16年度の卒業生   作:Ray May

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心弾んで p1

-◆◇◆-

 

 

 

 時は流れ、季節は過ぎ。

 冬の寒さは追い出され、春の暖かさが居座る。

 オグリキャップさんのドリームトロフィーリーグの正式参戦に、湧く世間の片隅。

 私もそのうちに混じりながらも、新たな門出の時を迎えていた。

 

 

『――いやー こりゃマ子にも衣裳だな あれ これ誤用なんだっけ? まぁいいか』

 

 

 トレセン学園中央校、正門前。

 いつもとはがらりと違う私の服装に、ラジコンさんは相変わらず旋回する。

 白色が基調の、ところどころの紫のラインが映える、いかにも高級そうなセーラー服。

 

 

『ま ひとまずあれだ――転入おめでとう かな?』

「……どうも」

『なんだ 嬉しくなさそうだな 恩師が目いっぱいに祝福してやってんのに!』

 

 

 私が素っ気ない返事をすると、更に激しく旋回するラジコンさん。いや、感謝はしてる。してるんだけど。それを素直に表明するのは、なんだか負けたような気がしてしまってた。

 そう、何を隠そう今日この日は、トレセン学園の入学式で。

 今さっき、全てのプログラムを終え、ここまで出てきたところ。

 本当ならこれから寮の部屋に荷解きに行って……って流れなんだけど。それに逆らってまでこんな場所にいるのは。

 他でもない、ラジコンさんにここに来い、と頼まれたからで。

 

 

「……それで、これからどうするの? 呼んだからには、何かやることがあるんでしょ」

 

 

 ただ、肝心の用事をまだ聞いていなかった。ラジコンさんはやかましい旋回をようやくやめ、私と向き合うように正面から相対する。

 

 

『もちろん まぁなんだ これで晴れてスタートラインには立てたってわけだが 当然このままとんとん拍子でトゥインクルシリーズに参入 ってわけにはいかないわけでな』

 

 

 ……トゥインクルシリーズ。全てのウマ娘が、一様に憧れる大舞台。

 私も、ただ学園で走るだけじゃつまらない。ってことで。そこに参入して成果を上げることを目標にしたわけだけど。どうやらそう簡単にはいかない話らしかった。

 ただまぁ。

 考えてみれば、当たり前ではあった。なぜなら……

 

 

『何せ トレーナーが()()()()だからな!』

「……」

 

 

 ……そう。

 トレーナーが、こんなんなのだから。

 

 

「……えっとさ。そう思うなら実体で来てもらっていい? そしたら全部すんなりいくんじゃない?」

『わかってねーなーお前 俺がラジコンに宿る霊魂的なあれだったらどうするつもりなんだよ』

「お祓いしてもらいます」

『無慈悲!! お前これまで練習付けてもらったことに対する恩ってもんがねぇのか!?』

「いやー呪われるよりかはマシかなって」

『なんで悪霊前提なの!?』

 

 

 いや、むしろ既に呪われているのかもしれない。こんな無機物に絆されて。トレーニングされてしまっている時点で……

 

 

「……まぁわかったよ。とにかく姿を見せられない事情があるんだよね」

『そういうこった それに人間 ミステリアスな方が魅力的だろ?』

「人様に見せられないくらいの不細工ってことで納得しとくよ」

『オメーマジで一回痛い目見た方がいいぞ?』

 

 

 人様の前に執拗に現れない人に言われたくないです。

 

 

『まぁそれはともかくとしてだ! もう今日のプログラムは終わったんだろ? お前にはまず、理事長室に行ってもらう』

「理事長室? なんで?」

 

 

 本当にともかく、と転換された話題に、小首を傾げて問い返した。

 

 

『そりゃオメー 直談判するからに決まってるだろ』

「じ……」

 

 

 で。

 返ってきた言葉に、私は思わず絶句した。

 

 

「直談判!? この状態で!?」

『おう なんだそんなに大声上げて 何としてでも注目浴びたいお年頃か?』

 

 

 ラジコンさんは、あくまで冷静に軽口をたたくけれど。自分の発言のおかしさに気付いていないんだろうか。そう思うのならどうか客観的に分析してほしいものである――自分が。

 理事長だとして。ラジコンを持った生徒がやってきて、この人をトレーナーとして認めてくださいって。怒鳴られるか頭の心配をされるかのどっちかだろう。

 そんな……役目を、私に任せようっての?

 

 

『んな心配しなくても お前に喋らせようってんじゃねーよ』

 

 

 私の心中を見透かしたかのように言う彼だけれど。違う、そうじゃないって感じ。いや、それもそれなんだけど。それ以外にも、懸念事項がいくつかありましてね。

 

 

『俺がメインで話すから お前は基本置物でいればいい 口は出さなくていい そうすればあら不思議! 理事長が特例として俺たちの存在を認めてくれる運びに……!!』

「漫画の読み過ぎじゃない?」

『ご挨拶! ……まぁそういうわけだから 大船ならぬ大車に乗ったつもりでいろ! 大丈夫 俺に任せとけ お前は俺の言うことを聞いてりゃいいんだ』

「……どうだか」

 

 

 確かにここまで、彼の言うとおりにトレーニングをこなして、実感として身体能力の向上を感じているし、実際としてトレセン学園の転入試験もパス出来ている。

 だからといって、それが常識的な言動、確信的な信用を保障してくれるのかというと、そうではなくて……

 

 

『心配しなくとも 理事長は適応力と理解力のあるそりゃー素晴らしいお方だ あとついでにお祭り好きだし あの学園変人ぞろいだし これくらいのイレギュラー 二つ返事で承諾してくれるって』

「まるで実際に見てきたみたいな口ぶりだね」

『理事長も学園も有名だからな この街に住んでりゃ 耳塞いでても噂話は聞こえてくるぜ』

 

 

 そういうことらしい。相変わらず、胡散臭くて。信用に当たるかどうか。判じ難い所ではあるけれど。

 私に、それ以上の策がないこともまた事実だった。

 

 

「……わかった。やるからには、ちゃんとやってよね」

『重畳! 全部俺に任せとけ お前は置物みたいにどっしり構えてな!』

「それも結構失礼じゃない……?」

 

 

 とにかく、そんな感じで。私はラジコンさんの言われるまま。それを手に持って、理事長室へと向かうことにした。

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