16年度の卒業生   作:Ray May

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眠れる獅子 p5

「普通に歓迎するつもりだったんだけどな、なんかあの空気じゃ、話すに話せなくてな……」

「……もしかして、口裏合わせてなかったんですか」

「完全にその場のノリだったな」

 

 ってことは、アドリブであそこまでの空気を作り出したのか。凄すぎる。さすがの団結力……と、褒めるところだろうか。

 

「最終目標は有マ……だったな」

「あ……はい。もうそこまで広まってるんですね」

「あいつらが話してくれたんだ。井戸端会議でな。……それなら、こっちもこっちで、ちゃんと指導しとくよ」

 

 西崎さんの目の色が、そこで変わる。不敵に、対抗心に、燃える。

 

 

「追い抜いちまっても、文句はなしな?」

「……望むところです」

 

 

 だから、私も負けじと、対抗する。彼は、どこか満足げに笑っていた。

 

「それじゃ、私はこれで……くれぐれも、よろしくお願いします」

「おう。そっちのトレーナーにも、よろしく言っといてくれ。またな」

 

 深めに一礼して、チーム室から退室する。『あたしを置いてくな』、とか絶叫が聞こえた気がするけど。聞こえていないことにしておいた。

 

「……うまくいったか」

 

 で、そのまま、外で待っていたトレーナーさんと合流し。

 

「うん。結果的には」

 

 かつかつと、その場から歩き去る。

 カペラちゃん、大丈夫。君ならきっとうまくやれるよ。グッドラック!

 

「しかし……よくあそこに入れようなんて思ったなお前」

「うーん、まぁ」

 

 トレーナーさんの尤もな問いかけに、頬を掻く。もちろん、あのチームを選んだのは、ただ頼みやすいから、ってだけじゃなかった。

 

 

「……カペラちゃんって、結構尖ってるからさ。スピカの人たちと関われば、毒気が抜けて丸くなるかなーって」

 

 

 決して関わりづらいわけじゃないけれど。決して悪い子なわけじゃないけれど。言葉遣いも、態度も、あまりにもカタギっぽくなさすぎるから。

 みんなと関わって、もっと普通っぽくなったらなー……という、希望的観測だ。

 

「……毒気ねぇ」

「?」

 

 が、トレーナーさんは何か思うことがあるみたいで、ちらと私に視線を寄こす。それが見事に私のと合致すると、すぐに逸らしていた。

 

「え? 何?」

「いや別に」

 

 ……?

 な、なんだろ。私今、そんなに変なこと言ったかな……まぁいいや。

 

「……カペラの問題は解決出来たとして。次はお前だな」

 

 トレーナーさんは言う。

 

「例のお友だち作戦。次は誰にするんだ?」

「……コハクちゃんの手掛かりは無いし。次は手掛かりが明らかな子からかなって」

 

 名前にイラっときたけど、どうせ言っても直してくれないだろうし、指摘しない。代わりに、問いかけに答えると。彼はなるほど、と頷いていた。

 それから、立ち止まる。視線は、徐に窓の外へ。

 私も、同じようにそちらへ目を向けると。遠景に、小さくとも、『それ』が確かに見えた。

 

「……ここからでも良く見えるな。『女王様』の居城は」

 

 そう、それは、ひときわ目立つ高層ビル――

 ヒスイグループ、という、世に有名な大企業の、本社オフィスビル。

 私が目標とする子のいる場所――

 もとい、『勤めている』、場所だ。

 

 ……ヒスイレグルス。

 16年度の卒業生の中で、最も理知的で、才知に富んだ、いわゆる優等生。

 まぁ、生徒が最終的に四人しか残らなかった田舎町の学校で、優等生もくそもないかもしれないけれど。どうも聞くところによれば、あそこに引っ越してくる前から、彼女はかなり名が知れていたらしい。

 天才。

 神童。

 逸材――そんなとこだ。

 

 それだけに――相応の()()が、あるにはあるんだけども。

 

「ガーネットカペラみたいに、居場所から見つけなくていい分、まだ楽だけどな」

「居場所が分かってるからこそ、の苦労もありますよね」

 

 トレーナーさんの言葉に同意する。そう。カペラちゃんの時みたいに、あくせく街中聞き回って居場所を探さなくていいのは助かる。

 ただ、だからといって気軽に会える存在なのか、と言われると、そうでもなくて。

 

「何せ……『社長の専属秘書』っていうんですからね」

 

 そう、彼女。勤めているといっても、ただ勤めているんじゃない。

 社長の秘書という、重大で重要な役割を任されているのである。

 卒業以来、会っていない彼女ではあるけれど。その忙しさのほどは、わざわざ確認するほどのものじゃない。

 きっとスケジュールはキツキツだろう。

 アポを取るための電話すら許されるか、すらわからない。

 

「……なんだってそんなことしてるんだ?」

 

 え。と一瞬思うけれど。何も事情を知らない側からしたら、当然の疑問だった。

 たかだか十代中盤の少女が、社長のお付きだなんて。何事だって話だよね。

 

「……行く行くは社長を継ぐわけですから。今から経験を積んどこうって話みたいです」

「ずいぶん早くから下準備をするんだな」

「ヒスイちゃんは、時間を何より大事にしてるので。……一分一秒も惜しいんじゃないですか。()()()()()()()

 

 トレーナーさんは、そこで浅めに息を吐いていた。

 

「……余計なお世話かもしれないが。ガキはもっと遊び暮れていいと思うぞ」

「うーん。もしかしたら、ヒスイちゃんはそういう大人っぽい仕事とかが好きなのかもしれないですね。実際、年齢も私たちよりひとつ上だし。私たちの遊びを、いつも一歩引いたとこから見てたから」

「どうだろうな。ガキってのは何かと大人ぶりたがるもんだ。本人は望んでないのかもしれないぞ」

「……だとしたら、また無理にでも引っ張らなくちゃですね」

「大企業を敵に回してもか?」

「はい」

 

 ……私の答えに、トレーナーさんは目を丸くする。さすがに、ここまで淀みなく答えるのは、彼にとっても予想外だったか。

 

「……大したお覚悟で」

「へへー、それほどでも」

「でも、お前はお前のレースに集中しろよ」

「そりゃもちろん」

 

 忘れない。忘れるわけがない。簡単な話じゃないだろうけど。きっとやり遂げてみせる。

 理想も、目標も――きっと、掴んでみせる。

 

「……」

 

 だから、と、改めて見つめた先。

 高層ビルは――相変わらずそこに、超然と佇んでいた。

 

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