16年度の卒業生   作:Ray May

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遊びはおしまいっ! p4

「……ウチら制服で来て良かったな。私服やったらえらい目立ってたで」

「制服でも場違い感すごいですけどね……」

「お二人とも。受付は正面のようですわ。行きましょう」

 

 もうすっかりマックイーンさんが先導役だった。言われるまま、私たちは受付まで歩く。

 守衛所と同様、マックイーンさんが用件を伝えると、清潔感のある担当の女性は、朗らかな笑顔で対応してくれた。

 

「お話は伺っております。すぐに参りますので、あちらの待合スペースでお待ちください」

 

 示されたのは、フロントの隅の方、いくつか設置された、テーブルと椅子のセットだった。それらも高級感に溢れており、実はレストランの一角です、とか言われても、信じてしまいそうだった。

 

「……」

 

 ……言われた通り。

 椅子に座って待つけれど。落ち着かない。

 それは、椅子やテーブルが高級だから、っていうのもあるだろうけれど。周囲の反応にも一因がありそうだった。

 ちらちらと、行き交う人々がこちらを見る。

 猜疑……というよりは、好奇心故か。

 やっぱり、こんな会社に、私たちみたいな少女が来るのは珍しいのだろう。それに加えて……

 私たちは、『普通の人間』じゃない。見ればそれとわかる、『人間とは違う種族』。

 気にしてしまうのは……人の性か。

 

「……なんや、見世物みたいで落ち着かんな」

「ですね……出来ればもっとわかり辛く見てほしいですけど」

「見ないでほしい、ではないのですね。そこは」

「いえ、まぁ。見たくなる気持ちはわかりますから……」

「ほんなら、敢えて目立つようなことでもしよか。ほら、テーブルに立ってポールダンスとか」

「危ないクラブじゃないんですから……」

 

 そんなことしたら、会社出禁じゃ済まされない。社会的にも殺されてしまうだろうな……

 

「それで自分、戦略は考えとるんか?」

 

 戦略。無論、ヒスイちゃんをどう説得するかってことだろう。本当ならここで、それを共有できればよかったんだけど……

 ……いかんせん。

 

「――いえ、なんにも!」

「そないに自信満々に言うなや……」

「まぁまぁ。どちらにせよ、たった10分で説得、という方が元々無理難題なのですから」

 呆れるタマちゃん先輩に対して、マックイーンさんは余裕そうだった。

「私たちは今日、お友だちとおしゃべりに来ただけですわ。粛々と、参りましょう?」

「……ですね」

「せやな」

 

 お互い、頷き合う。そうだ……これで全部終わりってわけじゃない。今日は……飽くまで、下調べだ。

 気楽に、肩の力を抜いて……いこう。

 

「――あ」

 

 と、その時。

 マックイーンさんが、控えめに声を上げていた。

 

「あれではないですか?」

 

 言葉に、私は弾かれたように目を向ける。そこには――確かに。

 いた。

 歩み寄って、来ていた。

 白色が基調の、清潔感溢れるスーツに。

 リムレス眼鏡。

 緑がかった、黒い長髪――

 

「――ヒスイちゃん!」

 

 私は。

 思わず、立ち上がっていた。

 

「……」

 

 彼女はというと。

 すぐには反応せず――変わらぬ調子で歩き続け、やがて、目の前までやってきて立ち止まる。

 深々と、恭しく一礼すると。

 

「……お久しぶりです。ミザールさん」

 

 かつてとほとんど変わらない。

 凛とした声色で、答えてくれていた。

 

 

 

-◆◇◆-

 

 

 

 ヒスイグループ本社ビルのエントランスの様子は、さほど変わってはいない。

 今日も今日とて、スーツ姿の男女が忙しなく歩き回っている。

 ざわざわとした控えめな話し声は、全てが自分たちの仕事や、終業後の予定に関するもの。

 ちらと『彼女ら』を見る者はあっても――

 話題にするような者はいなかった。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 そんなざわめきの片隅――

