16年度の卒業生   作:Ray May

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ノンストップガール p5

-◆◇◆-

 

 

 

 約200km。

 

 世に有名な、箱根駅伝の総距離だ。

 

 往路と復路に分けても、それぞれ約100km。もちろん、駅伝の性質上、一人で走り切るわけではないが、それでも一人当たり、5~20kmは走ることになる。

 それに比べれば、8kmという距離は――何も知らない一般人からすれば、大して変わりはないだろう、という感想を抱いてしまうかもしれない。

 だが――今、『彼女』の挑戦していることには、それとは根本的に違う部分があった。

 

 

 それは。

『走るペース』だ。

 

 

「……、……」

 

 ガーネットカペラの息は、もうすっかり上がっていた。

 当然だ。スタート直後よりの全力に近い疾走、加えて無関係の人々をも巻き込む劣悪な障害。

 あの手この手でここまで乗り越えてきたものの。彼女の体力の限界は、近くなっていた。

 

 まだ、目標のICまでは、距離にして3kmはある。

 全体の行程としては、ようやく半分を越えたところ。

 まだまだこれから、改めてここから、気を取り直して走らなくてはならないのに。

 

 足は棒のようになりかけ。

 心臓は、悲鳴を上げるように脈動している。

 走り方は、先ほどまでの疾走ではなく。

 早歩きに近いものになっている。

 

「……くっ……そっ……」

 

 もう一般的なレースの最長距離など、とうに超えている。

 最初は大丈夫だと思っていた――いや、大丈夫じゃなくても、やり切れると思っていた。やり遂げられると考えていた。

 だが目の当たりにした現実はあまりに無情で、想像以上に無常だった。

 

 史上最悪にして、最大のこのレースは……

 自分の考えでは及びもつかないほど、過酷なものだった。

 

「……っ」

 

 それでも、彼女は走るのをやめない。軋む身体に鞭打ち、少しでも前へ進もうとする。

 

 全ては、全てを終わらせるために。

 全ては、望むものを掴むために。

 乗り越えた先で。

 別の未来を、見るために。

 

 

「……、……」

 

 

 ――あいつはいるだろうか、とカペラは考える。

 自分の向かう未来で、出会えるのだろうかと考える。

 

 そこで笑い合うことは出来るだろうか、と考える。

 その末浮かび上がるのは――やはり、否定だった。

 

 

 否。

 

 

 もう自分に、付き合わせるわけにはいかない。

 大型モニターの中。

 人々の関心を一心に受けて。

 光の中を走る彼女に、自分の存在など恐れ多い。

 

 きっと汚点になる。

 きっと弱点になる。

 自分が傍にいることで。

 きっと自分が――それを邪魔してしまう。

 

「……そうだよ」

 

 相応しくない。

 いてはならない、そんなところに。

 闇の奥底で這い回るしか出来なかった自分に、そんな場所に立つ権利なんかない。

 ――だって。

 

 

 真っ当に生きる方法なんて、

 もう、忘れてしまったのだ。

 

 

「……」

 

 思い残すことはない。

 心残りも無い。

 このレースを終えたら。最後まで走り切ったら。

 消えてしまおう。

 

 

 ――光に背を向けて。

 闇の中で、生きていこう。

 

 

 誰にも頼らず、誰にも見つからず。

 ひっそりと生きていこう。

 

「……」

 

 一人で。

 

「…………」

 

 一人で。

 

「………………」

 

 ずっと。

 一人で――

 

 

 

「――カペラちゃん!!」

 

 

 

 ――刹那。

 聞こえた声は、最初、幻聴かと思った。

 それでも、その声に反応し。

 彼女は立ち止まり、顔を上げる――

 

「――……」

 

 果たしてそれが。

 幻聴でも、聞き間違いでもないことを。

 彼女は、知っていた。

 

 

「……ミザール」

 

 

 友達が。

 親友が。

 暗がりの道路上で、息を切らして、そこに立っていた。

 

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