手で押さえ。

 

 

 漏れ出た鼻血を、指で払い。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 満身創痍の身体を。

 

 

 ほぼ気力だけで、奮い立たせていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 歓声が、徐々に無くなる。

 

 

 その出来事に、誰もが息を呑む。

 

 

 サファイアミザールは、それにも関わらず、ラチを掴み。

 

 

 身体に鞭打って。

 

 

 ゆっくりと、前進を、再開した。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 あー……

 やばいかも、これ。さすがに。

 

 

 今までいろんな傷も、痛みも、気合いでどうにかしてきたけど。

 さすがにこれは……ちょっと、洒落にならないかも。

 

 

 ってか、身体重い。

 頭もくらくらして、視界も定まらない。

 

 

 足も、めちゃくちゃ、痛い。ってか、むしろ感覚ない……棒になっちゃったみたいだ。

 でもそれでも、ゴール板が近付いてるのは、ちょっとでも動いてるってことだろう。

 

 

 それでいい。

 

 もう、動くだけでいい。

 

 あと、あと、ほんの、100mくらいだ。それを歩き切るだけで、いい。

 

 

 そしたら、休んでいいから。どうなっても、いいから。

 

 お願い、私。

 

 頼む、私。

 

 

「……うごけ……」

 

 

 うわ、すげー声。

 お化けみたいだ。

 ってか、引き籠った時も、こんな声してた。

 お化け屋敷行ったら、ウケるかもね。

 

 

 まぁ、でもそれも、何もかも、後回し。

 今はまだ、目の前のことを。

 

 

「……、……」

 

 

 なんでこんなことやってんだ、ってみんな思ってるかな。

 

 気づいたら、声、聞こえなくなってるし。

 

 いや、私が聞こえてないだけで、実はみんな、何か言ってるのかも。

 

 

 罵倒してるのかも。

 嘲笑してるのかも。

 中傷してるのかも。

 

 

 ……別にいい。

 それでもいい。

 だってこれは、私の競技。

 私の、意地だから。

 

 

「……、……」

 

 

 ……会長に負けた。

 

 勝負に敗れた。

 

 期待に潰された。

 

 想いに敵わなかった。

 

 もう何にもならない。誰にも勝てない。

 

 今からじゃ、あの背中には、絶対に追いつけない。

 

 勝負の結果は、動くことは、ない……

 

 

 でも。

 でも、それでも。

 それでも――

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 

 

 

 自分にだけは、

 

 

 負けたくないんだ。

 

 

 

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 ……だから、動け。

 あと少しだ、動け。

 

 

 頑張れ、私。

 大丈夫、私が、着いてる。

 

 

 一人じゃない。孤独じゃないから。だから、だから……

 あと、数十メートル。

 あと、ほんの、ちょっと……

 

 

 

「――」

 

 

 

 ……その時。

 

 

 

「――れ」

 

 

 

 何かが。

 

 

 

「――ばれ――」

 

 

 

 聞こえた。

 

 

 気がした。

 

 

 

「――がんばれ――」

 

 

 

 

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「――がんばれッ!! ミザールーーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 

 タマモクロスは。

 あらん限りの力で、叫んでいた。

 

 

「あと、あと!! あとほんのちょっとや!! 身体が、身体が辛いかもしれんねんけど、最後まで頑張るんや!! 終わったら、終わったら!! ウチがうんと甘やかしたるからな!! だから、だから……!!」

「……、そうですわね」

 

 

 彼女を、未だレースを諦めていない彼女を。少しでも元気づけるために。矢継ぎ早に言ったタマモクロスに、マックイーンも同意する。

 

 

「――頑張ってください!! ミザールさん!!」

「おう! そうだ!! ゴルシちゃんたちが着いてるぜ!!」

「が、がんばってくださいっ!」

「……」

 

 

 彼女らが、次々と声援を送る中。

 オグリキャップもまた――微笑みながら、目を閉じ。

 

 

「――がんばれッ!!」

 

 

 目を開けると。

 彼女もまた――力強く、叫んでいた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 その想いの輪は。

 

 

「……そうだ、がんばれ!!」

 

 

 徐々に、徐々に、広がっていく。

 

 

「もう少しだよ!! がんばってー!!」

 

 

 やがてその輪は、会場を飲み込み。

 

 

「がんばれ、がんばれー!!」

 

 

 歓声は。

 激励の声へと、変わっていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「……」

 

 

 ……思わず。

 立ち止まってしまった。

 観客席に、目を向けると。

 

 

 みんなが、私を見ていた。

 

 

 がんばれ、がんばれ。

 

 

 もう少し、もう少しだって。

 

 

 悪役のはずの私に、一心に、応援をしてくれている。

 

 

 敵のはずの私に。『皇帝』に勝つと、息巻いていた私に……

 声援を、送って、くれている……

 

 

「……っ」

 

 

 ねえ、お父さん。

 私、馬鹿だよ。

 

 

 こんなことになるなら、転入なんて、しなきゃ良かったかもしれない。

 

 

 ……でもね。

 でも、やっぱり、私、後悔してないよ。

 

 

「……、……」

 

 

 お父さん。見てるかな。

 

 きっと、観てるよね。テレビか何かで。

 

 そう。本当に、くそったれだったよ。ここ最近の出来事は。

 

 でもね。

 

 でもね。

 

 見て。

 

 私……

 

 

 

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こんなに、たくさん

仲間が、出来たよ。

 

 

 

 

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 

 

 サファイアミザールの父は。

 

 

 テレビ越しに伝えられる、その光景を。

 

 

 流れる涙も拭わぬまま――見守り続けていた。

 

 

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 あと、数歩。

 

 身体は、もう、本当に、感覚が無いけど。

 

 それでも、不思議と、動いてくれた。

 

 見えない何かが、背中を押してくれてるみたいだった。

 

 

 一歩を刻むごとに、声は高まり。

 背中を押す力は、増していく。

 

 

 二歩。

 

 三歩。

 

 四歩、を。刻んで――

 

 

 

「……」

 

 

 

 私は。

 

 

 感じた。

 

 

 

 

 ようやく、

 ゴールにたどり着いたことを。

 

 

 

 

『――!!』

 

 

 

 ……会場が、再びの、歓声に包まれる。

 

 もう、それに応じる気力、なさそうだ。

 

 でも、私は。

 

 やった。

 

 私は。

 

 やり遂げた。

 

 ……確かに。

 

 走り切った――

 

 

「――ゴール……」

 

 

 ひとつ、つぶやいて。

 

 私は、そこに倒れ込む――

 

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