 集った四人は、沈黙していた。

 タマモクロスは、どこか困惑した風に目を泳がせており、

 マックイーンもまた、怪訝そうに場を見守る。

 ミザールはというと、実は、ヒスイレグルスが何事かを話すことを期待して、口を閉じていたのだが。

 

「……」

 

 当の本人はというと。

 表情を崩すことなく、ミザールを一心に見つめていた。

 その瞳は、冷たい――と表現することは出来たが。侮蔑や軽蔑といった類の感情は見て取れず。

 かといって、暖かい――親愛の情も見て取れない。

 ただただ本当に、機械的なまでに、無機質に――ミザールの、次なる言葉を待っているようだった。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 困惑と、疑問と、期待と、無。四つの感情が入り混じる、混沌とした沈黙の末。

 

「……ご用件は」

 

 口を開いていたのは、ヒスイレグルスだった。

 

「なんでしょうか」

「……あ……」

 

 夢から覚めたように言葉を漏らしたミザールは、それに頬を掻きながら応じる。

 

「そのー……ひ、久しぶりだね! え、えっと、何年ぶりだろ。さ、三年くらいぶり……?」

「六年です。今年で七年目になります。ご用件は何でしょうか」

「や、その、用件って程の用件じゃないんだけど。とりあえずさ。さ、最近どうなのかなーとかって……」

「どう、とは?」

「……えと。お仕事の調子とか、生活とか。諸々……」

「仕事は順調です。生活も恙なく。特筆すべき問題はありません。……用件はそれだけでしょうか?」

「い、いや! えと、そのー……」

「……おい、しっかりせぇや」

 

 そのあまりに非効率な会話と空気に耐え兼ねたのだろう。タマモクロスは小声で告げる。マックイーンは何も言わなかったが、難しそうに眉を顰めていた。

 

「……」

 

 対して、ミザールは心を落ち着ける。本当ならもっと、世間話で場を和ませたいところではあった――だが目の前の少女は。気心知れてる――はずの幼馴染は。様子が変わる様子がなかった。

 まるで機械のように、こちらの質問に答えるだけ。表情も、ひとひらも、崩さない。

 

 ……変わっていない。

 そう、彼女は思う。

 本当に何も――変わっていない、と。

 

「……ヒスイちゃんはさ」

 

 だから。

 ミザールは、それ以上の世間話を断念し、言う。

 

「学園とか、興味ない?」

 

 駄目元だ――とばかりに。

 本題に、入る。

 

「……」

 

 ヒスイは、しばし黙り込む。その朴訥とした目で、真っ直ぐにミザールを見つめた。

 

「……どういう意味でしょうか?」

 

 果たして、小首を傾げた彼女に、ミザールは頷く。

 

「えっと……その。言葉のまんまの意味でさ。学園に通うつもりって、ないかなー……って、思ってて」

「何故でしょうか」

「え。な、何故って……」

「私には『仕事』があります」

 

 そこでヒスイは、自身の眼鏡を指で押し上げた。

 

「それらを投げ打ち、学園生活にかまけるわけにはいきません」

 

「い、いや。でも……興味とか、無いの? ちょっと転入してみたいなーとか、考えたりとか……」

「興味の有無は問題ではありません。私にはやらなくてはならないことがありますので。……用件はそれだけでしょうか」

「……えと」

「なんやこいつ……」

「タマモさん」

 

 不愉快そうに顔を顰めるタマモクロスを、マックイーンは小声で宥める。しかし、当のマックイーンの表情も、不快そうに見えた。

 

「……わかった」

 

 さなかで。

 ミザールは、意を決したように言う。

 

「ごめん。遠回しに言い過ぎたね。ヒスイちゃんは昔から、そういう回りくどいの、嫌いだったね……もう、はっきり言うよ」

「はい。なんでしょうか」

「……」

 

 にも関わらず、変わらないその目から。

 目を逸らさずに。

 

「――ヒスイちゃん」

 

 言った。

 

「トレセン学園に、来ない?」

 

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