16年度の卒業生   作:Ray May

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リスタート p1

-◆◇◆-

 

 

 

 学園全体を巻き込んだ騒動は、終結した。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 あの人が言った通り、学園を取り巻いていた状況は、ビデオを巻き戻すみたいにあっという間に元へと戻っていた。

 一体彼がどんな手を使い、どんな『後始末』をしたのかはわからないけれど。

 たぶん、その辺のことは、知らない方がいいと思う。

 

 

「――ふむ」

 

 

 派手に転倒した私は、あの後すぐに保健室で診断を受けた。

 骨とかもしかしたら逝っちゃってるかもなーと、覚悟を決めていたのだけれど。

 なんと、打撲はあっても、骨は無事、とのことだった。

 

 

「にわかには信じがたいですね……あれだけ派手にずっこけたのに」

 

 

 先生は不思議そうに呟くばかりだったけれど、幸運が重なったんだろうと思う。

 でも、正直な話……

 あの瞬間。あの刹那。

 何かに包み込まれたような感覚がしたんだけど。

 

 

「……」

 

 

 ……頭までイカれたと思われたくないので、黙っておいた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 一週間ほどの療養の末、私は全快した。

 

 どうやら理事長伝いに、そのことがラジコンさんに伝わったらしい。

 久々に、相変わらずの非通知より、彼から連絡が届いて。

 

 

『放課後、グラウンドに集合な』

 

 

 そう告げられたので。

 私は今日、グラウンドに一人立っている。

 場内では多数のウマ娘が既にトレーニングに勤しんでいて、それを見ていると、自分も走り出したくなる衝動に駆られた。

 

 

「……あ」

 

 

 それを必死に抑え込んでいると。

 その人は、現れていた。

 

 

「……おう」

 

 

 目が合う。

 彼は……ラジコンさんは。姿を現すなり、私の隣に立つと、グラウンドを見つめる。

 

 ……会話はない。

 こちらからも、あちらからも声を掛けず、ただただ、グラウンドの様子を見守る。……

 

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 

 ……き。

 気まずっ。

 え、何この空気。もしかして私が口開くの待ち?

 いやでも、呼び出したのはあっちだし、私から話の口火を切るのは――

 

 

「……まぁなんだ」

「はひっ!?」

「妙な声出してんじゃねーよ」

 

 

 う。だ、だって、急に話し出すものだから。こっちは、どうするべきか必死に考えてたのに……

 

 

「お前、担当がいない状況だよな」

「う、うん」

 

 

 ともかくと、気を取り直し、彼の言葉に耳を傾ける。

 

 

「担当がいないと、トゥインクルシリーズから降ろされるだろう。大会にも出られなくなる」

「うん」

「だからお前は、一刻も早く担当を見つけたい状況なわけだ」

「うん」

「……ちょうど俺は今、フリーなんだがな」

「……うん」

「……」

「……」

 

 

 ……なるほど。

 うん。

 正直、言わんとしていることは、察した。

 

 

「……」

「……」

「……おい」

 

 

 だから。

 だからこそ、私は、何も言わない。

 

 

「何か言えよ」

「え? 何を?」

「いや、だからな。お前は今担当が――」

「うん。いないよ。いないけど。それがどうかした?」

「いやだから、そのー、俺はフリーでな? それでお前は……」

「うんうん」

「……」

 

 

 あ。彼の顔が引きつってる。

 わかっちゃったかな。

 

 

 ……おちょくってるの。

 

 

「――っだぁー!! もう! ホンッッッットかわいくねぇなお前!!」

 

 

 そこから続く、奇妙な静寂に、彼は耐えられなかったのか。やがて、絶叫していた。

 

 

「わかれよ!! 察しろよ!! 俺に皆まで言わせんじゃねーよタコ!!」

「えー?? 全然わかんないんですケド。ごめんね? 私バカウマだからさー。人のこと察するの苦手でぇー」

「嘘つくな!! わかってんだろ全部!! あーくそ!! 期待した俺がバカだった!!」

 

 

 だんだんと地団太を踏む彼。……そこまであからさまに怒らなくても。

 

 

「はぁー。本当にいい性格してるわお前」

 

 

 満足したのか、彼は乱雑に後頭部を掻くと、言う。

 

 

「察しは悪いし、すぐ噛み付くし。態度も悪いし……これじゃ、これから着く担当が可哀想だ」

 

 

 言う。

 

 

「そしてそれは、お前にとっても良くないことだ」

 

 

 言うのだ。

 

 

