16年度の卒業生   作:Ray May

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ノンストップガール p3

-◆◇◆-

 

 

 

 扉を閉めて、背中をそこに預けたヒシアマゾンは、ルドルフと相対する。

 薄暗いエントランスで。彼女は、困ったように笑っていた。

 

「……何笑ってるんだい。これで何か『事』にでもなったらどうするんだい」

「そうだな。私の権力の全てを使ってでも、助ける気概だ」

「……頭のネジでも外れたのかい? 一体何が……」

「――外れたのは、ネジじゃなくてタガだろ」

 

 そんな会話に、またひとつ、介入する声。

 二人が振り向くと同時――

 物陰から現れるのは、長い暗めの茶髪。

 

「シリウス!? どうしてあんたまで……」

「嗅ぎ付けてくると思ったよ。シリウス」

「は。『皇帝』サマが直々に動くってのに、おちおち寝てられるかよ」

 

 困惑するヒシアマゾンをよそに、シリウスは二人の元――をも、通り過ぎ、扉を開け、外へと出た。

 顔を見合わせたヒシアマゾンとルドルフは、その背に着いていき、外へと出る。彼女はどこかへ行った……わけでもなく。少し歩いたところで、空を見上げていた。

 けたたましいサイレンの音が、はるか遠くで響いている。

 

「……シリウス」

「あ?」

「皮肉らないのか?」

「どうしてだ」

 

 ルドルフの問いかけに、シリウスは、どこか穏やかな声色で、答えていた。

 

 

「ただ――『娘』を送っただけだろ」

 

 

「……はは」

 

 そんな彼女の言葉に。

 ルドルフもまた、穏やかに笑っていた。

 

「粋なことを言う」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

『その情報』をくれたトレーナーさんによれば、出来るだけ早く正門付近に来い、とのことだった。

 出来得る限り急いだつもりでそこに来たのだけれど、そこには何もないし、誰もいない。

 もしかしてどこか行っちゃったんだろうか、と不安になる。

 

 ……電話を受けて。

 飛び起きて、ここまで来たはいいけど。

 肝心のこれからの行動は、明確には思い描けていない。

 

 今から現場に向かうには遅すぎるだろうし、かと言って先回りするにも、最終目的地が分からない。

 私ひとりの力じゃ……現状は、どうにもできない。

 ……トレーナーさんの力が必要なのに。それなのに……

 

「……どこ行っちゃったんだよぉ……」

 

 口にした声は、信じられないくらい弱々しかった。

 とにかく、と携帯電話を取り出す。

 LANEにて、今どこにいるんですか、と呼びかけようとした時。

 

「――?」

 

 横から。

 暗闇を切り裂くように、ライトが照る。

 次いで響くクラクションに。

 そちらへと振り向くと。

 

「――!?」

 

 そこから、黒塗りのワゴン車が現れ。

 通り抜けざま。

 後部座席の辺りから出てきた、がっしりとした腕に、身体を掴まれていた。

 

「きゃあっ!?」

 

 そのまま車は一回転、二回転。

 開け放たれていた後部座席の扉が閉まると同時、

 前方へと、疾走し始める。

 

「――っ、は、はなしてっ!!」

 

 私は――

 がっちりと掴まれながら、ばたばたともがく。

 

「はなして、はなして!! お願い!! 離してよっ!!」

 

 何に捕まったのか。何をされるのか。

 わからないけれど。解放を目的に、ただただ乱暴に、もがいて、もがいて――!!

 

 

「離してぇっ!!」

「――ミザルサン」

 

 

 ……果たして。

 聞こえた声に、暴れるのをやめ、見上げる。

 そこには――

 

「オチツイテ」

「……あ」

 

 見慣れた、って程じゃないけど。

 見たことのある顔が、あった。

 そう、あの時。ブラックレースの会場を初めて訪れた時、見た。

 あの、黒人の、大男。

 

「あなたは……」

「――悪いなバカウマ」

 

 ついで、運転席から聞こえるのは。

 もうすっかり、聞き慣れた声。

 

「停まる時間も惜しかった」

「――……ト」

 

 ホームミラー越しに。

 その人と、目が合う。

 

「トレーナーさん……かぁ……」

「俺以外に誰がいるんだこんなことするやつ」

「いや、そうなんですけど……」

 

 いや、そうなんですけどね?

