16年度の卒業生   作:Ray May

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いいとこ入った! p3

 トレーニングが終わって、食堂で休憩しようって話になったのはいいんだけど。オグリさんは用があるからと離脱し、タマちゃん先輩とチヨノオーさんも作戦会議と離脱。

 残された私もじゃあ離脱……しようとしたら、なぜか主にゴルシさんに連行されて。

 かの有名なチームスピカの面々と、同じテーブルに失礼している。

 こうして受け入れてもらえてる、というのはありがたい話ではあるんだけど……

 

 なんだろ。

 

 

「んで? 二人はどんな恋バナに花を咲かせてたんだ? ん?」

「いやいや! 恋バナじゃないですってばー! 相談ですよ相談!」

「相談? 気になりますわね。私も聞かせてもらいます?」

「ちょちょちょちょ! 相談と言えばボクでしょ! 仲間外れにしないでよー!」

「……じゃあ、私も」

「ちょっと! アタシたちにも聞く権利はあるでしょ!」

「そうだぜ! 抜け駆けは無しだ!」

「……」

 

 

 ……なんか。

 

 半端ないなぁ……威圧感。

 

 場違いというか申し訳ないというか。でもそれも、向こう様に言わせてみれば、そう思うことこそが申し訳ないということになるのだろう。なので必死にそんなネガティブな感情を押し殺し、彼女らに改めて説明する……

 

 

「なるほど。お友達の捜索ですか」

 

 

 マックイーンさんは、その末に言っていた。

 

 

「私も目を光らせておきますわね。どの方も特徴的ですし。見かければそれとすぐわかるでしょう」

「あ、ありがとうございます……」

「ねーねー、ヒスイレグルスってあのヒスイレグルス? ヒスイグループの……」

「うん。そのヒスイちゃん。今は秘書やってるって聞いてます……」

「なんでオメーさっきからビクビクしてんだ?」

 

 

 マックイーンさんとテイオーさんに対応する中、不思議そうに言うゴルシさん。この人たちは、自分達の偉大さをわかってないんだろうか。

 

 

「でも……このあたりに住んでいる、という確証も無いのよね。捜すのは至難の業じゃない……?」

「まぁそうなんですけど……何もしないよりはいいかなって」

「千里の道もなんとやらってやつだな」

「まぁ、何もしないよりはマシかもしれないわね」

 

 

 スズカさん、ウオッカさん、スカーレットさんと続いて、会話はあっという間に私のお友達捜索対策会議へと変貌していた。がやがやとああでもないこうでもないと案を出してくれるみんなだけれど。結局最初の、地道に捜すという結果に落ち着いていた。

 

 

「でも聞くところじゃ、そのカペラってのとは仲良くなれそうだな」

 

 

 ウオッカさんが、ニヒルに笑いながら言う。

 

 

「なんかわかんねーけど、気が合いそうな気がするぜ」

「そうね、似た者同士だものね」

「おう、ありがとうな……って今俺のことバカにしたかぁ!?」

「バカになんてしてないわよ。ただ喧嘩っ早いとこが似てるってだけじゃない」

「そんなんお前も同じだろ!」

「はぁ!? アタシはそんな短気なつもりないですけどー!?」

「この間テレビのチャンネル変えただけでキレたやつが何言ってやがる!」

「そんなこと言ったらアンタだって――!」

「……気にしないでくださいませ。いつものことですので」

「あははは……」

 

 

 ……苦笑いしか出来ない。喧嘩するほど仲がいい、ってやつかな。あれが。

 

 

「……なぁ」

「?」

 

 

 すると、その時。

 それまで不自然なまでに静かだったゴルシさんが、どこか神妙な面持ちで口を開いていた。

 

 

「はい?」

「そいつ……」

 

 

 反応すると。

 彼女は、続けた。

 

 

 

 

 

「――ブラックレースに絡んでたりしねーよな?」

 

 

 

 

 

 ……刹那。

 チームスピカの面々が黙り込み、ゴルシさんに視線を向ける。

 合計、六つ分の視線に晒されて、彼女はハッとしていた。

 

 