「……だから、お前の手綱。俺が握ってやってもいい」

「……」

 

 

 ……うん。

 可愛くない、って彼は言ったけど。

 なんかもうそれは、こちらこそ、だった。

 

 

「……あなたこそ」

 

 

 だから、私も、言う。

 

 

「本当ろくでもないトレーナー。口悪いし、話聞かないし。乱暴だし。これじゃ、これから着かれるウマ娘が可哀想だよ」

 

 

 言う。

 

 

「そしてそれは、あなたにとっても良くないこと」

 

 

 言うのです。

 

 

「……だから、私の手綱。あなたに握らせてあげてもいいよ?」

「……」

「……」

 

 

 沈黙が漂う。

 でも程なく、彼はにやりと笑う。

 

 

「オーケイ」

 

 

 それから差し出される……右手。

 

 

「交渉成立だ」

 

 

 そして。

 言った。

 

 

「これからよろしくな。……バカウマ」

「……えぇ、こちらこそ」

 

 

 だから、私も。

 その手を握って。

 

 

「これからよろしく……クソトレーナーさん」

 

 

 お互い。

 示し合わせたように笑い。やがて、手を離す。

 

 

「おし。じゃあ景気づけにグラウンド十周」

「え? そんだけでいいの? 私病み上がりだけど。結構いけるよ?」

「じゃあ百周な」

「いや極端すぎるでしょ!! なんで中央値がないのあなたは!!」

「いーから行ってこい。十周でも百周でも五十周でもいい。好きなだけ走ってこい」

「うぅー、もう!」

 

 

 態度も当たり方も、全然変わってない。ついこの間、残酷なことを言い合ったようには思えない。

 少しは改心した、とか思ってた私がバカだった。もう。

 

 

「いってきますっ」

 

 

 そういうわけで。

 心の中で毒づきながらも。彼に言われるまま、走り出す。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 彼女は走り出す。

 グラウンドへ向けて。

 その背中を見た彼は、そこに、過去の残影を見ていた。

 

 

「――……」

 

 

 そう、それは夢ではない。

 フラッシュバック――であり。

 今、確かに見ている。

 現実だった。

 

 

「……ミザール」

 

 

 彼は、それを口にする。

 彼女は、それに反応して、振り返る。

 

 

「……怪我すんなよ」

「……」

 

 

 そう言われた彼女は。

 ミザールは、ゆっくりと、目を見開くと。

 

 

「――え。え!? 今名前で――!」

「うっせぇなバカウマ!! さっさと走ってこい!! 時間が惜しいだろ!!」

「え、で、でもー!」

「お前なんざバカウマで十分だ」

「う、うー! レアなとこ見れたのにーっ」

 

 

 もー、と嘆きながら、彼女は改めて走り出す。

 それを見届けつつ、彼は頭上を見上げていた。

 

 

 そこに広がるのは、突き抜けるような青空。

 優しい風がそこには吹き付け。

 彼の、彼らの頬を、柔らかに撫でていく。

 

 

 

 ――こんな景色を。

 お前ももしかしたら、見てるのかもしれないな、と彼は思い。

 

 

 

 

「       」

 

 

 

 

 呟いた声は。

 空へと舞い上がり、霧散していった。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 その少女は、とある民家の和室にて、生け花に勤しんでいた。

 が、開かれた障子の奥、に広がる中庭、の上空に広がる空へと、ふと目を向ける。

 

 それから、懐に手を伸ばすと。そこにいつも収めている一枚の紙のようなものを取り出していた。

 それは古ぼけた写真。

 現像から何年も経っていることが分かる、色褪せた、一枚の写真。

 

 

「       ?」

 

 

 彼女は、名前を呼ばれたことに気付く。

 そちらにゆっくりと振り向き、彼女は微笑んでいた。

 

 

「どうしたんです? 手を止めて。何か考え事でも?」

「いえ……なんでも。少し、昔を思い出していただけです」

 

 

 にこり、と彼女は笑い。その、しわがれた声に返す。

 

 

「何か……遠くで」

 

 

 再び写真に目を落とし。

 慈しみ深く、笑い。

 

 

「とてもいいことが……起きた気がして」

 

 

 写真には、微笑んでいる一人の少女と、硬い表情の一人の男が並んで写っている。

 

 その見た目は、いかにも厳格ではあるが。

 

 どこか朗らかな空気も、感じられた。

 

 

 

Uma-Musume

Graduate of 16

Act.1

the Fool and the Idiot

ばか者と大ばか者

 

-End-

 

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