 最近、やっべー人たちと会っちゃったもんですから。

 

「とにかく、時間がねーから一気に説明するぞ」

 

 そんな私が本当に落ち着く暇も与えず、彼は――トレーナーさんは。説明を始める。

 

「まず今から向かうのは、██ICだ」

「██IC……?」

 

 それって確か……最近出来たICだよね。府中駅の南側の……

 

「例のレースは西調布駅から始まった。連中はそこから北上し、調布料金所から高速道路に入場するつもりだ」

「え……!!」

「ハシル。ダメ。イホウ」

「あぁそうだ。でも今、そんなのは関係がねぇ」

 

 いつかのゴルシさんの話を思い出す。ブラックレース、高速道路――そういえば、過去にそこでレースが開催されていた、とか言っていたような。

 で、でも、そんなとこ、私たちが簡単に入場出来るとは思えない。彼は一体何を根拠に……!

 

「それもそうだ。入場は出来ないし、走れもしない」

 

 私の疑問に、トレーナーさんは答える。

 

「――でもな。入場出来るし、走れもするんだよ、今日限定で」

「は……? ど、どうして……」

「さっき速報で情報が入った。どうやら連中――」

 

 すると彼は、言う。

 

 

「――料金所に、車でバリケードを敷いてるらしい」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 ガーネットカペラは、目の前に広がる光景を信じられなかった。

 

 

「おい! いい加減大人しくしろ!!」

「あんだコラポリ公がぁ!! 嘗めてんじゃねーぞコラァ!!」

「こ、これは公務執行妨害を越えているぞ!! 今すぐ車を退けなさい!!」

「あァ!? やってみろやコラァ!! ぶっ█すぞォ!!」

 

 

「……」

 

 な、

 なんだこれは、と。

 無数の車両が料金所前を埋め尽くし、一切の車の入場を拒んでいる。

 そんな車両を上回る数の、ガラの悪そうな男たちが、束になって警察官に抵抗しており、そこはもう、

 

 ひと言で言うならば。

 無茶苦茶だった。

 

「――、――!!」

「――、――……!!」

 

 怒号と騒音が入り混じる様は、喧々諤々という言葉でも生温い。

 もはや地獄。もはや悪夢。現実のこととは信じられないような地獄絵図。阿鼻叫喚。

 これらが全て、何に起因するものなのかを。

 カペラは理解していた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「そうすることで、車両の進入と介入を防ぎながら、参加者を高速道路に送り込むって寸法だ」

「で、でもそれって、とんでもない数の車と人が必要なんじゃないんですか? そんなの……!」

「出来るんだよ、それが」

「え……?」

「出来る。……()()()ならな」

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

「――っ!!」

 

 果たしてカペラは。

 覚悟を決め、その地獄の中に飛び込む。

 人との接触を最小限にするため――

 車両の上を、器用に飛び移りながら、進む。

 

「おい、フードじゃねーか!?」

 

 そのうちに――男の声が聞こえる。

 興奮し切った、歓喜に満ちた――いかにも楽しげな、声。

 

「間違いねぇ、フードだ!」

 

 ――うるせえ。

 

「今日もトップ独走かぁ!? その意気だフード!!」

 

 ――うるせえ――!

 

「フード!」「フード!!」「フード――!!」

 

 

 うるせえ、うるせえ、うるせえ!!

 

 

 その名を呼ぶな、その名で呼ぶな。馴れ馴れしく、自分を語るな。

 何も知らねぇくせに。

 何も、わかってねぇくせに――!!

 

「――っ……!!」

 

 心の中で毒づきながら、彼女は進む。

 やがてその身体は、ゲートを潜り抜け。

 なおも脈々と連なる車列を走り抜けた。

 

「――!」

 

 その末。

 彼女は見る。車両のバリケードが、料金所入り口のみならず――

 

『本線まで、塞いでいる光景を』。

 

 きっと東京方面から下ってきたのだろう、車両がずらっと列を為しており、不機嫌そうにクラクションを鳴らしている。

 

「――!!」

「――!?」

 

 それを不愉快に思ったからなのか何なのか。『手下』の男たちは、何事かを叫び、ここでも乱痴気騒ぎを引き起こしている。

 無関係の一般車を巻き込んでいる、という意味では――ある意味、入口よりも混沌としていた。

 

「――くそ……!!」

 

 滅茶苦茶だ。

 滅茶苦茶すぎる、と、カペラは、ともかく走る。

 そこから逃げるように。

 一刻も早く、全てを、終わらせるために。

 

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