「い――いやいや。本気じゃねーよゴルシちゃんも? ただ可能性の一つとしてさ……」

「まぁ、今のお話から連想する気持ちもわかりますけれど……」

 

 

 マックイーンさんがそれに答え。

 

 

「も、もし本当に関わってたりしたら、すっごく危ないですよね!」

 

 

 スペさんが忙しなく言い。

 

 

「捜す捜さないどころの騒ぎじゃなくなるわね……」

 

 

 スズカさんの声は深刻そうだった。

 テイオーさん、ウオッカさん、スカーレットさんは、どこかバツが悪そうに口を噤むだけ。

 場が瞬時に重苦しい空気に包まれ……

 何か、一言でも口にすることすら、ひどく罪深いことのように感じられたけれど。

 

 

「……」

 

 

 私は。

 勇気を出して、手を挙げる。

 

 

「お? どしたー?」

「……あの。ごめんなさい」

 

 

 そして――申し訳なさを感じながらも

 私は――意を決して、言った。

 

 

 

 

「……ブラックレースって、なんですか?」

 

 

 

 

「……」

 

 

 ゴルシさんは、しばし無言になる。

 が、ゆらり、と身体を揺らしたかと思うと、

 

 

「――いやそっからかーいっ!!」

 

 

 ……と。

 渾身のツッコミを、虚空に向かってかましていた。

 あれ。なんかこの光景、いつぞやに見たような。

 

 

「な……なんで急にツッコんでますの?」

「あ。いや。なんかこうしなきゃいけない気がしてよ」

 

 

 まぁいいや、とゴルシさんは気を取り直すように、咳払いをしていた。

 

 

「そういうことならしょうがない!」

 

 

 で。そう言ったかと思うと。どこからか一枚の小さめのホワイトボードを取り出し、どこぞの著名アーティストみたいな、黒いサングラスを掛けてみせる……

 

 

「ではこれより!!」

 

 

 そして、そのサングラスをクイッとやると。高らかに宣言していた。

 

 

「第一回! ドキドキ☆ゴルシ先生のブラックレース講座、開講します!! はい拍手ー!」

「どこから出しましたのそのホワイトボード」

 

 

 マックイーンさんの至極当然な疑問にも関わらず、面々はぱらぱらと拍手をしていた。

 で、ゴルシさんは、両の掌を下に向け、上下させる動きをすることで、そのぱらぱらとした拍手すらも丁寧に鎮める。

 

 ……なんかこの流れ、結構前に見たような気が。

 

 

「そも! ブラックレースとは何か!」

 

 

 そんな私をよそに、ゴルシさんは、ホワイトボードに、黒ペンで何かを書き出し始める。

 

 

「それは非公式に実施される、ヒジョーに危険なレースのことだ! その歴史はとても古く、起源は実に半世紀前に遡ると言われている! そのようなものが産まれた理由は判然としねーが、学生運動の一種だったとも言われているし、ある種の興行のひとつだったとも言われているぜ! ――はいマックちゃん!!」

「えっ!? はい!?」

「何か訊きたそうな顔をしているな!! このゴルシ先生が読心術で読み取って差し上げよう!」

「いやそれなら指名する必要ありませんわよね!?」

 

 

 確かに。ゴルシさん、何かとマックイーンさんに絡んでるけれど、仲がいいんだなぁ。

 

 

「むむ……むぅ!? ブラックレースは、フリースタイルレースや野良レースとは違うのでしょうか、だとぉっ!? いーぃ質問だマックちゃん!!」

「このテンション、ずっと続くのですか……?」

「頑張ってください、マックイーンさん! 応援しています!」

「いや応援でなく止めてほしいんですけど!?」

「そうとも! 丸っきり違うぞマック女史!!」

 

 

 スペさんとマックイーンさんがやり取りする中でも、ゴルシさんは容赦なく話を進める。

 

 

「フリースタイルレースは街中で開催されてるけど、利用する空地は権利者に使用許可をもらってるし、コースも最低限整備されてる。野良レースは無論非公認だけど、一般人が巻き込まれないよう最低限配慮がなされてる。……どちらにせよ、レースと無関係な誰かを危険に晒すような構造にはなってねー。だがブラックレースは違う!

 

 まず開催時期だが……基本的にゲリラだ! 参加者と観覧希望者以外には、誰にも、どこにも、事前告知はされない! 当然、舞台となる場所の使用許可も取っていない! その肝心の舞台も色々で――公道に街道、山道に私有地……一例じゃ、高速道路が舞台になったこともあったらしいぜ!」

「え。高速道路って……私たちでは走れないところよね?」

 

 

 スズカさんは、その情報が初耳だったのか。衝撃を受けたように言っていた。ゴルシさんは、それに飽くまで伝説だ、と付け足す。

 

 

「まぁ、これらは過去のお話だ。摘発が活発になった今じゃ、その舞台は専ら真夜中の峠道になってる。そしてなお悪いことに……そのレースの経路は、開催ごとに大きく変わる。曰く――よりエキサイティングで、盛り上がるよう常に工夫する、とか」

「工夫って……どうやってですか?」

 

 

 私の問いかけに、ゴルシさんは頷いていた。

 

 

「舗装済みの道路を走るだけじゃ飽き足らず……舗装の予定すらも組まれていない山林の中をも走るらしいぜ」

「……え? ち、ちょっと待ちなさいよ」

 

 

 それに反応するのは、スカーレットさんだった。彼女もまた、そんな情報は初めてだったらしい。

 

 

「真夜中の山林を? 走るの? 確かにアタシたち、夜目は利くけど、それでもそんなところ走るのは……」

「あぁ――無茶苦茶に危険だ!」

 

 

 情けも容赦もなく、ゴルシさんは断言していた。

 

 

「実際、レース中の滑落事故や衝突事故は後を絶たないらしい。死者が出た、という話は聞いてねーけど、交通事故に至って、大きな訴訟沙汰になったこともあったらしいぜ」

「確かそれが原因で、摘発が活発になったんだよね」

 

 

 テイオーさんの声に、ゴルシさんは、おう、と返した。

 

 

「……けど、いたちごっこが続いているのが現状だ。しかもブラックレースは、普通じゃ考えられない賞金が獲得出来るせいで、参加を希望する奴も後を絶たない。……その額は、低くても数十万、時に数百万にもなるらしいぜ」

「うぇー……重賞の優勝賞金クラスじゃん。どっから出てくるの、そんな大金」

「良くないところ、というのだけは確かだな」

 

 

 テイオーさんは、苦虫を噛み潰したように顔を歪めていた。

 

 

「でもまぁ、そんなもんだから、当然、『良くない連中』も集まるわけでよ。この世の悪の見本市みたいらしいぜ? 全身刺青、オールバックのサングラス、威圧的なスーツ姿、スキンヘッド」

「結構ステレオタイプ含んでねーか」

 

 

 ウオッカさんの指摘に、ゴルシさんはまぁまぁ、と宥める動きをした。

 

 

「様々な犯罪の温床になっている、という話も聞く。まぁ何にせよ……見かけても関わらないのが吉……なんだけどな」

「それに関わってるんじゃないか……って話ですか」

 

 

 私が改めて訊ねると、ゴルシさんは躊躇いがちに頷いた。でもそれも、さっきも言ったように、可能性の話だ。確実に関わっている証拠はないし……関わっていて欲しくもない。

 そんな危ない場所で……

 生きてなんて、欲しくない。

 

 

「あぁー、なんだ。ま、景気の悪い話だったよな。忘れてくれ」

「あれだけノリノリでお話して忘れろは無理がありますわ」

「しょうがねーなー。じゃあここはマックちゃん関連の漫談で空気を上書きするか!」

「止めてくださいませ!!」

「あれは彼女が三歳の時……大嫌いなお野菜をお残しした時のこと……」

「捏造しないでくださいませ!!」

 

 

 そんな感じで展開され出した、漫談……というか漫才に。場の空気はいくらかは軽くなったけれど。

 それでも、私の胸中は、ずしり、と重いままだった。ざわざわと不安感を伴うそれは……私に、考えたくない可能性を無理矢理考えさせていた。

 

 

「……」

 

 

 ……有り得ないはずの可能性を。

 

 有り得ないこともない――と、ほくそ笑みながら、囁いていた。

 

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